毎年11月に福岡で開催される大相撲九州場所は、一年を締めくくる本場所として多くのファンを魅了しています。澄み切った秋の空気の中、福岡国際センターには全国から相撲ファンが集まり、15日間にわたる熱戦が繰り広げられます。九州場所での観戦を計画する際、多くの方が最初に直面するのがマス席とイス席のどちらを選ぶかという選択です。この選択は単なる座席の違いを超えて、観戦体験の質そのものを大きく左右します。伝統的な観戦スタイルを体現するマス席では、土俵と同じ目線で力士の息遣いを感じながら飲食を楽しむことができます。一方、イス席は背もたれのある快適な座席から土俵全体を俯瞰でき、長時間の観戦でも身体への負担を軽減できます。さらに、料金面でも両者には大きな違いがあり、平日と土日祝で価格が変動するほか、マス席の場合は定員によっても一人当たりの費用が異なります。本記事では、九州場所のマス席とイス席について、料金体系の詳細、それぞれの特徴や違い、視界の良さ、快適性など、あらゆる角度から徹底的に比較します。あなたの観戦スタイルや予算、同行者の人数に合わせて最適な席を選ぶための判断材料を提供いたします。

マス席とイス席の基本的な違いとは
大相撲九州場所の観戦席を選ぶ際には、まずマス席とイス席の本質的な違いを理解することが重要です。この二つの席種は、単に座る場所が異なるだけでなく、観戦体験そのものが根本的に異なります。
マス席は相撲観戦の伝統的なスタイルを体現する席です。土俵のある1階フロアに設けられており、床に直接座って観戦します。鉄パイプで区切られた四角い枡の中に、1人から最大6人まで座ることができる設計になっています。この観戦スタイルは江戸時代から続く相撲文化の流れを汲んでおり、力士との距離が近く、取組の迫力を直接肌で感じることができます。マス席では飲食物の持ち込みや購入したお弁当を広げての観戦が可能で、まるで宴会のような賑やかな雰囲気の中で相撲を楽しめます。
これに対してイス席は、現代的な快適性を重視した座席です。福岡国際センターでは2階以上に設けられており、背もたれのある椅子に座って観戦します。一般的なスポーツ観戦と同様に、個人のスペースが明確に確保されており、長時間座っていても身体への負担が少ないのが特徴です。階段状の構造により前の人の頭で視界が遮られることが少なく、土俵全体を見渡せる俯瞰的な視点が得られます。
この二つの選択肢を評価する上で注目すべきは、福岡国際センターが相撲の開催を前提に設計された施設である点です。多目的アリーナとは異なり、柱のない広大な空間が確保されているため、どの席からでも比較的良好な視界が得られます。この会場の優れた設計により、マス席の臨場感とイス席の眺望という、それぞれの長所が最大限に活かされています。
マス席の料金体系を詳しく解説
マス席の料金は、土俵からの距離と定員、そして曜日によって細かく設定されています。価格の違いは単なる金額差ではなく、それぞれの席で得られる体験価値の違いを反映しています。
土俵からの距離による価格差
マス席は土俵からの距離によってS席、A席、B席、C席の4つのグレードに分かれています。最も土俵に近いマスS席は1列目から4列目に位置し、4人用の場合、平日が56,000円、土日祝が60,000円となっています。この席では力士が立ち合いでぶつかり合う音や荒い息遣い、清めの塩が舞う光景を間近で体感でき、五感を揺さぶる強烈な臨場感が得られます。
5列目から8列目に配置されるマスA席は、4人用で平日46,000円、土日祝50,000円です。土俵から少し離れることで取組全体の流れや駆け引きを冷静に観察できる余裕が生まれる一方で、1階席ならではの熱気や一体感は十分に感じられる絶妙なバランスの席です。
9列目から12列目のマスB席は、4人用で平日38,000円、土日祝42,000円となっています。土俵からの距離は遠くなりますが、床に座りながら飲食を楽しむというマス席ならではの体験は変わらず楽しめます。
