近年の猛暑により、エアコンは「贅沢品」から「命を守る必需品」へと位置づけが変わりました。特に生活保護を受給している高齢者や病弱な方にとって、適切な冷房環境の確保は生死に関わる重要な問題です。環境省の統計では、熱中症による死亡者の約85%がエアコンを使用していなかったという深刻なデータもあります。2018年に厚生労働省が方針転換を行い、一定条件下で生活保護世帯のエアコン購入費を公費で支給する制度が始まりました。しかし、支給条件や手続き方法について十分に知られていないのが現状です。また、既存エアコンの故障による買い替えには制約があるなど、制度にはまだ課題も残されています。本記事では、生活保護受給者がエアコンを買い替える際に利用できる支援制度について、最新の情報を交えながら詳しく解説します。適切な制度を知り、安全に夏を乗り切るための参考にしてください。

生活保護受給者がエアコンを買い替える時、公的支援は受けられるの?
はい、一定の条件を満たせば公的支援を受けることができます。 2018年の厚生労働省通知により、生活保護制度内でエアコン購入費の支給が可能になりました。これは生活保護法の「家具什器費」という項目で支給される一時扶助です。
従来エアコンは贅沢品と見なされ、生活保護費の節約で購入すべきものとされていました。しかし近年の猛暑による健康被害の深刻化を受け、エアコンが「健康で文化的な最低生活に必要な設備」として位置付けられるようになったのです。
公的支援には主に3つのルートがあります。第一に、生活保護制度内の家具什器費による支給。第二に、社会福祉協議会の生活福祉資金貸付制度の活用。第三に、自治体独自のエアコン購入助成制度です。
ただし支給には条件があります。 最も重要なのは「家具什器費支給の基本条件」に該当することです。これは生活保護開始時、長期入院後の退院時、災害による家財喪失時、転居により既存家具が使えない場合、犯罪・DV被害による緊急転居時などです。つまり、何らかの特別な事情でエアコンを新たに必要とする状況でなければ対象になりません。
さらに世帯内に高齢者、障害者、難病患者、乳幼児などの熱中症高リスク者がいることも要件です。健康な若年単身世帯では支給が認められにくい傾向があります。
重要なポイントは「初回の夏」であることです。 上記条件を満たした状況で初めて迎える夏季にのみ申請が可能で、時間が経過してからの申請や、過去に支給を受けた世帯の再申請は原則として認められません。
現実的には「生活保護を受け始めたばかりでエアコンがない」「転居先にエアコンが付いていない」「入院から退院してエアコンのない住居に入居する」といったケースで支給される可能性が高いと言えます。既存エアコンの故障による買い替えは、現行制度では支給対象外となることが多いのが実情です。
生活保護の家具什器費でエアコン購入費をもらうための条件は?
家具什器費によるエアコン購入費の支給を受けるには、3つの条件を全て満たす必要があります。
【条件1】家具什器費支給の基本条件に該当すること
以下のいずれかの状況でなければなりません:
- 生活保護開始時に必要な家具家電を持っていない
- 長期入院・施設入所から退院・退所して新規居住を始める
- 災害で家財を失い、他の制度で補償されない
- 転居先で旧居の家具が使えず新規購入が必要
- 犯罪被害やDV被害で緊急転居し家具がない
最も多いケースは転居に伴うものです。 例えば生活保護の指導で家賃の安いアパートに転居したら、新居にエアコンが付いていなかった場合などが該当します。前住居には大家設置のエアコンがあったが、転居先には無いという状況です。
【条件2】熱中症予防が特に必要な世帯であること
世帯内に以下のような方がいることが要件です:
- 65歳以上の高齢者
- 身体・知的・精神障害者
- 難病患者や慢性疾患者
- 乳幼児や中学生以下の子ども
ケースワーカーが「熱中症予防のためエアコンが必要」と総合的に判断する必要があります。住環境や健康状態も考慮され、福祉事務所の裁量で柔軟に判断される余地もあります。
【条件3】該当条件が揃ってから初めて迎える夏であること
上記の条件1・2を満たした状況で「最初の夏季」にのみ申請可能です。生活保護開始や転居から時間が経っている場合や、前年までに同条件で支給を受けなかった場合は対象外となります。
具体的な申請の流れ:
- 担当ケースワーカーに「エアコンがなく生活に支障がある」旨を相談
- 購入予定のエアコンについて家電店から見積書を取得
- 申請書類一式を作成・提出(本人確認書類、受給証明書、見積書等)
- 福祉事務所で審査・決定(数日~数週間)
- 支給決定後、認められた額で購入・設置
注意すべき点は「申請主義」であることです。 条件を満たしていても、自ら申請しなければ支給されません。また「なぜエアコンが必要か」を具体的に説明することが重要です。家族に持病があり医師から暑さを避けるよう指導されている等の事情があれば、積極的に申し出ましょう。
各地の支援団体(NPO法人もやい等)も申請手続きの相談に応じているので、不明点があれば遠慮なく相談することをお勧めします。
エアコン購入費の支給上限額はいくら?工事費も含まれる?
