マルハニチロ冷凍食品が2026年3月2日より値上げ|57品目が最大22%アップの背景を解説

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マルハニチロ株式会社は2025年11月25日、家庭用冷凍食品57品目の出荷価格を2026年3月2日納品分より約3%から22%引き上げると発表しました。この値上げは、2025年に発生した記録的な米価高騰をはじめ、物流費や人件費の上昇、円安による輸入食材の調達コスト増加という複合的な要因によるものです。対象となる製品には「鶏ごぼうごはん」などの米飯製品が含まれており、特に米を主原料とする冷凍食品への影響が大きくなっています。今回の価格改定は、同社が2026年3月に予定している「株式会社うみお」への商号変更と同時期に実施されることから、単なるコスト転嫁ではなく、企業としての収益構造改革の一環として位置づけられています。冷凍食品業界全体では、ニッスイやテーブルマーク、ニチレイフーズなども同時期に価格改定を発表しており、2026年春は業界全体で価格水準が引き上げられる局面を迎えることになります。

2026年3月価格改定の詳細と対象製品について

マルハニチロが発表した今回の価格改定について、その具体的な内容を詳しく見ていきましょう。値上げの対象となるのは家庭用冷凍食品57品目で、値上げ幅は製品によって約3%から最大22%まで幅があります。この「最大22%」という数字は、過去数年の価格改定と比較しても高い水準にあり、特定の原材料への依存度が高い製品において、劇的なコスト構造の変化が生じていることを示しています。

今回の値上げで特に注目すべき点は、プレスリリースにおいて具体例として挙げられたのが「鶏ごぼうごはん」などの米飯製品である点です。冷凍米飯は、マルハニチロの家庭用冷凍食品ポートフォリオにおいて、「横浜あんかけラーメン」などの麺類と並ぶ中核カテゴリーとなっています。特に近年は「WILDish(ワイルディッシュ)」シリーズなどの個食タイプの製品が著しい伸びを見せている分野です。これらの製品群が改定の主対象となったことは、今回の値上げが「米」という単一の主要原材料の価格高騰に強く連動していることを裏付けています。

価格改定の実施日が「2026年3月2日納品分」と設定されたことには、流通業界の商慣習に基づく明確な戦略的意図が存在します。日本のスーパーマーケットや小売業界において、3月は春夏向けの新商品導入や棚割り(プラノグラム)の変更が行われる主要なタイミングです。小売店が棚札を一斉に切り替える時期に価格改定を合わせることで、店頭での混乱を最小限に抑えつつ、新価格の定着を図る狙いがあります。

さらに、同社は2026年3月に「株式会社うみお」へと社名を変更する予定です。新社名でのスタートと同時に価格体系を刷新することで、旧来のデフレ型価格競争からの脱却を図り、新ブランドのもとで「価値に見合った価格」を再定義しようとする企業ブランディングの意図が読み取れます。

2025年の米価ショックが冷凍食品業界に与えた衝撃

今回の価格改定の最大のトリガーとなったのは、国内産米の記録的な価格高騰です。農林水産省が2025年11月に発表した統計によれば、2025年産米の10月時点での相対取引価格は、全銘柄平均で玄米60キロ当たり3万7,058円を記録しました。これは前年同月比で56%の上昇であり、比較可能な2006年以降で過去最高値を更新する異常事態となりました。

この価格高騰の背景には、複数の構造的な需給逼迫が存在しています。まず、猛暑による高温障害が多発し、一等米比率の低下や収量減を招いたことが、需給バランスを著しく引き締めました。次に、訪日外国人観光客の増加により、外食産業での米の消費量が拡大しています。業務用需要が家庭用在庫を圧迫する構図が定着したことも、価格高騰に拍車をかけました。さらに、前年からの持ち越し在庫が極めて低水準であったことに加え、消費者の防衛的な買いだめ行動が市場心理を悪化させ、「令和の米騒動」とも呼ばれる状況を引き起こしました。

冷凍食品メーカーにとって、主原料である米の価格が1年で1.5倍になることは、製造原価における損益分岐点を根本から破壊するインパクトを持ちます。「鶏ごぼうごはん」や「炒飯」などの米飯製品は、原価に占める米の比率が高く、他の原材料(肉や野菜)の調整や製造効率化だけでは吸収不可能なレベルのコスト増となりました。

