インターネットの普及により、SNSや掲示板などでの誹謗中傷被害が増加しています。匿名での悪質な書き込みに悩まされている方も多いのではないでしょうか。「誰が書いたのかわからない」と諦めてしまう前に、法的手段として「開示請求」による投稿者特定と「慰謝料請求」という選択肢があることをご存知でしょうか。
この記事では、ネット上での誹謗中傷被害に対して、開示請求を行い、慰謝料を請求する方法について詳しく解説します。慰謝料の相場から請求の流れ、注意点まで、被害者の方が知っておくべき情報をQ&A形式でわかりやすく説明していきます。誹謗中傷に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。

開示請求で慰謝料はいくら請求できるのか?相場と金額に影響する要素
誹謗中傷の被害に遭い、開示請求を経て投稿者を特定した後、どれくらいの慰謝料が期待できるのでしょうか。慰謝料の相場は、権利侵害の種類や被害の程度によって大きく異なります。
慰謝料の一般的な相場
- 個人の名誉毀損: 10万円〜50万円
- 法人・企業の名誉毀損: 50万円〜100万円
- 侮辱罪に該当する場合: 数万円程度
- プライバシー侵害の場合: 10万円〜50万円
これらはあくまで一般的な相場であり、実際の金額は個々のケースによって変動します。特に悪質な誹謗中傷の場合、100万円以上の高額な慰謝料が認められるケースもあります。
慰謝料の金額に影響する要素
慰謝料の金額を決める際には、以下のような要素が考慮されます:
- 誹謗中傷の内容と悪質性:事実無根の内容や、社会的評価を著しく低下させるような内容であるほど高額になります。
- 拡散範囲と期間:多くの人の目に触れる場所での投稿や、長期間にわたって掲載されていた場合は金額が上がります。
- 書き込みの回数・頻度:一度の投稿より、継続的に複数回投稿されている場合のほうが高額になる傾向があります。
- 被害者への影響度:実際の風評被害や精神的苦痛の度合いが大きいほど、慰謝料も高くなります。
- 被害者の属性:一般人より、芸能人や企業など社会的影響力の大きい方が高額になることがあります。
示談交渉と裁判の違い
慰謝料請求は、示談交渉と裁判の二つの方法があります。一般的に、示談交渉のほうが裁判よりも高額な慰謝料を獲得できる可能性が高いとされています。これは示談金に法的な上限がなく、当事者間の合意で決められるためです。
弁護士を通した示談交渉では、相場を上回る示談金を獲得できるケースもあります。実際に、一般人でも200万円以上の示談金を獲得した事例もあります。ただし、相手の経済状況や事案の内容によりますので、現実的な金額設定が重要です。
開示請求と慰謝料請求の違いは?法的手続きの流れを解説
ネット上の誹謗中傷に対処する場合、多くの方が「開示請求」と「慰謝料請求」を混同してしまいがちです。これらは別々の法的手続きであり、順序立てて進める必要があります。
開示請求とは?
開示請求(正式には「発信者情報開示請求」)は、匿名の投稿者を特定するための法的手続きです。サイト運営者やプロバイダに対して、投稿者の情報(IPアドレスや氏名・住所など)の開示を求めます。
開示請求の主な目的は以下の通りです:
- 匿名の投稿者を特定すること
- 後の慰謝料請求のための準備をすること
慰謝料請求とは?
