東横INN全国制覇!高知が最後になった3つの理由とは

社会

東横INNが2026年2月、高知県高知市に「東横INN高知」を開業し、日本全国47都道府県すべてへの出店という全国制覇を達成しました。高知県が最後の未進出エリアとなっていた理由は、駅前の好立地となる用地確保の困難さ、地元ホテルの強い競合環境、そして新型コロナウイルスの影響による出店計画の凍結という複合的な要因が重なったためです。2010年に三重県への進出を果たして以降、約16年にわたり高知県だけが唯一の空白地域として残されていました。この記事では、東横INNがなぜ高知への進出にこれほどの時間を要したのか、その背景にある地理的・経済的要因を詳しく解説するとともに、東横INNの独自のビジネスモデルや全国制覇後の今後の戦略についてお伝えします。

東横INNの47都道府県全国制覇が持つ意味

東横INNの47都道府県全国制覇とは、北海道から沖縄まで日本のすべての都道府県に直営ホテルを展開する体制が完成したことを意味します。ホテルチェーンにとって全国すべてに拠点を持つことは、ブランディングと顧客囲い込みの両面で決定的に重要です。

ビジネスホテルを利用する出張族や全国を旅する観光客にとって、「どこへ行ってもいつものホテルがある」という安心感は、ブランドへの信頼とロイヤルティを大きく高める要因となります。特に東横INNは東横INNクラブカードという強力な会員制度をビジネスの根幹に据えており、300万人を超える会員が「10泊で1泊無料」というインセンティブを享受しています。この会員制度は、顧客が他社ホテルへ流出するのを防ぐ防波堤の役割を果たしてきました。

しかし、高知県にだけ東横INNがない状態では、高知に出張や旅行で訪れる会員が「仕方なく他社に泊まる」という状況が発生していました。今回の高知進出によって、この最後の穴が塞がれ、会員が日本国内のあらゆる主要都市でポイントを貯め、特典を享受できる完全なエコシステムが確立されたのです。

業界関係者や300万人を超えるクラブカード会員の間では、長年にわたり「なぜ高知だけが空白なのか」「いつ進出するのか」という疑問が囁かれてきました。それだけに、今回の全国制覇達成は単なる企業の事業拡大を超え、日本のビジネスインフラとしての「全国網」が物理的に完成したことを示す歴史的な出来事として受け止められています。

東横INN高知の施設概要と地域共生型アプローチ

東横INN高知は、高知市中心部のJR高知駅近隣に位置し、地上14階建て、総客室数209室という規模で建設されました。この209室という客室数は、東横INNの標準的なパッケージと比較しても過不足のないサイズであり、高知市におけるビジネス需要と観光需要の双方を効率的に取り込むことを目指しています。

特筆すべきは、その運営方針における徹底した「地域共生」のアプローチです。東横INN高知では、館内に夕食を提供するレストランや大規模な物販施設をあえて設置していません。これは「地元を楽しむための中継点」としての役割に徹するというコンセプトに基づく戦略的な決断です。宿泊客に対してホテル内での消費を完結させるのではなく、高知市内の飲食店や居酒屋、土産物店へと足を運ばせる動線設計が意図的になされています。

高知県は「おきゃく(宴会)」文化が根付く土地柄であり、食文化が観光資源の核心を担っています。外部資本のホテルが飲食需要まで独占しようとすれば、地元商店街との摩擦が生じかねません。東横INNは「泊まるだけ」に機能を特化させることで、地元経済への波及効果を創出し、地域社会からの歓迎を引き出す戦略を採りました。

雇用面においても、開業にあたって採用された約50名の従業員のうち、9割以上が地元高知県での採用となっています。全国チェーンが陥りがちな中央からの派遣スタッフによる運営ではなく、地域に根差した運営体制を構築しようとする同社の姿勢が明確に示されています。

