新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、自宅にいながら医師の診察を受けられる「オンライン診療」が急速に普及しました。感染リスクを避けながら医療サービスを受けられる便利な仕組みとして、今や多くの医療機関で導入されています。オンライン診療では、スマートフォンやパソコンを使って医師とビデオ通話で診察を受け、処方された薬は薬局から自宅へ配送してもらうことも可能です。
このオンライン診療を利用する際には、通常の対面診療とは異なり、診察料のほかにオンラインシステムの利用料が発生するケースもあります。また、薬の配送料などの追加費用も生じることがあります。こうした費用が家計に与える影響は小さくありません。
医療費の負担を軽減する制度として、多くの方が活用している「医療費控除」。この制度は、1年間(1月1日から12月31日まで)に支払った医療費が一定額を超えた場合、確定申告を通じて所得税の一部が還付される仕組みです。従来の対面診療の費用が医療費控除の対象となることは広く知られていますが、比較的新しいサービスであるオンライン診療の各種費用についても、医療費控除の対象になるのかどうか疑問を持つ方は少なくありません。
国税庁は2021年8月、新型コロナウイルス感染症関連の税務上の取扱いに関するFAQを公開し、オンライン診療に係る諸費用の医療費控除の適用について明確な指針を示しました。この指針によると、オンライン診療料やオンラインシステム利用料、処方された医薬品の購入費用は医療費控除の対象となりますが、処方された医薬品の配送料は対象外となります。
この記事では、オンライン診療に関連する費用の医療費控除について、国税庁の見解を基に詳しく解説します。どの費用が控除対象となるのか、申告の際にどのような点に注意すべきか、具体的な事例を交えながら分かりやすく説明していきます。医療費の負担を少しでも軽減するために、ぜひ参考にしてください。

オンライン診療の費用は医療費控除の対象になるのですか?
オンライン診療の費用が医療費控除の対象になるかどうかは、多くの方が疑問に思う点です。結論から言うと、オンライン診療料は医療費控除の対象となります。これは国税庁が明確に示している見解です。
医療費控除の基本的な考え方は、「診療や治療・療養のための出費に限る」というものです。つまり、予防や健康増進など、診療や治療・療養に直接関係ないものは対象外となります。オンライン診療は、医師による正式な診察・治療行為であり、単なる健康相談とは異なります。そのため、通常の対面診療と同様に、医療費控除の対象として認められています。
所得税法第73条第2項および所得税法施行令第207条第1項では、医療費控除の対象となる医療費を「医師又は歯科医師による診療又は治療」と定めています。オンライン診療は、その形態は従来と異なるものの、医師による診療行為であることに変わりはありません。
例えば、高血圧や糖尿病などの慢性疾患の定期的な診察をオンラインで受けた場合、その診察料は医療費控除の対象となります。また、風邪やアレルギー症状などの一時的な症状についてオンライン診療を受けた場合も同様です。
ただし、注意すべき点として、オンライン診療が医療保険の適用対象となる場合は、自己負担分のみが医療費控除の対象となります。保険適用外の自由診療としてオンライン診療を受けた場合は、支払った診療費全額が医療費控除の対象になります。
医療費控除を申告する際には、オンライン診療を受けた医療機関からの領収書や明細書を保管しておくことが重要です。これらの書類には、診療日、診療内容、支払金額などが記載されており、確定申告の際に必要となります。特にオンライン診療の場合、診療内容が「オンライン診療」と明記されていることを確認しておくと良いでしょう。
また、オンライン診療を利用する際には、事前に医療機関に医療費控除の対象となるかどうかを確認することをお勧めします。医療機関によって料金体系や領収書の発行方法が異なる場合があるためです。
オンラインシステム利用料は医療費控除に含められますか?
オンライン診療を受ける際には、医師による診察料とは別に、「オンラインシステム利用料」が発生することがあります。これは、ビデオ通話システムなどのオンライン診療プラットフォームを利用するための費用です。このオンラインシステム利用料は、医療費控除の対象となります。
国税庁の見解によれば、「医師等による診療や治療を受けるために支払ったオンラインシステム利用料については、オンライン診療に直接必要な費用に該当するため、医療費控除の対象となる」とされています。この考え方は、所得税基本通達73-3を参照したものです。
所得税基本通達73-3では、「医師等による診療又は治療を受けるために直接必要な費用」も医療費控除の対象になると定めています。オンラインシステム利用料は、オンライン診療という医師の診療を受けるために直接必要な費用と位置づけられるため、医療費控除の対象となるのです。
具体的には、以下のようなケースが考えられます:
- 医療機関が独自に提供するオンライン診療システムの利用料
- 第三者が提供するオンライン診療プラットフォームの利用料(医療機関を通じて支払う場合)
- 診療予約や問診表入力のためのアプリケーション利用料
これらの費用は、オンライン診療を受けるために「直接必要」な費用と認められるため、医療費控除の対象になります。
ただし、オンライン診療と関係のないインターネット接続料金や、診療以外の目的でも使用するパソコンやスマートフォンの購入費用などは、オンライン診療に「直接必要」な費用とは言えないため、医療費控除の対象外となります。
また、オンラインシステム利用料については、医療機関からの領収書や明細書に明確に記載されていることが重要です。「診察料」と「システム利用料」が区別されて記載されていない場合は、医療機関に詳細な明細を求めることをお勧めします。
医療費控除を申告する際には、これらの費用を合算して申告することになります。年間のオンラインシステム利用料が少額であっても、他の医療費と合わせることで、医療費控除の適用基準(年間10万円または所得の5%のいずれか少ない方)を超える可能性があります。特に慢性疾患で定期的にオンライン診療を利用している方は、これらの費用を適切に管理し、確定申告の際に忘れずに申告するようにしましょう。
オンライン診療で処方された薬の配送料は医療費控除の対象になりますか?