最も後方の13列目から15列目に位置するマスC席は、4人用で平日34,000円、土日祝38,000円と最も手頃な価格設定です。ただし後方席では前の観客の座高や姿勢によって視界が遮られる可能性があることは理解しておく必要があります。
定員別の料金設定
九州場所のマス席は、観客のニーズに応じて1人用から6人用まで多様な定員設定があります。1人で観戦する場合、マスB席であれば平日10,000円、土日祝10,500円で利用できます。2人用のマス席やペアシートは19,000円前後から設定されており、カップルや友人同士での観戦に適しています。
特に人気が高いのが「らくらくマス」です。これは通常4人用のスペースを2人で使用する贅沢な席で、マス席の雰囲気を味わいながらも窮屈さから解放されてゆったりと観戦できます。価格は通常の2人用マスより高めですが、快適性を求める方には価値のある選択肢となっています。
6人用のマス席は大人数のグループや家族での観戦に便利で、一人当たりの費用を抑えられるメリットがあります。このように定員によって選択肢が豊富に用意されていることで、あらゆる観戦スタイルに対応できる仕組みになっています。
平日と土日祝の価格差
すべてのマス席において、平日と土日祝で料金が異なる点は重要なポイントです。例えば4人マスS席では4,000円、4人マスC席でも4,000円の差があります。この価格差は週末や祝日に観客が集中するという需要と供給の原則を反映しており、より多くの観客で賑わう祝祭的な雰囲気を体験するためには追加のコストが必要になります。
予算を抑えたい場合は平日の観戦を選ぶことで、同じ席種でも数千円から1万円近く節約できます。特に休暇を自由に取れる方や平日に時間の都合がつく方にとって、平日観戦はコストパフォーマンスの高い選択となるでしょう。
イス席の料金体系を詳しく解説
イス席の料金体系はマス席と比べてシンプルで分かりやすいのが特徴です。個人単位で購入するため、グループの人数構成に左右されず、必要な枚数だけチケットを確保できます。
グレード別の価格設定
イス席は上位からS席、A席、B席、C席、D席の5つのグレードに分かれています。イスS席は2階や3階の前方に位置し、平日9,000円、土日祝9,500円です。肘掛けやテーブルが付いていることもあり、快適な設備が整えられています。最高の眺望と快適性を両立させた席で、マス席の伝統的なスタイルにこだわらない方には極めて質の高い観戦体験を提供します。
イスA席は平日8,000円、土日祝8,500円で、イスS席に次ぐ良好な視界と快適性を備えています。土俵全体を見渡せる俯瞰的な視点から、力士の足さばきや土俵際の攻防を戦略的に観察できます。
イスB席は平日5,500円、土日祝6,000円、イスC席は平日4,000円、土日祝4,500円と中価格帯の設定です。後方にはなるものの、会場の傾斜構造のおかげで取組の様子は十分に把握できます。手頃な価格で相撲の雰囲気を存分に楽しみたい方にとって、優れたコストパフォーマンスを発揮する席です。
最も手頃なイスD席は平日・土日祝ともに2,500円という破格の値段で提供されています。会場の最上段に位置しますが、福岡国際センターの優れた設計により、この席からでも勝負の行方は意外なほどよく見えます。わずかな投資で満員御礼の熱気と国技の迫力を体感できるイスD席は、特に初めての観戦や若者、学生にとって並外れた価値を持つ選択肢です。
イス席の価格的なメリット
イス席の大きな利点は、少人数での観戦時のコストパフォーマンスの高さです。一人で観戦する場合、イスS席でも9,500円以内で収まり、イスD席なら2,500円という手軽さです。二人での観戦でも、イスA席2枚で17,000円程度と、マス席の多くの選択肢より安価に抑えられます。
また、イス席は予算に応じて柔軟に選べるという利点もあります。同じグループ内で予算が異なる場合でも、それぞれが希望する価格帯の席を購入できます。マス席のように全員が同じ枡を共有する必要がないため、観戦スタイルの自由度が高いのです。