一方、慰謝料請求は、開示請求によって特定された投稿者に対して、被った精神的苦痛に対する金銭的賠償を求める手続きです。民法709条(不法行為)に基づいて請求します。
発信者情報開示から慰謝料請求までの流れ
- 証拠の保全: 誹謗中傷の投稿内容をスクリーンショットなどで保存
- IPアドレスの開示請求: サイト管理者に対して投稿者のIPアドレスの開示を求める
- 任意の開示に応じない場合は「仮処分」の申立て
- 発信者情報の開示請求: プロバイダに対して契約者情報(氏名・住所)の開示を求める
- 「発信者情報開示請求訴訟」または「発信者情報開示命令」を利用
- 個人の特定: 開示された情報をもとに投稿者を特定
- 示談交渉: 内容証明郵便などで相手に慰謝料を請求し、交渉
- 民事訴訟: 示談交渉がまとまらない場合、裁判所に訴訟を提起
重要なのは、開示請求が成功しても、必ずしも慰謝料が取れるとは限らないということです。開示請求と慰謝料請求は別々の手続きであり、それぞれの要件を満たす必要があります。
時間との勝負
ログの保存期間は一般的に3〜6ヶ月程度とされており、時間が経過するとデータが消去される可能性があります。そのため、誹謗中傷を発見したら迅速に行動することが重要です。弁護士に早めに相談し、証拠保全や法的手続きを進めることをおすすめします。
誹謗中傷の種類によって慰謝料はどう変わる?名誉毀損・侮辱・プライバシー侵害の場合
誹謗中傷といっても、法的には様々な権利侵害の種類があります。どのような権利が侵害されたかによって、慰謝料の相場も異なってきます。ここでは主な3つの権利侵害と、それぞれの慰謝料相場について解説します。
名誉毀損の場合
名誉毀損とは、公然と事実を摘示し、他人の社会的評価を低下させる行為です。例えば「〇〇さんは不倫をしている」「△△さんは前科がある」などの具体的事実を公表する行為が該当します。
名誉毀損の特徴:
- 公然性(不特定多数に知られる状態)が必要
- 具体的な事実の摘示が必要(真実かどうかは問わない)
- 社会的評価の低下をもたらすもの
慰謝料相場:
- 個人の場合:10万円〜50万円
- 法人・企業の場合:50万円〜100万円
名誉毀損は3つの権利侵害の中で最も慰謝料が高くなる傾向があります。特に事業に影響が出た場合や、虚偽の内容だった場合は高額になりやすいです。
侮辱罪にあたる場合
侮辱とは、事実を摘示せずに公然と人を侮辱する行為です。例えば「バカ」「ブス」などの単純な悪口や、抽象的な人格否定の言葉が該当します。
侮辱の特徴:
- 公然性が必要
- 具体的な事実の摘示はない
- 相手の名誉感情を傷つけるもの
慰謝料相場:数万円程度
名誉毀損に比べると侮辱の場合は慰謝料が低くなる傾向がありますが、悪質な場合や継続的に行われた場合は高額になることもあります。
プライバシー侵害の場合
プライバシー侵害とは、本人が公開を望まない個人情報や私生活上の事実を公表する行為です。例えば住所や年収、写真などの無断公開が該当します。
プライバシー侵害の特徴:
- 私生活上の事実(または事実と受け取られるもの)であること
- 一般的に公開を望まないと認められる内容であること
- まだ一般に知られていない非公開の事柄であること
慰謝料相場:10万円〜50万円
特に秘匿性の高い情報(リベンジポルノ、ヌード写真など)の場合は100万円以上の高額慰謝料が認められるケースもあります。
複合的な権利侵害の場合
実際の誹謗中傷では、上記の権利侵害が複合的に生じていることが多いです。例えば、実名を出して誹謗中傷する場合は、プライバシー侵害と名誉毀損の両方に該当する可能性があります。
複合的な権利侵害の場合は、単独の場合よりも慰謝料が高額になる傾向があります。弁護士に相談し、どのような権利侵害があるかを整理することで、適切な慰謝料請求が可能になります。
開示請求しても慰謝料がもらえないケースとは?よくある失敗パターン
開示請求を行っても、必ずしも慰謝料が受け取れるとは限りません。ここでは、開示請求を行ったにもかかわらず慰謝料がもらえない・回収が難しくなるケースについて解説します。
発信者情報開示請求が認められないケース
開示請求には法的な要件があり、以下の要件を満たさないと請求が棄却されることがあります:
- 請求相手が開示関係役務提供者に該当すること
- 自己の権利を侵害されたとする者であること
- 特定電気通信による情報の流通であること
- 権利が侵害されたことが明らかであること
- 正当な理由が存在すること
特に以下のようなケースでは開示請求が認められない可能性が高いです:
- DMやLINEのような1対1のやりとり: 「特定電気通信による情報の流通」に該当しないため
- 権利侵害と認められない軽微な表現: 主観的な感想や評価に過ぎない場合
- 社会的に許容される批判: 公人に対する批判や公益性のある表現の場合
ログが残っていないケース
インターネットサービスプロバイダ(ISP)やウェブサイト運営者は、IPアドレスなどのログを一定期間しか保存していません。一般的なログ保存期間は3ヶ月〜6ヶ月程度です。
