障害者控除は、障害のある方やその家族の税負担を軽減するための重要な制度です。しかし、この制度を知らなかったり、申請し忘れたりしているケースが少なくありません。実は、障害者控除は過去5年分までさかのぼって申請することができ、払いすぎた税金を取り戻せる可能性があります。
本記事では、障害者控除の基本から、さかのぼっての申請方法、還付される金額の計算方法まで、わかりやすく解説します。障害者手帳をお持ちの方や、障害のある家族を扶養されている方は、この機会に確認してみてください。払いすぎていた税金が還付されるかもしれません。

障害者控除とは?所得税と住民税でどのように減税されるの?
障害者控除は、納税者本人または生計を共にしている配偶者や扶養親族に障害がある場合に、所得税や住民税の負担を軽減する「所得控除」の一種です。この控除を受けることで、課税対象となる所得金額が減少し、結果的に納める税金が少なくなります。
所得税と住民税の控除額
障害者控除の金額は、障害の程度によって3つに区分され、所得税と住民税でそれぞれ以下のようになっています。
区分 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
障害者 | 27万円 | 26万円 |
特別障害者 | 40万円 | 30万円 |
同居特別障害者 | 75万円 | 53万円 |
障害者:身体障害者手帳を持っている方、精神障害者保健福祉手帳を持っている方、知的障害者と判定された方などが該当します。
特別障害者:障害の程度が重い方を指し、具体的には以下のような方が該当します。
- 身体障害者手帳1級または2級の方
- 重度の知的障害のある方(療育手帳Aなど)
- 精神障害者保健福祉手帳1級の方
同居特別障害者:特別障害者である配偶者や扶養親族と同居している場合に適用される区分です。
障害者控除が実際の税額にどう影響するか
障害者控除による実際の税金の軽減額は、その方の所得税率と住民税率によって決まります。
例えば、「障害者」区分の方の場合:
- 所得税の軽減額 = 27万円 × 所得税率
- 住民税の軽減額 = 26万円 × 10%(住民税の税率は一律10%)
所得税率は所得に応じて5%〜45%まで段階的に上がりますが、多くの方は5%〜20%の範囲に入ります。
障害者控除は過去にさかのぼって申請できるの?期限や手続き方法は?
障害者控除を申請し忘れていた場合でも、安心してください。過去5年分までさかのぼって申請することができます。これは税法上の「更正の請求」という制度を利用するものです。
さかのぼり申請の期限
還付申告(払いすぎた税金を取り戻す申告)は、税金を納めた日から5年以内に行うことができます。例えば、2025年2月時点では、2020年分(2021年に納付)までさかのぼって申請可能です。
ただし、この5年という期限を過ぎると、もう申請することはできません。そのため、障害者控除の対象となっていることに気づいたら、早めに手続きを行うことをおすすめします。
さかのぼり申請の方法
さかのぼって障害者控除を申請するには、以下の2つの方法があります:
- 税務署で直接申請する:税務署に行き、「更正の請求書」を提出します。
- e-Taxで電子申告する:国税庁のe-Taxシステムを利用して、オンラインで申請することも可能です。
いずれの方法でも、各年分ごとに申請する必要があります。例えば、過去3年分を申請したい場合は、3年分それぞれについて申請書類を作成します。
障害者控除をさかのぼって申請する場合、還付金はどのくらいになる?
障害者控除をさかのぼって申請した場合の還付金額は、控除区分や所得税率によって変わります。以下、いくつかのケースでシミュレーションしてみましょう。
ケース1:「障害者」区分で所得税率10%の場合
- 所得税の還付額 = 27万円 × 10% = 2万7,000円/年
- 住民税の還付額 = 26万円 × 10% = 2万6,000円/年
- 合計還付額 = 5万3,000円/年
5年間分をさかのぼって申請した場合:5万3,000円 × 5年 = 26万5,000円の還付金になります。
ケース2:「特別障害者」区分で所得税率20%の場合
- 所得税の還付額 = 40万円 × 20% = 8万円/年
- 住民税の還付額 = 30万円 × 10% = 3万円/年
- 合計還付額 = 11万円/年
5年間分をさかのぼって申請した場合:11万円 × 5年 = 55万円の還付金になります。
ケース3:「同居特別障害者」区分で所得税率20%の場合
- 所得税の還付額 = 75万円 × 20% = 15万円/年
- 住民税の還付額 = 53万円 × 10% = 5万3,000円/年
- 合計還付額 = 20万3,000円/年
5年間分をさかのぼって申請した場合:20万3,000円 × 5年 = 101万5,000円もの還付金になる可能性があります。
このように、障害の区分や所得によって還付金額は大きく変わりますが、特に「同居特別障害者」の場合は高額な還付金となる可能性があります。
障害者控除の対象者は?手帳がなくても適用される場合とは?