マス席とイス席の料金比較:シーン別分析
実際の観戦シーンを想定して、マス席とイス席の料金を比較すると、どちらが自分に適しているかがより明確になります。
一人で観戦する場合
一人旅や一人で相撲を楽しみたい方の場合、選択肢は豊富です。伝統を重んじるなら1人マスB席が平日10,000円、土日祝10,500円で利用できます。これに対してイスS席は平日9,000円、土日祝9,500円と、マス席よりわずかに安価で快適性も高くなっています。
予算を最優先するなら、イスD席の2,500円という選択肢は魅力的です。マス席の一人用と比べて約7,500円から8,000円も節約でき、その差額で美味しい食事や記念品を購入できます。一人当たりのコストで見ると、イス席のほうが経済的であることが多いです。
カップルや友人二人で観戦する場合
二人での観戦には、マス席側に特別な選択肢が用意されています。4人マスを2人でゆったり使える「らくらくマス」やテーブル付きの「ペアシート」は、2人で19,000円前後からとなっています。これに対してイスA席を2席確保した場合の合計は平日16,000円、土日祝17,000円程度です。
数千円の差をどう捉えるかがポイントです。マス席ならではの特別感や伝統的な体験を重視するなら、追加費用を払う価値は十分にあります。一方、快適性と視界の良さを優先し、予算も抑えたいならイス席が合理的な選択となります。
家族や友人グループで観戦する場合
4人家族や友人グループでの観戦では、価格差が最も顕著になります。土日祝に4人マスC席を確保すると38,000円が必要ですが、イスC席を4席購入した場合の合計金額は18,000円(4,500円×4人)となり、その差は20,000円にも及びます。
この大きな価格差は、予算を優先して個々の快適さを取るか、追加費用を払ってでも家族団らんの伝統的な観戦スタイルを選ぶかという明確な選択を迫ります。マス席では全員が同じ空間を共有し、飲食を楽しみながら一体感を味わえます。イス席では各自が快適な座席を持ち、長時間でも疲れにくい環境で観戦できます。
大人数の場合、6人用マスを選ぶことで一人当たりの費用をさらに抑えることも可能です。観戦の目的や同行者の年齢層、体力などを考慮して最適な選択をすることが重要です。
マス席の特徴とメリット・デメリット
マス席は相撲観戦の伝統と格式を体現する席であり、独特の魅力と同時に理解しておくべき制約もあります。
マス席のメリット
マス席最大の魅力は、何と言っても圧倒的な臨場感です。土俵と同じ目線で観戦するため、力士が立ち合いでぶつかり合う轟音、荒い息遣い、うなり声、清めの塩が霧のように舞う光景など、五感で相撲を感じることができます。時には巨体が土俵下に転がり落ちてくるスリルもあり、これらはテレビでは決して伝わらない生の迫力そのものです。
また、マス席では飲食の自由度が高いという大きな利点があります。お弁当や焼き鳥、お酒などを持ち込んだり会場で購入したりして、枡の中に広げて楽しむことができます。まるでピクニックや宴会のような賑やかな雰囲気の中で観戦できるのは、マス席ならではの醍醐味です。
さらに、狭い空間を共有することで隣のグループとの交流が生まれることもマス席の特徴です。見知らぬ観客同士が自然に会話を始めたり、おつまみを交換したりといった温かい交流が生まれることもあります。この人間的な触れ合いは、相撲観戦という文化体験をより豊かなものにしてくれます。
マス席のデメリット
マス席の物理的な制約として、まず挙げられるのが窮屈さです。標準的な4人マスは一辺が約1.3メートル四方の正方形で、昭和初期の日本人の体格を基準に設計されています。現代の成人、特に体格の大きな方にとってはかなり窮屈に感じられることが多く、大人4人で座ると膝が触れ合い、身動きを取るのも一苦労という声は珍しくありません。
