厚生年金で月額15万円以上もらえる人は約47%!受給割合と男女差を解説

社会

厚生年金で月額15万円以上を受給している人の割合は、全体の約47.6%です。つまり、厚生年金受給者の半数以上にあたる約52.4%の人が、月額15万円未満の年金で生活しているという厳しい現実があります。この数字は、会社員として長年働いても、老後に十分な年金を得ることが決して容易ではないことを示しています。

令和5年度の厚生労働省統計では、厚生年金受給者全体の平均月額は14万6,429円と、15万円に届いていません。さらに男女間で大きな差があり、男性の約66.8%が月額15万円以上を受給している一方で、女性はわずか約10.3%にとどまっています。老後の生活設計を考える上で、この受給割合の実態を把握しておくことは非常に重要です。この記事では、厚生年金の月額15万円以上受給者の詳細な分布状況から、男女間格差の要因、15万円を達成するために必要な条件、そして額面と手取りの違いまで、データに基づいて詳しく解説していきます。また、2024年の財政検証や2025年の年金制度改正が将来の年金受給にどのような影響を与えるのかについても触れていきます。

厚生年金の月額15万円以上受給者の割合とは

厚生年金の受給額は、老後の生活水準を大きく左右する重要な指標です。「月額15万円」という金額は、単身高齢者が最低限の文化的で健康的な生活を営むための基盤となり得る水準として、一つの目安とされています。夫婦世帯においては、この金額に配偶者の基礎年金を合わせることで、ある程度ゆとりのある生活を目指すことができます。

厚生労働省が公表した「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」のデータを詳しく見ると、厚生年金受給権者全体のうち、月額15万円以上を受給している人は502万6,090人となっています。これを割合で表すと全体の約47.6%であり、半数に満たない数字です。この統計は、「普通の会社員なら老後は安泰」という従来の考え方が、現代においては必ずしも当てはまらないことを明確に示しています。

月額15万円という基準を考える際に重要なのは、この金額が年額に換算すると180万円になるという点です。高齢者世帯の生活費として見た場合、家賃や光熱費、食費、医療費などを賄うには決して余裕のある金額とは言えません。特に都市部で単身生活を送る場合、家賃負担だけでも相当な割合を占めることになります。

厚生年金受給者の平均月額の実態

厚生年金受給者の全体像を理解するためには、まず平均受給額を確認することが重要です。令和5年度のデータでは、厚生年金保険(第1号)の受給権者全体の平均年金月額は14万6,429円でした。この金額には基礎年金(国民年金)部分が含まれており、実際に受給者が受け取る公的年金の合計額に近い数値となっています。

注目すべきは、この平均値自体が月額15万円を下回っているという事実です。平均値とは、極端に高い数値や低い数値によって影響を受けるものですが、その平均でさえ15万円に届いていないことは、厚生年金受給者の多くにとって月額15万円が当たり前の水準ではないことを物語っています。

受給額階級別の詳細な分布状況

受給額の分布をさらに詳しく分析すると、受給者の実態がより鮮明に見えてきます。月額15万円以上を受給している層の内訳を見ると、15万円から20万円未満の層に受給者が最も多く集中しています。

具体的な数字を見ると、月額15万円以上16万円未満の受給者が約98万6,000人、16万円以上17万円未満が約102万6,000人、17万円以上18万円未満が約105万3,000人、18万円以上19万円未満が約102万2,000人、そして19万円以上20万円未満が約93万6,000人となっています。この15万円から20万円の価格帯だけで約500万人が存在しており、ここがいわゆる中間層の上位部分を形成しています。

一方で、月額20万円以上の高額受給者となると、その数は急激に減少します。月額20万円以上の受給者数は合計で261万7,157人であり、これは受給者全体の約16.3%に過ぎません。さらに月額25万円以上となると27万6,814人で、全体のわずか約1.72%という極めて限られた層になります。

高額受給層の分布をさらに詳しく見ていくと、月額20万円以上21万円未満が約80万人、21万円以上22万円未満が約62万人、22万円以上23万円未満が約43万人と、金額が上がるにつれて人数が急激に減少していくピラミッド構造が確認できます。24万円以上25万円未満では約18万9,000人となり、30万円以上を受給している人に至ってはわずか1万4,292人と、極めて稀な存在です。

このデータから読み取れるのは、月額15万円以上といっても、その大部分は15万円から19万円の範囲に集中しているという事実です。月額20万円や25万円といった高額受給を実現できているのは、現役時代に非常に高い収入を長期間維持し続けた一部の人々に限られています。

