2026年度の診療報酬改定は、物価高騰への対応として入院料や初診料が大幅に引き上げられる歴史的な改定となりました。2024年12月24日に行われた大臣折衝において、診療報酬本体はプラス3.09%という近年にない高い改定率で決定されています。この改定は、長年続いたデフレ型医療政策からの転換点であり、インフレ経済に対応するための新たな仕組みが導入されることになりました。具体的には、賃上げ分としてプラス1.70%、物価対応分としてプラス0.76%、2024年度改定後の経営環境悪化への緊急対応分としてプラス0.44%が確保されています。入院基本料や初診料・再診料の引き上げに加え、「物価高騰対応加算」という新しい点数が創設され、2026年6月1日から施行される予定です。さらに特筆すべきは、2027年度にはこの新点数が2倍に引き上げられる「2段階改定」が予定されている点です。この記事では、2026年度診療報酬改定における物価高騰対応の仕組み、入院料と初診料の引き上げ内容、そして患者負担への影響まで詳しく解説します。

2026年度診療報酬改定とは何か
2026年度(令和8年度)診療報酬改定とは、医療機関が提供する医療サービスの公定価格を見直す制度改正のことです。診療報酬は原則として2年に1度改定されますが、今回の改定は日本の社会保障制度において極めて重要な転換点となりました。
これまでの診療報酬改定は、高齢化に伴う医療費の自然増を抑制し、効率化と適正化を追求することに主眼が置かれてきました。しかし、2026年度改定は、世界的なインフレの波と国内における賃金上昇の圧力、そして急激な円安による医療資材の高騰という「コストプッシュ型」の経済環境に対応するものとなっています。公定価格である診療報酬を経済情勢に適応させるという、かつてない難題への回答を示すものです。
改定決定の経緯と政治的背景
2024年12月24日、上野賢一郎厚生労働大臣と片山さつき財務大臣の間で行われた予算大臣折衝により、「診療報酬本体プラス3.09%」という改定率が決定されました。この数値は近年の改定水準を大きく上回るものです。
この折衝において決定的な要因となったのは、「賃上げと物価高への対応は、従来の社会保障費の枠組みとは別枠で考えるべきである」という政治判断でした。円安による輸入医薬品や医療機器の高騰、エネルギー価格の上昇、そして全産業的な賃上げの流れの中で医療人材が流出している現状は、もはや通常の改定ロジックでは対応不可能であることが明白だったのです。結果として、診療報酬本体については、通常の改定分に加え、賃上げや物価対応のための「別枠」財源が確保されるという異例の措置が取られました。
改定率「プラス3.09%」の内訳と構造
決定されたプラス3.09%の改定率は、複数の要素が組み合わさった重層的な構造となっています。この数字の内部には、過去の経営悪化に対する事後的な救済、将来の不確実な物価上昇に対する予測的な投資、そして他産業に劣後しないための賃上げ原資という、性質の異なる三つの要素が組み込まれています。
賃上げ分としてのプラス1.70%
最大規模の配分となる「賃上げ分」には、プラス1.70%が確保されました。これは、看護師やコメディカル、事務職員などの医療従事者に対して、2026年度と2027年度にそれぞれ3.2%のベースアップ(基本給の引き上げ)を実現するための原資となります。特に、他産業との人材獲得競争が激化している看護補助者や事務職員については、5.7%という意欲的な引き上げ目標が設定されました。
物価対応分としてのプラス0.76%
「物価対応分」としてプラス0.76%が計上されています。これは、光熱費、食材費、医療資材などの価格上昇に対応するためのものであり、2026年度と2027年度の2年間の平均値として算出されています。この財源は、後述する「2階建て」構造の中で配分されることになります。
緊急対応分としてのプラス0.44%
「2024年度改定後の経営環境悪化への緊急対応分」としてプラス0.44%が設定されました。これは、前回の改定以降に発生した想定外のインフレに対し、多くの医療機関が持ち出しで対応せざるを得なかった損失を、事後的に補填する意味合いを持ちます。
食費・光熱水費分と効率化・適正化