物流コストの構造的上昇とコールドチェーンの課題

物流費の上昇も、一時的な現象ではなく構造的なベースアップとして定着しています。2024年に施行されたトラックドライバーの時間外労働規制(いわゆる「2024年問題」)の影響は2025年も継続しており、物流コストの売上高比率は高止まりしています。

特に冷凍食品業界においては、コールドチェーン(低温物流)の維持コストが重くのしかかっています。商品の品質劣化を防ぐため、生産から店頭までマイナス18度以下を維持する必要があり、常温物流に比べてエネルギー消費量と設備投資額が圧倒的に高くなります。また、冷凍車は断熱材等の装備により積載量が制限される上、混載の難易度も高いという課題があります。

テーブルマークやニッスイも、今回の値上げ理由として「物流費の上昇」を明確に挙げており、共同配送やAIを活用した配送マッチングといった効率化努力をもってしても、単位あたりの輸送コスト上昇を相殺しきれていない現状が浮き彫りとなっています。

為替変動と輸入原材料のコスト構造

マルハニチロは水産商社としての側面も持ち、エビやカニ、野菜などの原材料をグローバルに調達しています。2025年も継続した円安基調は、これらの輸入食材の調達コストを押し上げました。

ホタテやエビなどの水産物は、世界的なタンパク質需要の増加によりドル建て価格自体が堅調に推移しています。円安はこれに「掛け算」で作用し、円建ての調達コストを跳ね上げる結果となりました。また、ピラフや中華丼の具材として使用される輸入野菜も、産地の人件費上昇と輸送コスト増の影響を受けています。

エネルギーコスト(電気・ガス)の高止まりも、製造工程での「凍結」や保管倉庫での「冷却」に膨大な電力を消費する冷凍食品産業にとっては、直接的な原価上昇要因として作用し続けています。

競合他社の動向と業界全体の価格改定

マルハニチロの動きは孤立したものではなく、業界全体が同期して動く「協調的インフレ」の一環です。主要競合各社の動向を詳しく見ていきましょう。

ニッスイは、家庭用・業務用冷凍食品に加え、家庭用常温食品を含む計205品目という広範囲な値上げを発表しました。実施時期はマルハニチロとほぼ同時の2026年3月1日です。ニッスイは2025年9月にも価格改定を行っており、短期間での断続的な値上げを余儀なくされている状況は、コスト圧力の深刻さを物語っています。同社の場合、すり身製品や冷凍野菜など幅広いラインナップを持つため、米価だけでなく、加工費や物流費全般の上昇を広く転嫁する必要に迫られています。

テーブルマークは、JTグループの会社でパックご飯や冷凍うどん、お好み焼きなどで高いシェアを持っています。同社は2026年2月1日より、家庭用で約5%から14%、業務用で約2%から26%の値上げを実施します。特に業務用の最大26%という上げ幅は、外食産業向けの商品において、原材料費高騰の影響がよりダイレクトに反映されていることを示しています。家庭用冷凍食品19品目の値上げは、うどんやパックご飯といった「主食系」冷凍食品の価格帯が一段階上がることを意味します。

ニチレイフーズは冷凍食品最大手として、2026年2月1日より家庭用冷凍食品を約8%から20%値上げします。同社は「本格炒め炒飯」などのメガヒット商品を抱えており、これらの主力商品における値上げは、市場全体の価格受容性を試す試金石となります。リーダー企業が20%近い値上げ幅(上限)を提示したことで、マルハニチロを含む追随企業は、同様の価格転嫁を行いやすい環境が整いました。

味の素冷凍食品も、業務用米飯類19品目に対して約15%から25%という大幅な値上げを2026年2月2日より実施します。マルハニチロの家庭用米飯製品の改定幅(最大22%)と整合しており、米価高騰の影響が業界横断的かつ深刻であることを示しています。

マルハニチロの財務状況と国内事業の課題

一見すると、マルハニチロが「過去最高益」を記録している状況での値上げは、消費者心理として受け入れがたい側面があるかもしれません。しかし、同社の財務諸表をセグメント別に分解すると、国内加工食品事業が直面している構造的な脆弱性が明らかになります。

