近年、「好きなことを仕事に」という考え方が広まり、ハンドメイド作家として起業する方が増えています。自分の手で作った作品を販売して収入を得るハンドメイド起業は、特別なスキルや大きな初期投資がなくても始められるため、副業としても人気です。しかし、趣味と仕事は異なります。ハンドメイドで起業して継続的に収入を得るためには、作品づくりだけでなく、ビジネスとしての知識や戦略も必要です。
本記事では、ハンドメイドで起業を考えている方に向けて、メリット・デメリット、準備すべきこと、販売方法、必要な手続き、そして成功するためのブランディングのコツまで、5つのステップで詳しく解説します。趣味だったハンドメイドを仕事にするための第一歩を、一緒に踏み出しましょう。

ハンドメイドで起業するメリットとデメリットは何ですか?
メリット
1. 自分の好きなことを仕事にできる
ハンドメイド起業の最大の魅力は、趣味や特技を仕事にできることです。自分が作りたいものを作り、それを販売する喜びは何物にも代えがたいものです。作品が売れた時の達成感や、お客様から直接感謝の言葉をいただけることは、大きなモチベーションになります。
2. 場所や時間に縛られない自由な働き方
自宅で作業ができるため、通勤の必要がなく、自分のペースで仕事を進められます。子育て中の方や、フルタイムで働くことが難しい方でも、空いた時間を活用して仕事ができるのは大きなメリットです。
3. 初期投資を抑えて始められる
実店舗を持つ必要がなく、インターネット販売が主流となっている現在では、初期費用を抑えて起業できます。趣味で使っていた道具や材料を活用すれば、さらに初期投資を抑えられるでしょう。
4. 税制面での優遇措置が受けられる
開業届を提出して個人事業主になると、青色申告によって最大65万円の所得控除を受けることができます。また、作品制作に使った材料費や道具、作業スペースの一部を経費として計上できるようになります。
5. 信用力の向上
個人事業主として屋号を持つことで、取引先や材料の仕入れ先、銀行などからの信用が高まります。特に材料を卸売業者から仕入れる場合は、個人よりも事業者として取引したほうが有利な場合が多いでしょう。
デメリット
1. 収入が不安定
ハンドメイド作品は大量生産が難しく、売上にも波があります。特に始めたばかりの頃は知名度も低く、安定した収入を得るまでに時間がかかることを覚悟しておく必要があります。
2. 作品制作以外の業務も増える
起業すると、作品づくり以外にも、材料の仕入れ、写真撮影、商品説明の作成、SNS運用、梱包・発送、顧客対応、経理など、様々な業務が発生します。一人で全てを担当する場合は、作品制作の時間が思うように確保できないこともあります。
3. 競争が激しい
ハンドメイドの販売サイトやSNSの普及により、多くの作家が作品を販売するようになりました。類似した作品も多く、価格競争に巻き込まれる可能性もあります。他の作家と差別化し、独自の魅力を打ち出す工夫が必要です。
4. 確定申告などの手続きが必要
個人事業主になると、年に一度の確定申告が必要になります。売上や経費の記録をつけ、税金の計算や申告書の作成など、慣れない事務作業に時間を取られることもあるでしょう。
5. 作品の価値設定が難しい
手作業で作る作品は、材料費だけでなく、技術や時間に対する対価を含めた適正価格の設定が難しいものです。安すぎると利益が出ず、高すぎると売れにくくなるため、バランスを見極める必要があります。
ハンドメイド起業で成功するために必要な準備は何ですか?