厚生年金受給における男女間の格差

厚生年金受給者全体の約47.6%が月額15万円以上を受給しているという数字の内訳を見ると、男女間に著しい格差が存在していることが分かります。同じ厚生年金受給者という枠組みであっても、男性と女性では経済的な状況に大きな違いがあります。

男性の厚生年金受給実態

男性の厚生年金受給者について見ると、平均年金月額は16万6,606円です。これは全体の平均を約2万円上回っており、月額15万円の基準をクリアしています。男性受給者のうち月額15万円以上を受給している割合は約66.8%に達しており、男性の場合は3人に2人が月額15万円以上の年金を確保しています。

男性受給者の受給額分布において、最も人数が多い価格帯は月額17万円以上18万円未満の層で、約96万5,000人がここに該当します。次いで18万円以上19万円未満が約96万3,000人、16万円以上17万円未満が約89万8,000人となっており、男性受給者の中心層は月額16万円から19万円の間に厚く分布しています。

月額20万円以上の層においても、男性では相当数の受給者が存在しています。20万円以上21万円未満が約77万人、21万円以上22万円未満が約60万人となっており、現役時代の所得が年金額に反映されやすい構造が見て取れます。

女性の厚生年金受給実態

女性の受給実態は男性とは全く異なる様相を呈しています。女性の厚生年金受給者の平均年金月額は10万7,200円であり、男性の平均額と比較して約6万円も低くなっています。年額に換算すると約72万円もの差が存在することになります。

特に注目すべきは、女性受給者のうち月額15万円以上を受給している割合がわずか約10.3%に過ぎないという事実です。これは裏を返せば、女性の厚生年金受給者の約90%が月額15万円未満の年金で生活しなければならない状況にあることを意味しています。

女性の受給額分布を詳しく見ると、最も人数が多い層は月額9万円以上10万円未満の約82万人、次いで10万円以上11万円未満の約81万人、11万円以上12万円未満の約65万人となっています。女性受給者の中心層は月額9万円から12万円の間に集中しており、これが女性の平均受給額を10万円台に留めている最大の要因です。

月額15万円を超える層になると、女性の人数は急激に減少します。15万円以上16万円未満の女性受給者は約17万5,000人にとどまり、20万円以上21万円未満に至っては約2万6,000人と、同じ価格帯の男性約77万人と比較して30分の1程度の規模になっています。

男女格差が生じる構造的な要因

なぜこれほど大きな男女格差が生じているのでしょうか。その背景には、日本の労働慣行と社会保障制度の構造的な要因が複雑に絡み合っています。

第一の要因は、現役時代の賃金格差です。厚生年金の受給額は、現役期間中の平均標準報酬額に比例して決定されます。現在受給世代にある女性たちが現役であった時代、女性の賃金水準は男性に比べて大幅に低く抑えられていました。この過去の賃金格差が、数十年の時を経て年金受給額の差として現れています。

第二の要因は、勤続年数と雇用形態の違いです。かつての日本では結婚や出産を機に退職し、専業主婦として第3号被保険者となる女性が多く存在しました。第3号被保険者の期間は国民年金には加入していますが、厚生年金の加入期間にはカウントされません。また、子育て後に再就職する際も、パートタイムなどの非正規雇用を選択するケースが多く、厚生年金に加入しない働き方が主流でした。加入期間が短ければ、報酬比例部分の年金額は当然少なくなります。

第三の要因は、制度的な背景です。配偶者控除や第3号被保険者制度など、いわゆる「内助の功」を前提とした制度設計が、結果として女性個人の年金受給権を低く抑える方向に作用してきた側面があります。このデータは、単身女性や夫と死別した女性の老後資金計画において、公的年金のみに依存することのリスクが男性よりも大きいことを示しています。

月額15万円の厚生年金を受給するために必要な条件

月額15万円の年金を受給することが統計上難しいことが分かりましたが、これから受給を迎える現役世代がこの水準を確保するためには、具体的にどのような条件が必要なのでしょうか。

必要となる年収と加入期間

厚生年金の受給額(老齢厚生年金)は、大まかに「平均標準報酬額×給付乗率(0.005481)×加入月数」という計算式で求められます。ここに国民年金(老齢基礎年金)の満額部分である月額約6万8,000円が加算されます。

