2025年のインフルエンザは、例年とは大きく異なる流行パターンを示しており、多くの医療関係者や保護者の方々が注目されています。通常であれば冬季に本格化するインフルエンザですが、2025年は9月末という異例の早さから患者数が増加し始め、全国各地で学級閉鎖が相次ぐという事態が発生しました。さらに今シーズンの特徴として、従来の高熱や咳といった典型的な症状に加えて、胃もたれや吐き気といった胃腸症状を訴える患者が増加していることが報告されています。インフルエンザにはA型とB型という主要な2つの型があり、それぞれ症状や流行時期に違いがあります。しかし、症状だけでA型かB型かを見分けることは難しく、正確な診断には医療機関での検査が必要となります。この記事では、2025年のインフルエンザの最新情報をはじめ、A型とB型それぞれの特徴、見分け方のポイント、予防策、そして万が一感染した場合の対処法まで、詳しく解説していきます。

2025年インフルエンザの流行状況と異例の早期発生
2025年のインフルエンザシーズンは、過去の流行パターンとは明らかに異なる様相を呈しています。通常、インフルエンザの流行は11月下旬から3月頃が中心となるのですが、2025年は9月末頃から徐々に患者数が増加するという、これまでにない早期流行が確認されました。
全国各地で9月の時点で学級閉鎖が報告されており、特に愛知県や福岡市では9月上旬という非常に早い時期に学級閉鎖が確認されています。この状況は、過去10年以上の流行データと比較しても極めて異例であり、保護者や教育関係者に大きな驚きをもたらしました。
現在国内で流行しているインフルエンザウイルスは、主にA型のH1N1亜型、H3N2亜型、そしてB型のビクトリア系統が確認されています。南半球に位置するオーストラリアでは、2025年の冬季にインフルエンザA型のH1N1型が多く検出されたことから、日本国内においてもこのA型H1N1型が流行の中心になる可能性が専門家から指摘されています。南半球の流行パターンは、北半球の流行を予測する上で重要な指標となるため、医療機関では警戒を強めています。
この早期流行の背景には、複数の要因が考えられます。新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着き、マスク着用率が低下したことや、行動制限が緩和されて人々の移動や集会が活発化したことなどが影響していると考えられています。また、数年間インフルエンザの流行が抑制されていたことで、特に若年層において免疫を持たない人が増えている可能性も指摘されています。
2025年シーズンに見られる特徴的な症状
今年のインフルエンザでは、従来からよく知られている症状に加えて、いくつかの特徴的な症状が医療現場から報告されています。これらの症状を理解しておくことは、早期発見と適切な対応につながります。
従来からよく見られる症状としては、38度以上の高熱が挙げられます。この高熱は急激に発症することが多く、朝は元気だったのに夕方には高熱が出るというケースも珍しくありません。また、激しい咳やくしゃみも典型的な症状であり、咳は時に数週間にわたって続くこともあります。全身の倦怠感も強く、立っているのも辛いほどの疲労感を感じる方が多くいらっしゃいます。関節痛や筋肉痛も特徴的で、体全体が痛むような感覚に襲われることがあります。頭痛も強く、日常生活に支障をきたすほどの痛みを訴える方もいます。
しかし、2025年シーズンの最も大きな特徴として、胃腸症状を訴える患者が増加していることが挙げられます。具体的には、胃もたれや吐き気、食欲不振といった消化器系の不調を訴える方が目立っています。これは例年とは少し違う傾向として、医療現場でも注目されており、診断の際の重要なポイントとなっています。
また、今年のインフルエンザは吐き気や胃の不快感が現れやすく、それに伴って食欲が低下しやすいという特徴があります。これにより、体力の消耗が激しくなる可能性があるため、水分補給や栄養摂取には特に注意が必要となります。発熱による発汗も加わって、脱水症状のリスクが高まりますので、意識的に水分を摂取することが重要です。
症状の現れ方には個人差があり、すべての症状が必ず出るわけではありません。高熱が出ない方もいれば、咳がほとんど出ない方もいます。しかし、複数の症状が急激に現れた場合は、インフルエンザを疑って早めに医療機関を受診することが推奨されます。
インフルエンザA型に見られる特徴と症状