ハンドメイドで起業する際に、しっかりと準備をすることで成功の確率を高めることができます。以下のポイントを押さえて、計画的に準備を進めましょう。
1. 市場調査とコンセプト設計
まずは、ハンドメイドマーケットの現状を把握し、どのようなジャンルや作品が求められているのかをリサーチすることが大切です。minneやCreemaなどの人気ハンドメイドマーケットを見て、人気の商品や価格帯をチェックしましょう。
また、自分の強みや個性を活かした作品のコンセプトを明確にすることも重要です。「誰に」「どんな価値を」提供するのかを考え、ターゲット層を絞り込みましょう。例えば、「シンプルで長く使えるアクセサリーを求める30代女性」や「子供の成長を記録したい子育て中のママ」など、具体的なイメージを持つことが大切です。
2. 作品のクオリティと独自性の追求
ハンドメイド市場では、独自性のある高品質な作品が評価されます。自分の作品の強みを見極め、さらに磨きをかけましょう。技術を向上させるための講座やワークショップに参加したり、新しい素材や技法に挑戦したりすることも有効です。
また、作品の完成度を高めるだけでなく、パッケージやラッピングにもこだわると、より魅力的な商品に仕上がります。自分のブランドらしさを感じられるオリジナリティのある包装は、顧客の印象に残りやすいでしょう。
3. 価格設定の検討
適切な価格設定は、ビジネスの成功を左右する重要な要素です。材料費に加え、作業時間や技術料、販売手数料なども考慮して設定する必要があります。
具体的な計算例:
- 材料費:1,000円
- 作業時間:2時間(時給1,500円と設定した場合は3,000円)
- 販売手数料(販売サイトの場合):商品価格の10%前後
- 梱包・発送費:300円
上記を考慮すると、最低でも4,500円程度の価格設定が必要になります。さらに、ブランド価値や市場価格も加味して最終的な価格を決定しましょう。
4. 販売チャネルの選定
ハンドメイド作品の販売方法は様々あります。自分の作品やターゲット層に合った販売チャネルを選びましょう。
- ハンドメイドマーケットサイト:minne、Creema、BASEなど
- SNS販売:Instagram、Facebook、Twitterなど
- 自社ECサイト:Shopifyなどで独自のオンラインショップを開設
- 実店舗やイベント販売:ハンドメイドマルシェ、クラフトフェアなど
- 委託販売:セレクトショップやカフェなどでの委託販売
まずは1〜2つのチャネルに絞って始め、徐々に拡大していくのがおすすめです。
5. ブランディングとビジュアル戦略
ハンドメイド作品は「作り手の顔が見える」ことが強みです。自分自身やブランドのストーリーを積極的に発信し、ファンとの信頼関係を築いていきましょう。
また、商品写真は購入の決め手となる重要な要素です。自然光を活用した明るい写真や、作品の魅力が伝わる角度での撮影など、写真のクオリティにもこだわりましょう。スマートフォンでも十分きれいな写真が撮れますが、三脚や反射板などの簡単な機材を揃えると、より良い写真が撮れます。
ハンドメイド作品を販売するおすすめの方法は?
ハンドメイド作品を販売する方法はいくつかありますが、それぞれに特徴があります。自分の作品やビジネススタイルに合った販売方法を選びましょう。
1. ハンドメイドマーケットサイト
minne(ミンネ) 国内最大級のハンドメイドマーケットで、作家・購入者ともに会員数が多いのが特徴です。初心者でも始めやすく、認知度も高いため、ハンドメイド販売の入口として最適です。ただし、作品数が多いため、目立つための工夫が必要です。
- 手数料:販売価格の10.56%(税込)
- 特徴:子供向け商品や実用的な雑貨が人気
Creema(クリーマ) 作家のプロ志向が強く、平均単価が高めのサイトです。ハンドメイド作品の価値を高めるための取り組みも行っており、クオリティの高い作品を適正価格で販売したい作家に向いています。
- 手数料:販売価格の11%〜(売上額により変動)
- 特徴:アート性の高い作品やデザイン性の高いアクセサリーが人気
BASE(ベイス) ハンドメイド専門ではないECサイト作成サービスですが、自分だけのネットショップを簡単に開設できるメリットがあります。自社ブランドとして展開したい場合におすすめです。
- 手数料:販売価格の6.6%(税込)+ 決済手数料
- 特徴:独自ドメインの設定やデザインのカスタマイズが可能
2. SNSを活用した販売
Instagram(インスタグラム) ビジュアル重視のSNSであるInstagramは、ハンドメイド作品の魅力を伝えるのに最適です。ショッピング機能を利用すれば、投稿から直接商品ページに誘導することも可能です。
- メリット:無料で始められ、ハッシュタグを活用して新規顧客の獲得が可能
- 活用法:作品だけでなく、制作過程や素材、ライフスタイルなども含めた世界観を発信
