HPVワクチンのキャッチアップ接種について、2026年3月31日という重要な期限が設定されていることをご存知でしょうか。かつて積極的勧奨が差し控えられていた時期に接種機会を逃してしまった多くの女性にとって、この制度は公費負担でワクチン接種を受けられる貴重な機会となっています。しかし、2025年3月31日の初回接種期限を過ぎた現在、すでに1回以上接種を受けた方のみが2026年3月31日までに残りの接種を完了できる状況となっています。この延長措置は、予想を超えるワクチン需要により接種を完了できなかった方々への配慮として設けられました。子宮頸がんは年間約11,000人が新たに診断され、約2,900人が亡くなる深刻な病気であり、HPVワクチンはその予防に極めて有効な手段です。今回は、この2026年3月31日という期限の意味、対象者が知っておくべき重要な情報、そして期限までに確実に接種を完了するための具体的な行動計画について、詳しく解説していきます。

キャッチアップ接種制度が生まれた経緯
HPVワクチンの歴史を振り返ると、日本における接種推奨の変遷が見えてきます。ヒトパピローマウイルスは子宮頸がんの主要な原因として知られており、このウイルスへの感染を防ぐワクチンが開発されたことは、医学的に大きな進歩でした。日本では当初、定期接種として多くの女性がこのワクチンを受けていましたが、2013年から2022年まで、積極的勧奨が差し控えられる時期がありました。
この積極的勧奨の差し控えにより、本来であれば無料で接種を受けられたはずの年齢層の女性たちが、接種の機会を逃してしまうという問題が生じました。約9年間という長期にわたる期間、定期接種の対象年齢であっても積極的に接種を勧められることがなかったため、多くの保護者や本人が接種について知る機会が限られていたのです。
その後、国内外の様々な研究により、HPVワクチンの安全性と有効性が改めて確認されました。2021年11月に開催された専門家委員会では、ワクチン接種による利益が副反応のリスクを明らかに上回るという評価が示され、これを受けて2022年4月から積極的勧奨が再開されることになりました。
しかし、積極的勧奨が再開されても、既に定期接種の対象年齢を過ぎてしまった女性たちは、無料で接種を受けることができません。この不公平を解消するために、厚生労働省は2022年4月1日からキャッチアップ接種制度を開始しました。この制度により、積極的勧奨が差し控えられていた時期に接種機会を逃した1997年4月2日から2009年4月1日生まれの女性が、公費負担で接種を受けられるようになったのです。
2026年3月31日という期限の重要性
キャッチアップ接種制度には、複数の期限が設定されています。この期限設定を正確に理解することが、制度を活用するうえで極めて重要です。
当初設定されていた最も重要な期限は、2025年3月31日でした。これは、キャッチアップ接種として初回接種を受けられる最終期限でした。つまり、この日までに少なくとも1回目の接種を受ける必要があったのです。この期限は既に過ぎているため、まだ1回も接種を受けていない対象者は、残念ながら公費負担での接種を受けることができません。
一方、2026年3月31日という期限は、2025年3月31日までに初回接種を受けた方が、残りの接種を公費負担で完了できる期限として設定されました。HPVワクチンは通常3回の接種が必要であり、すべての接種を完了するまでに最低6ヶ月間かかります。初回接種から2ヶ月後に2回目、初回接種から6ヶ月後に3回目を接種するのが標準的なスケジュールです。
この延長措置が設けられた背景には、2024年度に発生した予想外の事態がありました。積極的勧奨の再開とキャッチアップ接種制度の終了が近づいていることから、多くの対象者が接種を希望しました。その結果、ワクチン需要が予想を大幅に上回り、医療機関での予約が極めて取りにくい状況となったのです。
一部の地域では、新規の予約受付を一時的に停止せざるを得ない状況も発生しました。ワクチンの供給体制にも影響が出て、希望する時期に接種を受けられない対象者が多数発生する事態となりました。このような状況で、期限までに接種を完了できない方が出ることは公平性の観点から問題があると判断され、経過措置として2026年3月31日までの延長が決定されたのです。
対象者の詳細な条件
2026年3月31日までに公費負担で接種を完了できる対象者の条件を、正確に理解しておくことが重要です。
まず、生年月日の条件として、1997年4月2日から2009年4月1日の間に生まれた女性である必要があります。2025年度を基準にすると、16歳から28歳の女性が該当します。ただし、年齢だけでなく、接種歴も重要な条件となります。