インフルエンザA型は、インフルエンザウイルスの中でも最も流行しやすく、症状が重くなりやすい型として知られています。A型の理解を深めることは、適切な対応と予防につながります。
A型の最大の特徴は、38度以上の高熱が急激に出現することです。多くの場合、発症は非常に急激で、朝は元気に出勤や登校していたのに、午後には高熱でぐったりしてしまうというケースが頻繁に見られます。この急激な発症パターンは、普通の風邪とは明確に異なる点であり、インフルエンザを疑う重要なサインとなります。悪寒を伴うことも多く、体がガタガタと震えるような強い寒気を感じることもあります。
全身症状が非常に強いのもA型の大きな特徴です。関節痛や筋肉痛が激しく、特に腰や背中、足の痛みを訴える方が多くいらっしゃいます。体全体が痛むような感覚に襲われ、ベッドから起き上がることさえ困難に感じることもあります。頭痛も強烈で、ズキズキとした痛みや頭全体を締め付けられるような痛みを感じる方もいます。立っているのも辛いほどの強い倦怠感を感じることも珍しくなく、日常生活が一時的にほぼ不可能になる方もいらっしゃいます。
A型インフルエンザウイルスの特徴として、多くの変異株が存在することが挙げられます。ウイルスは常に変異を繰り返しており、毎年少しずつ異なる型が流行します。このため、過去にインフルエンザにかかったことがある方でも、再び感染する可能性があります。また、増殖力が速く、感染力が非常に強いという特性があるため、学校や職場などの集団生活の場では、あっという間に感染が広がってしまうことがあります。
流行時期としては、毎年冬の早い時期、11月から2月にかけて流行のピークを迎えることが多いです。ただし、2025年のように9月から流行が始まることもあり、流行時期は年によって変動します。気候変動や社会環境の変化により、従来の流行パターンが変わってきている可能性も指摘されています。
重症化のリスクが高いことも、A型インフルエンザの重要な特徴です。特に高齢者、持病を持つ方、免疫力が低下している方では、肺炎などの合併症を引き起こし、重症化しやすい傾向があります。糖尿病や心臓病、呼吸器疾患を持つ方は、特に注意が必要です。
インフルエンザB型に見られる特徴と症状
インフルエンザB型は、A型とは異なる特徴を持っており、両者を理解することで、より適切な対応が可能になります。B型もA型と同様に注意が必要な感染症です。
最も大きな違いは、発熱の程度です。B型でも高熱が出ることはありますが、A型ほどの高熱は出にくい傾向があります。37度台後半から38度台前半の熱が多く、A型に比べると比較的穏やかな発熱パターンを示すことがあります。ただし、これはあくまで傾向であり、B型でも39度以上の高熱が出る方もいらっしゃいますので、発熱の程度だけで判断することはできません。
B型の最も特徴的な症状として、消化器系の症状が挙げられます。下痢や嘔吐といった胃腸症状がA型よりも出やすく、特に子供では腹痛や下痢を主な症状として受診するケースも見られます。このため、胃腸炎と間違えられることもあり、正確な診断が重要となります。吐き気や食欲不振も強く、数日間ほとんど食事が取れないという方もいらっしゃいます。
流行時期は、A型よりも遅れて流行することが多く、2月から春先の4月頃まで見られる傾向があります。A型の流行が落ち着いた頃にB型の流行が始まるというパターンが一般的です。このため、冬の早い時期にA型にかかった後、春先にB型にかかるという、一シーズンに2回インフルエンザに感染してしまうケースも存在します。
B型はA型ほど大規模な流行にはなりにくいという特徴もあります。これは、B型ウイルスの変異がA型ほど激しくないためと考えられています。しかし、感染力自体は十分に強く、油断はできません。学校や職場での集団感染も起こりますので、予防対策は欠かせません。
症状の持続期間は、A型と同程度かやや長めになることがあります。特に咳や倦怠感が長引くことがあり、完全に回復するまでに2週間以上かかる場合もあります。咳が数週間続くこともあり、日常生活や仕事に支障をきたすこともあります。また、回復後も疲れやすさが残ることがあり、体力の回復には時間がかかることがあります。
B型もA型と同様に、重症化のリスクがあります。特に高齢者や基礎疾患を持つ方では、肺炎などの合併症を起こす可能性があるため、注意が必要です。
インフルエンザA型とB型の見分け方
