健康保険証は2025年12月1日で期限切れとなりますが、実際には2026年3月31日まで医療機関で使用できます。これは厚生労働省が医療機関に通知した特例措置によるもので、期限切れの保険証でもオンライン資格確認システムを通じて資格が確認できれば、通常通り3割負担で受診可能です。ただし、この特例はあくまで移行期間の救済措置であり、マイナ保険証への登録や資格確認書の取得を進めることが推奨されています。
2024年12月2日をもって従来の健康保険証の新規発行が停止され、日本の医療保険制度は大きな転換点を迎えました。多くの方が手元にある健康保険証の券面に「有効期限:令和7年12月1日」と記載されているのを見て、「12月2日からは本当に使えなくなるのか」「病院で受診を断られるのではないか」と不安を感じているのではないでしょうか。この記事では、健康保険証の廃止スケジュールの詳細から、2026年3月末まで使える特例措置の仕組み、マイナ保険証や資格確認書への切り替え方法、そして医療機関での具体的な対応まで、知っておくべき情報を網羅的に解説していきます。

健康保険証廃止のスケジュールと経過措置
健康保険証の廃止は、2024年12月2日と2025年12月1日という2つの重要な日付を軸に進められています。まず2024年12月2日には、従来のプラスチック製や紙製の健康保険証の新規発行および再発行が完全に停止されました。この日以降に就職や転職、扶養認定などで新たな資格証明が必要になった場合は、従来の保険証ではなく「資格情報のお知らせ」や「資格確認書」という新たな書類が交付されるようになっています。
次の節目が2025年12月1日です。この日をもって、2024年12月1日までに発行された健康保険証の経過措置期間が終了します。多くの被保険者証の券面には「有効期限:令和7年(2025年)12月1日」と印字されており、法令上はこの日が有効期限となります。協会けんぽや各健康保険組合の広報資料でも「2025年12月2日以降、今お持ちの健康保険証は使用できなくなります」と案内されており、原則論としてはその通りです。
しかし、ここで重要なのは「原則」と「実態」の違いです。マイナンバーカードの保険証利用登録率は100%には程遠く、カードを持っていても登録していない方、暗証番号を忘れた方、電子証明書の有効期限が切れている方などが多数存在します。こうした現実を踏まえ、政府は医療現場の混乱を防ぐための特例措置を講じることになりました。
2026年3月末まで使える特例措置の詳細
2025年11月12日、厚生労働省保険局医療介護連携政策課から医療関係団体に向けて極めて重要な事務連絡が発出されました。その内容は、表向きの「マイナ保険証への完全移行」という方針とは異なる、現実的な妥協策を示すものでした。
この事務連絡の核心は、「経過措置期間が終了する2025年12月2日以降においても、患者が従来の健康保険証を持参した場合、2026年(令和8年)3月末までは、これを有効な確認書類として扱い、保険診療を行うことを認める」という決定です。対象となるのは、国民健康保険や後期高齢者医療制度だけでなく、企業の従業員等が加入する被用者保険(協会けんぽ・組合健保)を含む「すべての保険者」が発行した健康保険証です。
この特例措置が機能する仕組みは、オンライン資格確認システムの存在にあります。かつてのアナログ時代には、保険証の有効期限が切れていれば医療機関はその場で資格の有無を確認する手段がありませんでした。しかし現在は、カードに記載されている記号・番号・生年月日等の情報をシステムに入力すれば、その患者が現在も有効な資格を有しているかどうかをリアルタイムで照会できます。
具体的な流れとしては、まず患者が期限切れの保険証を提示します。医療機関窓口は、それが期限切れであることを認識しつつも受診拒否はしません。窓口スタッフがカード券面の情報をもとにオンライン資格確認システムへ照会を行い、「資格あり」と判定されれば通常通りの自己負担割合で受診できます。厚労省はこの運用を「暫定的な対応」として正当化し、レセプト請求における返戻を行わないことを保証しました。医療機関にとっては、期限切れカードを受け付けても後から支払いを受けられないリスクがないというお墨付きが得られたことになります。