最も重要な条件は、2025年3月31日までに少なくとも1回のHPVワクチン接種を受けていることです。この条件を満たしていない場合、たとえ上記の生年月日の範囲内であっても、2026年3月31日までの公費負担での接種は受けられません。
過去に定期接種として1回や2回接種を受けたことがある方も、この制度を利用して残りの接種を完了することができます。例えば、中学生の時に1回だけ接種を受けたものの、その後積極的勧奨が差し控えられたため2回目以降を受けなかった方などが該当します。
接種記録の確認は、母子健康手帳や予防接種済証を見ることで行えます。もし記録が手元にない場合は、過去に接種を受けた可能性のある医療機関や、当時住んでいた自治体に問い合わせることで、記録を確認できる場合があります。
HPVワクチンの種類と効果の違い
現在日本で接種可能なHPVワクチンには、3つの種類があります。それぞれのワクチンには特徴があり、予防できるHPVの型の数が異なります。
2価ワクチン(サーバリックス)は、HPV16型と18型という、子宮頸がんの原因となる主要な2つの型に対する予防効果があります。この2つの型は、日本人の子宮頸がん患者の約60〜65%の原因となっています。
4価ワクチン(ガーダシル)は、16型と18型に加えて、尖圭コンジローマという良性の腫瘍の原因となる6型と11型にも対応しています。子宮頸がんの予防だけでなく、尖圭コンジローマの予防も期待できるワクチンです。
9価ワクチン(シルガード9)は、最も新しく、最も広範囲をカバーするワクチンです。HPV 6型、11型、16型、18型、31型、33型、45型、52型、58型の合計9種類の型に対する予防効果があります。特に、52型と58型は日本人に多く見られる型であり、これらもカバーすることで、子宮頸がんの原因の約90%を予防できるとされています。
2023年4月からは、シルガード9が定期接種およびキャッチアップ接種の対象ワクチンとして使用できるようになりました。それ以前に2価ワクチンや4価ワクチンで接種を開始した方でも、途中からシルガード9に変更することが可能な場合もあります。ただし、ワクチンの種類の変更については、医師との相談が必要です。
キャッチアップ接種では、これらのワクチンを公費負担で接種することができますが、使用できるワクチンの種類は自治体や医療機関によって異なる場合があります。特にシルガード9を希望する場合は、事前に医療機関に在庫状況を確認することをお勧めします。
接種スケジュールと期限までの計画
HPVワクチンを2026年3月31日までに確実に完了するためには、計画的なスケジュール管理が不可欠です。
標準的な接種スケジュールでは、初回接種から2ヶ月後に2回目、初回接種から6ヶ月後に3回目を接種します。最短でも6ヶ月間かかることから、既に2025年3月31日の初回接種期限を過ぎた現在、新たにキャッチアップ接種を開始することはできません。
2025年3月31日までに初回接種を受けた方の状況別に、具体的な計画を考えてみましょう。
2025年1月から3月に初回接種を受けた方は、標準スケジュールに従うと、2回目は2025年3月から5月、3回目は2025年7月から9月頃となります。2026年3月31日までには十分な余裕があります。
2024年内に初回接種を受けた方は、既に2回目や3回目の接種時期を迎えているか、過ぎている可能性があります。もし2回目をまだ受けていない場合は、早急に予約を取る必要があります。標準的なスケジュールから多少遅れても、2026年3月31日までに接種を完了できれば公費負担の対象となります。
2回目まで完了している方は、2回目接種から最低3ヶ月以上の間隔を空けて3回目を接種できます。例えば、2024年12月に2回目を接種した方は、2025年3月以降に3回目を接種できます。期限までに十分な時間があるため、余裕を持って予約を取ることができます。
ただし、医療機関によっては予約が数ヶ月先まで埋まっている場合もあります。特に2025年後半から2026年初頭にかけては、期限が迫ることで駆け込み需要が発生する可能性があります。できるだけ早めに予約を取ることが賢明です。
シルガード9の詳細情報
2023年4月から定期接種の対象となったシルガード9は、HPVワクチンの中で最も広範囲をカバーする最新のワクチンとして、多くの医療機関で推奨されています。
シルガード9が予防できるHPVの型は、6型、11型、16型、18型、31型、33型、45型、52型、58型の9種類です。この中で16型と18型は、世界中の子宮頸がんの約70%の原因となっていますが、日本人の場合、52型と58型の感染も比較的多く見られます。シルガード9はこれらの日本人に多い型もカバーしているため、日本人女性にとって特に効果的なワクチンと言えます。