インフルエンザにかかった場合、多くの方が「これはA型なのか、B型なのか」と疑問に思われます。しかし、症状のみでA型かB型かを正確に判断することはできません。両型とも発熱、咳、倦怠感などの共通する症状が多く、臨床症状だけでは区別が困難なのです。
ただし、いくつかの傾向として以下のような違いがあることは知っておくと役立ちます。A型は全身症状が重く、高熱、激しい関節痛や筋肉痛、強い倦怠感が特徴的です。発症も急激で、数時間のうちに症状が悪化することもあります。一方、B型は消化器系の症状が加わるケースが多く、胃腸の不調が気になる方が多い傾向があります。また、A型ほどの高熱は出にくく、発熱の程度が比較的穏やかな場合があります。
流行時期も一つの手がかりになります。冬の早い時期、11月から2月頃に流行するのはA型が多く、2月から春先にかけて流行するのはB型が多い傾向があります。しかし、これらはあくまで一般的な傾向であり、年によって流行パターンが変わることもあります。2025年のように、9月という早い時期から流行が始まる年もあるため、時期だけで判断することはできません。
正確な診断には、医療機関での検査が必要です。医療機関では、迅速診断キットを使用してA型かB型かを判定します。この検査は、綿棒で喉や鼻の奥の粘膜を軽くこすり、そこについた組織や分泌物からウイルスを検出する方法です。
迅速診断キットによる検査の大きな利点は、短時間で結果が分かることです。検査開始から10分から15分程度で結果が判明し、A型とB型の鑑別も可能です。検査キットには、A型とB型それぞれのマークがあり、どちらに陽性反応が出るかで判定します。両方に陽性反応が出ることは稀ですが、理論的には同時感染の可能性もあります。
ただし、迅速診断キットにも限界があります。発症直後は検出されにくいことがあり、発症から12時間以上経過してから検査することが推奨されています。あまりに早い時期に検査すると、ウイルス量が少なく偽陰性になる可能性があるためです。逆に、発症から時間が経ちすぎると、抗インフルエンザ薬の効果が得られにくくなるため、発症後12時間から48時間の間に受診することが理想的です。
迅速診断キットで判定が困難な場合や、より詳細な検査が必要な場合には、PCR検査が行われることもあります。PCR検査はインフルエンザウイルスのRNAを直接検出する方法で、迅速診断キットよりも高感度です。ただし、結果が出るまでに数時間から数日かかるため、通常は迅速診断キットが第一選択となります。
潜伏期間と感染経路の理解
インフルエンザウイルスの潜伏期間は1日から3日間とされています。多くの場合は2日程度で発症しますが、個人差があり、1日から4日の範囲で変動することがあります。潜伏期間とは、ウイルスに感染してから症状が出るまでの期間のことを指します。
この潜伏期間中にも、他人への感染力を持っている可能性があることが非常に重要なポイントです。つまり、自分では症状がなく、インフルエンザだと気づいていない段階でも、他人にウイルスを広げてしまう可能性があるのです。これが、インフルエンザが急速に広がる一因となっています。
インフルエンザの主な感染経路は、飛沫感染です。感染した人が咳やくしゃみをすると、口や鼻から小さな水滴が飛び散ります。この水滴には大量のインフルエンザウイルスが含まれており、これを他の人が吸い込むことで感染が成立します。飛沫は約1メートルから2メートル程度飛散するため、感染者の近くにいると感染リスクが高まります。会話をする際にも、唾液とともにウイルスが飛散する可能性があります。
もう一つの重要な感染経路が接触感染です。インフルエンザウイルスが付着した物、例えばドアノブ、手すり、電気のスイッチ、共用のタオル、電車のつり革などを触った手で、自分の口や鼻、目などを触ることで感染します。ウイルスは物の表面で数時間から数日間生存できるため、直接的な接触がなくても感染する可能性があります。特に、人が頻繁に触る場所にはウイルスが付着している可能性が高く、注意が必要です。
近年は、エアロゾル感染も指摘されています。これは、空気中を長時間漂う非常に小さな粒子を吸い込むことによる感染です。飛沫よりもさらに小さな粒子で、空気中に浮遊する時間が長く、飛沫が届かない距離でも感染する可能性があります。特に換気の悪い密閉空間では、このエアロゾル感染のリスクが高まります。
インフルエンザに感染した人は、発症前日から発症後3日から7日間は、鼻や喉からウイルスを排出するといわれています。つまり、症状が出る前日から既に感染力があり、発症後も約1週間は他人への感染源となる可能性があるということです。特に発症後3日間は、ウイルスの排出量が多く、感染力が強いとされています。