入院患者の生活環境を維持するための「食費・光熱水費分」にプラス0.09%が手当てされています。一方で、これらの財源を捻出するために、後発医薬品(ジェネリック)の使用促進や長期処方・リフィル処方箋の活用などによる効率化・適正化でマイナス0.15%が計上されました。これらをすべて合算し、医療技術の高度化などに対応する実質的な本体改定分(プラス0.25%)を加えることで、最終的な「プラス3.09%」という数字が構成されています。
物価高騰対応の「2段階・2階建て」メカニズムとは
2026年度改定において最も革新的であり、同時に理解が難しいのが、物価高騰に対応するための点数設計です。従来の改定が過去のコストデータを基にした「バックミラー型」であったのに対し、今回は将来のインフレ予測を織り込む「フォワードルッキング型」の要素が導入されました。これを具現化したのが、「2段階」かつ「2階建て」と呼ばれる新しいメカニズムです。
2階建て構造の仕組み
この仕組みは、建物の構造に例えることで理解しやすくなります。
1階部分(過去の損失補填)は、建物の基礎となる部分であり、2024年度改定以降に発生したコスト増を救済するためのものです。ここには「緊急対応分」のプラス0.44%が充当されます。重要な点は、この財源が既存の「基本診療料」、すなわち初診料、再診料、入院基本料の点数を恒久的に底上げする形で配分されることです。これは基本給のベースアップに相当し、すべての診療行為の基盤となる価格が引き上げられることを意味します。
2階部分(未来のインフレ対応)は、その上に乗る部分であり、2026年度以降に発生すると予測されるさらなる物価上昇に対応するためのものです。ここには「物価対応分」の一部であるプラス0.62%が充てられます。特筆すべきは、この部分が既存の点数への上乗せではなく、「物価上昇に関する評価」という独立した新しい加算(新点数)として設定される点です。これにより、将来的にインフレが収束した場合やデフレに戻った場合に、この「2階部分」だけを取り外したり調整したりすることが容易になるという政策的な柔軟性が担保されています。
2段階実施と倍増ルール
さらに、この2階部分(新点数)には、2026年度と2027年度で点数が変動する「2段階」方式が採用されます。具体的には、2027年度の点数を、2026年度の点数の2倍に設定するという大胆なルールです。
このロジックは、政府の経済見通しに基づいています。政府は、物価上昇が2026年で終わるのではなく、2027年にかけても継続・累積すると予測しています。また、2026年度の改定施行が6月1日であるため、初年度は実質10ヶ月分の運用となりますが、2027年度は通年での運用となります。これらの要因を総合し、2026年度に設定された新点数を2027年度には2倍へと自動的に引き上げる「倍増ルール」が適用されることになりました。これは診療報酬制度において前例のない、極めて計画的かつ動的な価格調整メカニズムです。
入院料の引き上げと病院経営への影響
入院医療を提供する病院にとって、入院基本料の引き上げは経営存続の生命線です。2026年度改定では、物価高騰対応の主戦場として入院料の大幅な見直しが行われますが、そこには明確な「病院重視」の配分意図が見て取れます。
病院への重点配分とコスト構造の反映
今回の改定では、詳細なコスト構造調査(医療経済実態調査等)に基づき、物価高の影響を強く受ける施設に厚く配分する「メリハリ」が徹底されています。
具体的には、物価対応分(プラス0.62%相当部分)の配分において、病院にはプラス0.49%が割り当てられています。これに対し、医科診療所(クリニック)への配分はプラス0.10%、歯科診療所はプラス0.02%、保険薬局はプラス0.01%にとどまります。この圧倒的な差は、病院という組織が持つコスト構造の脆弱性に起因します。
病院は、患者への給食提供(食材費)、大量のリネンサプライ(クリーニング費・資材費)、24時間稼働する空調やMRI・CTなどの大型医療機器(光熱費・保守費)など、物価変動の影響をダイレクトに受ける固定費の塊です。一方、診療所は人件費比率が高く、物件費比率が相対的に低いため、物価対応における配分率に差がつけられたのです。