長時間床に座ることの身体的負担も大きな課題です。あぐらや正座を数時間続けるのは足腰への負担が大きく、時折姿勢を変えながら観戦することになります。特に高齢の方や膝や腰に不安のある方、普段床に座る習慣のない方にとっては、観戦の後半になると辛く感じることもあります。
また、後方のマス席では前の観客によって視界が遮られる可能性があることも理解しておく必要があります。前の席の方の座高が高かったり、頻繁に立ち上がったりすると、肝心の取組が見えにくくなることがあります。この点はイス席の階段状構造とは対照的です。
マス席観戦時の服装の注意点
マス席で観戦する際は、服装選びが快適性を大きく左右します。床に長時間座ることを前提に、体を締め付けないゆったりとした服装が絶対条件です。ゆったりとしたパンツや足さばきの良いロングスカートなどが推奨されます。
逆に、タイトなジーンズやミニスカート、短パンなどは避けるべきです。窮屈なだけでなく、座ったり立ったりする際にも不便で、周囲への配慮という点でも適切ではありません。また、マス席では靴を脱いで上がるため、着脱しやすい靴を選ぶことも重要です。ロングブーツなどは置き場所に困るため現実的ではありません。
イス席の特徴とメリット・デメリット
イス席は現代的な快適性と機能性を重視した観戦スタイルであり、特定のニーズを持つ観客にとって理想的な選択肢となります。
イス席のメリット
イス席最大の利点は、圧倒的な快適性です。背もたれのある椅子、自分だけのパーソナルスペース、明確に区切られた座席。これらは特に高齢の方や身体に不安を抱える方、長時間の観戦を計画している方にとって何物にも代えがたい利点です。マス席での長時間のあぐらや正座が困難な場合でも、イス席であれば体への負担を最小限に抑えて純粋に取組に集中できます。
俯瞰的な視点による優れた視界もイス席の大きな魅力です。2階や3階から見下ろす土俵は、戦いのすべてを視界に収めることができます。力士たちの緻密な足さばき、土俵際での攻防、土俵全体の空間をどのように使っているかといった戦略的な側面を理解するには、この俯瞰的な視点が非常に有効です。
さらに、階段状の座席配置により前の人に視界を遮られることがほとんどないという構造的な利点があります。どの席に座っても基本的に土俵全体が見渡せるため、後方の席でも観戦の質が極端に落ちることはありません。福岡国際センターは相撲専用に設計されているため、最後列からでも力士が豆粒のようにしか見えないという事態に陥りにくいのです。
イス席のデメリット
イス席の最大の妥協点は、土俵との物理的な距離です。マス席で感じるような力士の肉体がぶつかり合う生々しい衝撃や、土俵の砂が舞う臨場感は薄れます。観戦の雰囲気はより現代的なスポーツイベントに近く、伝統的な儀式への「参加者」というよりは、少し離れた場所からの「観察者」という立場になります。
また、イス席では飲食に一定の制約があります。マス席のように広げて宴会のように楽しむことは難しく、膝の上や足元に置いて静かに食べる形になります。周囲との距離が近いため、匂いの強い食べ物などは控えるべきでしょう。
イス席観戦時の服装
イス席の場合、マス席ほど服装に制約はありませんが、やはり長時間の観戦を考慮した快適な服装が望ましいです。会場内は空調が効いていますが、人の熱気で暑く感じたり、逆に冷えを感じたりすることもあるため、カーディガンやストールなど簡単に着脱できる羽織りものがあると体温調節に便利です。
席種にかかわらず共通するマナーとして、後方の観客の視界を遮る可能性のあるつばの広い帽子や大きな髪飾りは避けるべきです。
視界と臨場感の違いを徹底比較
マス席とイス席では、視点の高さと距離が根本的に異なるため、観戦体験の質も大きく変わります。
マス席からの視界
マス席は土俵と同じ高さのフロアに設置されており、水平方向の視点で観戦します。土俵に近い前方席では、力士の表情や筋肉の動き、足の踏ん張り具合まで細かく観察できます。特にマスS席やマスA席では、力士との距離が非常に近いため、その巨体の迫力を直接感じることができます。