出席停止期間と療養期間について
インフルエンザにかかった場合、学校や職場を休む期間について理解しておくことは、自分自身の回復と周囲への感染拡大防止の両面で重要です。
学校保健安全法施行規則により、インフルエンザにかかった児童や生徒の出席停止期間が明確に定められています。具体的には、発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで、幼児の場合は解熱した後3日を経過するまで出席停止とされています。
この基準を正しく理解することが重要です。例えば、月曜日に発症した場合、発症後5日を経過するのは土曜日です。さらに、解熱した後2日を経過する必要があります。仮に木曜日に解熱した場合、解熱後2日を経過するのは土曜日です。この場合、両方の条件を満たすのは土曜日ですので、翌日の日曜日から登校可能となります。ただし、土曜日が休日の場合は、実質的に月曜日からの登校となります。
幼児の場合は、解熱後3日を経過する必要があるため、より長い期間の休養が必要です。これは、幼児の方がウイルスの排出期間が長い傾向があり、また免疫機能が未発達なため、慎重な対応が求められるためです。
成人の場合は、法律による出勤停止の規定はありませんが、多くの企業では学校と同様の基準を設けています。発症後5日間、かつ解熱後2日間は自宅療養することが推奨されています。職場によっては、診断書や治癒証明書の提出を求められることもありますので、勤務先の規定を確認しておくことが大切です。
これらの期間は、単に本人の回復を待つだけでなく、他人への感染を防ぐために非常に重要です。症状が軽くなったからといって早期に登校や出勤すると、周囲に感染を広げてしまう可能性があります。特に学校や職場では、多くの人が密接に接触するため、一人の早期復帰が集団感染につながることもあります。
予防接種の重要性と接種時期
2025年のインフルエンザ予防接種は、流行の早期化に伴い、例年よりも早めの接種が推奨されています。予防接種は、インフルエンザの発症を防ぐだけでなく、重症化を防ぐ効果があります。
予防接種のスケジュールとしては、まず65歳以上の高齢者など重症化リスクが高い方々を対象に、10月1日から定期接種が開始される予定です。高齢者の予防接種は、多くの自治体で費用の一部または全額が助成されています。一般の方向けの接種は10月26日以降から可能となる見込みです。
例年と比べて流行が早いため、10月中の接種が望ましいとされています。インフルエンザワクチンは接種から効果が出るまでに2週間前後かかるため、流行が始まる前に受けることが重要です。9月から流行が始まる可能性を考えると、早めの接種が推奨されます。
予防接種の効果については、科学的な研究データがあります。2024年のCochraneレビューによれば、健康な成人での予防接種は発症リスクを約60パーセント低下させることが示されています。これは、予防接種を受けた人の中で、受けなかった場合に比べて発症する人が約40パーセント程度になるという意味です。
予防接種の最も大きな効果は、発症を完全に防ぐことよりも、重症化を予防することにあります。特に高齢者、基礎疾患を持つ方、妊婦、乳幼児などの重症化リスクが高い人では、予防接種によって入院や死亡のリスクを大きく減らすことができます。肺炎などの合併症のリスクも低減されます。
ワクチンの効果は、接種後2週間から約5か月間持続するとされています。そのため、流行シーズン前の10月から11月に接種することで、流行期間全体をカバーできます。ただし、インフルエンザウイルスは毎年変異するため、毎年接種することが推奨されています。
副反応としては、注射部位の腫れや痛み、軽い発熱、倦怠感などが見られることがありますが、多くの場合は2日から3日で自然に改善します。重篤な副反応は極めて稀ですが、接種後に異常を感じた場合は医療機関に相談することが大切です。
日常生活で実践できる予防対策
インフルエンザの予防には、ワクチン接種だけでなく、日常生活での感染対策も非常に重要です。複数の対策を組み合わせることで、感染リスクを大きく減らすことができます。
手洗いは最も基本的で効果的な予防法の一つです。外出から帰ったとき、食事の前、トイレの後など、こまめに手を洗うことが大切です。石けんと流水で30秒以上かけて丁寧に洗うことで、手についたウイルスを効果的に除去できます。手のひらだけでなく、指の間、爪の間、手首までしっかり洗うことがポイントです。手洗いができない場合は、アルコール濃度60パーセント以上のアルコール消毒液も有効です。