オンライン診療の便利さの一つは、処方された薬を自宅まで配送してもらえることです。しかし、この薬の配送料については、医療費控除の対象とはなりません。これは国税庁が明確に示している見解です。
国税庁のFAQによれば、「医薬品の配送料については、治療又は療養に必要な医薬品の購入費用に該当しないため、医療費控除の対象とならない」とされています。この判断は、医療費控除の基本的な考え方に基づいています。
医療費控除の対象となる医療費は、所得税法第73条第2項および所得税法施行令第207条第1項によって、「治療又は療養に必要な医薬品の購入費用」と定められています。薬の配送料は、薬そのものの購入費用ではなく、薬を届けるためのサービス料金であるため、医療費控除の対象外となるのです。
これは通常の通院と比較すると理解しやすいかもしれません。通常の通院の場合、病院へ行くための交通費(バスや電車の運賃など)は医療費控除の対象外です。同様に、薬を届けてもらうための配送料も、医療行為や薬の購入そのものではなく、それに付随するサービスの費用であるため、対象外となります。
具体例を挙げると、例えばオンライン診療で高血圧の薬を処方してもらい、薬局から自宅へ配送してもらった場合、
- 薬代(自己負担分):医療費控除の対象
- 薬の配送料:医療費控除の対象外
となります。
薬の配送料が明記された領収書や明細書を受け取った場合は、確定申告の際に薬代と配送料を区別して申告する必要があります。薬代のみを医療費控除の対象として計上し、配送料は除外しなければなりません。
ただし、薬局によっては、配送料を無料としているところもあります。また、薬代に配送料が含まれているように見える場合もあります。このような場合は、薬局に確認し、正確な内訳を把握しておくことが重要です。
なお、処方された薬の購入費用そのものは医療費控除の対象となります。これは、その薬が治療や療養のために必要な医薬品であり、医師の処方に基づいているためです。市販薬の購入費用も、医師の指示に基づいて購入した場合には医療費控除の対象となる可能性がありますが、自己判断で購入した市販薬は対象外となりますので注意が必要です。
オンライン診療を利用する際の医療費控除の申告方法はどうすればいいですか?
オンライン診療を利用した場合の医療費控除の申告方法は、基本的に通常の医療費控除の申告と同じです。ただし、オンライン診療特有の費用項目があるため、それらを正確に把握し、適切に申告することが重要です。以下に、申告の手順と注意点を説明します。
1. 領収書・明細書の収集と整理
オンライン診療を受けた際の領収書や明細書を必ず保管しておきましょう。オンライン診療の場合、以下の項目が記載された書類が必要です:
- 診療日
- 医療機関名
- 診療内容(オンライン診療であることが分かるもの)
- 診療料(自己負担分)
- オンラインシステム利用料(ある場合)
- 処方薬の費用(自己負担分)
- 処方薬の配送料(控除対象外として区別するため)
電子メールやアプリ内で領収書が発行される場合は、印刷するか、スクリーンショットを保存するなどして、確実に保管しておきましょう。
2. 医療費の集計
1年間(1月1日から12月31日まで)に支払ったすべての医療費を集計します。オンライン診療の場合、以下の費用を合算します:
- オンライン診療料(自己負担分)
- オンラインシステム利用料
- 処方薬の費用(自己負担分)
処方薬の配送料は医療費控除の対象外ですので、集計から除外します。
また、オンライン診療だけでなく、通常の通院や入院、薬局での薬の購入など、1年間に支払ったすべての医療費も合わせて集計します。
3. 医療費控除額の計算
集計した医療費の合計額から、以下の計算式で医療費控除額を求めます:
医療費控除額 = 支払った医療費の合計額 – 10万円(または所得の5%のいずれか少ない方)
ただし、医療費控除の上限は200万円です。
例えば、年間の医療費が15万円で、所得が300万円の場合:
- 10万円 < 所得の5%(15万円)なので、10万円を差し引きます。
- 医療費控除額 = 15万円 – 10万円 = 5万円
4. 確定申告書の作成と提出
確定申告書(第一表・第二表)と医療費控除の明細書を作成します。オンライン診療の費用も含めたすべての医療費を明細書に記入します。
2017年分の確定申告から、医療費の領収書の提出または提示は不要となり、代わりに「医療費控除の明細書」の添付が必要になりました。ただし、領収書は自宅で5年間保管する必要があります。税務署から求められた場合に提示できるようにしておきましょう。