2021年2月に日本で発売が開始されたシルガード9は、当初は自費接種のみでしたが、2023年4月から公費負担の対象となりました。それ以前に2価ワクチンや4価ワクチンで接種を開始していた方も、途中からシルガード9に切り替えることが可能な場合があります。
接種回数については、初回接種時の年齢によって異なります。15歳未満で初回接種を受ける場合は2回接種で完了できますが、15歳以上で初回接種を受ける場合は3回接種が必要です。キャッチアップ接種の対象者は全員15歳以上であるため、3回接種が必須となります。
3回接種のスケジュールは、初回接種から2ヶ月後に2回目、初回接種から6ヶ月後に3回目が標準です。ただし、スケジュールに多少の変動があっても問題ありません。2回目は初回接種から最低1ヶ月以上、3回目は2回目から最低3ヶ月以上の間隔を空ければ接種可能です。
シルガード9の副反応については、他のHPVワクチンと同様、注射部位の痛みや腫れが最も一般的です。50%以上の接種者に見られますが、これは多くのワクチンで起こる正常な免疫反応であり、通常数日以内に改善します。頭痛が10%から50%の接種者に見られ、発熱は1%から10%の頻度で報告されています。
2025年8月には、シルガード9の適応症に肛門がんの予防も追加承認されました。子宮頸がんだけでなく、肛門がんのリスクも減らすことができる包括的な予防ワクチンとしての位置づけがさらに明確になりました。
接種を受ける際の具体的な手続き
キャッチアップ接種を受けるためには、いくつかの手続きが必要です。スムーズに接種を受けるために、事前に準備しておくべきことを確認しましょう。
まず、医療機関への予約が必須です。多くの医療機関では、HPVワクチンの接種は予約制となっています。特に2024年以降、ワクチン需要が高まっており、人気のある医療機関では数ヶ月先まで予約が埋まっている場合もあります。複数の医療機関に問い合わせて、できるだけ早く接種できるところを探すことをお勧めします。
接種を受けられる医療機関は、お住まいの自治体が指定しています。自治体のホームページには、通常、指定医療機関のリストが公開されています。このリストには、各医療機関の連絡先や、取り扱っているワクチンの種類が記載されている場合もあります。
接種には、自治体が発行する予診票や接種券が必要となる場合があります。自治体によって手続きが異なるため、お住まいの市区町村の保健センターや健康推進課に問い合わせて確認しましょう。一部の自治体では、対象者に自動的に予診票を送付していますが、申請が必要な場合もあります。
過去に接種歴がある場合は、その記録を持参することが重要です。母子健康手帳や予防接種済証があれば、医療機関での確認がスムーズに進みます。接種したワクチンの種類や接種日が記録されていれば、次回の接種スケジュールを適切に立てることができます。
接種当日は、体調が良好であることを確認してください。発熱や体調不良がある場合は、接種を延期する必要があります。また、接種前に医師による問診があり、健康状態や既往歴、アレルギーの有無などを確認されます。
接種後は、医療機関で15分から30分程度の経過観察を行います。これは、万が一急性のアレルギー反応などが起こった場合に、すぐに対応できるようにするためです。この時間は、スケジュールに余裕を持っておくことをお勧めします。
自治体による支援体制
多くの自治体では、キャッチアップ接種の対象者に向けて、様々な支援と情報提供を行っています。これらの支援を活用することで、よりスムーズに接種を進めることができます。
ほとんどの自治体では、ホームページに詳細な情報を掲載しています。接種対象者、接種方法、指定医療機関のリスト、必要な手続きなどが説明されています。自治体のホームページで「HPVワクチン」「キャッチアップ接種」などのキーワードで検索すると、関連情報を見つけることができます。
一部の自治体では、対象者に直接通知を送付しています。お知らせの内容には、対象者であることの説明、接種期限、接種方法、必要な手続きなどが記載されています。ただし、すべての自治体が通知を送付しているわけではないため、通知が来ていないからといって対象外とは限りません。
電話での問い合わせ窓口を設けている自治体も多くあります。保健センターや健康推進課に電話をすれば、担当者が丁寧に説明してくれます。不明な点や心配なことがあれば、気軽に相談することができます。
接種可能な医療機関のリストを公開している自治体では、各医療機関の予約状況なども確認できる場合があります。どの医療機関が予約を受け付けているか、どのワクチンを取り扱っているかなどの情報が得られます。