高知が最後になった理由とは — 用地取得・市場環境・コロナ禍の3つの要因

東横INNが46都道府県に進出済みでありながら、高知への出店にこれほどの時間を要した背景には、単一の理由ではなく複合的な要因が存在します。

第一の要因は、用地取得の難航と立地条件の厳格さです。東横INNの出店戦略は「駅前旅館の鉄筋版」を標榜しており、原則として駅前や繁華街の視認性の高い好立地を絶対条件としています。高知市は平地が限られており、中心市街地におけるホテル用地の確保は他県に比べて困難でした。特に、地元の有力ホテルや老舗旅館が主要な立地を押さえているケースが多く、東横INNが求める標準化された設計図をそのまま落とし込める整形地の取得には長い時間を要しました。東横INNの取締役である志村哲氏も「高知にないことを常々何とかしないといけないと思っていた」と述べており、進出への意欲はあったものの条件に見合う土地との巡り合わせが長年叶わなかったことがうかがえます。

第二の要因は、既存の地元ホテルの強さと市場の特殊性です。高知県は地元資本のホテルや旅館が非常に強く、地域社会との結びつきも強固です。また、ドーミーインやスーパーホテル、コンフォートホテルなどの全国チェーンも既に進出しており、市場は飽和気味の状態でした。後発として参入するには、これらの先行チェーンとの明確な差別化を図りつつ、勝算のある立地とタイミングを慎重に見極める必要がありました。

第三の決定的な要因は、新型コロナウイルスによる計画の凍結と再開です。パンデミックによる宿泊需要の蒸発は、すべてのホテルチェーンの新規出店計画を凍結させました。高知進出の計画自体は水面下で進んでいたと見られますが、投資判断を保留せざるを得ない状況が続きました。しかし、新型コロナの感染症法上の位置づけが「5類」へ移行したことに伴い、観光とビジネスの人の動きが急速に回復したことが決定的なトリガーとなりました。需要回復の確信が得られたタイミングで、長年の課題であった高知進出へのGOサインが出されたのです。

東横INNの開業に込められた経営陣のメッセージ

開業に伴い実施された地鎮祭や開業行事において、東横イン経営陣からは「ようやく今日を迎えられた」「大変うれしく思っている」という安堵と喜びの言葉が聞かれました。これは、47都道府県制覇という社としての悲願達成に対する率直な感情の吐露であると同時に、高知という市場に対する並々ならぬ敬意の表れでもあります。

経営陣は東横INN高知を単なる地方の一店舗ではなく、「全国ネットワークの基地ホテル」と位置づけています。単独の店舗採算だけでなく、全国ネットワーク全体の価値向上に資する重要なピースとして捉えている点が、東横INNの経営戦略の特徴です。各ホテルが単体で利益を出すだけでなく、全国に張り巡らされた会員ネットワークの中での「点」として、全体のブランド力と利便性を引き上げる役割を担っているのです。16年間にわたる空白を経ての開業は、逆に高知という市場の重要性を浮き彫りにし、満を持しての進出をよりドラマチックなものにしたともいえます。

東横INNのビジネスモデル「駅前旅館の鉄筋版」の特徴

東横INNのビジネスモデルを理解する上で欠かせないのが、創業以来のコンセプトである「駅前旅館の鉄筋版」です。この独特なフレーズには、「鉄筋」が象徴する近代的な設備・安全性・機能性と、「駅前旅館」が象徴する家庭的で温かみのあるサービス・安心感という、相反する二つの要素が高度に融合されています。

このコンセプトを具現化しているのが、徹底した標準化戦略です。東横INNの客室は日本全国どこへ行っても驚くほど同一であり、部屋の広さ、ベッドの配置、ライティングデスクの形状、ユニットバスの仕様、壁紙の色に至るまで規格が統一されています。この同一性は、顧客に対して「いつもの使い勝手」という強力な心理的安心感を提供します。出張で疲れたビジネスパーソンは、部屋に入った瞬間にスイッチの位置やコンセントの場所を探すストレスから解放されるのです。

運営側にとっても、この標準化はコスト削減の最大の武器です。備品を一括大量調達することで単価を下げ、清掃やメンテナンスの手順を全国で統一することでスタッフ教育を効率化し、多能工化を推進できます。建物の設計自体も規格化されているため、設計コストや建築工期の圧縮も実現しています。これが、東横INNが競合他社と比較しても圧倒的なローコストオペレーションを実現し、低価格での提供を可能にしている秘密です。

