株式会社Mediiが提供する医師専用オンライン専門医相談サービス「E-コンサル」は、第4回日本サービス大賞において厚生労働大臣賞を受賞した医療DXサービスです。E-コンサルは、主治医が診断や治療方針に悩む症例について、全国1,500名以上のエキスパート専門医に完全無料で相談できるプラットフォームであり、相談解決率99.9%という驚異的な実績を誇ります。このサービスは、医師の地理的偏在だけでなく「知の偏在」という医療の構造的課題を解決し、「誰も取り残さない医療」の実現を目指しています。
本記事では、Mediiが厚生労働大臣賞を受賞した背景、E-コンサルの革新的な仕組み、創業者の原体験、そして医療DXがもたらす未来について詳しく解説します。難病や希少疾患で診断がつかず苦しむ患者を救うセーフティネットとして機能するこのサービスの全貌を、多角的な視点からお伝えします。

第4回日本サービス大賞 厚生労働大臣賞の受賞について
日本サービス大賞は、日本のサービス産業において革新的なモデルを構築し、生産性の向上や地域経済の活性化に寄与した企業を表彰する制度です。数ある賞の中でも、各省庁の大臣賞は内閣総理大臣賞に次ぐ重みを持つ栄誉ある賞として位置づけられています。
株式会社Mediiは、第4回日本サービス大賞において厚生労働大臣賞を受賞しました。この受賞は、Mediiの取り組みが単なる一企業の営利活動を超え、日本の医療・福祉行政が抱える課題解決に直結する公益性の高いインフラであると、国が公式に認めたことを意味します。
受賞において評価されたポイントは大きく3つあります。第一のポイントは「医師偏在問題への実効的なアプローチ」です。国は長年、医師の地域偏在を解消するために医学部の地域枠新設や医師の配置転換などを試みてきましたが、抜本的な解決には至っていませんでした。Mediiは医師そのものを移動させるのではなく「知識」を移動させるという発想の転換により、地方に住んでいても都市部の名医の知見にアクセスできる環境を構築しました。これは極めて低コストかつ即効性のある偏在対策として高く評価されています。
第二のポイントは「難病・希少疾患患者の救済」です。患者数が少ない疾患は市場原理が働きにくく、製薬企業の開発投資や医師の育成が後回しにされがちです。Mediiはこうした取り残された領域にこそ光を当て、専門医の知見を集約することで、診断がつかずに苦しむ患者を救うセーフティネットとして機能しています。この姿勢は厚生労働省が掲げる難病対策の理念と完全に合致するものです。
第三のポイントは「持続可能なビジネスモデルの構築」です。社会的意義が高くてもサービスが経済的に自立していなければ継続できません。Mediiは製薬企業との連携による巧みなマネタイズモデルを確立しており、補助金頼みではない民間主導の持続可能な医療インフラを作り上げた点が評価されました。
E-コンサルとは何か
E-コンサルは、株式会社Mediiが提供する医師専用のオンライン専門医相談サービスです。主治医が診断や治療方針に悩む症例について、その領域のエキスパート専門医に完全無料で相談できる仕組みを提供しています。
医療の世界には長らく「専門外のことであっても主治医が自分で判断すべきだ」あるいは「他人に聞くのは恥である」という職人気質やプライド、閉鎖的な文化が存在してきました。また、大学病院の医局制度などの縦割り構造が、病院や組織を超えたフラットな相談を阻んできたという背景があります。E-コンサルはこうした心理的・構造的な障壁を、テクノロジーとUX(ユーザー体験)デザインによって取り払った画期的なサービスです。
E-コンサルの仕組みと特徴
E-コンサルのシステムは単なる掲示板とは一線を画します。最大の特徴は、独自のアルゴリズムと人力のオペレーションを組み合わせた高度なマッチングシステムです。
相談医(主治医)は患者の年齢、性別、既往歴、症状、検査データなどを個人情報が特定されない形で匿名化して入力します。Mediiのシステムはその相談内容を解析し、全42診療領域、1,500名以上の登録エキスパート専門医の中からその症例に最も適した回答者を自動的に選定または提案します。単に「消化器内科」といった大きな括りではなく、「希少な肝臓疾患」や「難治性の炎症性腸疾患」といった極めて細分化された専門性に基づいてマッチングが行われる点が特徴です。
さらに特筆すべきは、Mediiが特許を取得している「グループコンサル機能」です。これは1対1の相談だけでなく、特定の疾患領域や地域ごとの「専門医チーム」に対して相談を投げかけることができる機能です。難解な症例であればあるほど、一人の専門医の意見だけでなく複数の視点からの議論が有効となります。この機能により、あたかも大学病院のカンファレンスのような質の高い議論がオンライン上で、しかも組織の枠を超えて実現されています。