2026年3月期第2四半期(中間期)において、マルハニチロは営業利益187億円(前年同期比16.6%増)という過去最高益を達成しました。しかし、この利益を牽引したのは主に海外事業水産資源事業です。

水産資源事業では、北米でのスケソウダラ事業が、資源へのアクセス権(漁獲枠)と安定した相場により高収益を維持しました。特に北米事業ユニットの大幅な収益改善がグループ全体を押し上げています。一方、国内を中心とする食品物流事業セグメントは、売上こそ伸長したものの、営業利益は伸び悩みました。生産コストの上昇を完全には吸収しきれず、営業減益となっています。また、ハム・ソーセージなどの畜産食品部門も、輸入冷凍ポークの相場変動や事業再構築のコストにより減益となりました。

つまり、グローバルな水産相場や為替の恩恵を受けている「商社・海外部門」が、国内のインフレに苦しむ「メーカー部門」を支えている構造です。しかし、水産相場はボラティリティが高く、いつ反転するか予測できません。したがって、国内加工食品事業単独での収益性回復は、経営上の喫緊の課題であり、今回の値上げはその是正措置として不可欠でした。

「株式会社うみお」への商号変更と企業戦略の転換

2026年3月の価格改定は、単なるコスト転嫁ではなく、同社の歴史的な転換点である「社名変更」と深くリンクしています。

マルハニチロは2026年3月(予定)をもって、商号を「株式会社うみお(Umios Corporation)」に変更します。これは、1880年創業のマルハ、1907年創業のニチロの統合による「第二の創業」に続く、「第三の創業」と位置づけられています。

「マルハニチロ」という名称は、長年のデフレ下において、缶詰や魚肉ソーセージなどの手頃なタンパク源を供給してきた信頼のブランドである一方、「安価な大衆品」というイメージも内包していました。新社名「うみお」は、海洋(UMI)を起点としたソリューション企業としての再定義であり、より高付加価値・高単価なブランドへのシフトを意図しています。

新ブランドは「食を通じて社会課題を解決する」ことをミッションに掲げています。持続可能な水産資源の利用や、環境配慮型パッケージの導入などの「サステナビリティ価値」を製品に付加することで、単純な値上げではなく「価値の向上に伴う価格適正化」として消費者に訴求する狙いがあります。

製品イノベーションとコスト戦略の両立

価格改定と並行して重要となるのが、製品イノベーションによるコスト構造の変革です。同社のヒット商品「WILDish(ワイルディッシュ)」シリーズは、この象徴と言える製品です。

WILDishシリーズは、パッケージ自体が皿の代わりになり、レンジ調理後にそのまま食べられるスタイルが特徴です。洗い物を減らしたい消費者の「タイパ(タイムパフォーマンス)」需要に合致しました。また、トレーを廃止することでプラスチック使用量を削減し、包装資材コストを抑制しつつ、環境配慮(脱プラ)という付加価値を創出しています。

2026年の価格改定後も、このような「機能的価値(時短)」と「社会的価値(エコ)」を併せ持つ製品であれば、消費者は高価格を受け入れる可能性が高いと考えられます。値上げ対象品目に米飯類が含まれていることは、このWILDishシリーズのような高付加価値米飯製品での収益確保を重視していることの表れです。

消費者行動の変化と冷凍食品の価値転換

消費者調査によれば、物価高騰下において消費者は「節約」を志向しつつも、約7割が「冷凍保存」を活用し、フードロス削減や効率化を求めています。これは、冷凍食品の価値が「手抜き・安価」から「賢い生活術・時短ツール」へと変化していることを示唆しています。

値上げによって単価は上昇しますが、外食やデリバリーと比較すれば、依然として冷凍食品のコストパフォーマンスは高いままです。例えば、値上げ後の冷凍チャーハンが1袋400円から500円になったとしても、ラーメン店で食べる1,000円のチャーハンや、コンビニ弁当の600円と比較すれば割安感は維持されます。マルハニチロは、この「相対的な割安感」と「圧倒的な時短価値」を武器に、価格改定後の需要減退を最小限に抑えようとしています。