さらに、大学病院や特定機能病院など、高度急性期医療を担う病院には、特例としてプラス0.14%が追加配分されます。これは、高度医療機器や最先端の医薬品調達コストが、為替変動(円安)や半導体不足による価格高騰の影響を最も強く受けることを考慮した「戦略的投資」の側面を持ちます。
クロスサブシディによる収支バランス調整
今回の改定議論において、非常に重要な調整が行われました。それは「病院外来の赤字を入院料で穴埋めする」というメカニズムです。
病院も診療所も、外来診療においては原則として同じ点数表(初診料・再診料)を使用します。しかし、物価対応分の配分は診療所ベース(プラス0.10%)で計算されるため、コスト構造の高い病院の外来部門にとっては、この引き上げ幅では到底コスト増を賄いきれません。病院の外来部門だけで見れば、実質的な赤字(補填不足)が発生することになります。
そこで、中央社会保険医療協議会(中医協)では、病院外来で回収しきれない物価対応分を推計し、その不足分を入院料の評価(新点数)に上乗せして配分するという調整を行いました。つまり、外来患者から薄く広く回収するのではなく、入院医療に対する報酬を手厚くすることで、病院全体の収支をバランスさせるという高度な「クロスサブシディ(内部相互補助)」の手法が採用されたのです。これは、外来医療は診療所へ、入院医療は病院へという「機能分化」を経済的インセンティブによってさらに加速させる政策意図とも合致します。
入院基本料の具体的な増点内容
入院基本料の引き上げも、「1階(緊急対応)」と「2階(物価対応)」の二重構造となります。
まず、2024年度以降のコスト増を補うため、急性期一般入院料や地域包括ケア病棟入院料などの基本点数そのものが引き上げられます。ここに「緊急対応分(病院全体でプラス0.40%)」の原資が投入されるため、急性期一般入院料1(旧7対1)であれば、1日あたり数十点(数百円)規模のベースアップが見込まれます。
次に、その上に「物価高騰対応加算」が新設されます。この加算は、病院の機能(急性期、回復期、慢性期)に応じて設定され、2026年度の点数が2027年度には倍増します。これにより、入院単価は過去の改定とは比較にならないペースで上昇することになります。
初診料・再診料の引き上げと外来受診への影響
外来受診のたびに発生する初診料と再診料の引き上げは、すべての国民に直接的な影響を与える変更点です。
引き上げのメカニズムと算定構造
初診料・再診料の改定も、入院料と同様のロジックで設計されています。
1階部分(本体引き上げ)として、初診料(現行291点など)および再診料の本体点数が引き上げられます。これは2024年度以降の経営費用の増加分(緊急対応分)をカバーするための恒久的な措置です。これまでの改定では数点(数十円)単位の微増が常でしたが、今回は過去のインフレ率を反映し、より踏み込んだ引き上げが予想されます。
2階部分(新点数加算)として、「物価高騰対応」の初診時および再診時に算定可能な新しい加算が創設されます。例えば、クリニックを受診した際、これまでは「初診料291点」だったものが、「新初診料(X点)+物価対応加算(Y点)」という構成になります。そして、このY点は2027年度には「2Y点」になります。患者の窓口負担(3割負担)で見れば、1回あたりの増額は数十円程度かもしれませんが、国民全体の受診回数を掛け合わせると、医療費全体では巨額の財政移動が発生します。
慢性疾患患者への累積的な負担増
一回あたりの負担増は軽微に見えるかもしれませんが、高血圧、糖尿病、脂質異常症などで定期的に通院している慢性疾患患者にとっては、年間で見ると無視できない負担増となります。特に高齢者の場合、内科、整形外科、眼科など複数の医療機関にかかっているケースが一般的です。それぞれのクリニックで初・再診料の引き上げと新点数が加算されるため、トータルの家計負担は年間数千円単位で増加する可能性があります。
さらに、今回の改定では「長期収載品(特許切れの先発医薬品)」に対する選定療養の仕組みが拡大・強化される方向で議論が進んでいます。後発医薬品(ジェネリック)があるにもかかわらず、患者希望で先発品を選ぶ場合、その価格差の一部を自己負担する制度ですが、この負担割合の引き上げや対象品目の拡大が検討されています。これらが複合的に作用することで、特に多剤併用を行っている患者の経済的ハードルは確実に高まります。
賃上げ対応の進化とベースアップ評価料の改善
