生活保護は憲法第25条で保障された「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を実現するための最後のセーフティーネットです。しかし現実には、本来受給できるはずの人が申請段階で断られる「水際作戦」という違法な行政対応が問題となっています。厚生労働省も「申請権の侵害または侵害していると疑われるような行為にあたるので、厳に慎むこと」と通知していますが、依然として多くの人が適切な支援を受けられずにいます。京都市の統計では、生活保護相談件数13,038件に対し申請件数は4,093件と、申請率はわずか31.4%という現実があります。これは6割以上の相談者が実際に役所に足を運んでも申請に至っていないことを示しており、本来保護の対象となる人が制度にアクセスできていない深刻な状況です。しかし、適切な知識と対処法を身につければ、この問題を乗り越えることは可能です。

Q1: 生活保護の申請を「させてもらえない」と言われた場合、どう対処すればいいですか?
生活保護の申請を拒否される状況に直面した場合、まず「申請します」という意思をはっきりと伝えることが最重要です。福祉事務所には申請を受け付ける法的義務があり、口頭での申請も法的に有効です。
具体的な対処手順:
1. 明確な意思表示
窓口で「生活保護を申請します」と明確に宣言してください。「相談したい」ではなく「申請する」という言葉を使うことが重要です。職員が「まずは相談から」「他の制度を検討しては」などと言っても、「申請します」と繰り返し伝えることが効果的です。
2. やり取りの記録を残す
会話の内容は必ずメモに残しましょう。日付、時間、対応職員名、話の内容、職員の態度などを詳細に記録します。スマートフォンでの録音も、会話の当事者であれば合法です。記録を取っていることを職員に伝えるだけで、態度が変わることも多くあります。
3. 文書での通知を求める
口頭で申請を拒否された場合は、必ず文書での通知を求めることが申請者の権利です。「なぜ申請できないのか、理由を書面で教えてください」と要求しましょう。多くの場合、書面での拒否理由を求められると、職員は申請を受け付けるケースが多いです。
4. 上席職員への相談
窓口職員が申請を受け付けない場合は、「上の方と話をさせてください」と主任や課長などの上席職員との面談を求めましょう。現場職員よりも法的知識を持っていることが多く、適切な対応が期待できます。
5. 他機関への相談
福祉事務所の対応が改善されない場合は、その福祉事務所がある都道府県庁の生活保護担当部署に事実を報告することが有効です。また、総務省の行政相談センターでは無料で相談でき、匿名での相談も可能です。
申請は何度でも可能ですし、一度断られても諦める必要はありません。専門家や支援団体の力を借りることで、ほぼ確実に申請を通すことができるのが現実です。
Q2: 福祉事務所で申請を断られる「水際作戦」とは何ですか?その具体的な手口を教えてください
「水際作戦」とは、福祉事務所の窓口で生活保護の申請を初期段階で断念させるために行われる違法な対応のことです。これは厚生労働省も禁止している行為ですが、残念ながら全国の福祉事務所で日常的に行われているのが現状です。
よくある水際作戦の手口:
1. 年齢や能力を理由にした拒否
「若いから働ける」「まだ体が動くでしょう」「やる気があれば仕事は見つかる」といった根拠のない理由で申請を拒否するケースです。実際には、働く意思があっても仕事が見つからない、病気で働けないなどの事情があっても、表面的な判断で申請を断られることがあります。
2. 資産や借金を理由にした誤った説明
「借金がある人は生活保護を使えない」「少しでも貯金があれば対象外」「車を持っている人は受けられない」といった法的根拠のない理由での拒否です。実際には借金があっても生活保護は利用でき、一定の条件下では車の保有も認められています。
3. 扶養照会をめぐる脅し
「必ず親族に連絡する」「家族に迷惑をかけたくないでしょう」「実家に帰りなさい」といった扶養照会を武器にした申請阻止です。実際には扶養照会は断ることが可能で、DV被害者や長期間音信不通の場合などは照会を行わないことも多くあります。
4. 申請書類の受理拒否
「必要な書類が揃っていない」「住所がないから申請できない」「印鑑がないとダメ」といった理由で申請書の受理を拒否するケースです。しかし法的には、書類が完全に揃っていなくても申請は可能です。
5. 他制度への誘導
「まずはハローワークに行ってください」「生活困窮者自立支援制度を使ってみては」「無料低額宿泊所に入らないと保護は受けられません」といった他制度への誘導で申請を先延ばしにする手口です。
6. たらい回し
「あなたの担当ではない」「別の窓口に行ってください」「予約が必要です」といった理由で複数の部署や窓口をたらい回しにし、申請者を疲弊させて諦めさせる手法です。
7. 心理的圧迫
「本当に困っている感じがしない」「もう少し頑張ってみては」「税金を使うことの重みを考えて」といった心理的プレッシャーをかけて申請を思いとどまらせる手口です。
これらの対応はすべて違法行為であり、申請者には毅然とした態度で対応する権利があります。水際作戦に遭遇した場合は、一人で抱え込まず、専門家や支援団体に相談することが最も効果的な対処法です。
Q3: 生活保護の申請が却下された場合、どのような不服申し立ての方法がありますか?