月額15万円(年額180万円)を目指す場合、基礎年金で約81万6,000円(月額6万8,000円)をカバーできると仮定すると、残りの約98万4,000円(月額8万2,000円)を厚生年金の報酬比例部分で賄う必要があります。

モデル試算では、厚生年金に40年間(480ヶ月)継続して加入し続けた場合、月額15万円に到達するために必要な現役時代の平均年収は、おおよそ440万円から460万円程度と算出されています。40年間の加入で月額15万円を目指すには、生涯平均年収として約442万円(月額換算で約37万円)が必要となります。ちなみに月額20万円を目指す場合は、40年間の加入で生涯平均年収約715万円から732万円が必要になります。

平均年収という指標の注意点

ここで注意が必要なのは、この「平均年収」が生涯にわたる平均値であるという点です。新入社員時代の年収が300万円であっても、キャリアのピーク時に年収が600万円以上あれば、生涯平均450万円に届く可能性があります。しかし、これは40年間一度も途切れることなく厚生年金に加入し続けることを前提としています。

現代の労働市場においては、転職時の待機期間(国民年金のみの期間)、育児や介護による休職や時短勤務、あるいは不本意な非正規雇用期間などにより、厚生年金の加入期間が途切れたり、標準報酬月額が低下したりするリスクが常に存在します。

平均年収440万円という水準は、正規・非正規を含めた全体の平均給与(約460万円前後)に近い数値ですが、非正規雇用者に限ればこの水準の達成は困難です。「普通に働いていれば月15万円はもらえる」というのは、終身雇用が機能していた時代の感覚であり、流動化した現代の労働市場においては、意識的にキャリアと収入を維持しなければ到達できない「壁」となっているのです。

額面15万円と手取り額の違い

年金の議論においてしばしば見落とされがちなのが、「額面」と「手取り」の乖離です。仮に月額15万円の受給権を得たとしても、その全額が自由に使えるわけではありません。年金収入も課税対象となり、そこから税金や社会保険料が差し引かれるためです。

年金から差し引かれる主な項目

年金収入から差し引かれる主な項目として、まず国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)があります。日本に住む以上、医療保険への加入は必須であり、会社員時代のような労使折半はなく全額自己負担となります。自治体や世帯構成によって計算式は異なりますが、年収180万円(単身)の場合、年間の保険料は約7万円から10万円程度が目安です。月額換算で約6,000円から8,000円の負担となります。

次に介護保険料があります。65歳以上の全受給者が対象となり、これも自治体ごとに基準額が設定されています。年収180万円の層は多くの自治体で「本人課税」の所得段階に該当する可能性があり、その場合の年間保険料は約6万円から8万円、高い地域や所得段階によっては年間12万円近くになるケースもあります。月額換算で約5,000円から1万円程度の負担が発生します。

住民税については、年金収入180万円の場合、公的年金等控除(110万円)と基礎控除(43万円)を差し引いても課税所得が発生します。均等割と所得割を合わせて、年間で約2万円から3万円程度の住民税がかかるのが一般的です。

所得税は、公的年金等控除や基礎控除を適用した後の課税所得に対して課税されます。復興特別所得税を含め、年間で数千円から1万円程度の負担が発生する可能性があります。ただし、扶養親族がいる場合や医療費控除などを適用すれば非課税になることもあります。

実際の手取り額シミュレーション

これらの社会保険料と税金を合計すると、年間の天引き額は約16万円から20万円程度となります。その結果、額面年収180万円(月額15万円)の受給者の手取り年収は、約160万円から164万円程度になります。これを月額に換算すると、手取り額は約13万3,000円から13万6,000円です。

額面では「15万円」あっても、実際に通帳に振り込まれる金額は「13万円台前半」になるという事実は、生活設計を考える上で極めて重要です。家賃、光熱費、食費、医療費をこの13万円の中でやりくりしなければならず、都市部での単身生活であれば、家賃負担次第では収支が赤字になるリスクが十分にあります。

夫婦世帯の場合(例えば夫180万円、妻100万円の合計280万円)は、配偶者控除の適用有無や社会保険料の世帯合算などにより手取り率は若干変動しますが、概ね額面の85%から90%程度が手取りになると見積もっておくのが安全です。

2024年財政検証と2025年年金制度改正の影響

これまでの分析は主に現在の受給者データに基づいていますが、これから年金を受け取る世代にとってより重要なのは、将来の制度変更がもたらす影響です。2024年に実施された財政検証と、それを受けて議論が進められてきた2025年の年金制度改正は、月額15万円の価値や達成難易度を大きく変える可能性があります。