セキュリティと法的適法性
オンラインで患者情報を扱うことに対しては当然ながら厳格なセキュリティと法的整合性が求められます。Mediiは厚生労働省、経済産業省、総務省が定める「医療情報を取り扱う情報通信事業者が準拠すべきガイドライン(通称:3省2ガイドライン)」に完全に準拠したシステムを構築しています。
医師法20条が禁じる「無診察診療」との兼ね合いについても明確な整理がなされています。E-コンサルはあくまで「医師間のコンサルテーション(助言)」であり、回答医は患者を直接診療するわけではありません。最終的な診断・治療の決定権と責任は相談元の主治医が持ちます。これは従来から行われている院内での立ち話相談や電話相談をセキュアなオンライン環境に置き換えたものであり、法的に適法な形態です。
さらに、相談医と回答医がマッチングされた時点でシステム上で自動的に「業務委託契約」が締結される仕組みを採用しています。これにより個人情報保護法における「第三者提供」の制限をクリアしつつ、回答医側にも法的な守秘義務を課すことで二重三重の安全策が講じられています。
創業者・山田裕揮氏の原体験と創業の背景
株式会社Mediiの企業理念である「誰も取り残さない医療を」という言葉は、決して耳触りの良いスローガンではありません。それは代表取締役医師である山田裕揮氏自身の血のにじむような実体験から絞り出された魂の叫びです。
9年間の闘病生活
山田氏の物語は、彼が中学1年生の頃、突然の原因不明の体調不良に襲われたことから始まります。和歌山県出身の山田氏は県内の数多の病院を受診しました。しかし何度検査を繰り返しても、どの医師からも返ってくる言葉は「原因不明」あるいは「精神的なもの」という曖昧な診断ばかりでした。入退院を繰り返すこと4回、青春の輝かしい時間の多くを病院のベッドで過ごすこととなり、周囲が当たり前のように享受している日常が手の届かない夢となりました。山田氏は当時を振り返り、健康な状態を「0」とするならば入院生活は「マイナス1000」の状態であったと語っています。
結局、山田氏に正しい診断名が告げられたのは発症から実に9年が経過した後でした。病名は厚生労働省指定の難病でした。この9年間という歳月は、早期に適切な専門医に出会えていれば、もっと短縮できた可能性があります。この「診断ラグ(Diagnostic Lag)」あるいは「Diagnostic Odyssey(診断の長い旅)」と呼ばれる期間こそが現在の医療システムが抱える最大の欠陥の一つであり、Mediiが解消しようとしている課題そのものです。
物理学者の夢から医師、そして起業家へ
興味深いことに、山田氏は当初から医師を目指していたわけではありません。幼少期、山田氏は量子力学に魅せられ、アインシュタインや湯川秀樹のような物理学者になりノーベル賞をとることを夢見ていました。難病に苦しむ中でも独学で大学レベルの数学や物理を学ぶほどの熱意を持っていました。しかし高校生の時、母親からの「食べていくのは大変だ」という現実的な助言と自身の闘病経験が交錯し、「医学・生理学賞でのノーベル賞もある」という発想の転換、そして何より「自分と同じように苦しむ人を直接救いたい」という想いから医学部への進学を決意しました。
医師となりリウマチ膠原病専門医としてのキャリアを歩み始めた山田氏は、再び「壁」に直面します。かつての自分のように診断がつかずに苦しむ患者を救うべく専門性を高めましたが、一人の医師が一生のうちに診ることができる患者の数には物理的な限界があります。また、山田氏自身も患者として通院を続ける中で地方と都市部の医療格差、専門医へのアクセスの困難さを当事者として痛感し続けました。「社会全体で見たときに、全国のより多くの患者の課題を解決するには、医療の仕組みそのものを変えなくてはいけない」という強烈な課題意識が、山田氏を安定した臨床医のキャリアからスタートアップの世界へと突き動かしました。
行政官(医系技官)やNPO法人という選択肢もありました。しかし山田氏はスタートアップを選びました。それはテクノロジーの力でレバレッジを効かせ、スピード感を持って持続可能な形で社会課題を解決するためには、ビジネスとしてのスケーラビリティが不可欠だと判断したからです。こうして2020年2月、株式会社Mediiは産声を上げました。
日本の医療が直面する「知の偏在」という課題
