令和8年度診療報酬改定で入院費はいくら上がる?年収別の負担増を試算

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令和8年度(2026年度)の診療報酬改定により、入院費の自己負担額は大幅に増加する見通しです。特に年収600万円から800万円の現役世代では、高額療養費制度の区分細分化によって月額5万円から6万円もの負担増となる可能性があります。本記事では、厚生労働省や中央社会保険医療協議会(中医協)の議論に基づき、具体的な負担増の金額と年収別の試算を詳しく解説します。

令和8年度改定は、医療従事者の賃上げ対応や医療DX推進のコストを「誰が負担するのか」という問題に決着をつける歴史的な転換点となります。これまでの診療報酬改定とは異なり、患者負担、とりわけ現役世代の中間所得層から高所得層にかけての入院費負担が構造的に引き上げられることが確実視されています。本記事を読むことで、改定の全体像、具体的な負担増の金額、そして家計を守るための対策について理解することができます。

令和8年度診療報酬改定とは

令和8年度診療報酬改定とは、2026年度に実施される医療サービスの公定価格(診療報酬)の見直しのことです。診療報酬改定は原則として2年に1度行われ、医療機関が提供するサービスの対価を決定します。今回の改定が注目される理由は、コストプッシュ型インフレと賃上げ政策の影響により、患者負担が大きく増加する見込みだからです。

医療機関は現在、光熱費の高騰、食材費の値上がり、人材確保のための賃上げ原資という三重の課題に直面しています。従来の改定では、薬価の引き下げ分を技術料に回すことで全体のバランスを調整してきましたが、もはやその調整幅だけではコスト増を吸収しきれない限界点に達しています。その結果、政府は「受益者負担の適正化」という方針のもと、患者負担の増額を計画しています。

令和8年度改定における患者負担増の三本柱は明確です。一つ目は高額療養費制度の自己負担限度額の引き上げであり、所得区分の細分化による「負担能力に応じた負担」の徹底が図られます。二つ目は入院時の生活療養費(食費・光熱水費)の引き上げで、物価高騰を反映した実費徴収化が進みます。三つ目は賃上げおよびDX推進コストの転嫁であり、初再診料や入院基本料へのコスト上乗せが行われます。

高額療養費制度の区分細分化による負担増

高額療養費制度の区分細分化とは、現行の所得区分をより細かく分割し、特に中間所得層以上の自己負担限度額を引き上げる改革のことです。この改革により、年収約600万円から800万円の層が最も大きな影響を受けます。

現行制度(70歳未満)では、年収約370万円から約770万円の層が「ウ区分」として一括りにされており、月額の自己負担上限は約87,430円となっています。しかし、この区分は日本のサラリーマン世帯のボリュームゾーンでありながら、年収400万円の世帯と年収750万円の世帯が同じ上限額で保護されている状況です。政府の全世代型社会保障構築会議や財政制度等審議会では、この「ウ区分」の範囲が広すぎることが問題視されてきました。負担能力に約2倍の開きがあるにもかかわらず同額の保護を受けるのは公平性を欠くという議論が背景にあります。

令和8年度改定では、現行の5区分をより細かく分割することが提案されています。具体的には、現行の「ウ区分(年収約370万~770万円)」を3つ程度に分割し、所得が高い層ほど上限額が急上昇する設計となります。

年収別の高額療養費上限額の変化

年収400万円(現行ウ区分下位)の場合について説明します。現状では、月額医療費が100万円かかった場合の自己負担上限は約87,430円です。令和8年度改定後は、この層は「新設される下位中間層」に分類される可能性が高く、上限額の引き上げは物価スライド分にとどまると予想されます。推計では約9万円弱となり、低所得者への配慮が維持されるため大きな激変は避けられる見込みです。

年収600万円(現行ウ区分中位)の場合が最も注目されます。現状では年収400万円の人と同じく、自己負担上限は約87,430円です。しかし令和8年度改定後は、ここが最大のターゲットとなります。「新設される中位中間層」として独立し、上限額が引き上げられ、提案されているモデルでは月額上限が10万円から11万円程度へと約2万円以上の負担増となる可能性があります。

年収750万円(現行ウ区分上位)の場合は最も大きな影響を受けます。現状では依然として自己負担上限は約87,430円ですが、令和8年度改定後は「新設される上位中間層(準高所得層)」として再定義されます。上限額が現在の「イ区分(年収約770万~1160万円)」に近い水準まで引き上げられ、具体的な試算値としては月額上限が13万円から14万円程度へと跳ね上がるシナリオが有力です。これはひと月の入院で約5万円から6万円の負担増を意味します。