こうした徹底的な費用対効果の追求は、客室やロビー、外観などのデザイン面にとどまらず、宿泊料金やサービスといったソフト面にまで貫かれています。東横INNの客室運営数は日本のビジネスホテル業界でもトップクラスの規模を誇っており、この「金太郎飴」的な均一性が全国どこでも安定した品質を保証する基盤となっています。宿泊に特化したリーズナブルな料金で提供するというシンプルな価値提案が、長年にわたってビジネスパーソンに支持され続けている理由です。

東横INNの女性支配人制度と「女将」文化の継承

東横INNのビジネスモデルにおいて独自性が際立つのが、女性支配人制度です。同社では各ホテルの支配人のほとんどを女性が占めています。これは「駅前旅館の女将」のような気配りや、生活者としての視点をホテル運営に取り入れるための極めて戦略的な人事政策です。

一般的にホテル業界のマネジメント層は男性が多い傾向にありますが、東横INNではあえて異業種出身や未経験の主婦層を含む女性を積極的に登用し、大幅な権限を委譲しています。支配人は単なる管理者ではなく、顧客と「親戚のような長いお付き合い」をする存在として機能しています。リピーター客が結婚し、子供を連れて戻ってくるといったエピソードは、機能性だけではない「情緒的価値」が東横INNの競争力の源泉であることを物語っています。

また、最も意識している点として「挨拶」が挙げられており、基本的な人間関係構築を重視する姿勢は、最新のITシステム導入が進んでも変わらない同社のDNAです。この「ハイテク」と「ハイタッチ」の組み合わせこそが、東横INNの真骨頂といえます。

黒田麻衣子社長が推進するDXとブランド改革

東横INNの現在の経営を率いる黒田麻衣子社長は、創業者の西田憲正氏が築き上げた「拡大路線」と「標準化」の基盤の上に、デジタル・トランスフォーメーション(DX)ブランドの再定義という新たな方向性を加えています。

黒田社長は「価格調整ではなく、稼働率を最大化することで利益を確保する」という基本方針を維持しつつ、予約プロセスの円滑化に注力しています。具体的には、公式サイトおよび公式アプリのリニューアルを行い、ページ構成やデザインを一新しました。これは、楽天トラベルやじゃらんなどのOTA(オンライン旅行代理店)経由の予約に対する依存度を下げ、手数料のかからない自社直販比率を高めるための布石です。

「立地・価格・予約の『アクセスNo.1』を強みにしたい」という黒田社長の言葉には、物理的なアクセスの良さだけでなく、デジタル空間におけるアクセスの良さ、つまり予約のしやすさや使いやすさも追求する姿勢が表れています。全国47都道府県への出店が完了した今、物理的なネットワークとデジタルネットワークを融合させた新しい顧客体験の創出が次のステージとなります。

東横INNと競合ホテルチェーンの違い

東横INNの独自性をより明確にするために、主要な競合ホテルチェーンとの違いを見ていきます。

アパホテルは東横INNにとって最大のライバルの一つです。アパホテルの特徴は都市部を中心としたドミナント戦略とダイナミックプライシング(変動料金制)の徹底的な活用にあります。需要が高い時期には価格を大幅に引き上げるアパホテルに対し、東横INNは年間を通して比較的フラットな価格設定を維持する傾向があります。また、アパホテルが「豪華さ」や「大浴場」を売りにしエンターテインメント性を高めているのに対し、東横INNは「必要十分な機能」に絞り込み実用性を重視している点で対照的です。

ルートインホテルズは地方都市やロードサイドに強みを持つチェーンで、無料駐車場と大浴場を完備している店舗が多く、車移動のビジネス客や観光客をターゲットにしています。東横INNも地方展開していますが、あくまで「駅前」にこだわる点でルートインとは棲み分けがなされています。ルートインもまた47都道府県への展開をほぼ完了しており、全国ネットワークという意味では強力な競合です。