世界に冠たる国民皆保険制度を有し長寿大国として知られる日本ですが、その強固に見える医療システムの足元では構造的な疲労と歪みが限界に達しつつあります。日本の医療が直面している最大の問題、それは「医師の偏在」です。これは単に物理的に医師が不足している地域があるという「地理的偏在」にとどまりません。より深刻で可視化されにくいのが、高度な専門知識を持った医師が特定の病院や地域に偏り、必要な患者にその知見が届かないという「知の偏在」です。
現代医学の進歩は指数関数的であり、一人の医師がすべての領域において最新の知見をアップデートし続けることはもはや物理的に不可能となっています。医学の専門分化が進む一方で患者が抱える疾患は複雑化し、特に希少疾患や難病においてはその診断を下せる医師が国内に数えるほどしかいないというケースも珍しくありません。このミスマッチは、患者にとっては「診断がつかないまま病院を転々とする」というドクターショッピングの悲劇を生み、医師にとっては「専門外の症例に対する不安と孤独」という重圧をもたらしています。
Mediiが提供するE-コンサルは、こうした閉塞感漂う医療現場にデジタルトランスフォーメーション(DX)のメスを入れ鮮やかな解決策を提示しました。このサービスは単なるチャットツールではありません。物理的な距離と組織の壁を越え、専門医の暗黙知を必要な場所に瞬時に届けるための新たな社会インフラとも呼ぶべき発明です。
E-コンサルのビジネスモデル
E-コンサルの利用料は相談する医師からも回答する医師からも徴収されません。回答医には謝礼が支払われます。では誰がコストを負担しているのでしょうか。その答えは「製薬企業」です。ここにMediiのビジネスモデルの妙があります。
「四方よし」のエコシステム
製薬企業は画期的な新薬、特に希少疾患やがん領域のスペシャリティ医薬品を開発しても、その薬を必要とする患者に届けることに苦労しています。なぜなら診断が難しすぎて主治医がその病気であることに気づいていない、あるいはその薬の存在を知らないケースが多々あるからです。これを「診断ラグ」や「啓発の壁」と呼びます。
Mediiは製薬企業に対してE-コンサルのプラットフォームを活用したマーケティング支援や疾患啓発のソリューションを提供しています。相談の中で特定の疾患が疑われる症例が見つかった場合、エキスパート医のアドバイスを通じて適切な診断が下され、結果としてその疾患の治療薬が適正に使用されることになります。これは無理な売り込みではなく、医学的に正しい診断が行われた結果として薬が選ばれるという極めて倫理的かつ合理的なプロセスです。
このビジネスモデルによって相談医(主治医)は無料で最高峰の知見を得て目の前の患者を救えます。回答医(専門医)は自身の知見を社会還元でき対価と名声を得られ、また関連病院からの紹介が増えます。患者は早期に正しい診断と最適な治療を受けられ命が救われます。製薬企業は自社の薬剤が真に必要とする患者に届き売上につながります。この「四方よし」の関係性が構築されているからこそ、Mediiはサービスを無料で提供し続けられています。
医薬品市場の構造変化
このビジネスモデルが成立する背景には医薬品市場の構造変化があります。かつては高血圧や高脂血症のような生活習慣病薬(ブロックバスター)が市場を席巻しており、MR(医薬情報担当者)が足で稼ぐ営業スタイルが主流でした。しかしジェネリック医薬品の普及により、製薬企業の主戦場は患者数は少ないが高単価で医学的必要性の高い「スペシャリティ領域(希少疾患、がん、免疫難病など)」へとシフトしています。
スペシャリティ領域では一般的なMRの訪問営業だけでは専門的な情報提供が困難です。だからこそ医師同士の信頼関係に基づくE-コンサルのようなチャネルが、製薬マーケティングにおいて不可欠な存在となりつつあります。2030年には市場の半分以上をスペシャリティが占めると予測される中、Mediiの重要性は増すばかりです。
E-コンサルの実績と具体的な解決事例
相談解決率99.9%の驚異的実績
Mediiが公表している実績の中で最も驚異的な数字、それは「相談解決率99.9%」です。インターネット上のQ&Aサイトの多くは質問しても回答がつかない、あるいは的外れな回答しか得られないという課題を抱えています。しかしE-コンサルに投げかけられた相談はほぼ全てが何らかの専門的な回答を得て解決に至っています。
これを支えているのは1,500名を超えるエキスパート専門医の質の高さと、Medii運営チームによる丁寧なマッチングサポートです。回答医には学会のガイドライン作成に関わるような権威ある医師(Key Opinion Leader)も多数含まれており、「Mediiからの相談なら答える」という信頼関係が築かれています。