エアコン本体の購入費は2025年度で上限73,000円、設置工事費は別途実費が支給されます。
支給上限額は物価高騰に応じて段階的に引き上げられてきました。制度開始当初の2018年は上限5万円でしたが、その後以下のように改定されています:
- 2018年度:50,000円
- 2023年4月~:62,000円
- 2024年度:67,000円
- 2025年度:73,000円
この上限額は全国一律の基準ですが、自治体によって若干の差異がある場合もあります。 例えば東京都墨田区では2023年度に本体62,000円+工事費38,000円の合計10万円を上限とする独自基準を設けていました。
工事費については必要最小限度の額が別途支給されます。 具体的には:
- 室外機設置工事
- 配管工事
- 電気工事
- その他設置に必要な基本工事
工事費の実費支給により、エアコン本体と設置に関わる最低限の費用はほぼ公費で賄われる仕組みになっています。
購入時の注意点:
支給上限を超える高額な機種を選ぶ場合、差額は自己負担となります。高機能モデルは価格も高くなりがちなので、予算内で購入できる機種を選定することが重要です。
近年は半導体不足等でエアコン価格が高騰する傾向もあります。上限額を超える場合の対処法として:
- 状態の良い中古品の検討
- 窓用エアコンなど比較的安価な製品の選択
- 型落ちモデルの活用
- 複数店舗での見積もり比較
支給方法について:
支給方法は自治体により異なり、受給者の口座振込の場合と、福祉事務所が直接業者に支払う場合があります。購入後は領収書や設置報告書の提出を求められることもあります。
一世帯一台が原則であり、仮に自宅内の別室にも冷房が必要でも、1台でもエアコンが稼働していれば追加の支給は行われません。また一回限りの支援であることも重要なポイントです。支給済みエアコンが数年後に再び故障しても、現行制度では原則として再度の公費購入は認められません。
このような制約はありますが、初期の導入費用がほぼ公費で賄われることで、多くの生活保護世帯が安全な冷房環境を確保できるようになっています。
家具什器費の対象外になった場合、他にどんな支援制度がある?
家具什器費の支給条件を満たさない場合でも、複数の代替支援策が利用できます。
【1】生活福祉資金貸付制度(社会福祉協議会)
各市町村の社会福祉協議会が実施する公的貸付制度で、主に「緊急小口資金」がエアコン購入に活用できます。
- 貸付上限: 10万円程度(制度により変動あり)
- 返済期間: おおむね1年以内
- 金利: 無利子
- 保証人: 不要
- 対象: 低所得世帯、生活保護世帯も利用可能
厚生労働省も「保護費のやり繰りによる購入が困難な場合には生活福祉資金貸付を活用して購入することも可能」と通知しており、福祉事務所から案内されるケースもあります。
申請方法: 住所地の市区町村社会福祉協議会に申請。生活保護受給者の場合は事前にケースワーカーに相談し承諾を得るとスムーズです。収入や世帯状況の聞き取り、エアコン購入見積書等の提出が必要です。
返済について: 毎月の生活扶助費から月1,000~2,000円ずつ返済する計画が一般的です。事情により猶予や減免が認められることもあります。
【2】自治体独自のエアコン購入助成
多くの市区町村が独自にエアコン設置補助を実施しています。特に2022~2023年の物価高騰対策として「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」を財源とした制度が各地で展開されました。
主な事例:
- 東京都多摩市: 低所得世帯対象、最大10万円助成(2023年度)
- 東京都墨田区: 生活保護世帯向け、本体+工事費で10万円
- 奈良県生駒市: 高齢者・障害者世帯への積極支援
- 前橋市: 65歳以上住民税非課税世帯、10万円補助
これらの制度は「既存エアコンが古くて効かないので買い替えたい」ケースにも対応できる柔軟さがあり、国の基準に縛られない点が魅力です。
【3】NPO・民間団体による支援
生活困窮者支援を行うNPO法人では、エアコン設置に関する相談支援が受けられます。
- 認定NPO法人もやい: 申請手続きのサポート、条件解釈のアドバイス
- 地域の社会福祉協議会: 寄付金原資のエアコン無償提供事業
- 熊本市社協: 「エアコン設置サポート事業」で新品6畳用エアコンを無料設置
【4】企業・電力会社の支援
- 九州電力「熱中症予防プラン」: 75歳以上高齢者世帯の9月電気料金1,500円割引
- パナソニック: エアコンサブスクリプション(月額2,000~3,000円のレンタル)
- 家電量販店: 自治体協働の特価販売会
【5】その他の工夫
- 窓用エアコン: 3~4万円程度、工事も簡便
- 中古エアコン: 程度の良いものなら数万円台前半
- 型落ちモデル: 新モデル発売時期の旧型値下げを狙う
重要なポイント:
各制度には申請期間や対象要件があるため、お住まいの地域でどのような助成があるか、市役所・区役所の福祉担当課や広報を定期的にチェックすることが大切です。また、複数の制度を組み合わせて活用することで、より効果的な支援を受けられる場合もあります。
生活保護世帯におすすめの低価格・省エネエアコンの選び方は?