なお、国税庁のホームページからダウンロードできる「確定申告書等作成コーナー」を利用すると、医療費控除の計算や申告書の作成が比較的簡単に行えます。
5. 申告時の注意点
- オンライン診療に関する費用が医療費控除の対象となることを明確にするため、必要に応じて「摘要」欄にオンライン診療である旨を記入するとよいでしょう。
- 診療内容が不明確な場合や、オンラインシステム利用料の詳細が不明な場合は、事前に医療機関に確認しておくことをお勧めします。
- 医療費控除の明細書には、医療を受けた方の氏名、医療機関等の支払先の名称、医療費の区分、支払った医療費の額、医療保険や生命保険などで補填される金額を記入します。
オンライン診療の利用が増えるにつれて、関連する医療費も増加する可能性があります。特に慢性疾患で定期的にオンライン診療を利用している方は、これらの費用を適切に管理し、医療費控除を活用することで税負担を軽減することができます。
オンライン診療と通常の対面診療で医療費控除の取り扱いに違いはありますか?
オンライン診療と対面診療の医療費控除における基本的な取り扱いに大きな違いはありませんが、いくつかの重要な相違点があります。これらの違いを理解することで、適切に医療費控除を申告することができます。
診療料の取り扱い
対面診療:通常の病院や診療所での診察料(自己負担分)は医療費控除の対象です。初診料、再診料、検査料、処置料などが含まれます。
オンライン診療:オンライン診療料(自己負担分)も同様に医療費控除の対象です。国税庁の見解によれば、「オンライン診療料のうち、医師等による診療や治療のために支払った費用については、医療費控除の対象となる」とされています。
基本的に診療行為に対する費用という点で両者に違いはなく、どちらも医療費控除の対象となります。
追加費用の有無
対面診療:一般的な診療料以外に特別な費用は発生しません。ただし、特別な検査や処置を行った場合は、その費用が加算されます。
オンライン診療:診療料に加えて、オンラインシステム利用料が発生する場合があります。このシステム利用料も医療費控除の対象となります。これは対面診療にはない、オンライン診療特有の費用項目です。
交通費と配送料の違い
対面診療:通院のための交通費(バスや電車の運賃、タクシー代など)は、特別な場合を除いて医療費控除の対象外です。ただし、傷病によって歩行が困難な場合の必要かつ最小限度の額のタクシー代などは対象となる場合があります。
オンライン診療:処方薬の配送料は医療費控除の対象外です。これは対面診療で薬を受け取るために病院や薬局へ通うための交通費が対象外であることと同様の考え方です。
証明書類の違い
対面診療:通常、診療を受けた際に病院や診療所から紙の領収書が発行されます。
オンライン診療:電子メールやアプリ内で電子領収書が発行されることが多いです。医療費控除の申告時には、これらの電子領収書を印刷するか、スクリーンショットを保存しておく必要があります。
保険適用の違い
対面診療:多くの診療は健康保険が適用され、3割負担(年齢によって異なる)となります。
オンライン診療:オンライン診療も保険適用となる場合がありますが、すべてのオンライン診療が保険適用となるわけではありません。保険適用外(自由診療)の場合は、全額自己負担となりますが、その全額が医療費控除の対象となります。
注意すべき点
- オンライン診療の明確な記載: オンライン診療を受けた場合、領収書や明細書に「オンライン診療」と明記されていることが望ましいです。不明確な場合は、医療機関に確認しましょう。
- システム利用料の区分: オンラインシステム利用料が診療料とは別に記載されている場合は、それも医療費控除の対象となることを認識しておく必要があります。
- 配送料の区別: 処方薬の配送料は医療費控除の対象外であるため、薬代と配送料が別々に記載されていることが重要です。不明確な場合は、薬局に確認しましょう。
- 保険適用の確認: オンライン診療を受ける前に、保険適用か自由診療かを確認しておくことで、支払い金額と医療費控除の対象額を事前に把握することができます。
- 電子領収書の保管: オンライン診療の場合、電子領収書が発行されることが多いため、適切に保管する方法を確立しておく必要があります。例えば、専用のフォルダを作成して保存するなどの工夫が有効です。
オンライン診療と対面診療は、医療費控除の基本的な考え方では同じですが、オンライン診療特有の費用項目(システム利用料や配送料)があることを理解し、適切に区別して申告することが重要です。特に配送料は医療費控除の対象外であることに注意が必要です。
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