延長期限が2026年3月末に設定された背景には複数の要因があります。まず、日本の行政システムや多くの企業の会計年度が3月末で終了するため、4月1日を「真の完全移行日」とするのが最も混乱が少ないという点があります。また、マイナンバーカードの電子証明書更新のピーク(いわゆる「2025年問題」)との重複を回避する意図もあります。さらに、マイナ保険証を持たない層へ送付される資格確認書の発送遅延に対するバッファとしての機能も期待されています。
マイナ保険証未登録者のための資格確認書
マイナ保険証への移行を進める一方で、デジタル機器の操作が苦手な方やカード取得を望まない方を無保険状態にするわけにはいきません。そのための代替手段として用意されたのが「資格確認書」です。
資格確認書の最も重要な特徴は、原則として「申請不要」で職権により自動的に送付されるプッシュ型の交付方式を採用していることです。申請主義を原則とする日本の行政手続きにおいては比較的珍しい、強力なセーフティネットといえます。
対象者は、マイナンバーカード自体を取得していない方、マイナンバーカードは持っているが健康保険証としての利用登録を行っていない方、マイナンバーカードの電子証明書の有効期限が切れている方、DV被害者等でマイナポータル等の利用制限がかかっている方です。これらの条件に該当する被保険者に対し、各保険者(協会けんぽ、健保組合、自治体)から登録されている住所へ資格確認書が送付されます。
資格確認書の有効期限について、当初は1年程度と想定されていましたが、実務上の要請から保険者の判断により「最長5年間」の設定が可能となりました。協会けんぽ等の多くの保険者では、発行コストや事務負担を考慮して4〜5年の有効期限を設定する方針を示しています。これは実質的に、従来の健康保険証が名前を変えて存続することと同義といえます。形状についても、紙製のものだけでなく従来のプラスチックカードと同様のサイズ・材質のものも認められており、患者側からすれば「色が違うだけの新しい保険証」という認識になる可能性が高いでしょう。
資格確認書の発送は2025年夏頃から順次開始されています。協会けんぽの例では、2025年7月下旬から10月下旬にかけて都道府県ごとに順次発送が行われる計画となっています。東京は8月1日から9月12日、大阪は7月30日から10月24日、愛知は7月30日から9月26日、福岡は9月19日から10月10日、北海道は8月15日から9月12日が発送予定時期とされています。
ただし、このスケジュール通りに全員の手元に届くとは限りません。住所変更の未届、郵便事故、長期不在による返送などのリスクは常に存在します。11月以降に資格取得や変更があった場合、データ反映と発送処理のタイムラグにより12月1日までに届かない「空白期間」が生じる可能性もあります。前述の2026年3月末までの特例措置は、まさにこうした「届かない」事態における最終防衛ラインとして機能するのです。
マイナ保険証への移行方法と注意点
マイナ保険証への登録を忘れていた方や方法がわからないという方にとって、最も手軽で即効性のある解決策は「医療機関の窓口で登録する」ことです。オンライン資格確認システムを導入している医療機関・薬局には顔認証付きカードリーダーが設置されています。このカードリーダーにマイナンバーカードを置き、顔認証または暗証番号入力を行い、画面上の「健康保険証として利用登録する」というボタンを押すだけで、その場で即座に登録が完了し直ちに保険診療を受けることが可能です。事前の市役所での手続きやスマートフォンでの操作は一切不要です。この方法は2025年12月以降の「保険証難民」を救う最も実務的な解決策の一つですが、物理的なマイナンバーカードを持参していることが絶対条件となります。
