2025年10月22日、退職代行業界を揺るがす衝撃的なニュースが飛び込んできました。退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスが、警視庁による家宅捜査を受けたのです。この事件は、退職代行サービスの違法性と弁護士法違反の問題点を浮き彫りにし、業界全体に大きな警鐘を鳴らしています。退職代行モームリは、累計4万件を超える退職相談を受けてきた大手サービスとして知られていましたが、その裏側では法律に抵触する可能性のある運営が行われていた疑いがあります。弁護士法第72条で禁止されている非弁行為や非弁提携の疑いで捜査を受けることとなったこの事件は、退職代行サービスを利用しようと考えている方々にとって、サービス選びの重要性を改めて認識させるものとなりました。本記事では、退職代行モームリの問題点、弁護士法違反の具体的な内容、家宅捜査に至った経緯、そして適法な退職代行サービスの選び方について、詳しく解説していきます。

退職代行モームリとは何か
退職代行モームリは、2022年3月に谷本慎二氏を代表取締役として設立された株式会社アルバトロスが展開する退職代行サービスです。サービス名の「モームリ」は、「もう無理!」という日本語の口語表現から着想を得たもので、職場環境に悩む労働者の心情に寄り添うブランディングが特徴でした。
同社の公式発表によれば、創業からわずか2年半という短期間で退職相談件数は2万件を突破し、その後も利用者数は増加の一途をたどり、累計で4万件以上の退職代行を実施してきたとされています。この数字は、退職代行業界における同社の存在感の大きさを物語っています。
退職代行モームリの料金設定は、正社員が22,000円、アルバイトやパートタイム労働者が12,000円となっており、追加料金は一切発生しないという明朗会計を謳っていました。この価格帯は、退職代行業界における労働組合運営サービスの相場である2万円から3万円と比較すると、やや低めに設定されており、コストパフォーマンスの良さが利用者を惹きつける要因の一つとなっていました。
さらに、同社は退職成功率100パーセントという実績を強くアピールし、SNSやYouTubeなどのデジタルマーケティングを積極的に活用することで、特に若年層を中心に知名度を拡大してきました。しかし、後に明らかになる通り、この華々しい実績の裏側には、法律に抵触する可能性のある運営実態が隠されていたのです。
2025年10月22日の家宅捜査の詳細
2025年10月22日の早朝、警視庁は東京都品川区にある株式会社アルバトロスの本社および複数の関連法律事務所に対して、弁護士法違反の疑いで強制捜査を実施しました。この家宅捜査は、退職代行業界における非弁行為および非弁提携の疑いに基づくもので、退職代行サービスの適法性が問われる重要な転換点となりました。
警視庁の捜査によれば、株式会社アルバトロスは違法に弁護士に法律事務をあっせんし、その見返りとして報酬を受け取っていた疑いがあります。具体的には、退職代行サービスを利用した顧客が退職後に未払い残業代や損害賠償などの法的問題を抱えた際に、特定の弁護士を紹介し、その紹介料やキックバックを受け取っていたとされています。これは弁護士法で厳しく禁止されている典型的な非弁提携に該当します。
この捜査は突然行われたものではありませんでした。実は、2025年4月に週刊文春が報じた記事が大きな契機となっていました。文春の報道では、株式会社アルバトロスが弁護士への紹介料としてキックバックを受け取っていた疑惑が詳細に報じられ、これが警視庁の注目を集めることとなったのです。
また、合同労働組合「私のユニオン」が同じく2025年4月17日に公表した見解も、捜査の後押しとなった可能性があります。同組合は、モームリの運営手法について「非弁護士である株式会社アルバトロスが依頼者から金銭を受け取り、法律事務を弁護士にあっせんする行為は、明確な弁護士法違反である」との見解を示し、公式に問題提起を行っていました。
弁護士法違反とは何か:非弁行為の問題点
退職代行モームリが問題視されている最大の理由は、弁護士法第72条に定められた非弁行為の禁止規定に違反している疑いがあるためです。弁護士法第72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うこと、または法律事務を取り扱う者を第三者に紹介してその対価を受け取ることを厳しく禁じています。
非弁行為が禁止されている理由は、法律の専門知識を持たない者が法律事務を取り扱うことで、依頼者が不利益を被る可能性が高いためです。弁護士は厳格な資格試験に合格し、継続的な研修を受けることで法律の専門知識を維持しており、さらに弁護士会による監督や懲戒制度の対象となっています。一方、非弁護士にはこのような制度的な保護がないため、依頼者の権利が適切に守られない危険性があるのです。