多数回該当ルールの見直しと慢性疾患患者への影響

多数回該当とは、直近12カ月以内に3回高額療養費の上限額に達した場合、4回目から上限額が下がる仕組みのことです。抗がん剤治療や透析予備軍など、継続的な治療が必要な患者にとっての命綱となっている制度です。

現状では、ウ区分の多数回該当上限額は44,400円となっています。しかし令和8年度改定では、区分細分化に伴い、年収600万円から700万円層の多数回該当上限額は5万円代後半から7万円台へと引き上げられる可能性があります。

この改定が与える影響は深刻です。毎月通院で高額な抗がん剤治療を受けている年収700万円の患者の場合、年間の自己負担増は月額差額2万円から3万円を12カ月分として計算すると、年間20万円から30万円の可処分所得が医療費に消える計算になります。これは事実上の増税に匹敵するインパクトといえます。

入院時食事療養費の引き上げ

入院時食事療養費とは、入院中の食事にかかる費用のうち患者が負担する部分のことです。高額療養費制度はあくまで医療費(治療費)に対するセーフティネットであり、入院中の食事代は対象外となっています。

長らく1食460円に据え置かれていた患者負担額は、令和6年度改定で490円(プラス30円)に引き上げられました。しかし昨今の食材費高騰はとどまるところを知らず、病院給食の現場は赤字状態が続いています。日本栄養士会や病院団体からは、給食事業の継続が困難であるとしてさらなる引き上げ要望が出されています。

令和8年度の改定では、厚労省の提案や中医協の議論によれば、さらに1食あたり40円から50円程度の引き上げが検討されています。これを具体的な金額で試算すると、現行の490円で1日3食、30日間入院した場合は44,100円です。改定案の530円から540円で計算すると47,700円から48,600円となり、差額は月額約4,000円となります。年金生活の高齢者にとっては、年間約5万円の負担増となる計算です。

光熱水費(居住費)の負担増

光熱水費の負担増とは、入院中の光熱費相当分を患者から徴収する金額の引き上げのことです。これまで主に療養病床(長期入院用のベッド)に入院する高齢者に対して適用されてきた「居住費(光熱水費)」の自己負担額について、エネルギー価格の高騰を理由に日額60円程度の引き上げが提案されています。

この影響が拡大する可能性があります。財政審議会等では「一般病床の入院患者も自宅での光熱費がかかっていないのだから、公平性の観点から負担すべき」という議論がくすぶっています。もし令和8年度改定で、一般病床(急性期や回復期リハビリ病棟など)にも何らかの形で光熱費相当の負担が導入されれば、全入院患者に影響が及びます。

長期療養患者への影響を試算すると、食費の増額分(月約4,500円)に加え、光熱費日額60円増(月1,800円)が加われば、月額6,000円以上の固定費増となります。これは年金受給額の改定率を大きく上回るペースでの負担増です。

医療DX推進体制整備加算による負担増

医療DX推進体制整備加算とは、医療機関のデジタル化推進にかかるコストを患者から徴収する仕組みのことです。令和6年度改定で新設されたこの加算は、令和8年度においてその性質を大きく変えます。これまでは「DXを導入した医療機関へのインセンティブ」でしたが、令和8年度からは「DX導入は当たり前、維持管理コストを患者が広く薄く負担する」というフェーズに移行します。

医療機関がこの加算を算定するためには、マイナンバーカード(マイナ保険証)の利用率実績が要件化されています。令和7年後半から令和8年にかけて、この要件は厳格化され、利用率が低い医療機関は点数が低くなる一方、利用率が高い(50%から70%超)医療機関は高い点数を維持できる仕組みになります。

患者負担の実態として、これまで「初診時月1回」の加算でしたが、電子処方箋の普及などに伴い、再診時や調剤時にも微細な「システム利用料」的な点数が組み込まれていく流れにあります。1回あたりの負担は数十円(3割負担で30円程度)であっても、内科、整形外科、眼科、調剤薬局と複数の医療機関を受診する高齢者にとっては、年間で数千円規模の負担増になります。