Facebook(フェイスブック) 年齢層が比較的高めのSNSで、詳細な商品説明や背景ストーリーを伝えるのに適しています。グループ機能を利用して、ファンコミュニティを作ることもできます。
- メリット:詳細な情報発信ができ、シェア機能でクチコミが広がりやすい
- 活用法:ショップ機能を利用して商品を直接販売
3. 実店舗・イベント販売
ハンドメイドマルシェ・クラフトフェア 定期的に開催されるハンドメイドイベントに出店することで、実際にお客様と対面して作品を販売できます。作品の魅力を直接伝えられるだけでなく、顧客の反応を見ることができるのもメリットです。
- メリット:顧客と直接コミュニケーションがとれる、その場で売上が発生する
- 準備するもの:ディスプレイ用の什器、値札、釣り銭、包装材料など
委託販売 セレクトショップやカフェなどに作品を委託して販売してもらう方法です。自分で店舗に立つ必要がなく、実店舗での露出を得られるメリットがあります。
- メリット:実店舗での販売が可能、自分の時間を取られない
- 注意点:委託手数料(売上の30〜50%程度)がかかる、在庫管理が必要
4. 自社ECサイト・ブログ
独自のECサイト ShopifyやWooCommerceなどのサービスを利用して、独自のオンラインショップを開設する方法です。手数料が抑えられ、ブランドイメージを自由に表現できるメリットがあります。
- メリット:手数料が安い、自由なデザインが可能、顧客データを自分で管理できる
- 課題:集客が難しい、サイト運営の知識が必要
ブログとの連携 ブログでハンドメイドの魅力や制作過程を発信しながら、ECサイトへ誘導する方法です。SEO効果も期待でき、長期的な集客につながります。
- メリット:ファン獲得につながる、検索エンジンからの流入が期待できる
- 活用法:作品の制作過程や素材へのこだわり、使い方のアイデアなどを発信
ハンドメイド起業に必要な手続き(開業届や税金)について知りたいです
ハンドメイド起業を本格的に始める場合、個人事業主として必要な手続きを行うことが大切です。法律や税金の知識を身につけておくことで、安心してビジネスを続けることができます。
1. 開業届の提出
ハンドメイド作品を販売して収入を得ている場合は、原則として「開業届」を税務署に提出する必要があります。開業届の提出は個人事業主としての第一歩です。
開業届の提出タイミング
- 開業から1ヶ月以内が理想(遅れた場合のペナルティはありません)
- 年間の売上がわずかでも、事業として継続する意思があれば提出するのが望ましい
開業届の提出方法
- 税務署で用紙を入手するか、国税庁のウェブサイトからPDFをダウンロード
- 必要事項(住所、氏名、屋号、事業内容、開業日など)を記入
- 最寄りの税務署に提出(郵送も可能)
開業届を提出するメリット
- 青色申告ができるようになり、最大65万円の所得控除を受けられる
- 事業に関連する経費を申告できる
- 屋号での銀行口座開設や、取引先からの信用度アップにつながる
2. 確定申告と税金
個人事業主になると、毎年2月16日から3月15日までの期間に、前年の所得に対する確定申告を行う必要があります。
確定申告が必要なケース
- 年間の所得が48万円を超える場合(本業がある場合は20万円超)
- 開業届を提出して青色申告をする場合は、所得にかかわらず申告が必要
申告の種類
- 白色申告:比較的簡単な申告方法。所得控除は10万円まで
- 青色申告:複式簿記による記帳が必要。最大65万円の控除が可能(e-Taxで電子申告し、電子帳簿保存を行う場合)
経費として計上できるもの
- 材料費、道具・機材費
- 作業場所の家賃(自宅の一部を使用する場合は按分)
- 通信費、交通費
- 宣伝・広告費(SNS広告、ブログ運営費など)
- 研修・セミナー費用
- ハンドメイドマーケットの出店料や手数料
経費の管理は日頃からしっかり行い、領収書や明細書はすべて保管しておきましょう。会計ソフト(freee、マネーフォワードなど)を利用すると、経理作業が効率化できます。
3. その他の必要な手続き
事業用銀行口座の開設
- 個人口座と事業用口座を分けておくと、経理処理がスムーズになります
- 屋号(ブランド名)付きの口座を開設できる銀行もあります
許認可の確認
- 販売する商品によっては特別な許可が必要な場合があります
- 食品を扱う場合:食品衛生責任者の資格や保健所の許可
- 化粧品を製造販売する場合:化粧品製造販売業の許可
- 中古品を扱う場合:古物商許可
特定商取引法への対応
- ネットショップでは「特定商取引法に基づく表記」の掲載が義務付けられています
- 販売者情報、支払方法、返品・交換ポリシーなどを明記する必要があります
保険の検討
- 万が一の事故や怪我に備えて、事業者向けの保険に加入することも検討しましょう
- 個人賠償責任保険では補償されないケースもあるため、事業活動に対応した保険を選ぶことが大切です
ハンドメイドで稼ぐために重要なブランディングのコツは?