2024年度改定で導入された「ベースアップ評価料」は、医療従事者の賃上げ原資を確保するための画期的な仕組みでしたが、現場からは「計算が複雑」「事務負担が重すぎて中小診療所では対応不可能」という批判が噴出していました。2026年度改定では、この制度がより実効性の高いものへと進化します。
算定回数ベースへの簡素化
2026年度改定における最大の改善点は、手続きの劇的な簡素化です。これまでは、対象職員の給与総額を精緻に計算し、複雑な賃上げ計画書を作成する必要がありました。しかし、新たな仕組みでは、「初・再診料の算定回数」などの極めてシンプルな指標を用いて、自院が受け取れる賃上げ原資を簡易に計算できる方式が導入されます。
具体的には、直近1ヶ月間の初診料・再診料の算定回数に、所定の係数(点数)を掛け合わせるだけで、その医療機関が確保できる賃上げ原資(ベースアップ評価料の算定金額)が自動的に算出されるイメージです。この変更により、専任の事務長がいない小規模な診療所であっても、躊躇なく賃上げ加算を届け出ることが可能となり、制度の普及率が飛躍的に向上することが期待されています。
対象職種の拡大と引き上げ目標
ベースアップ評価料の原資となるプラス1.70%の改定率は、全産業平均の賃上げ率に医療界が追随するためのものです。特筆すべきは、これまで「医療資格職」に焦点が当たりがちだった対象が、事務職員や看護補助者にも明確に拡大され、かつ重点的な配分目標が設定されたことです。
政府は、2026年度・2027年度において、医療現場全体のベースアップ目標を「プラス3.2%」に設定しました。さらに、他産業(介護、流通、サービス業など)への人材流出が深刻な看護補助者や事務職員については、「プラス5.7%」という極めて高い水準の引き上げを実現するための措置を講じると明記しました。これは、病院の事務職や看護助手が、医療提供体制を維持するために不可欠なインフラであることを認め、彼らの給与水準を底上げしなければ「人手不足による医療崩壊」が避けられないという危機感の表れです。
患者負担の詳細と見えにくいコストの増加
2026年度改定では、診療報酬(治療費)の引き上げ以外にも、患者が窓口で支払う「食費」や「光熱水費」の負担増が決定されています。これらは高額療養費制度の対象外(実費負担)であるため、家計へのインパクトは数字以上に大きなものとなります。
入院時食事療養費の引き上げ
入院中の食事代(入院時食事療養費の標準負担額)は、食材費の高騰を受けて引き上げられます。
一般所得者の場合、1食あたりの自己負担額が現在の標準額から40円引き上げられ、1食550円(推計値)となります。これにより、1日3食で120円、1ヶ月(30日)入院した場合は3,600円の負担増となります。
低所得者(住民税非課税世帯等)については、経済的配慮から引き上げ幅が圧縮されます。非課税世帯の場合は30円増の1食270円、さらに所得が低い高齢者の場合は20円増の1食130円といった具合に、負担増を最小限に抑えるセーフティネットが機能します。
光熱水費負担の新設と増額
これまで医療保険の入院では、介護保険施設ほど明確に徴収されていなかった「居住費(光熱水費相当)」についても、実質的な負担増が導入されます。病院の光熱費高騰を背景に、1日あたりの光熱水費の基準額について、患者負担を60円引き上げる方針が決定されました。
これにより、入院患者は1日あたり60円、1ヶ月で1,800円の追加負担を求められます。食事代の増額分と合わせると、一般所得者の場合、1ヶ月の入院で約5,400円の実費負担増が発生することになります。これは年金生活者にとっては決して小さくない金額です。ただし、指定難病患者など、長期間の入院が避けられない特定の患者層については、この負担増を免除または据え置く措置が取られます。
OTC類似薬の選定療養化による新たな負担
さらに、今回の改定議論の中で患者負担に大きく関わるのが、「OTC類似薬(市販薬として購入可能な医薬品)」の保険給付範囲の見直しです。湿布薬、保湿剤、鎮痛剤など、ドラッグストアで購入できるものと同じ成分の薬を医療機関で処方してもらう場合、これまでは保険適用(1〜3割負担)でしたが、今後はその薬剤費の一部を「選定療養」として患者が全額自己負担する仕組みが導入・拡大されます。