転居した場合でも、引き続きキャッチアップ接種を受けることができます。ただし、転居先の自治体で新たに手続きが必要となる場合があります。転居前の自治体で発行された予診票や接種券が使えないこともあるため、転居後は速やかに新しい住所地の保健センターに連絡し、必要な手続きを確認しましょう。
HPVワクチンの安全性に関する最新情報
HPVワクチンの安全性については、国内外で継続的に監視と評価が行われています。最新の情報に基づいて、客観的に安全性を理解することが重要です。
厚生労働省では、定期的に専門家による審議会を開催し、HPVワクチンの副反応報告を評価しています。2024年には1月、4月、7月、10月に審議会が開催され、2025年1月にも最新の評価が行われました。これらの会議では、医療機関や製薬企業から報告される副反応事例を詳細に検討し、継続的に安全性を確認しています。
副反応の発生頻度については、具体的なデータが公表されています。全体として、何らかの副反応が報告される頻度は、1万回の接種あたり約9件です。このうち、医師や企業が重篤と判断したケースは、1万回の接種あたり約5件となっています。
シルガード9については、より新しいデータがあります。副反応の報告頻度は1万回の接種あたり約3件で、重篤と判断されたケースは約2件となっており、従来のワクチンと比較しても良好な安全性プロファイルを示しています。
具体的な副反応の症状としては、注射部位の痛みが最も一般的で、50%以上の方に見られます。ただし、これらの症状は通常、数日以内に自然に軽快します。注射部位の痛みは、インフルエンザワクチンなど多くのワクチンで見られる一般的な反応です。
シルガード9の場合、頭痛が10%から50%の接種者に見られます。また、発熱は1%から10%、倦怠感や腹痛は1%未満の頻度で報告されています。これらの症状も、ほとんどの場合、一時的なもので、適切な対処により改善します。
2021年11月に行われた専門家委員会による包括的な安全性評価では、ワクチン接種による利益が副反応のリスクを明らかに上回ると結論づけられました。この評価結果を受けて、2022年4月から積極的勧奨が再開されることになりました。
重要な点として、全国的な疫学調査が実施され、ワクチン接種を受けていない方々の間でも、接種者と同様の多様な症状が見られることが確認されました。この調査結果から、報告されている症状とワクチン接種との因果関係を確立することはできないと結論づけられています。
つまり、ワクチン接種後に何らかの症状が現れたとしても、それが必ずしもワクチンが原因であるとは限らないということです。思春期から若年成人期には、ワクチン接種の有無にかかわらず、様々な体調の変化や症状が現れることがあります。
厚生労働省は、万が一接種後に気になる症状が現れた場合の相談窓口を全国の自治体に設置しています。また、症状が続く場合には、協力医療機関での診療も受けられる体制が整えられています。
子宮頸がんとHPV感染の関係
HPVワクチンがなぜ重要なのかを理解するために、子宮頸がんとHPV感染の関係について詳しく見てみましょう。
子宮頸がんは、日本では年間約11,000人が新たに診断され、約2,900人が亡くなっている病気です。20代から30代の若い女性でも発症することがあり、妊娠や出産への影響も懸念されます。子宮頸がんの治療により、妊娠が難しくなったり、子宮を失ったりする可能性もあります。
子宮頸がんの約95%以上は、HPVの持続感染が原因で発症します。HPVは非常に一般的なウイルスで、性交渉の経験がある女性の50%から80%は、生涯に一度はHPVに感染すると言われています。
ただし、HPVに感染したからといって、必ず子宮頸がんになるわけではありません。多くの場合、感染しても免疫力によってウイルスは自然に排除されます。実際、HPV感染の約90%は、2年以内に自然に消失します。
しかし、一部のケースでは感染が持続し、数年から十数年かけて子宮頸がんに進行することがあります。持続感染から前がん病変を経て、最終的に子宮頸がんに至るまでには、通常5年から10年以上の時間がかかります。
HPVには100種類以上の型がありますが、そのうち子宮頸がんの原因となるハイリスク型は約15種類です。特に16型と18型は、世界中の子宮頸がんの約70%の原因となっています。日本人の場合、52型と58型の感染も比較的多く見られます。
HPVワクチンを接種することで、この感染そのものを予防することができます。感染を防ぐことができれば、持続感染も起こらず、結果として子宮頸がんの発症を防ぐことができるのです。