生活保護の申請が却下されても、それで終わりではありません。法的に定められた3段階の不服申し立て手続きが用意されており、多くの場合で却下決定を覆すことが可能です。
第1段階:審査請求
却下決定に不服がある場合、都道府県知事に対して審査請求を行うことができます。これは行政不服審査法に基づく正式な手続きです。
提出先:却下を決定した福祉事務所を所管する都道府県知事
提出期限:却下通知を受け取ってから60日以内
提出方法:「審査請求書」を文書で提出(正本と副本の2通、押印必要)
審理期間:原則として3か月以内に判断
必要記載事項:
- 審査請求人の氏名・住所
- 処分の内容
- 処分を知った年月日
- 審査請求の趣旨と理由
- 処分庁の教示の有無
- 審査請求の年月日
第2段階:再審査請求
審査請求の結果に不服がある場合は、厚生労働大臣に再審査請求を行うことができます。
提出期限:審査請求の裁決があったことを知った日の翌日から1か月以内
審理機関:厚生労働省の社会保険審査会
審理期間:おおむね6か月程度
第3段階:訴訟
再審査請求の結果でも不服がある場合は、裁判所に取消訴訟を起こすことができます。
提出期限:都道府県知事または厚生労働大臣の裁決があったことを知った日から6か月以内
注意点:生活保護に関する処分については、審査請求を経てからでなければ訴訟を起こすことができません
不服申し立ての成功事例
実際に不服申し立てによって却下決定が覆されるケースは少なくありません。特に以下のような場合は成功の可能性が高いです:
- 却下理由が法的根拠に欠ける場合
- 収入認定や資産評価に誤りがある場合
- 扶養能力の判断に問題がある場合
- 就労能力の評価が不適切な場合
手続きのサポート
不服申し立ての手続きは複雑で、一人で行うのは困難な場合があります。特定行政書士は審査請求の代理権限を持っており、弁護士は全ての段階でサポートが可能です。法テラスでは経済的に困窮している方への無料法律相談も行っています。
却下されても決して諦めず、正当な権利として不服申し立てを活用することが重要です。多くの場合、適切な手続きを踏むことで必要な支援を受けることができます。
Q4: 申請時に専門家や第三者の同行は効果的ですか?どこに相談すればいいでしょうか?
生活保護申請時の第三者同行は、最も効果的な水際作戦対策です。統計的にも、一人で申請に行く場合の通過率は20~40%程度ですが、弁護士などの専門家が同行した場合は99%という驚異的な通過率が報告されています。
同行の効果とメリット
1. 水際作戦の抑止効果
専門家や支援者が同席することで、福祉事務所職員は法律に準拠した適切な対応を取らざるを得なくなります。違法な申請拒否や不適切な発言を控えるようになり、スムーズに申請が受理される可能性が飛躍的に高まります。
2. 専門的なサポート
申請書類の作成支援、これまでの経緯の整理、働けない事情の説明など、専門知識を持った同行者が的確にサポートします。申請者が見落としがちな重要なポイントも漏れなく伝えることができます。
3. 心理的な安心感
申請は非常にストレスフルな体験です。信頼できる同行者がいることで、申請者は冷静に対応でき、本来の状況を正確に伝えることができます。
4. 権利の擁護
福祉事務所の対応が法律に準拠しているかを確認し、申請者の権利が侵害されないよう見守ります。不適切な対応があった場合は、その場で指摘・改善を求めることができます。
相談できる専門機関・支援団体
行政書士・特定行政書士
サービス内容:申請書類作成、窓口同行、状況整理
特定行政書士の特典:審査請求の代理権限あり
費用:比較的リーズナブル(事前相談で確認)
弁護士
サービス内容:申請同行、不服申し立て、訴訟代理
無料相談:法テラス(同一問題につき3回まで30分間無料)
利用条件:収入・資産基準あり(医療費等の考慮も可能)
連絡先:地域の弁護士会、法テラス
NPO・支援団体
主な団体例:
- NPO法人POSSE
- 認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい
- 反貧困ネットワーク
- 生活保護問題対策全国会議
サービス内容:申請同行、住居支援、継続的な生活支援
特徴:当事者に寄り添った総合的なサポート
自治体の相談窓口
生活困窮者自立支援窓口:各市区町村に設置
地域包括支援センター:高齢者向けだが総合相談も対応
社会福祉協議会:地域の福祉相談全般
労働組合・市民団体
地域の労働組合や市民団体でも生活保護申請支援を行っている場合があります。インターネットで「生活保護申請支援 ○○市」などで検索すると見つかることがあります。
同行を依頼する際のポイント
- 事前相談:申請前に状況を詳しく説明し、同行の必要性や方法を相談
- 費用の確認:有料の場合は事前に料金体系を確認
- 複数の選択肢:一つの機関で断られても、他の支援者を探す
- 継続支援:申請だけでなく、その後のフォローアップも相談
同行支援は申請者の当然の権利であり、遠慮する必要はありません。一人で悩まず、専門家の力を借りて確実に申請を成功させることが重要です。
Q5: 一度申請を断られても再申請は可能ですか?成功させるためのポイントは何ですか?