マスクの着用も重要な予防法です。特に人混みや公共交通機関、学校、職場などでは、マスク着用が効果的です。マスクは自分が感染しないための防御だけでなく、自分が無症状の感染者である場合に他人にうつさないという意味でも重要です。不織布マスクを使用し、鼻と口をしっかり覆い、顔とマスクの間に隙間ができないように着用することが大切です。
換気も見落とされがちですが、非常に重要な対策です。近年は、空気中を漂うウイルスを吸い込むエアロゾル感染も指摘されており、こまめな換気が推奨されています。1時間に1回、数分間窓を開けて空気を入れ替えることが理想的です。寒い季節でも、短時間の換気を定期的に行うことで、室内のウイルス濃度を下げることができます。
湿度管理も大切です。インフルエンザウイルスは乾燥した環境を好み、湿度が低いと空気中での生存時間が長くなります。加湿器などを使用して、室内の湿度を50パーセントから60パーセント程度に保つことが推奨されています。湿度が適切に保たれていると、ウイルスの活性が低下し、また喉や鼻の粘膜も保護されて、感染しにくくなります。
十分な睡眠とバランスの取れた食事も、免疫力を維持するために重要です。疲労が蓄積すると免疫力が低下し、感染しやすくなります。規則正しい生活リズムを保ち、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。特にビタミンCやビタミンD、タンパク質は免疫機能の維持に重要です。
人混みを避けることも有効な対策です。流行期には不要不急の外出を控え、やむを得ず外出する場合も、混雑した場所や時間帯を避けるなどの工夫が有効です。特に重症化リスクが高い方は、人混みを避けることが重要です。
インフルエンザの治療薬と使用のタイミング
インフルエンザの治療には、いくつかの抗インフルエンザ薬があります。これらの薬は、ウイルスの増殖を抑える働きがあり、適切に使用することで症状の期間を短縮し、重症化を防ぐことができます。
代表的な治療薬としては、タミフル、リレンザ、イナビル、ゾフルーザ、ラピアクタなどがあります。それぞれに特徴があり、患者さんの年齢や状態、希望に応じて選択されます。
これらの薬は、ウイルスの増殖を抑える働きがありますが、既に増えてしまったウイルスを減らす効果はないため、発症早期に使用することが重要です。抗インフルエンザ薬の効果を最大限に得るためには、発症から12時間から48時間以内に服用を開始することが推奨されています。特に発症後48時間以内の使用が重要で、それを過ぎると効果が大きく低下します。
臨床試験のデータでは、リレンザを使用した場合、使用しなかった場合に比べて約1.5日間症状の持続期間が短縮されることが示されています。他の抗インフルエンザ薬でも同程度の効果が期待できます。1日から2日の短縮と聞くと少ないように感じるかもしれませんが、症状が非常に辛いインフルエンザにおいては、この短縮は大きな意味を持ちます。
タミフルは経口薬で、1日2回、5日間服用します。カプセルと粉薬があり、子供でも服用しやすい剤形が選べます。服用のタイミングは朝と夕方が一般的です。
リレンザとイナビルは吸入薬です。リレンザは1日2回、5日間吸入します。イナビルは1回の吸入で治療が完了するという特徴があり、服薬アドヒアランスの観点から有利です。ただし、吸入がうまくできない小さな子供や高齢者では使用が難しい場合があります。
ゾフルーザは比較的新しい経口薬で、1回の服用で治療が完了します。ウイルスの増殖を抑える仕組みが他の薬とは異なり、ウイルスのRNA複製を阻害します。服薬が1回で済むため、飲み忘れの心配がありません。
ラピアクタは点滴薬で、主に入院患者や経口薬、吸入薬の使用が困難な患者に使用されます。効果は他の薬と同等とされています。
これらの薬には副作用もあります。一般的な副作用としては、腹痛、下痢、吐き気などがあります。タミフルでは腹痛が約6.8パーセント、下痢が約5.5パーセント、吐き気が約3.9パーセントの頻度で報告されています。
稀ですが、重篤な副作用として肝機能障害、ショック、肺炎、急性腎不全なども報告されています。異常を感じた場合は、すぐに医師に相談することが重要です。