ただし、水平方向の視点であるがゆえに、土俵全体を一度に見渡すことは難しいという側面もあります。特に土俵上での細かな足さばきや、土俵際の微妙な体勢の変化などは、真横から見る形になるため全体像を把握しにくい場合があります。
また、前述の通り後方のマス席では前の観客の頭や体で視界が遮られるリスクがあります。特に満員の日には前の席の方が立ち上がったり体を揺らしたりすることもあり、見えにくくなる瞬間があることは覚悟しておく必要があります。
イス席からの視界
イス席は2階以上の高い位置から斜め上方の視点で土俵を見下ろす形になります。この俯瞰的な視点により、土俵全体が視界に収まり、両力士の位置関係や動きの流れが非常に分かりやすくなります。力士が土俵のどの位置にいるか、どのように間合いを詰めているかといった戦略的な側面を理解しやすいのが大きな利点です。
階段状の座席配置により、どの席からでも前の人に遮られることなく土俵を見ることができます。特にイスS席やイスA席などの前方席では、土俵を完全に見下ろす形になり、両力士の足さばきや土俵際の攻防を鳥の目で観察できます。
写真撮影を趣味とする方にとっても、イス席からの視点は魅力的です。実際、イス席の最前列には高性能な望遠レンズを構えた報道関係者や熱心なファンが陣取ることが多く、取組の決定的な瞬間を捉えるのに優れた位置であることが分かります。
臨場感の違い
臨場感という点では、マス席が圧倒的に優位です。力士が立ち合いでぶつかり合う「バチン!」という轟音、荒い息遣い、土俵を踏みしめる音、観客のどよめき、これらすべてが一体となって身体に響いてきます。時には力士が土俵下に転がり落ちてくることもあり、その緊張感とスリルはマス席でしか味わえません。
また、会場全体の熱気や一体感もマス席のほうが強く感じられます。周囲の観客と空間を共有し、同じ目線で同じ瞬間を体験するという参加型の体験は、相撲という伝統文化への深い没入感をもたらします。
一方、イス席は臨場感という点ではマス席に劣りますが、冷静に取組を分析できるという別の価値があります。感情的な高揚よりも、技術的な側面や戦略的な駆け引きに興味がある方にとっては、イス席の落ち着いた視点のほうが適している場合もあります。
快適性と観戦時間の長さで選ぶ
観戦の快適性は、特に一日を通して観戦する場合に重要な要素となります。
長時間観戦とマス席
九州場所は朝8時から夕方6時頃まで開催されており、幕内取組だけでなく序ノ口から観戦する熱心なファンも少なくありません。しかし、8時間以上床に座り続けるというのは、想像以上に身体への負担が大きいものです。
若く体力のある方や、普段から床に座る習慣のある方であれば問題ありませんが、多くの方にとってマス席での長時間観戦は足腰が痛くなり、観戦後半には集中力が落ちてしまう可能性があります。実際、マス席で観戦する多くの方は、時折立ち上がって伸びをしたり、座り方を変えたりしながら観戦しています。
長時間観戦とイス席
イス席の場合、背もたれのある椅子に座るため、長時間でも疲労が蓄積しにくいという利点があります。映画館やコンサートホールと同様の座席環境のため、多くの方にとって慣れた姿勢で観戦できます。
朝から夕方まで一日中観戦することを計画している場合、あるいは高齢の方や小さなお子様連れの場合、イス席のほうが体力的な負担を大幅に軽減できます。疲れを気にせず純粋に取組に集中できることで、観戦の満足度が高まることも多いです。
短時間観戦ならマス席も選択肢
一方で、幕内取組だけを観戦する予定で、滞在時間が3〜4時間程度であれば、マス席の身体的負担はそれほど大きな問題にはなりません。むしろ短時間だからこそ、濃密な伝統体験としてマス席を選ぶのも良い判断です。
また、「らくらくマス」のように2人で4人分のスペースを使える席を選べば、窮屈さが大幅に緩和され、通常のマス席よりもずっと快適に過ごせます。