マイナ保険証を利用する上で最大のリスク要因となるのが、マイナンバーカードに搭載されている「利用者証明用電子証明書」の有効期限切れ問題です。マイナンバーカード自体の有効期限は発行から10回目(未成年は5回目)の誕生日までですが、ICチップ内の電子証明書は一律「発行から5回目の誕生日」で期限切れとなります。多くの国民がマイナンバーカードを取得し始めた時期から計算すると、2025年前後はまさにこの「5年目の更新」のピークに当たります。
電子証明書の期限が切れていると、病院のカードリーダーにかざしてもエラーとなり資格確認ができません。この場合、システム上は「無効」と判定されるため、原則として10割負担を求められる可能性があります。しかし、ここでも2026年3月末までの特例措置が救済策として機能します。電子証明書が切れていても、古い健康保険証を持っていれば窓口スタッフが目視確認とオンライン照会(番号入力)で資格を確認し、保険診療を継続できるからです。
10割負担を回避するための対処法
旧保険証も持っておらず、マイナ保険証もエラーになり、資格確認書も届いていないという最悪の状況で受診した場合でも、即座に10割負担になるとは限りません。厚労省は、システム障害や不測の事態においては「マイナポータルの資格情報画面(スマートフォン画面)」の提示や、過去の受診歴の確認、あるいは「被保険者資格申立書」の記入によって3割負担での受診を認める柔軟な運用を通知しています。
また、一旦10割負担した場合でも、同月内に有効な証を持参すれば病院窓口で返金(7割分の払い戻し)を受けられるケースが多いです。月を跨いだ場合は、保険者に対して療養費支給申請を行うことで払い戻しを受けられますが、手続きは煩雑になるため月内での解決が原則です。
万が一、12月以降になっても資格確認書が届かずマイナ保険証も利用できない場合は、速やかに保険者に連絡してください。会社員なら勤務先の担当部署、国保加入者なら市区町村の窓口に問い合わせることで、再発行や状況確認を行えます。この際、手元にある期限切れの旧保険証は、自身の記号・番号を伝えるための資料として極めて有効に機能します。
保険者種別ごとの対応状況
協会けんぽ(中小企業従業員)
協会けんぽは加入者数が最大であり、影響も広範に及びます。資格確認書の送付は2025年7月から10月にかけてマイナ保険証未登録者へ自動的に行われています。旧保険証の回収方針については、2025年12月1日までは退職時等に事業主を通じて返却が必要ですが、経過措置期間終了後の2025年12月2日以降に手元に残った無効な保険証は返却不要で自己破棄が可能となる運用方針が示されています。ただし、前述の通り2026年3月までは「使える」ため、即時の破棄は推奨されません。
組合健保(大企業従業員)
各企業が運営する健康保険組合は、独自の財政事情や方針により対応が分かれる場合がありますが、基本的には厚労省通知に従います。多くの健保組合のウェブサイトでは、廃止スケジュールや資格確認書の交付について詳細な案内が出ています。また、マイナ保険証登録者に対しては「資格情報のお知らせ」が配布されていますが、これはA4用紙やカード型など様々な形式があり、これ単体では受診できません。あくまでマイナ保険証の補助資料としての位置づけで、カードリーダー故障時に番号を伝えるためのメモとして使用します。
国民健康保険・後期高齢者医療制度(自営業・高齢者)
自治体が運営する国保や広域連合が運営する後期高齢者医療は、被用者保険とは有効期限のサイクルが異なる場合があります。多くの自治体では例年7月31日に保険証の一斉更新を行うため、2025年7月31日時点で従来の保険証の有効期限が切れ、8月1日からは「マイナ保険証」または「資格確認書」への切り替えが先行して行われている地域が多くなっています。これらの加入者に対しては2025年7月中に資格確認書または有効な保険証が送付されており、2025年12月の「廃止」の影響は「次回の更新がない」という意味合いが強くなります。
2026年4月以降の完全移行に向けて
2026年3月31日までは特例措置により期限切れの保険証が使えますが、2026年4月1日以降は状況が大きく変わります。この日が本当の「デッドライン」であり、特例措置が終了すれば旧保険証は完全に効力を失う可能性が高いです。それまでにマイナ保険証を使いこなせるようにするか、届いた資格確認書に切り替える必要があります。