また、子供や若年者では、抗インフルエンザ薬の使用の有無に関わらず、異常行動が現れることがあるため注意が必要です。幻覚、せん妄、興奮、突然走り出すなどの症状が報告されており、未成年者は少なくとも発症後2日間は一人にしないよう監視することが推奨されています。
合併症と重症化のサイン
インフルエンザは、単なる高熱や咳だけでなく、様々な合併症を引き起こす可能性があります。合併症を早期に発見し、適切に対応することが、重症化を防ぐ鍵となります。
最も一般的な合併症は肺炎です。インフルエンザウイルスそのものによる肺炎と、二次的な細菌感染による肺炎があります。高齢者や基礎疾患を持つ方では、肺炎が命にかかわることも少なくありません。呼吸が苦しい、胸が痛い、息切れがするなどの症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
子供の場合、中耳炎も頻度の高い合併症です。インフルエンザによって鼻や喉の粘膜が炎症を起こし、中耳にも炎症が広がることで発症します。耳を痛がる、耳だれが出るなどの症状が見られたら、耳鼻科を受診することが推奨されます。
最も重篤な合併症の一つが、インフルエンザ脳症です。主に乳幼児に発症し、死亡率は約30パーセント、後遺症も約25パーセントの子供に見られる非常に重篤な疾患です。脳症の初発症状は、けいれん発作か意識障害です。傾眠状態になったり、異常な行動や言動が見られたり、呼びかけに応じないなどの症状が現れた場合は、すぐに救急車を呼ぶ必要があります。
心筋炎や心膜炎も、稀ですが重篤な合併症です。心臓の筋肉や周囲の膜に炎症が起こり、心不全を引き起こすこともあります。胸の痛みや動悸、息切れなどの症状が現れた場合は、早急に医療機関を受診することが必要です。
筋炎も報告されています。特に下肢の筋肉に痛みや脱力が生じ、歩行困難になることがあります。ふくらはぎの強い痛みや、立ち上がれないなどの症状が現れたら、医療機関に相談することが推奨されます。
これらの合併症を予防するためには、早期の診断と適切な治療が重要です。また、十分な休養と水分補給、栄養摂取を心がけることも大切です。無理をして動き回ったり、仕事や家事を続けたりすると、合併症のリスクが高まります。
重症化リスクが高い方への注意点
インフルエンザは誰でもかかる可能性がありますが、特に重症化しやすい人がいます。該当する方は、特に予防と早期受診に注意が必要です。
乳幼児は重症化リスクが高いグループです。免疫システムが未発達なため、ウイルスに対する抵抗力が弱く、脳症などの重篤な合併症を起こしやすい傾向があります。生後6か月未満の赤ちゃんはワクチン接種ができないため、周囲の大人が予防接種を受けて家庭内に持ち込まないことが重要です。
高齢者も重症化リスクが非常に高いグループです。加齢に伴う免疫機能の低下により、インフルエンザや合併症の肺炎を起こしやすくなります。高齢者の場合、咳や痰、高熱などの典型的な症状が現れにくいこともあり、重症化が進むまで気がつきにくいことがあります。微熱や軽い咳が4日から5日も治まらない、呼吸が速く浅い、食欲がなくぐったりしがちなどの様子が見られたら、すぐに医師の診察を受けることが重要です。
基礎疾患を持つ方も重症化リスクが高くなります。特に、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、糖尿病、腎機能障害、免疫抑制状態にある方などは注意が必要です。これらの疾患を持つ方は、インフルエンザにかかると基礎疾患が悪化する可能性もあります。
妊婦も重症化リスクが高いとされています。妊娠中は免疫機能が変化し、また心肺機能への負担も大きいため、インフルエンザが重症化しやすくなります。妊娠中でもインフルエンザワクチンは接種可能であり、むしろ接種が推奨されています。
出産直後の女性も、体力が低下しているため重症化リスクがあります。産後1か月程度は特に注意が必要です。
著しい肥満の方も重症化リスクが高いことが知られています。BMIが40以上の方は特に注意が必要とされています。
介護施設に入居している方も、集団生活による感染リスクの高さと、多くの場合高齢であることや基礎疾患を持つことから、重症化リスクが高くなります。施設内で一人感染者が出ると、あっという間に広がる可能性があるため、施設全体での予防対策が重要です。
これらの重症化リスクが高い方は、特に予防接種を受けることが推奨されています。また、流行期には人混みを避け、手洗いやマスク着用などの感染対策を徹底することが重要です。
解熱剤の使用における重要な注意点