また2024年12月には累計症例相談件数が1万件を突破しました。これは単なるデータベースのレコード数ではありません。その背後には1万人の患者とその家族の人生があり、主治医の苦悩からの解放があります。利用した主治医へのアンケートでは、91%が「エキスパートのアドバイスにより、診断や治療方針に影響を受けた」と回答しており、実質的な医療の質向上に寄与していることが証明されています。
遺伝性血管性浮腫(HAE)の解決事例
具体的な事例を紹介します。ある地方のクリニックに長年にわたり手足や顔の激しい「むくみ(浮腫)」を繰り返す若年女性が通院していました。彼女は複数の病院で「アレルギー」や「虫刺され」と診断され、抗ヒスタミン薬を処方されてきましたが一向に改善しませんでした。腹痛を伴うこともあり精神的にも追い詰められていました。
途方に暮れた主治医はE-コンサルを通じてアレルギー・膠原病の専門医に相談しました。チャットで症状の詳細を伝えると、専門医から「遺伝性血管性浮腫(HAE)の可能性があります。補体C4の値を測定してください」という的確なアドバイスが返ってきました。検査の結果HAEと確定診断がつき、適切な特効薬が投与され女性は劇的に回復しました。15歳の発症から21歳での診断まで数年を要した苦しみが、たった一度のオンライン相談で解決したのです。このように知識の欠如が原因で診断に至らなかった症例がMediiを通じて次々と解決されています。
医療DXの未来とMediiが描く展望
AIとヒューマンタッチの融合
Mediiは現在AI技術の活用にも積極的に取り組んでいます。膨大な医学論文データベース(PubMedなど)から医師の質問に関連するエビデンスをAIが瞬時に抽出・要約する機能や、過去の相談データを学習してマッチング精度を向上させる取り組みが進められています。
しかしMediiはAIが医師に取って代わるとは考えていません。AIはあくまで情報の整理や一次スクリーニングを行う助手であり、最終的な診断や患者の背景(ナラティブ)を汲み取った温かみのある判断を下すのはあくまで「人(専門医)」であるという姿勢を崩していません。この「AI × エキスパート医師」のハイブリッドモデルこそが次世代の医療DXのスタンダードになると考えられます。
グローバル展開の可能性
「医師の偏在」や「都市部への医療資源集中」は日本だけの課題ではありません。広大な国土を持つ米国や中国、あるいは島嶼部が多い東南アジア諸国など世界中で共通する課題です。Mediiのシステムは言語の壁さえ越えれば、そのままグローバルに展開可能なポテンシャルを秘めています。
日本の医療レベルは世界的に見ても極めて高く、特に内視鏡技術や特定の難病治療においては世界をリードしています。E-コンサルを通じて日本の名医の知見をアジアや世界の医師に提供する「知の輸出」産業となる可能性も十分に考えられます。
医師の働き方改革への貢献
E-コンサルは医師の働き方改革にも寄与しています。2024年4月から医師の残業規制が強化されましたが、E-コンサルを使えば主治医は文献検索や知人の医師への電話に時間を費やすことなく最短ルートで正解に辿り着けます。また回答する専門医にとっても隙間時間にスマホ一つで回答し、報酬と社会貢献感を得られるため新たな働き方のモデルケースとなっています。
場所にとらわれず育児中やリタイア後の名医がE-コンサルを通じて現役で活躍し続ける未来、それは貴重な医療資源である医師の知見を無駄にしない持続可能な医療社会の実現を意味します。
まとめ
株式会社MediiとE-コンサルが成し遂げようとしているのは単なる業務効率化ではありません。それは医療における「運」の要素を極限まで減らす挑戦です。どの地域に生まれてもどの病院にかかっても、その背後には1,500人のエキスパート専門医が控えている状態を実現しようとしています。主治医は孤独ではなくチーム医療の一員として自信を持って診療にあたれ、患者は原因不明の不安から解放され最良の治療へと導かれます。
日本サービス大賞厚生労働大臣賞の受賞は、Mediiの挑戦の道程における一つのマイルストーンに過ぎません。Mediiの真価は今後さらに多くの医師をつなぎ、国境を越えAIと共存しながら「誰も取り残さない医療」という究極の理想を現実のものとしていくプロセスの中でより鮮明に発揮されていくことでしょう。私たちが暮らす社会にこのような「知のセーフティネット」が存在することの心強さを改めて認識する必要があります。

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