マイナ保険証を利用する予定の方は、まずカードの電子証明書期限をチェックしてください。期限が近づいている場合や不安がある場合は、旧保険証も予備として携帯しておくことをお勧めします。電子証明書の更新は市区町村の窓口で行えますが、2025年度は更新のピークと重なるため窓口が混雑する可能性があります。早めの対応が賢明です。
従来の紙の保険証を使い続けたいという方は、資格確認書が届いているか確認してください。届いていない場合は会社や役所に速やかに連絡を取りましょう。資格確認書が届くまでは旧保険証を絶対に捨てないでください。2026年3月末までは緊急時の備えとして機能します。
旧保険証を捨てずに保管すべき理由
多くの方は「有効期限が切れたら捨てていい」と考えがちですが、2026年3月末までは旧保険証を財布に入れておくことを強くお勧めします。その理由は複数あります。
第一に、マイナ保険証のトラブル対策です。カードリーダーの機械トラブル、暗証番号忘れ、電子証明書の期限切れなど、デジタルならではのトラブルは常に起こり得ます。こうした場面で旧保険証に書かれた「記号・番号」は、病院スタッフが手動で資格確認をするための重要な情報源となります。
第二に、資格確認書未着時の救済手段です。郵便事故や住所変更の未届けにより、資格確認書が届かないケースは想定されます。その場合、旧保険証が唯一の資格証明手段となる可能性があります。
第三に、保険者への連絡時の情報源です。何らかのトラブルで保険者に問い合わせる際、旧保険証に記載されている記号・番号・保険者番号などの情報があれば、スムーズに本人確認と対応を受けられます。
したがって、2025年12月1日を過ぎても旧保険証は破棄せず、少なくとも2026年4月までは保管しておくことが最も安全な対応です。
情報の非対称性と正しい知識の重要性
今回の健康保険証廃止に関しては、公式発表と実際の運用との間に「情報の非対称性」が存在しています。厚労省は医療機関に対しては「2026年3月まで旧保険証を受け入れるように」と指示する一方で、国民に対しては「2025年12月で廃止、マイナ保険証へ切り替えを」というメッセージを維持しています。
この背景には、特例措置を大々的に周知すればマイナ保険証への移行が停滞するという政治的判断があると考えられます。しかし、この情報格差は現場での無用なトラブルを生む可能性があります。正確な情報を知らない患者が受診を躊躇したり、逆に情報更新が遅れている医療機関で不当に拒否されるリスクも否定できません。
重要なのは、「使えるから何もしなくていい」という安易な結論ではなく、「特例措置はあくまでバックアップであり、本来の移行手続きを進めるべき」という認識を持つことです。2026年4月以降に備えて、マイナ保険証の登録や資格確認書の確認など、できる準備は今のうちに進めておきましょう。
まとめ
健康保険証は2025年12月1日で有効期限を迎えますが、厚生労働省の特例措置により2026年3月31日までは医療機関で使用可能です。この期間中は、期限切れの保険証を提示してもオンライン資格確認システムで資格が確認できれば、通常通りの自己負担割合で受診できます。
ただし、この特例措置は移行期間の救済策であり、2026年4月1日以降は完全に効力を失います。マイナ保険証への登録を検討している方は電子証明書の有効期限を確認し、必要であれば更新手続きを行ってください。マイナ保険証を利用しない方は、資格確認書が届いているか確認し、届いていなければ保険者に連絡を取りましょう。
いずれの場合も、2026年3月末までは旧保険証を破棄せずに保管しておくことが推奨されます。マイナ保険証のトラブル時や資格確認書未着時の「お守り」として、そして保険者への問い合わせ時の情報源として、旧保険証は依然として価値を持っています。正しい情報を把握し、余裕を持って移行準備を進めることで、医療機関での受診に支障が出ないよう備えておきましょう。

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