令和8年度には、電子カルテ情報共有サービスや電子処方箋が標準装備化されるため、これらのシステム維持費が「初診料」「再診料」「入院基本料」の本体に溶け込む形で引き上げられる可能性も高く、その場合、患者は「DX加算」という項目を見ることなく、知らぬ間に値上がりした基本料金を払い続けることになります。

入院基本料と早期退院圧力の強化

入院基本料の改定とは、入院1日あたりの基本的な料金体系の見直しのことです。令和8年度改定では、入院医療の調査・評価分科会での18項目の検討事項に基づき、入院期間の短縮と重症度基準の厳格化が進められます。

急性期一般入院料において、「急性期病院」として高い入院料(1日16,000円以上)を算定するためには、重症な患者を一定割合以上入院させている必要があります。令和8年度改定では、この「重症」の定義がさらに厳しくなります。具体的には、心電図モニターをつけているだけの患者や、点滴ラインが少ない患者が「重症」カウントから外される方向です。

この変更が患者に与える影響として、早期退院圧力の強化があります。病院側は、点数が取れなくなった「軽症化した患者(手術後数日経過した患者など)」を急性期病棟に置いておく経済的メリットを失います。その結果、まだ不安が残る状態であっても「そろそろ退院して自宅かリハビリ病院へ」と転院を強く促されるケースが増加します。

転院に伴うコストも重要な問題です。転院先の回復期リハビリ病棟や地域包括ケア病棟に移ると、入院料の計算体系がリセットされ、また新たな「初期加算」などが算定されるため、トータルの入院費は1つの病院に長くいるよりも高くなる傾向があります。

回復期リハビリテーション病棟の成果主義強化

回復期リハビリテーション病棟の成果主義とは、リハビリの効果(どれだけ回復したか)による評価を強化する仕組みのことです。脳卒中や骨折後のリハビリを行う回復期病棟では、FIM(機能的自立度評価法)という指標を用いた成果による評価が強化されます。

この制度変更による懸念として、リハビリの効果が出にくい患者(重度の認知症合併など)は、成果が出せないため病院側が入院を敬遠する、あるいは早期に療養病床へ移すという「患者選別」が加速する恐れがあります。

費用負担についても変化があります。効果が出ていると判断されれば、1日最大9単位(1単位20分)のリハビリが集中的に行われますが、これにかかる費用も増大します。令和8年度からは、リハビリ専門職の賃上げ分が点数に上乗せされるため、リハビリを受ければ受けるほど、従来よりも高い自己負担が発生します。

賃上げ対応とベースアップ評価料の影響

ベースアップ評価料とは、医療従事者の賃金引き上げ原資を診療報酬から賄う仕組みのことです。令和6年度改定で導入されたこの仕組みは、医療従事者の賃金を2024年度に2.5%、2025年度に2.0%引き上げるための原資を、患者の財布と保険料から賄っています。令和8年度はこの仕組みが定着・拡大するフェーズに入ります。

賃上げは一時的なボーナスではなく基本給の引き上げ(ベースアップ)であるため、一度上げたら下げられません。つまり、令和8年度以降、病院の運営コストは恒久的に高止まりします。

入院費への転嫁として、入院基本料自体に人件費上昇分をカバーするための点数が上乗せされます。看護配置が厚い病院ほど、看護師の人数分だけ人件費コストがかさむため、入院料の引き上げ幅も大きくなります。

具体的な試算として、中規模病院に入院した場合、これまでは入院料とは別に「ベア評価料」として1日あたり数十円から百円程度が加算されていました。令和8年度改定では、この加算が入院基本料本体に組み込まれる(包括化される)可能性があります。これにより、高額療養費の計算対象となる医療費総額が底上げされ、結果として限度額に達しない短期入院や軽度な入院の患者において、数千円程度の負担増が生じます。

年収別の入院費用シミュレーション

ここでは、令和8年度(2026年後半)に入院した場合の総支払額を、年収モデル別にシミュレーションします。前提条件として、1カ月間(30日)の入院、手術あり、医療費総額100万円(10割ベース)としています。

年収400万円(30代独身)の場合

現行(令和6年)の負担額について説明します。高額療養費上限は約87,430円、食費は490円かける90食で44,100円、その他(アメニティ等)は約15,000円となり、合計は約146,530円です。