退職代行サービスにおける非弁行為の具体例としては、まず非弁護士が依頼者の代理人として法的な交渉を行うことが挙げられます。単に退職の意思を会社に伝えるだけであれば法律事務には該当しませんが、退職日の具体的な調整、有給休暇の消化時期や日数の交渉、未払い残業代の計算と請求、退職金の金額交渉、損害賠償の請求や交渉などを行う場合、これらは明らかに法律事務に該当する可能性が高くなります。
さらに深刻なのが非弁提携の問題です。非弁提携とは、非弁護士が法律事務を弁護士に紹介し、その対価として報酬を受け取る行為を指します。退職代行モームリのケースでは、退職代行サービスを利用した顧客に対して特定の弁護士を紹介し、紹介料やキックバックを受け取っていた疑いが持たれています。この行為は、弁護士の独立性を損ない、依頼者の利益よりも紹介料を優先する構造を生み出すため、弁護士法で厳しく禁止されているのです。
弁護士法第77条には、非弁行為を行った者に対する罰則が定められており、2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられる可能性があります。今回の家宅捜査は、この刑事罰の適用を視野に入れた本格的な捜査であると考えられます。
文春オンラインが報じた内部告発の衝撃
2025年4月、週刊文春のオンライン版である文春オンラインは、「モームリで働くことが『モームリ!』に…」と題した記事を掲載し、退職代行業界に衝撃を与えました。この記事は、株式会社アルバトロスの元従業員による内部告発を詳細に報じたもので、退職代行サービスを提供する企業自体がブラックな労働環境であったという皮肉な実態を明らかにしました。
元従業員の証言によれば、「モームリで働くこと自体が『もう無理!』な状態で、社員が次々と退職している」という深刻な状況だったとされています。さらに驚くべきことに、すでに5名の従業員が他の退職代行サービスを利用して退職しているという事実が明らかになりました。退職代行サービスを提供する企業の従業員が、別の退職代行サービスを使わなければ辞められないという状況は、同社の労働環境の劣悪さを象徴するエピソードとして大きな注目を集めたのです。
内部告発では、非弁行為以外にも複数の法律違反の疑いが指摘されています。まず、代表取締役である谷本慎二氏によるパワーハラスメントの疑いです。従業員に対する高圧的な態度や、理不尽な要求が常態化していたとの証言がありました。また、弁護士からのキックバック(紹介料)の受領についても具体的な金額や取引の実態が証言されており、これが警視庁の捜査の重要な手がかりとなったと考えられます。
さらに注目すべきは、労働基準法違反の疑いです。長時間労働の強要、適切な残業代の未払い、休日出勤の常態化などが指摘されています。退職代行サービスを提供する企業が、自らは労働基準法を遵守していないという矛盾した状況は、同社の事業モデルの根本的な問題を浮き彫りにしています。
また、社内では退職代行に失敗した案件のリストがグループLINEで共有されていたという証言もあり、「退職成功率100パーセント」という公表されている実績に疑問を投げかける内容も含まれていました。この証言が事実であれば、同社は虚偽の広告を行っていた可能性もあり、景品表示法違反の問題も浮上してきます。
労働組合との提携関係の実態
株式会社アルバトロスは、自社が神奈川県労働委員会の審査を通過した「労働環境改善組合」という労働組合と提携していると主張してきました。この提携により、組合員が団体交渉権を持って交渉を行うため、会社側は原則として交渉を拒否することができないとしていました。
労働組合法に基づく団体交渉権は、労働者が使用者と対等な立場で労働条件について交渉するための重要な権利です。退職代行サービスにおいて労働組合が関与する場合、単なる退職の意思表示だけでなく、有給休暇の取得、未払い残業代の請求、退職金の交渉などについても、会社側と交渉することが可能となります。
しかし、この提携関係の実態や適法性については、複数の労働組合や法律専門家から疑義が呈されています。合同労働組合「私のユニオン」は、モームリの運営手法について「労働組合との提携を謳っているものの、実際に交渉を行っているのが株式会社アルバトロスの従業員である場合、これは労働組合の権利を違法に利用したものであり、労働組合法の趣旨にも反する」との見解を示しました。
重要な論点は、依頼者が形式的に組合員となる手続きを適切に経ているかどうかです。労働組合が団体交渉権を行使するためには、交渉の対象となる労働者が正式な組合員である必要があります。もし依頼者が組合員としての実態を伴わない形式的な加入しか行っていない場合、そもそも団体交渉権を行使する法的根拠がないことになります。