時間が経過してログが消えてしまうと、投稿者の特定に必要な情報が存在しなくなるため、開示請求自体が不可能になります。そのため、誹謗中傷を発見したら、以下の対応を迅速に行うことが重要です:
- 書き込み内容のスクリーンショットを保存する(URLや日時を含む形で)
- できるだけ早く弁護士に相談する
- ログ保存の仮処分申立てを検討する
特定した個人に支払い能力がないケース
開示請求によって投稿者を特定できたとしても、相手に支払い能力がない場合は、慰謝料の回収が困難になります。以下のような場合が考えられます:
- 未成年者や学生など収入がない場合
- 無職や低所得者の場合
- 多額の借金がある場合
こうした場合でも、弁護士に依頼することで以下のような対応が可能です:
- 分割払いの交渉
- 親権者への請求(未成年の場合)
- 資産調査による支払い能力の確認
法的に慰謝料請求できない内容だったケース
投稿者を特定できても、投稿内容が法的に慰謝料請求の対象にならないケースがあります:
- 単なる意見や感想: 「この店はサービスが悪い」などの主観的評価
- 真実の事実: 公益目的で発信された真実の事実
- 社会通念上許容される表現: 批判的だが社会的に許容される範囲内の表現
時効が成立したケース
慰謝料請求権は、損害および加害者を知った時から3年で時効となります。開示請求から慰謝料請求までに時間がかかり、時効が成立してしまうケースもあります。
開示請求を行う際は、時効の管理も重要です。弁護士に依頼することで、時効の中断措置なども適切に行うことができます。
弁護士に依頼すると開示請求と慰謝料請求はどう変わる?費用と成功率の関係
開示請求と慰謝料請求は、個人でも行うことは可能ですが、弁護士に依頼することで様々なメリットがあります。ここでは、弁護士に依頼する際の費用と、それによって得られるメリットについて解説します。
弁護士費用の相場
発信者情報開示請求と慰謝料請求にかかる弁護士費用の一般的な相場は以下の通りです:
発信者情報開示請求の費用:
- 着手金:約20〜40万円
- 成功報酬:約10〜20万円
- 合計:約30〜60万円程度
慰謝料請求の費用:
- 示談交渉の場合
- 着手金:約10万円程度
- 成功報酬:獲得額の約16%
- 訴訟の場合
- 着手金:約20万円程度
- 成功報酬:獲得額の約16%
トータルでは、発信者情報開示請求から慰謝料請求まで、約40〜80万円程度の弁護士費用がかかることが一般的です。ただし、事案の複雑さや弁護士事務所によって費用は変動します。
弁護士費用は相手に請求できる
重要なポイントとして、開示請求や慰謝料請求にかかった弁護士費用は、「調査費用」として相手に請求できる可能性があります。全額が認められた事例もあれば、一部だけ認められた事例もあります。
このため、最終的に自己負担となる弁護士費用は、当初の見積もりよりも少なくなる可能性があります。
弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼することで得られる主なメリットは以下の通りです:
- 成功率の向上
- 適切な証拠収集と法的根拠の整理
- 要件を満たした申立書の作成
- 専門知識を活かした裁判所とのやりとり
- 時間と労力の節約
- 複雑な法的手続きを代行
- プロバイダとの折衝を任せられる
- 精神的負担の軽減
- 適切な慰謝料額の設定と交渉
- 事案に応じた適正な慰謝料額の設定
- 交渉のプロによる示談交渉
- 相場以上の慰謝料獲得の可能性
- 発信者との直接対面の回避
- 精神的ストレスの軽減
- プロフェッショナルによる冷静な対応
- 二次被害の防止
特に、誹謗中傷被害者は精神的に疲弊していることが多いため、法的手続きや交渉を弁護士に任せることで日常生活に集中できる環境を作ることも重要です。
弁護士選びのポイント
誹謗中傷案件を依頼する弁護士を選ぶ際は、以下のポイントに注目するとよいでしょう:
- ネットトラブル解決の実績がある
- 発信者情報開示請求の経験が豊富
- 費用体系が明確で透明性がある
- 無料相談を実施している
- コミュニケーションがスムーズに取れる
特に重要なのは、インターネット上のトラブル解決に特化した経験と知識を持つ弁護士を選ぶことです。弁護士によって得意分野が異なるため、ネットトラブル・誹謗中傷案件の実績が豊富な弁護士を選ぶことで、成功率を高めることができます。
多くの弁護士事務所では無料相談を実施していますので、まずは複数の弁護士に相談して、自分のケースに適した弁護士を選ぶことをおすすめします。
インターネット上の誹謗中傷は、被害者に深刻な精神的苦痛をもたらします。しかし、適切な法的手段を講じることで、加害者に責任を取らせることは可能です。開示請求と慰謝料請求の正しい知識を持ち、必要に応じて専門家のサポートを受けながら対処していきましょう。
開示請求から慰謝料請求までの道のりは長く、時間と労力を要することが多いですが、適切に対応することで被害回復と再発防止につながります。一人で抱え込まず、早めに専門家に相談することをおすすめします。
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