小売店舗における棚割り戦略の変化

2026年3月の棚替えにおいて、小売店側は複数の対応を取ると予測されます。まず、値上げにより回転率が落ちる商品はカットされ、確実に売れる定番商品(「横浜あんかけラーメン」や主要米飯)への集約が進むでしょう。

また、ナショナルブランド(NB)の値上げにより、相対的に安価なPB(プライベートブランド)の需要が高まる可能性があります。しかし、PBの製造も大手メーカーが受託しているケースが多く、製造原価の上昇は遅れてPB価格にも波及するため、長期的には冷凍食品売り場全体の価格ベースが上昇することになります。

北米事業とグローバル・バリューチェーンの強化

マルハニチロは、北米ベーリング海におけるスケソウダラの漁獲枠シェア26%を持つ世界有数のプレイヤーです。この強固な「資源アクセス」は同社の最大の強みですが、これまでは北米ですり身やフィレ(一次加工品)を生産し、それを外部へ販売する比率が高い状況でした。

今後の戦略として、同社はこの良質な原材料をグループ内で活用し、カニカマや冷凍食品といった「高付加価値製品」への加工度を高める「バリューチェーンの強化」を掲げています。これは、日本の冷凍食品事業にとっても、安価な外部調達品に頼るのではなく、自社グループの高品質な水産資源を活用できるメリットがあります。

一方で、調達コストが国際相場に連動することを意味します。国内販売価格を国際水準に見合うレベルに引き上げなければ、貴重な水産資源を日本国内に供給する経済合理性が失われてしまうのです。

家計への影響と消費者が取るべき対応策

今回の冷凍食品の値上げは、日々の食卓に直接的な影響を与えます。マルハニチロの冷凍食品を定期的に購入している家庭では、月々の食費が一定程度上昇することは避けられません。例えば、週に2回冷凍米飯を購入している家庭の場合、値上げ幅が平均10%と仮定すると、年間で数千円程度の支出増加が見込まれます。

消費者としては、いくつかの対応策を検討することができます。まず、特売日やポイント還元セールを活用して購入タイミングを工夫することが挙げられます。スーパーマーケットでは、冷凍食品の特売日を設けている店舗も多く、価格改定後もこうしたセール機会を逃さないことが家計防衛につながります。また、まとめ買いによる単価低減も有効な手段です。冷凍食品は長期保存が可能であるため、冷凍庫の容量が許す範囲でまとめ買いをすることで、値上げ前の価格で購入する機会を最大化できます。

さらに、冷凍食品の活用方法を見直すことも一つの選択肢です。冷凍食品を主菜としてそのまま食べるだけでなく、手作り料理の「時短アシスト」として活用する方法があります。冷凍野菜を炒め物に加えたり、冷凍餃子をスープの具材にしたりすることで、一品あたりのコストを抑えながら食事のバリエーションを増やすことができます。

今後の展望と冷凍食品市場の未来

マルハニチロによる2026年3月の価格改定は、一過性の調整ではなく、日本の食品産業における「デフレ構造の終焉」を告げる象徴的なイベントです。米価の56%上昇、物流費の恒常的増加、そしてグローバル水産資源価格への連動は、もはや企業努力のみで吸収できる水準を超えています。同社は「うみお」への社名変更という大きな節目を利用し、国内事業を持続可能な収益構造へと転換する決断を下しました。

2026年を通じて新価格が消費者に受容されれば、冷凍食品メーカーの国内収益性は改善に向かうでしょう。しかし、消費者の選別眼は厳しくなり、価格に見合わない商品は市場から淘汰される可能性があります。

「うみお」としてグローバル・バリューチェーンが強化されれば、北米や欧州で評価される高品質な水産加工品が、適正価格で日本市場に投入される機会が増えるでしょう。

次なるリスクとして、気候変動による農産物(米・野菜)の供給不安定化は今後も続く可能性があります。メーカーは、特定の原料に依存しない製品開発(例:カリフラワーライスや代替プロテインなど)や、調達先の多角化をさらに加速させる必要があります。

今回の57品目の値上げは、日本の食卓における「冷凍食品」の地位が、安価な代替品から、然るべきコストを負担して利用する「インフラ」へと格上げされる過程における必要な進化と言えるでしょう。

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