ハンドメイド市場は競争が激しいため、単に良い作品を作るだけでなく、効果的なブランディングを行うことが成功のカギとなります。自分だけの世界観やストーリーを伝えることで、ファンを獲得し、継続的な収入につなげましょう。
1. ブランドの世界観を明確にする
まずは自分のブランドが大切にする価値観や世界観を言語化しましょう。「どんな想いで作品を作っているのか」「どんな価値を提供したいのか」を明確にすることで、ブランディングの軸ができます。
ブランドコンセプトを固める要素
- ブランドの強み・こだわり(素材、技術、デザインなど)
- ターゲットとなる顧客の特徴や悩み
- 提供する価値(機能的価値と感情的価値)
- 競合との差別化ポイント
例えば、「自然素材にこだわり、シンプルで長く使える雑貨を提供する」「子どもの想像力を育む、カラフルで楽しいおもちゃを作る」など、簡潔に表現できるとよいでしょう。
2. ビジュアルイメージを統一する
ブランドのイメージを視覚的に伝えるために、ロゴ、カラー、フォント、写真のトーンなどを統一しましょう。一貫したビジュアルイメージは、お客様の記憶に残りやすく、ブランド認知につながります。
統一すべき要素
- ロゴやブランドマーク
- メインカラー(2〜3色程度)
- 使用するフォント
- 写真の雰囲気やトーン
- 商品パッケージやラッピング
自分でデザインするのが難しい場合は、ココナラやクラウドワークスなどのサービスで、プロのデザイナーに依頼することも検討しましょう。
3. ストーリーテリングを活用する
ハンドメイド作品の魅力は、大量生産品にはない「背景ストーリー」にあります。作品が生まれた経緯や、こだわりのポイント、制作過程などを積極的に伝えることで、作品の価値を高めることができます。
伝えるべきストーリー例
- ブランドを始めたきっかけや想い
- 素材へのこだわりや調達ストーリー
- 制作技術や工夫している点
- お客様からのフィードバックを活かした改良点
- 実際に使用しているシーンや活用法
これらのストーリーをSNSやブログ、商品説明などで丁寧に伝えることで、単なる「モノ」ではなく、「価値」を販売することができます。
4. SNSやブログを戦略的に活用する
SNSやブログは、ハンドメイド作家にとって重要なブランディングツールです。定期的に投稿し、ファンとの関係を築いていきましょう。
SNS運用のコツ
- ターゲットとなる層が多く利用しているSNSを選ぶ
- 投稿内容のバランスを考える(作品紹介、制作過程、日常、お知らせなど)
- ハッシュタグを効果的に活用する
- フォロワーとのコミュニケーションを大切にする
- 投稿の頻度を一定に保つ(週2〜3回程度が目安)
視覚的なコンテンツが重要なハンドメイド作品は、特にInstagramとの相性が良いでしょう。写真映えする作品の撮り方や、効果的な投稿時間帯なども研究してみてください。
5. 顧客体験を大切にする
ハンドメイド作品を購入するお客様は、単に商品を買うだけでなく、「作家との繋がり」や「特別感」も求めています。購入前から購入後まで、一貫して良い体験を提供しましょう。
顧客体験を高める工夫
- 丁寧なコミュニケーション(質問への迅速な返答、オーダーの確認など)
- 美しいパッケージやラッピング
- お礼のメッセージカードの同封
- アフターフォロー(使用方法の案内、お手入れ方法の説明など)
- リピーター向けの特典や限定商品の提供
一度購入してくれたお客様との関係を大切にすることで、リピート購入やクチコミにつながり、持続可能なビジネスの基盤となります。
6. コラボレーションや新しい挑戦
ブランドの認知度を高めるために、他の作家やブランドとのコラボレーションも検討してみましょう。また、ワークショップの開催や新しい技法への挑戦など、常に成長し続けることも大切です。
挑戦のアイデア
- 異なるジャンルの作家とのコラボレーション商品
- 地元のカフェやセレクトショップとのイベント開催
- オンラインまたはオフラインでのワークショップ
- 新しい素材や技法の習得
- 季節限定商品や記念商品の企画
こうした新しい取り組みは、既存のファンの興味を引くだけでなく、新たな顧客層の開拓につながることもあります。
ハンドメイド起業は、作品づくりの技術だけでなく、ビジネスとしての視点や戦略も重要です。最初から完璧を目指すのではなく、少しずつ試行錯誤しながら、自分のペースでブランドを育てていくことが大切です。まずは小さく始めて、徐々に規模を拡大していくアプローチがおすすめです。
好きなことを仕事にするハンドメイド起業の世界で、あなたらしいブランドを作り上げ、多くのファンに喜ばれる作品を届けられることを願っています。
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