九州場所ならではの楽しみ方
九州場所の魅力は座席選びだけでなく、会場全体で楽しめる様々な要素にあります。
喜久家のお弁当と福岡の味
大相撲の伝統的なお茶屋制度は九州場所には存在しませんが、その代わりに有限会社大相撲売店喜久家という一社が、お弁当やお土産の販売を一手に担っています。
喜久家が提供するお弁当は九州場所の名物として知られており、軍配の形にご飯を盛り付けた「軍配幕ノ内弁当」(2,000円)や、秋の食材をふんだんに使った「上幕ノ内弁当」(2,700円)は観戦の雰囲気を一層盛り上げてくれます。地鶏を使った「かしわめし弁当」や売り切れ必至の「焼き鯖寿司」など、地元福岡の味覚を楽しめるのも魅力です。
近年ではJA全農ふくれんと協力し、博多和牛やはかた地どりといった地元ブランド食材を使用したコラボ弁当も登場し、食の楽しみはさらに広がっています。人気のお弁当は午前中に売り切れてしまうこともあるため、早めの購入がおすすめです。
キッチンカーエリアの賑わい
近年、会場の楽しみ方に新たな次元を加えているのが、正面入り口前に展開されるキッチンカーエリアです。ここでは熱々の「ちゃんこ」(600円)から博多名物「めんたい塩焼きそば」(500円)まで、多彩なグルメが提供されます。
このエリアは入場券がなくても利用でき、取組を映し出すモニターも設置されているため、チケットを持たない人々も祭りの雰囲気を味わうことができる開かれた交流の場となっています。マス席でお弁当を広げるのも良いですが、イス席で観戦する方はキッチンカーで購入した食べ物を楽しむこともできます。
会場の雰囲気と時間の流れ
九州場所の一日は、時間の経過とともにその表情を劇的に変えます。序ノ口や三段目といった下位力士の取組が行われる午前中は観客もまばらで、静かで穏やかな時間が流れます。この時間帯は将来の横綱を目指す若手力士たちのひたむきな取組を間近で観戦でき、ゆっくりと売店やキッチンカーを見て回る余裕もあります。
午後になり十両、そして幕内力士が登場する頃には、会場は満員の観客で埋め尽くされ、熱気は最高潮に達します。生の相撲観戦はまさに五感を刺激する体験です。力士が激しくぶつかり合う鈍い音、行司の張りのある声、観客席から沸き起こるどよめきと拍手。そして会場内を漂う独特の香り、それは力士が髪を結うために使う「鬢付け油」の甘くどこか懐かしい香りです。
クライマックスは、幕内力士が豪華絢爛な化粧廻しを締めて土俵に勢揃いする「幕内土俵入り」と「横綱土俵入り」です。人気力士が登場すると観客席では応援タオルが振られ、会場の一体感は頂点に達します。これらすべての要素が融合し、テレビ観戦では決して味わうことのできない忘れがたい記憶を刻み込むのです。
チケット購入の方法と注意点
九州場所のチケットは年々人気が高まっており、入手が困難になっています。確実に入手するためには戦略的なアプローチが必要です。
チケット販売の段階
最初のチャンスは、日本相撲協会の「公式ファンクラブ」会員を対象とした先行抽選販売です。特に「横綱」「大関」といった上位会員は当選確率が高く、良い席を確保する上で最も有利な方法です。
次に、「チケット大相撲」や「チケットぴあ」といったプレイガイドが実施する先行抽選が続きます。ファンクラブに入会していなくても申し込めますが、競争率は高くなります。
最後の砦が一般発売です。これは先着順の熾烈な争奪戦となり、特に土日祝や千秋楽といった人気日程は発売開始からわずか数分で完売することも珍しくありません。一般発売での入手は運に恵まれなければ難しいのが現状です。
二次流通市場の活用
公式ルートでチケットが完売した場合でも、二次流通市場では取引されていることがあります。ただし価格が定価より大幅に高くなっていることが多いため、予算との兼ね合いを慎重に検討する必要があります。
購入する際は信頼できるプラットフォームを利用し、詐欺や偽造チケットに注意することが重要です。