生活保護は何度でも再申請が可能です。一度申請が却下されたり、窓口で断られたりしても、決して諦める必要はありません。実際に、初回申請では断られても、再申請で保護が開始されるケースは非常に多くあります。
再申請が可能な理由
生活保護は申請主義を採用しており、申請者の生活状況は日々変化するものです。以下のような状況変化があれば、いつでも再申請できます:
- 収入の減少(失業、労働時間短縮、病気による休職など)
- 支出の増加(医療費、介護費、住居費の上昇など)
- 家族状況の変化(援助していた親族の死亡、関係悪化など)
- 健康状態の悪化(病気の進行、新たな疾患の発症など)
- 住居状況の変化(住む場所を失った、家賃が払えなくなったなど)
再申請成功のための戦略的ポイント
1. 却下理由の徹底分析と改善
前回の却下理由を詳しく分析し、その点を改善して再申請に臨みます。
収入過多での却下:収入が減少した証拠(離職票、給与明細、医師の診断書など)
資産過多での却下:資産を適切に処分した証明、または保有の必要性を示す資料
扶養可能性での却下:親族の状況変化(収入減、関係悪化)を示す資料
2. 状況変化の客観的証拠の準備
口頭説明だけでなく、状況の変化を客観的に示す書類を準備します。
就職活動の証拠:ハローワークでの求職活動証明、応募書類のコピー
医療関係書類:診断書、通院記録、服薬証明
家計関係書類:通帳の写し、家計簿、領収書
住居関係書類:賃貸契約書、退去通知書
3. 専門家との連携強化
初回申請時に専門家の支援を受けていなかった場合は、再申請時には必ず専門家の同行を依頼します。前回の経験を踏まえ、より戦略的なアプローチが可能になります。
4. タイミングの見極め
月末近くや年度末などの繁忙期を避け、福祉事務所が比較的落ち着いている時期を選んで申請します。また、前回の申請から一定期間を空けることで、状況の変化をより明確に示すことができます。
5. 信頼関係の構築
以前に就労指導違反や虚偽申告で保護が廃止された場合は、「今回こそは制度を正しく活用したい」という真摯な姿勢を示すことが重要です。
再申請時の注意点
親族からの援助のタイミング
申請日以降に親族や友人からの金銭的支援があると「収入」とみなされ、却下の原因となる可能性があります。申請前に支援のタイミングを調整するか、やむを得ず受けた場合は速やかに福祉事務所に報告しましょう。
一貫性のある説明
前回の申請内容と矛盾しないよう、一貫性のある説明を心がけます。状況の変化があった場合は、その経緯を明確に説明できるよう準備しておきます。
緊急時の対応策
再申請の審査期間中(最大30日)に生活が困窮する場合は、食糧支援や一時金の申請も併せて相談します。多くの自治体では保護申請中の方への緊急支援制度があります。
成功事例から学ぶポイント
実際の成功事例では、以下の要素が重要だったとされています:
- 状況変化の明確な証拠提示
- 専門家による的確なサポート
- 申請者の真摯で一貫した態度
- 福祉事務所との建設的な対話
再申請は決して恥ずかしいことではありません。生活保護は国民の権利であり、必要な時に必要な支援を受けることは当然のことです。一度の失敗に挫けず、適切な準備と支援を受けて再チャレンジすることが重要です。
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