インフルエンザで高熱が出た場合、解熱剤を使用することがありますが、使用できる薬と使用できない薬があることに注意が必要です。誤った解熱剤の使用は、重篤な副作用を引き起こす可能性があります。
インフルエンザに使用できる解熱剤は、アセトアミノフェンが主体です。商品名としては、アンヒバ坐剤、アルピニー坐剤、カロナールなどがあります。これらは比較的安全に使用できる解熱剤です。医療機関で処方されることが多く、薬局でも購入できます。
一方、絶対に使用してはいけない解熱剤もあります。アスピリン、メフェナム酸、ジクロフェナクナトリウムは、インフルエンザの際に使用するとライ症候群や脳症のリスクが高まるため、使用してはいけません。商品名としては、バファリンA、ポンタール、ボルタレンなどがこれに該当します。
ライ症候群は、急性脳症と肝臓の脂肪変性を特徴とする重篤な疾患で、死亡率も高く、後遺症も残りやすい病気です。特に子供で発症しやすいことが知られています。意識障害、けいれん、嘔吐などの症状が現れ、急速に悪化することがあります。
市販の総合感冒薬や解熱鎮痛剤の中には、これらの使用してはいけない成分が含まれているものもあります。自己判断で市販薬を使用せず、必ず医師や薬剤師に相談してから使用することが重要です。特に子供に使用する場合は、細心の注意が必要です。
また、解熱剤は必ずしも使用する必要はありません。発熱は体の防御反応の一つであり、ウイルスの増殖を抑える働きもあります。熱が高くても比較的元気で、水分や食事が取れている場合は、無理に解熱剤を使用しなくても良いこともあります。
高熱で非常に辛い場合、睡眠が取れない場合、幼児で熱性けいれんの既往がある場合などには、医師の指示に従って適切な解熱剤を使用することが推奨されます。解熱剤を使用する場合も、用法用量を守り、使用間隔を空けることが大切です。
家庭での療養と看病のポイント
インフルエンザにかかった場合、家庭での適切な看病と療養が回復を早め、合併症を防ぐために重要です。いくつかのポイントを押さえることで、快適に療養できます。
水分補給は最も重要なケアの一つです。高熱や発汗により体内の水分が失われ、脱水症状を起こしやすくなります。こまめな水分補給を心がけることが大切です。温かい水、お茶、イオン飲料などが推奨されます。食事が取れない場合でも、イオン飲料、経口補水液、ミネラルやビタミンを含むゼリー飲料などで適切な水分補給を行うことが重要です。1時間に1回、少量ずつでも水分を摂取することを心がけましょう。
冷たい飲み物よりも、常温または温かい飲み物の方が推奨されます。冷たい飲み物は体温を下げ、免疫力を低下させる可能性があるためです。温かいお茶や白湯、スープなどがおすすめです。
栄養面では、消化に良い食べ物を選ぶことが重要です。脂っこい食べ物や香辛料の強い料理は避け、温かく消化の良い食事、例えばお粥、うどん、煮物、湯豆腐などを摂取することが推奨されます。卵粥やささみ入りのお粥など、タンパク質を含む食事も回復を助けます。
推奨される栄養素としては、タンパク質が重要です。卵粥や湯豆腐など、消化の良いタンパク質源を取り入れましょう。ビタミンAはほうれん草や人参に多く含まれ、粘膜の保護に役立ちます。ビタミンCはじゃがいもやバナナ、果物ジュースから摂取でき、免疫力の維持に重要です。ビタミンB群は鶏胸肉、鮭、ブロッコリーなどに含まれ、エネルギー代謝を助けます。
食欲が低下している場合は、無理に食べる必要はありません。食べられるものを自分のペースで摂取することが大切です。少量ずつ、回数を分けて食べるのも良い方法です。アイスクリームやゼリーなど、食べやすいものから始めても構いません。
回復期に入り、熱が下がって食欲が戻ってきたら、引き続き消化に良く胃に負担をかけない食べ物を摂取します。徐々に量を増やしながら、体調を見ながら数日かけて通常の食事に戻していくことが推奨されます。
十分な休養も非常に重要です。体力の回復には睡眠が不可欠です。静かで快適な環境で、十分な睡眠時間を確保しましょう。室温や湿度を適切に保ち、快適に眠れる環境を整えることも大切です。
家族に感染を広げないための対策も重要です。可能であれば別の部屋で療養し、タオルや食器の共用を避け、看病する人もマスクを着用し、手洗いを徹底することが大切です。ドアノブや電気のスイッチなど、頻繁に触る場所はアルコールで消毒することも有効です。


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