ワクチン接種と子宮頸がん検診の両立
HPVワクチンを接種したからといって、子宮頸がん検診を受けなくてよいわけではありません。ワクチン接種と検診の両方を組み合わせることで、子宮頸がんに対する最も効果的な予防が可能となります。
HPVワクチンは、感染予防には極めて有効ですが、すべての型のHPVをカバーできるわけではありません。シルガード9でも、子宮頸がんの原因の約90%をカバーできますが、逆に言えば約10%はカバーできていません。
また、ワクチンには治療効果はありません。既に感染している場合には、ワクチンを接種しても感染を排除することはできません。キャッチアップ接種の対象者は、性交渉の経験がある可能性が高い年齢層であるため、既に一部の型のHPVに感染している可能性もあります。
そのため、ワクチン接種後も定期的な子宮頸がん検診を受けることが非常に重要です。20歳以上の女性は、2年に1回の子宮頸がん検診が推奨されています。
子宮頸がん検診では、細胞診やHPV検査により、前がん病変や初期のがんを発見することができます。早期に発見できれば、治療の選択肢が広がり、妊娠・出産の可能性を残せる場合も多くなります。
ワクチン接種で予防し、検診で早期発見する。この二段構えのアプローチが、子宮頸がんから自分の健康を守る最善の方法なのです。
医療機関の選び方と予約のコツ
キャッチアップ接種を受ける医療機関を選ぶ際には、いくつかのポイントがあります。適切な医療機関を選ぶことで、スムーズに接種を完了することができます。
まず、お住まいの自治体が公表している指定医療機関のリストを確認しましょう。キャッチアップ接種は、指定された医療機関でのみ公費負担で受けることができます。リストには、各医療機関の住所、電話番号、診療時間などが記載されています。
予約の取りやすさも重要なポイントです。人気のある医療機関では、数ヶ月先まで予約が埋まっている場合もあります。複数の医療機関に問い合わせて、できるだけ早く接種できるところを探すことをお勧めします。特に、かかりつけ医がある場合は、まずそこに相談してみるとよいでしょう。
使用しているワクチンの種類も確認しましょう。すべての医療機関がシルガード9を取り扱っているわけではなく、2価ワクチンや4価ワクチンのみを扱っている医療機関もあります。希望するワクチンがある場合は、事前に確認することが重要です。
アクセスの良さも考慮すべき点です。3回の接種が必要なため、通いやすい場所にある医療機関を選ぶと便利です。自宅や職場、学校から近い医療機関を選ぶことで、通院の負担を減らすことができます。
接種後のフォロー体制も重要です。万が一副反応が出た場合に、適切に対応してくれる医療機関を選ぶことが大切です。かかりつけ医であれば、あなたの健康状態を把握しているため、より適切な対応が期待できます。
予約を取る際のコツとして、早朝や平日の昼間は比較的予約が取りやすい傾向があります。土曜日や平日の夕方は混雑することが多いため、スケジュールに余裕がある方は、空いている時間帯を狙うとよいでしょう。
接種記録の管理方法
HPVワクチンの接種記録は、将来にわたって重要な情報となります。適切に管理することで、必要な時に確実に情報を確認できます。
母子健康手帳には、予防接種の記録欄があります。キャッチアップ接種の対象年齢の方の中には、母子健康手帳を普段持ち歩いていない方も多いかもしれませんが、接種時には必ず持参し、記録を残してもらいましょう。母子健康手帳は、一生涯の健康記録として保管する価値があります。
医療機関から発行される予防接種済証も大切に保管してください。この書類には、接種したワクチンの種類、製造番号、接種日、接種医療機関などの詳細な情報が記載されています。将来、海外渡航や医療機関の変更などの際に必要になる場合があります。
デジタルでの記録管理も有効です。予防接種済証の写真をスマートフォンで撮影して保存しておく、クラウドストレージにアップロードしておくなど、複数の方法で記録を保管しておくと安心です。紙の記録を紛失した場合でも、デジタルデータがあれば確認できます。
マイナポータルでも予防接種記録を確認できる自治体が増えています。マイナンバーカードを持っている方は、マイナポータルにログインして、自分の予防接種歴を確認してみましょう。電子的に記録が残っていれば、いつでもどこでも確認できて便利です。
転居や医療機関の変更があった場合でも、正確な接種記録があれば、スムーズに接種を継続することができます。特に、接種途中で転居する可能性がある方は、記録の管理を徹底しましょう。
自費接種という選択肢