また、実際に交渉を行っているのが労働組合の正式な役員や組合員ではなく、株式会社アルバトロスの従業員である場合、これは労働組合の名義を借りた非弁行為に該当する可能性があります。労働組合の団体交渉権は、あくまでも組合自身が行使する権利であり、第三者の営利企業がその権利を利用して収益を得ることは認められていません。
適法な退職代行サービスとの違い
退職代行サービスには、運営主体によって大きく三つのタイプがあり、それぞれできることとできないことが法律によって明確に区分されています。この区分を理解することが、適法なサービスを選択する上で極めて重要です。
まず、民間企業が運営する退職代行サービスです。これは最も一般的なタイプで、費用も比較的安価に設定されていますが、法律上できることは限られています。具体的には、依頼者の退職の意思を会社に伝えることのみが認められており、退職日の交渉、有給休暇の取得交渉、未払い賃金の請求などは一切行うことができません。もし民間企業がこれらの交渉を行えば、前述の非弁行為として違法となります。料金相場は1万円から2万円程度です。
次に、労働組合が運営する退職代行サービスです。労働組合法に基づく団体交渉権を持つため、組合員となった依頼者のために、会社と退職条件について交渉することができます。有給休暇の取得、未払い残業代の請求、退職日の調整、退職金の交渉などが可能です。ただし、訴訟の代理人にはなれないため、会社が訴訟を提起した場合や、損害賠償請求を行う場合には対応できません。料金は一般的に2万5千円から5万円程度です。
最後に、弁護士が運営する退職代行サービスです。弁護士は法律事務の専門家であり、あらゆる法律事務を取り扱うことができます。退職の意思表示、交渉、未払い賃金の請求、損害賠償請求、訴訟代理など、すべてに対応可能です。会社から損害賠償請求をされた場合にも対応できるため、最も安心できるサービスと言えます。ただし、費用は最も高額で、一般的に5万円から10万円、場合によってはそれ以上となることもあります。
東京弁護士会は2024年11月に、民間企業や民間企業が労働組合と提携して交渉を行う形態の退職代行サービスについて、違法な非弁行為に該当する可能性が高いとの見解を示しています。この見解は、退職代行業界に大きな影響を与え、多くの業者が運営方法の見直しを迫られることとなりました。
利用者が直面するリスクと注意点
違法な退職代行サービスを利用した場合、利用者自身が刑事罰を受けることは基本的にありませんが、さまざまなリスクが存在します。これらのリスクを理解した上で、慎重にサービスを選択することが重要です。
第一のリスクは、トラブルがエスカレートする可能性です。違法な業者が交渉を行った場合、会社側がその違法性を指摘し、交渉に応じないばかりか、かえって態度を硬化させる可能性があります。会社の人事担当者や顧問弁護士が法律に詳しい場合、退職代行業者の行為が非弁行為に該当することを見抜き、「このような違法な業者を通じた交渉には応じられない」と拒否されることがあります。その結果、退職自体が困難になったり、交渉が長期化したりする危険性があります。
第二のリスクは、適切な法的保護を受けられない可能性です。非弁護士が法律事務を取り扱う場合、専門知識が不足しているため、未払い残業代の計算が正確でなかったり、本来請求できる権利を見落としたりする可能性があります。たとえば、固定残業代制度が適用されている場合の正確な計算方法、管理監督者該当性の判断、変形労働時間制の適用要件など、複雑な法律問題を正確に処理できない可能性が高いのです。
第三のリスクは、業者が捜査対象となった場合の巻き添えです。今回のモームリのケースのように、業者が警察の捜査対象となった場合、依頼者も警察から事情聴取を受ける可能性があります。実際に刑事罰を受けることはまれですが、捜査への協力や事情聴取に応じる必要が生じ、精神的な負担は大きいでしょう。また、自分の退職に関する情報が捜査資料として扱われることへの不安も生じます。
第四のリスクは、支払った費用に見合ったサービスを受けられない可能性です。違法業者の場合、途中でサービスを放棄したり、約束したサポートを提供しなかったりする可能性があります。特に問題が複雑化した場合や、会社側が強硬な態度を取った場合に、「これ以上は対応できない」と一方的にサービスを打ち切られるケースも報告されています。
第五のリスクは、追加料金の請求です。モームリのケースでも指摘されているように、退職代行自体は安価な料金で引き受けておきながら、退職後に法的問題が発生した際に高額な弁護士費用を請求される可能性があります。初期費用が安くても、最終的には高額な費用を支払うことになる危険性があるのです。
退職代行サービスが急増した社会的背景