スーパーホテルは「LOHAS(健康と環境)」をコンセプトに掲げ、顧客満足度調査で常に上位にランクインするチェーンです。枕が選べるサービスや健康朝食、天然温泉などに力を入れており、東横INNが「どこでも同じ安心感」を提供するのに対し、スーパーホテルは「癒やしと健康」を提供する点で異なるポジショニングを築いています。

これらの競合の中で、東横INNの最大の強みはやはり「圧倒的な駅前立地」「徹底した均質性」「巨大な会員組織」の三つです。高知駅前への出店は、競合がひしめく市場において鉄道・空港利用者にとっての利便性という東横INNの強みを最大限に発揮するものです。

全国制覇後の東横INNの展望とインバウンド戦略

47都道府県への出店達成により、東横INNの地理的な拡大フェーズは一つの大きな区切りを迎えました。今後の成長戦略は、「量」の拡大から「質」の深化へと軸足が移っていきます。

国内市場においては、人口減少に伴う労働力不足が深刻化しており、新規出店を続けることは容易ではありません。今後は、既存ホテルのリニューアルや老朽化した設備の更新、そしてDXによる省人化と顧客利便性の向上が投資の重点領域となります。特に、黒田社長が推進するアプリを通じたチェックイン・チェックアウトの自動化や、会員データの分析に基づくサービスの提供は、他社との差別化要因となります。

インバウンド需要の地方分散も重要なテーマです。政府が推進する観光立国政策において、これまでのゴールデンルート(東京・大阪・京都)に加え、地方の魅力を求める外国人旅行者が増えています。東横INNの全国ネットワークは、このインバウンド需要を取り込む上で強力な武器となります。Japan Rail Passなどを利用して日本全国を周遊する外国人にとって、駅前に必ず存在し、英語対応が可能で、清潔かつリーズナブルなホテルチェーンは旅の拠点として理想的です。高知進出により四国エリアのネットワークが強化されたことは、四国遍路や自然体験を求める外国人客の誘致にも寄与します。

さらに、高知店で採用された「地域雇用9割」「夕食提供なし(地域への送客)」というモデルは、今後の地方展開や既存店のリニューアルにおけるスタンダードになる可能性があります。ホテルが単独で利益を独占するのではなく、地域社会と経済的に共存し、地元住民を雇用する経営スタイルは、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の観点からも重要性を増しています。

世界的に認知が広がりつつある「Toyoko Inn」ブランドは、地方都市におけるインバウンド受け入れのインフラとしても機能することが期待されます。高知での開業をもって全国すべての主要都市にネットワークが行き渡った今、東横INNは国内外の旅行者にとって「日本の宿泊プラットフォーム」としての地位をより確固たるものにしていく段階に入りました。

まとめ

東横INNによる高知県への進出と47都道府県全国制覇の達成は、単なる店舗数の追加ではありません。それは、創業以来積み重ねてきた「駅前旅館の鉄筋版」というビジネスモデルの正当性を証明する集大成であり、国内ビジネスホテル市場における圧倒的なプラットフォームの完成を意味します。

高知が最後になった理由は、用地取得の困難さ、慎重な市場判断、そしてパンデミックという未曾有の危機によるものでした。しかし、その遅れを取り戻すかのように、地域経済への貢献と会員ネットワークの強化という明確な戦略を持って開業が果たされました。16年間の空白は、逆に高知という市場の重要性を浮き彫りにし、満を持しての開業をよりドラマチックなものにしたともいえます。

「行ってらっしゃい」と送り出し、「お帰りなさい」と迎える。この家庭的な挨拶に象徴される東横INNの精神は、デジタル化が進む現代においてこそ、より一層の価値を持つようになります。今後は物理的な「地図上の制覇」から、デジタルとサービスを融合させた「顧客体験上の制覇」へと競争の軸足が移ります。全国津々浦々に張り巡らせた物理的ネットワークとデジタルネットワークの融合が、東横INNの次なるステージを切り開いていくことでしょう。

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