令和8年予測では、高額療養費は区分変更なし(据え置き)想定で約87,430円、食費は530円(仮定)かける90食で47,700円(プラス3,600円)、その他(物価高騰)は約18,000円となります。賃上げ転嫁分(基本料増)は自己負担増としては高額療養費枠内に収まるため表面化しません。合計は約153,130円(プラス6,600円)です。この層の負担増は主に食費と物価高分であり、制度改正の直撃は避けられますがインフレの影響は感じることになります。

年収720万円(40代既婚、子あり)の場合

現行(令和6年)の負担額は、高額療養費上限約87,430円(ウ区分)、食費44,100円、その他15,000円で、合計約146,530円です。

令和8年予測では、高額療養費は区分細分化の直撃を受けます。新区分「上位中間層」適用で上限額が約138,000円へ上昇し、食費47,700円、その他18,000円で、合計約203,700円(プラス57,170円)となります。これが「令和8年の崖」と呼ばれる現象です。同じ年収、同じ病気治療であるにもかかわらず、制度が変わるだけで支払額が約1.4倍に跳ね上がります。月収の手取り額から家賃やローンを引いた残りで、この20万円を一括で支払えるかどうかが家計防衛の分岐点となります。

年収1,200万円(50代管理職)の場合

現行(令和6年)の負担額は、高額療養費上限約170,000円(イ区分)で、食費等込み合計は約230,000円です。

令和8年予測では、高額療養費はさらなる高所得区分の新設あるいは定率引き上げにより、上限額が約250,000円から300,000円へ上昇する可能性があります。合計は約320,000円から370,000円(プラス10万円以上)となります。高所得層に対する「応能負担」の強化は鮮明であり、民間医療保険に入っていない場合、ボーナス1回分がそのまま入院費に消える覚悟が必要です。

入院費負担増に備える対策

民間医療保険の見直し

年収720万円のケースで見たように、自己負担額が8万円から14万円に跳ね上がる場合、従来の「入院日額5,000円」の保険では不十分です。入院日数に関わらず、かかった費用の実費(自己負担分)をカバーする「実損填補型(じっそんてんぽがた)」の医療保険への切り替えや、一時金(手術給付金など)が厚いプランへの見直しを、改定前の健康なうちに検討すべきです。高額療養費の自己負担増をカバーする特約の重要性が高まっています。

限度額適用認定証とマイナ保険証の活用

窓口での支払いを高額療養費の上限額で止めるためには、「限度額適用認定証」の提示が必要です。マイナ保険証を利用すれば、この認定証の事前申請が不要になり、自動的に適用区分が判定されます。令和8年度以降、区分が細分化されて自分がどの区分に落ちるか複雑になるため、マイナ保険証を活用して窓口での高額支払いを回避することは、キャッシュフロー管理の観点から必須のスキルとなります。

待機的手術のタイミング

白内障手術や人工関節置換術など、緊急性はないがいつかやらなければならない手術を予定している場合、タイミングが重要です。高額療養費制度の改定実施月(令和8年8月等が有力)よりも前に手術を済ませることで、数万円単位の節約になる可能性があります。改定スケジュールが正式発表(令和7年末から8年初頭頃)された段階で、主治医と相談して計画的に治療スケジュールを組むことが賢明です。

企業の付加給付制度の確認

大企業の健康保険組合(健保組合)には、高額療養費の上限を超えた分をさらに組合が負担し、患者負担を月2万円から3万円程度に抑える「付加給付」という独自制度がある場合があります。しかし、健保組合の財政も悪化しており、令和8年度改定に合わせてこの付加給付の基準を引き上げる(給付を減らす)組合が増えると予想されます。自分の会社の健保がどのような制度変更を予定しているか、社内報等をチェックしておく必要があります。

まとめ

令和8年度診療報酬改定は、これまでの「医療費は国がなんとかしてくれる」という時代の終わりを告げるものです。賃上げとインフレのコストを、現役世代を中心とした患者が直接負担する構造へと転換されます。

負担増の主な要因は、高額療養費制度の区分細分化、入院時食事療養費の引き上げ、光熱水費の負担増、医療DX推進コストの転嫁、そして賃上げ対応です。特に年収600万円から800万円の層は、月額5万円から6万円の負担増という大きな影響を受けます。

この改定は、日本の医療制度を持続可能なものにするための変革であると同時に、私たち一人ひとりが自身の健康と資産を守るためのリテラシーを試される機会でもあります。改定前に民間保険の見直しやマイナ保険証の準備、待機的手術のスケジュール調整など、できる対策を講じておくことが重要です。

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