退職代行サービスが近年急速に普及した背景には、日本の労働環境をめぐる深刻な社会問題が存在しています。この現象を理解するためには、日本の労働文化と社会構造の変化を見ていく必要があります。
まず、ブラック企業の増加が大きな要因となっています。長時間労働と低賃金が常態化し、過剰な時間外労働が行われているにもかかわらず、適切な残業代が支払われない企業が少なくありません。厚生労働省の調査によれば、月80時間を超える時間外労働が常態化している企業は依然として多く存在し、過労死や精神疾患のリスクが高い労働環境が問題視されています。
また、パワーハラスメントの横行も深刻な問題です。上司や先輩からの精神的・肉体的な嫌がらせが日常的に行われる職場環境では、労働者は退職を申し出ることさえ困難になります。パワハラを行っている上司に直接退職を伝えることは、さらなるハラスメントを招く可能性があり、多くの労働者がこれを恐れて退職代行サービスに頼らざるを得ない状況に追い込まれています。
退職代行サービスの歴史を振り返ると、2015年ごろから存在していましたが、当初はあまり知られていませんでした。しかし、2016年にこのサービスの存在がインターネット上で拡散されて徐々に認知度が上がり、2021年以降は退職の選択肢として広く定着しました。特に新型コロナウイルス感染症の流行以降、労働環境の変化やリモートワークの普及により、職場との物理的・心理的な距離感が変化したことも、退職代行サービスの需要増加に影響していると考えられます。
特に注目すべきは、若い世代における利用の顕著な増加です。2025年の調査では、新卒入社者の25パーセントが退職代行サービスの利用を検討しているという衝撃的なデータが明らかになりました。これは昨年比40パーセント増という急増ぶりで、企業の採用戦略や労働環境に根本的な変革が必要なことを示しています。
また、マイナビの調査によると、2024年上半期(1月から6月)の間に退職代行サービスを利用して退職した人がいた企業は全体の23.2パーセントにのぼります。この数字は2021年の16.3パーセントから年々増加しており、退職代行サービスの利用が広範囲に広がっていることを示しています。
Z世代と呼ばれる若年層は、SNSを通じてパワーハラスメントやブラック企業の実態を見聞きしているため、職場に少しでもそのような兆候があれば、「ブラック企業かもしれない。身を守らなければならない」と敏感に反応する傾向があります。その結果として、彼らにとって怖い上司と直接話さずに済む退職代行サービスを利用して退職する選択をするケースが増えているのです。
適法に退職するためのポイント
労働者が安全かつ適法に退職するためには、いくつかの重要なポイントに注意する必要があります。退職代行サービスを利用する前に、まず以下の点を検討することが大切です。
第一に、自分で退職の意思を伝えることができないか検討することです。法律上、労働者はいつでも退職する権利を持っており(民法第627条)、2週間前に退職の意思を伝えれば、原則として退職できます。就業規則で「1ヶ月前」や「2ヶ月前」などと定められていても、これは民法の規定に優先するものではなく、最終的には2週間前の通知で法律上は退職可能です。パワハラなどの特別な事情がない限り、まずは自分で退職を伝える方法を検討してみましょう。
第二に、退職代行サービスを利用する場合は、運営主体を必ず確認することです。弁護士が運営しているのか、真正な労働組合が運営しているのか、それとも民間企業なのかを確認し、自分が必要とするサービス内容(単なる意思表示か、交渉が必要か、訴訟の可能性があるか)に応じて選択する必要があります。
具体的には、単に退職の意思を伝えるだけで十分な場合は民間企業のサービスでも問題ありませんが、有給休暇の消化や未払い残業代の請求など、会社との交渉が必要な場合は労働組合運営のサービスを選択すべきです。また、会社から損害賠償請求をされる可能性がある場合や、こちらから会社に対して法的請求を行う場合は、弁護士運営のサービスを選択するのが賢明です。
第三に、料金体系が明確で、追加料金の有無が明示されているかを確認することです。極端に安い料金を謳っている場合、後から追加料金を請求されたり、弁護士への紹介料として高額な費用を要求されたりする可能性があります。初期費用だけでなく、追加料金の可能性、返金保証の有無、失敗した場合の対応なども事前に確認しておく必要があります。
第四に、過去の実績や口コミを複数の情報源から確認することです。ただし、インターネット上の口コミには業者自身による自作自演のものや、競合他社によるネガティブキャンペーンも含まれる可能性があるため、複数の情報源を確認し、総合的に判断することが重要です。特に、弁護士会や労働組合などの公的機関からの情報は信頼性が高いと言えます。