具体的には、薬剤費の「4分の1」程度を追加で自己負担させる案などが合意されています。これは、軽微な不調は市販薬で対応する「セルフメディケーション」を促すと同時に、限られた保険財源を重篤な疾患の治療薬に集中させるための適正化策です。しかし、日常的に湿布や保湿剤を使用している高齢者にとっては、実質的な「値上げ」となります。
薬価・材料価格の引き下げと医療現場への影響
診療報酬本体が大幅なプラス改定となった裏で、薬価(薬の公定価格)と材料価格は厳しいマイナス改定となりました。
マイナス0.87%の意味
薬価はマイナス0.86%、材料価格はマイナス0.01%、合計でマイナス0.87%の引き下げが決定しました。これは国費ベースで約1,063億円の削減に相当します。日本の薬価制度は、市場実勢価格(医療機関が卸から購入する実際の取引価格)を調査し、それが公定価格(薬価)よりも安ければ、その差額に合わせて次回の公定価格を引き下げるという仕組みを取っています。
医療機関経営と医薬品供給への影響
物価高で仕入れ値が上昇圧力を受けている中で薬価が引き下げられることは、医療機関にとっては「薬価差益(購入価格と請求価格の差による利益)」という経営のバッファがさらに縮小することを意味します。また、製薬メーカーや医薬品卸にとっても、原材料費や輸送費が高騰する中での薬価引き下げは、採算性の悪化を招きます。
これにより、採算の取れない不採算品目の製造中止や、流通調整による医薬品不足(供給不安定)がさらに深刻化するリスクがあります。2024年以降、咳止めや去痰薬、抗生物質などの出荷調整が相次ぎましたが、今回の薬価引き下げがこの状況に拍車をかける懸念は拭えません。
医療DXとデータに基づく改定の新しい姿
2026年度改定の特徴の一つに、データに基づいた精緻な配分決定があります。これを支えたのが、医療法人の経営情報のデータベース(MCDB)です。
経営の見える化とエビデンスに基づく配分
政府は、2023年以降、すべての医療法人に対して詳細な経営情報の報告を義務化しました。これにより収集された膨大な財務データ(損益計算書、貸借対照表、職種別給与データなど)が、今回の改定議論の土台となりました。
「病院は赤字だが、診療所は黒字を維持している」というデータがMCDBから示されたことで、物価対応分の配分において病院にプラス0.49%、診療所にプラス0.10%という大きな傾斜をつける正当性が裏付けられました。これまでのような「どんぶり勘定」や「政治的駆け引き」だけでなく、客観的なデータ(エビデンス)に基づいて診療報酬を配分する体制が確立されたことは、医療政策における大きな進歩です。同時に、医療機関にとっては「経営内容がガラス張りにされる」というプレッシャーでもあります。
2026年度改定の今後の展望と注意点
2026年度診療報酬改定は、インフレ下における医療政策の「今後の道しるべ」となる歴史的な改定です。
インフレ対応型医療政策への転換
政府は「物価が上がれば診療報酬も上げる」という新しいルールを提示しました。これは、公定価格で運営される医療機関にとっては、持続可能性を担保するための生命線です。しかし、その原資は国民の保険料と税金、そして患者の窓口負担です。医療費の増加は、現役世代の負担増と表裏一体であることを忘れてはなりません。
2027年度の2段階目改定への注目
さらに、2027年度には点数がさらに倍増する「2段階改定」が控えています。しかし、もし2026年中に予想以上のインフレが起きたり、逆にデフレに戻ったりした場合は、2027年度予算編成でさらなる調整(期中改定)が行われる可能性も明記されています。もはや診療報酬は「2年に1度の固定価格」ではなく、経済情勢に合わせて動く「変動価格」の性質を帯び始めています。
施行に向けた今後のスケジュール
2026年6月1日の施行に向け、これからの数ヶ月で中央社会保険医療協議会(中医協)から具体的な点数表が発表される予定です。その一つ一つの数字に、日本の医療の未来がかかっています。医療従事者、経営者、そして国民一人一人が、この変化の意味を理解し、来るべきインフレ社会における医療のあり方を考えていく必要があります。

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