キャッチアップ接種の期限を過ぎてしまった場合や、対象年齢外の方でも、自費でHPVワクチンを接種することは可能です。費用はかかりますが、子宮頸がん予防という観点から検討する価値があります。
自費接種の場合、費用は医療機関によって異なりますが、シルガード9の場合、1回あたり約25,000円から35,000円程度が一般的です。3回接種が必要なため、総額では75,000円から105,000円程度かかることになります。
2価ワクチンや4価ワクチンの場合は、これよりも安価な場合がありますが、予防効果の範囲を考えると、多くの医療機関ではシルガード9を推奨しています。特に、日本人に多い52型と58型もカバーできる点が、シルガード9の大きな利点です。
自費接種を検討する場合は、複数の医療機関に問い合わせて費用を比較することをお勧めします。同じワクチンでも、医療機関によって価格設定が異なる場合があります。
また、一部の健康保険組合や共済組合では、HPVワクチン接種への補助制度を設けている場合があります。ご自身が加入している保険組合に確認してみるとよいでしょう。補助制度を利用できれば、自己負担額を減らすことができます。
費用はかかりますが、子宮頸がんの治療にかかる医療費や、がんになった場合の精神的・身体的負担を考えると、予防への投資として考える価値は十分にあります。
海外におけるHPVワクチン接種の状況
HPVワクチン接種は、世界中で推奨されています。海外の状況を知ることで、日本におけるワクチン接種の意義をより深く理解できます。
WHO(世界保健機関)は、2030年までに15歳までの女子の90%がHPVワクチンを接種することを目標として掲げています。この目標は、世界から子宮頸がんを撲滅するための戦略の一環として設定されました。
多くの先進国では、既に高い接種率を達成しています。オーストラリアでは、2007年から積極的なワクチン接種プログラムを実施しており、若い世代での子宮頸がんの発生が著しく減少しています。2028年には、オーストラリアから子宮頸がんが事実上撲滅されるという予測もあります。
イギリスでも、HPVワクチン接種プログラムが成功を収めています。2008年から定期接種を開始し、現在では接種率が80%を超えています。その結果、若い世代での子宮頸がんの前がん病変が大幅に減少しているというデータが報告されています。
アメリカでは、男女ともに11歳から12歳での接種が推奨されています。また、26歳までのキャッチアップ接種も推奨されており、日本と同様に接種機会を逃した世代への対応も行われています。
これらの国々では、実際にHPVワクチン接種が子宮頸がんを減らす効果が確認されています。特に、接種率の高い世代では、子宮頸がんの発生率が顕著に低下しているというデータが蓄積されています。
日本でも、2013年から2022年まで積極的勧奨が差し控えられていた期間がありましたが、2022年4月から積極的勧奨が再開されました。キャッチアップ接種制度も含めて、日本も国際的な子宮頸がん撲滅の取り組みに参加しているのです。
男性へのHPVワクチン接種について
現在のキャッチアップ接種制度は女性のみを対象としていますが、HPVは男性にも関係する問題です。男性への接種についても理解を深めておくことは重要です。
HPVは男性にも感染し、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がん、尖圭コンジローマなどの原因となることがわかっています。特に中咽頭がんは、近年HPV関連のものが増加しており、男性にとっても無視できないリスクとなっています。
海外では、男性へのHPVワクチン接種も推奨されている国が増えています。アメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダなどでは、男女ともに定期接種の対象となっています。男性が接種することで、自身の健康を守るだけでなく、パートナーへの感染を防ぐという観点からも意義があります。
日本でも、シルガード9は男性への接種が承認されており、自費で接種することが可能です。費用は女性の場合と同様、1回あたり約25,000円から35,000円程度で、3回接種が必要です。
一部の自治体では、独自の助成制度を設けて男性へのHPVワクチン接種を推進しているところもあります。例えば、東京都内のいくつかの区では、一定の年齢の男性に対して接種費用の一部を助成する制度を実施しています。
男性が接種することで、いわゆる集団免疫の効果により、社会全体でのHPV感染リスクを下げることにもつながります。将来的には、日本でも男性への定期接種が導入される可能性もあります。

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