障害者控除の対象者は、以下のような方です。
障害者控除の対象となる方
- 身体障害者手帳を持っている方
- 精神障害者保健福祉手帳を持っている方
- 療育手帳を持っている方(知的障害)
- 精神保健指定医などによって知的障害と判定された方
- 戦傷病者手帳を持っている方
障害者手帳がなくても対象になるケース
障害者手帳を持っていなくても、以下のような場合は障害者控除の対象となることがあります。
- 障害者手帳を申請中の場合
- 申請中であることを証明できれば、控除の対象となる可能性があります。
- 65歳以上で要介護認定を受けている場合
- 多くの自治体では、65歳以上で要介護3〜5の認定を受けている方を対象に「障害者控除対象者認定書」を発行しています。
- この認定書があれば、障害者手帳がなくても障害者控除を受けることができます。
- 認定基準は自治体によって異なるので、お住まいの市区町村に確認してください。
- 医師の診断書がある場合
- 障害の状態を証明する医師の診断書がある場合も、控除の対象となる可能性があります。
いずれのケースも、地域や状況によって取り扱いが異なる場合があるため、事前に税務署や自治体に確認することをおすすめします。
扶養家族が障害者の場合
納税者本人だけでなく、生計を共にする配偶者や扶養親族が障害者である場合も、控除を受けることができます。ただし、配偶者や親族が障害者控除の対象となるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 配偶者の場合:同一生計配偶者であること(年間の合計所得が48万円以下)
- 親族の場合:扶養親族であること(年間の合計所得が48万円以下)
障害者控除のさかのぼり申請で必要な書類や手続きの流れは?
障害者控除をさかのぼって申請する場合、正確な書類と手続きが必要です。以下、必要な書類と申請の流れを解説します。
必要な書類
- 更正の請求書
- 税務署で入手するか、国税庁のWebサイトからダウンロードできます。
- 年分ごとに別々の請求書が必要です。
- 源泉徴収票または確定申告書の控え
- 各年分の収入や納税状況を証明するものが必要です。
- 会社員の方は源泉徴収票、個人事業主の方は確定申告書の控えを用意します。
- 障害を証明する書類
- 障害者手帳のコピー
- 障害者控除対象者認定書(65歳以上の要介護者の場合)
- その他、障害の状態を証明できる書類
- 本人確認書類
- マイナンバーカード、運転免許証など
申請の流れ
- 書類を準備する
- 上記の必要書類をすべて揃えます。
- 更正の請求書に記入する
- さかのぼって申請したい年分ごとに、更正の請求書に必要事項を記入します。
- 「請求の理由」欄には、「障害者控除の適用漏れがあったため」などと記入します。
- 税務署に提出する
- 管轄の税務署に直接持参するか、郵送で提出します。
- e-Taxを利用する場合は、オンラインで手続きします。
- 還付金の受け取り
- 申請が認められると、数週間〜数か月後に指定した口座に還付金が振り込まれます。
- 複数年分を申請した場合、年分ごとに別々に処理・振り込みされることが多いです。
注意点
- 自治体によっては、住民税の還付手続きが別途必要な場合があります。その場合は、税務署での手続き後に、市区町村の窓口でも手続きを行ってください。
- 申請内容に不明点がある場合、税務署から問い合わせがあることがあります。連絡先は正確に記入しておきましょう。
- 障害者控除対象者認定書は、申請する自治体で取得する必要があります(65歳以上の要介護者の場合)。
障害者控除をさかのぼって申請することで、数十万円、場合によっては100万円を超える還付金を受け取れる可能性があります。控除の対象となる可能性がある方は、ぜひ一度確認してみてください。なお、税金に関する手続きは複雑な場合もありますので、不明点があれば税務署や税理士に相談することをおすすめします。
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