当日の観戦を最大限に楽しむためのコツ
せっかく九州場所のチケットを手に入れたら、当日を最高の体験にするための準備をしましょう。
到着時間の工夫
早めに会場に到着するのがおすすめです。午前10時頃に到着すれば、まだ人も少なく落ち着いて会場の雰囲気を味わえます。将来の横綱を目指す若手力士たちのひたむきな取組を観戦しながら、200種類以上ものグッズが並ぶ売店をゆっくり見て回ったり、キッチンカーエリアのメニューをチェックしたりする時間的余裕が生まれます。
人気のお弁当は午前中に売り切れてしまうこともあるため、食事の計画がある方は特に早めの到着が有利です。
持ち物の準備
マス席で観戦する場合、座布団やクッションを持参すると快適性が大幅に向上します。会場でもレンタルや販売がありますが、自分に合ったものを持ち込むのも良いでしょう。また、飲み物や軽食を持ち込むことも可能ですが、会場のお弁当やグルメを楽しむのも九州場所の醍醐味です。
イス席の場合は特別な持ち物は必要ありませんが、双眼鏡やオペラグラスがあると力士の表情までよく見えて観戦がより楽しくなります。特に後方席では重宝します。
写真撮影のマナー
九州場所では個人的な写真撮影は認められていますが、フラッシュの使用は禁止されています。また、取組中に立ち上がっての撮影は後方の観客の迷惑になるため避けましょう。土俵入りや弓取式など、取組以外の時間帯に撮影するのがマナーです。
帰りの交通手段
取組終了後、福岡国際センター前からは博多駅や天神方面への臨時直行バスが頻繁に運行されます。大混雑の中でも比較的スムーズに帰路につくことができるため、事前に乗り場を確認しておくと良いでしょう。
九州場所と他の場所の違い
九州場所には、東京の両国国技館で開催される場所とは異なる特徴がいくつかあります。
会場の特性
福岡国際センターは相撲の開催を念頭に置いて設計された施設であり、柱のない広大な空間が確保されています。これにより、どの席からでも比較的良好な視界が得られます。一方、両国国技館は大相撲の本拠地として長い歴史を持ち、より伝統的な雰囲気が漂います。
お茶屋制度の有無
東京場所では、チケットの手配から飲食物の提供、お土産の用意まできめ細やかなサービスで観客をもてなす伝統的なお茶屋制度が機能していますが、九州場所にはこの制度がありません。代わりに喜久家という一社がその役割を担っています。
地域色豊かな食文化
九州場所では、博多和牛、はかた地どり、めんたい塩焼きそばなど、地元福岡ならではの食材やグルメを楽しめるのが大きな魅力です。地域の特色を活かした食の楽しみは、九州場所ならではの体験と言えるでしょう。
初めての方へのおすすめプラン
初めて九州場所を観戦する方には、以下のようなプランがおすすめです。
予算重視ならイスD席
とにかく手軽に相撲の雰囲気を味わいたい、初めてなので高額な投資は避けたいという方には、イスD席(2,500円)が最適です。最上段からの観戦になりますが、福岡国際センターの優れた設計により意外なほどよく見えます。わずかな投資で国技の迫力を体感できるのは大きな魅力です。
バランス重視ならイスB席またはイスC席
視界と価格のバランスを取りたい方には、イスB席(5,500円〜6,000円)またはイスC席(4,000円〜4,500円)がおすすめです。土俵全体を見渡せる俯瞰的な視点を確保しながら、手頃な価格で観戦できます。
伝統体験重視なら後方のマス席
「せっかくなら伝統的なスタイルを体験したい」という方には、マスC席やマスB席が選択肢になります。予算は高くなりますが、床に座って飲食を楽しみながら観戦するという日本文化ならではの体験ができます。ただし長時間床に座ることの身体的負担は理解しておく必要があります。
初回はイス席で全体像を把握し、2回目以降にマス席に挑戦するという段階的なアプローチも賢い選択です。
よくある質問と回答
マス席は何人で座れますか?