第五に、契約内容を十分に確認し、不明点があれば質問することです。どのようなサービスが提供されるのか、どこまでサポートしてもらえるのか、失敗した場合の返金保証はあるのか、個人情報の取り扱いはどうなっているのかなどを事前に確認しておく必要があります。また、契約書や利用規約をしっかりと読み、理解した上で契約することが大切です。
企業側の対応と労働環境改善の必要性
退職代行サービスの急増は、企業側にとっても重要な警鐘となっています。従業員が直接退職を申し出ることができず、第三者のサービスを利用しなければならない状況は、その企業の労働環境や人間関係に深刻な問題があることを示唆しています。
企業は、退職代行サービスを使われた場合、まず冷静に対応することが重要です。感情的になったり、退職を認めないという態度を取ったりすることは避けるべきです。退職の自由は労働者の基本的な権利であり、企業が退職を拒否することはできません。また、退職代行業者が非弁行為を行っているとしても、それは業者の問題であり、従業員本人の退職の意思は尊重されるべきです。
また、退職代行サービスを使われた事実を真摯に受け止め、社内の労働環境を見直すきっかけとすることが重要です。長時間労働の是正、パワーハラスメントの防止、適切な労働条件の提供、風通しの良い職場環境の構築などに取り組む必要があります。退職代行サービスを使われたということは、従業員が直接コミュニケーションを取ることを恐れるほど、職場環境に問題があったということを意味しているのです。
さらに、従業員が退職の意思を直接伝えやすい環境を整備することも重要です。定期的な面談の実施、匿名での相談窓口の設置、人事部門の中立性の確保、退職手続きの簡素化などが有効な対策となります。退職を「裏切り」や「迷惑」と捉える文化を改め、キャリアの選択肢の一つとして前向きに捉える企業文化を醸成することが求められます。
今後の法整備と業界の展望
現在、退職代行サービスに関する特別な法規制は存在せず、弁護士法や労働組合法などの既存の法律を適用して違法性を判断している状況です。このため、法的な解釈が確立されておらず、グレーゾーンが多く存在しています。
今後、退職代行サービスに関する法整備が進む可能性があります。具体的には、退職代行サービスを提供できる主体を法律で明確に定める、業務範囲を法律で規定する、利用者保護のための情報開示義務を課す、違法業者に対する罰則を強化するなどの措置が考えられます。
また、業界団体による自主規制の確立も重要です。現在のところ、退職代行業界には統一的な業界団体やガイドラインが存在しないため、各事業者が独自の判断で業務を行っている状況です。業界全体の信頼性を高めるためには、適法に運営している事業者が中心となって業界団体を設立し、自主的な行動規範やガイドラインを策定することが求められます。
警視庁による今回の家宅捜査は、捜査の初期段階であり、今後の展開が注目されます。株式会社アルバトロスおよび関係者が実際に起訴されるかどうかが重要なポイントです。起訴され、有罪判決が確定すれば、退職代行業界における違法行為の抑止力となるでしょう。
また、関連する法律事務所の弁護士に対する処分も注目されます。弁護士が非弁提携に関与していた場合、弁護士会による懲戒処分(戒告、業務停止、退会命令など)の対象となる可能性があります。弁護士に対する厳しい処分が行われれば、他の弁護士も非弁提携に関与することを控えるようになり、業界全体の健全化につながることが期待されます。
まとめ
退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスに対する警視庁の家宅捜査は、退職代行業界における違法性の問題点を明らかにする重要な契機となっています。弁護士法第72条に定められた非弁行為の禁止は、法律の専門家でない者が法律事務を取り扱うことによる消費者被害を防止するための重要な規定であり、退職代行サービスにおいても厳格に適用される必要があります。
退職代行サービス自体は、パワーハラスメントやブラック企業に苦しむ労働者にとって有効な手段であり、一定の社会的意義を持つサービスです。しかし、その提供方法が法律に違反していれば、かえって利用者を危険にさらすことになります。適法なサービスと違法なサービスを見分ける目を持ち、自分の状況に応じた適切なサービスを選択することが重要です。
今回の事案を教訓として、退職代行業界全体が自浄作用を働かせ、適法かつ適切なサービス提供を行うことが求められます。また、利用者側も、退職代行サービスの法的位置づけや選択基準についての知識を持ち、自己防衛することが重要です。警視庁による捜査は現在も継続中であり、今後の展開が注目されます。この事案が、退職代行業界の健全な発展と、労働者の権利保護の両立に向けた転換点となることが期待されます。
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