マクロ経済スライドによる実質価値の低下

2024年の財政検証では、将来の所得代替率(現役世代の手取り収入に対する年金額の比率)の見通しが示されました。当時61.2%であった所得代替率は、将来的には50%台まで低下すると予測されています。これは、少子高齢化に対応して年金財政の均衡を保つために導入されたマクロ経済スライドが発動し続けるためです。

マクロ経済スライドとは、賃金や物価が上昇しても、その上昇分ほどには年金額を増やさず、スライド調整率(人口減少や平均余命の伸び分)を差し引いて改定する仕組みです。物価上昇率が年金改定率を上回れば、実質的な年金の購買力は目減りすることになります。

つまり、現在「月額15万円」で購入できるモノやサービスが、10年後、20年後の「月額15万円」では購入できなくなるリスクが高いということです。額面の15万円を維持するだけでなく、インフレに負けない資産形成が求められる時代になっています。

2025年年金制度改正の主な論点

2025年の年金制度改正に向けた議論では、厚生年金受給者に直接影響を与えるいくつかの重要な改革案が検討されてきました。

「106万円の壁」の撤廃と適用拡大については、パートタイム労働者への厚生年金適用条件である企業規模要件などを撤廃し、週20時間以上働く短時間労働者全員を厚生年金に加入させる方向で調整が進められてきました。これにより、これまで国民年金のみだった非正規雇用者が厚生年金に加入することになり、将来の受給額底上げが期待されます。特に、低年金に陥りやすい女性の受給額改善に寄与する重要な改革点です。

標準報酬月額の上限引き上げについては、現在の厚生年金保険料の計算基礎となる標準報酬月額の上限65万円を、75万円程度まで引き上げる案が検討されてきました。高所得者にとっては現役時代の保険料負担増となりますが、その分、将来受け取る年金額の上限も引き上げられます。

在職老齢年金の見直しについても議論されてきました。働きながら年金を受け取る際、給与と年金の合計額が一定額を超えると年金が減額・停止される在職老齢年金制度について、その基準額を引き上げる、あるいは制度自体を廃止する案が検討されています。これにより、60代後半以降も働く意欲が阻害されず、給与収入と年金収入を合わせて生活設計がしやすくなることが期待されます。

遺族厚生年金の男女差是正については、これまで「夫を亡くした妻」には手厚く、「妻を亡くした夫」には厳しかった遺族厚生年金の受給要件が見直され、男女公平化が進む見込みです。

老後に向けた対策と将来展望

これまでの分析から明らかになったことは、厚生年金受給者の過半数である52.4%が月額15万円未満であること、特に女性においては9割がこのラインに届いていないこと、そして額面15万円でも手取りは月額13万円台になるという厳しい現実です。また、マクロ経済スライドとインフレにより、年金の実質的な購買力は今後も徐々に低下していく可能性があります。

繰下げ受給の戦略的な活用

最も確実な年金増額の方法は、受給開始年齢を遅らせる「繰下げ受給」です。65歳で受け取らず、70歳まで5年間繰り下げると受給額は42%増額され、75歳まで繰り下げると84%増額されます。

例えば、65歳時点での受給予定額が月額11万円(15万円未満)であっても、70歳まで繰り下げれば約15万6,000円となり、「15万円の壁」を自力で突破することが可能です。健康で働けるうちは受給を先送りし、終身で受け取れる年金額を最大化することが、長生きリスクへの有効な対策となります。

長期就労による厚生年金加入期間の延長

在職老齢年金の基準が緩和されれば、年金を減らされずに働ける余地が広がります。70歳まで厚生年金に加入して働けば、将来の年金額が増えるだけでなく、給与収入によって現役期間中の資産取り崩しを防ぐことができます。特に加入期間が短い人ほど、60代以降の就労による年金増額効果は大きくなります。

個人での資産形成の重要性

公的年金だけで月額15万円を目指すのが難しい場合、不足分を金融資産で補う必要があります。iDeCo(個人型確定拠出年金)や新NISAを活用し、月額15万円に届かない不足分を、配当金や資産の取り崩しで賄う自分年金を構築することが重要です。

月額15万円という数字は、単なる金額以上の意味を持っています。それは、日本の公的年金制度が保証できる「最低限」と「ゆとり」の境界線であり、個人の自助努力が求められるラインでもあります。統計データが示す現実を正しく理解し、早い段階から対策を講じることが、安心できる老後への道筋となるでしょう。

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