九州場所のマス席は、1人用から6人用まで多様な定員設定があります。最も一般的なのは4人用ですが、観戦人数に応じて柔軟に選択できます。2人で観戦する場合は2人用マスやペアシート、らくらくマス(4人スペースを2人で使用)なども選べます。
一人でマス席に座れますか?
はい、1人用のマス席が用意されています。料金はグレードによって異なり、例えばマスB席なら平日10,000円、土日祝10,500円で利用できます。一人でも伝統的なマス席体験を楽しむことができます。
子供連れでも大丈夫ですか?
子供連れでの観戦も可能ですが、席種選びが重要です。小さなお子様の場合、長時間床に座るマス席は飽きてしまったり疲れてしまったりする可能性があります。背もたれのあるイス席のほうが快適に過ごせることが多いでしょう。また、九州場所には「キッズマス」という子供向けの企画席もあります。
飲食物の持ち込みはできますか?
マス席では飲食物の持ち込みが可能で、お弁当やお酒を広げて楽しむことができます。イス席でも基本的に持ち込みは可能ですが、スペースが限られているため膝の上や足元で食べる形になります。会場内でも多彩なお弁当やグルメが販売されています。
どちらの席が写真撮影に向いていますか?
イス席のほうが写真撮影には向いています。高い位置から土俵全体を見渡せるため、両力士の位置関係や取組の全体像を捉えやすくなります。特にイスS席やイスA席の前方は、望遠レンズでの撮影に適した位置です。マス席は臨場感のある迫力ある写真が撮れますが、角度が限られます。
車椅子での観戦は可能ですか?
福岡国際センターには車椅子席が用意されています。事前に日本相撲協会に問い合わせて予約することをおすすめします。バリアフリー対応もされており、安心して観戦できる環境が整備されています。
まとめ:あなたに最適な席はどちら?
九州場所のマス席とイス席は、それぞれが異なる価値を提供しており、どちらが優れているかという単純な比較では結論が出ません。大切なのは、あなたが相撲に何を求め、どのような体験をしたいかという点です。
マス席を選ぶべき方
- 日本の伝統文化の神髄に触れたい
- 物理的な快適さより本物の体験を優先する
- 家族や友人と飲食を楽しみながら一体感を味わいたい
- 力士の迫力を間近で体感したい
- 観戦時間が比較的短い(3〜4時間程度)
- 床に座ることに抵抗がない
イス席を選ぶべき方
- 快適な環境で取組をじっくり分析したい
- 限られた予算で最大限の価値を引き出したい
- 高齢の方や小さなお子様連れで身体的負担を避けたい
- 長時間観戦する予定(一日中など)
- 初めての相撲観戦で気軽に楽しみたい
- 土俵全体を見渡せる視点が欲しい
- 写真撮影を楽しみたい
料金面の要点
- 一人当たりのコストではイス席のほうが経済的なことが多い
- 4人以上のグループではマス席とイス席で大きな価格差が出る
- 平日観戦を選ぶことで数千円の節約が可能
- らくらくマスやペアシートは快適性と伝統体験のバランスが良い
最終的に選ぶべきは一つの「席」ではなく、あなたが日本の国技の力と伝統、そしてドラマを目撃するための「レンズ」です。あなたの価値観、予算、同行者、観戦時間などを総合的に考慮して、最も合ったレンズを選ぶこと。それこそが、福岡での一日を生涯忘れられない特別な思い出に変えるための最も重要な一歩なのです。
九州場所は福岡という土地ならではの食文化や温かいホスピタリティも魅力です。会場で過ごす一日が、相撲という日本文化の素晴らしさを再発見する貴重な機会となることを願っています。マス席でもイス席でも、あなたにとって最高の観戦体験となりますように。


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