支給上限額内で購入でき、電気代も抑えられる機種選びが重要です。 高機能な最上位モデルよりも、基本的な冷房性能に絞ったシンプルなモデルが適しています。
【1】低価格ブランドの活用
アイリスオーヤマ「AirWill(エアウィル)」シリーズが特におすすめです。6畳用のシンプルなモデルなら新品でも5~6万円台で購入可能で、支給額内に収まりやすい価格設定です。
具体的には「IRA-2204W」(2022年モデル・冷房専用6畳用)が低価格帯ながら省エネ基準達成率100%超を実現しており、実売5万円台と経済的です。
海外メーカー製も選択肢になります:
- Haier(ハイアール)
- Hisense(ハイセンス)
これらは機能を絞って価格を抑えており、基本的な冷房能力に問題はありません。
【2】型落ちモデルや中古品の検討
最新モデルにこだわらず、1~2年前の型落ち在庫を狙うのも賢明です。家電量販店では新モデル発売時期(例年2~3月、10~11月頃)に旧モデルが値下げされます。
中古エアコンを選ぶ場合の注意点:
- 製造5~6年以内の機種を選ぶ
- 省エネ基準達成機種を確認
- 2000年代前半の古い製品は電力効率が悪いので避ける
- 信頼できるリサイクルショップを利用
中古の場合、設置工事込みで数万円台前半に収まるケースもあります。
【3】省エネ性能の確認ポイント
統一省エネラベルの星の数(★★★★★に近いほど効率良)を確認しましょう。
APF(通年エネルギー消費効率)の値も重要です。近年の6畳用エアコンではAPF値5.8以上を達成していると電気代も比較的低く抑えられます。
省エネ機能付きモデルの検討:
- 人感センサー
- 自動温度調節モード
- タイマー機能
これらの機能は多少価格が上がりますが、無駄な冷やしすぎを防いで結果的に節電になる場合があります。
【4】窓用エアコンという選択肢
賃貸で穴あけ工事が難しい場合や、取り付け工事費を抑えたい場合には窓枠に設置できる窓用エアコンも有力です。
メリット:
- 安い機種なら3~4万円程度から
- 工事が簡便
- 賃貸でも設置しやすい
デメリット:
- 冷房専用で能力は限られる
- 室外機と一体型で音がやや大きい
6~8畳程度の部屋なら十分対応でき、特に一人暮らし世帯では検討する価値があります。
【5】国内大手メーカーのベーシックモデル
予算に余裕がある場合は、国内大手メーカーのエントリーモデルも選択肢です:
- 日立「白くまくん AJシリーズ」:ベーシックモデルとして比較的手頃で省エネ性能も標準的
- パナソニック「Eolia Fシリーズ」:基本機能に特化したモデル
- 三菱電機「霧ヶ峰 GEシリーズ」:シンプル設計で価格を抑制
【6】購入時のチェックポイント
- 支給上限額内に収まるか確認
- 年間消費電力量をチェック(少ないほど電気代が安い)
- 設置工事費込みの総額を把握
- 保証期間やアフターサービス
- フィルター清掃のしやすさ
【7】長期的な電気代節約のコツ
機種選択だけでなく、日頃のメンテナンスも重要です:
- フィルターのこまめな清掃(月1~2回)
- 室外機周辺の風通し確保
- 適切な温度設定(28℃前後)
- 扇風機やサーキュレーターとの併用
古い機種でも掃除次第で多少効率は改善しますので、日頃の手入れにも心がけることで、電気代の節約に繋がります。
機種選択に迷った場合は、ケースワーカーや電器店のスタッフとも相談しながら、「予算内でできるだけ効率の良いエアコン」を選択することをお勧めします。
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