日産6500億円の純損失はなぜ?26年3月期の赤字原因を徹底分析

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日産自動車は、2026年3月期(2025年度)の連結最終損益が6500億円の純損失になる見通しを2026年2月12日に発表しました。この巨額赤字の原因は、北米市場でのトランプ関税の直撃とハイブリッド車戦略の失敗、中国市場での構造的な販売低迷、そして長年先送りされてきた経営課題の噴出が同時に重なった「複合不況」にあります。この記事では、日産の6500億円純損失の原因を多角的に分析し、新経営陣が打ち出した再建計画「Re:Nissan」の内容と今後の展望について詳しく解説します。

日産自動車の26年3月期6500億円純損失の概要

日産自動車の2026年3月期における6500億円の純損失は、単なる業績悪化ではなく、企業の存続基盤そのものが揺らいでいることを示す深刻な数値です。2026年2月12日、神奈川県横浜市の日産グローバル本社で行われた記者会見において、イバン・エスピノーサ社長兼CEOは「リストラの1年になることは当初から想定していたが、減損損失の発生は避けられなかった」と説明しました。

この赤字額は、1999年のカルロス・ゴーン氏による経営再建時や、2020年のパンデミック直後の危機に匹敵する規模です。市場関係者の間ではある程度の赤字は織り込まれていたものの、その規模が当初予想の倍近くに膨れ上がったことで、日産の経営管理能力そのものに対する信頼が大きく揺らぎました。

売上高の見通しは11兆9000億円へとわずかに上方修正されましたが、これは急速に進んだ円安による為替換算上の嵩上げ効果に過ぎません。実質的な販売台数や収益力は著しく低下しており、表面的な数字だけでは日産の実態を正確に把握することはできません。

6500億円の赤字を生んだ減損損失の正体

6500億円の純損失において最も大きな要因となっているのが、減損損失です。減損損失とは、企業が保有する工場や設備、ブランドなどの資産が将来にわたって投資額に見合う利益を生み出せないと判断された場合に、その資産価値を帳簿上で切り下げる会計処理のことを指します。

日産は北米、中国、そして日本国内の生産設備に対し、数千億円規模の減損処理を断行しました。これは経営陣自身が「現在の工場はこれまでの価値を持たない」「将来の収益計画は達成不可能である」と認めたことを意味します。特に2026年3月期の第3四半期(2025年10月から12月)において、構造改革費用と減損損失が集中的に計上されました。

この結果、バランスシート上の自己資本は大きく毀損され、財務的な健全性は急速に悪化しています。ムーディーズ・レーティングスは日産の信用格付けを「Ba2」、いわゆる投機的等級へと引き下げました。その背景には、資産の質の悪化と将来キャッシュフローの不透明性があります。格付けの引き下げは、今後の資金調達コストの上昇に直結するため、日産の経営をさらに圧迫する要因となっています。

北米市場での戦略ミスが日産の純損失を拡大させた原因

日産の巨額赤字において、最大の出血源となったのが北米市場です。かつて利益の源泉であった北米が、トランプ関税とハイブリッド車戦略の失敗という二重苦によって、大きな損失を生む地域へと変わりました。

トランプ関税とメキシコ生産依存の代償

2025年に発足した第2次トランプ政権による保護主義的な通商政策は、日産の北米ビジネスモデルを根底から破壊しました。日産は競合するトヨタやホンダと比較して、メキシコ生産への依存度が極めて高い構造を持っていました。

米国の若年層や低所得層に人気の高い小型セダン「セントラ」や小型SUV「キックス」、「ヴァーサ」といった車種を、人件費の安いメキシコのアグアスカリエンテス工場やクエルナバカ工場で生産し、関税ゼロで米国へ輸出することで利益を確保してきたのが日産のビジネスモデルでした。しかし、トランプ政権が導入したメキシコからの輸入車に対する一律25%の関税は、この「安く作って高く売る」仕組みを直撃しました。

トヨタやホンダは米国内での現地生産比率が高く、高付加価値なハイブリッド車を米国内で生産しているため、関税の影響を吸収する余力がありました。一方、日産は薄利多売の小型車が関税のターゲットとなり、価格転嫁もできず、売れば売るほど赤字に近づくという悪循環に陥っています。関税の影響だけで、営業利益ベースで年間数千億円規模の押し下げ圧力に晒されていると試算されています。

ハイブリッド戦略の空白が招いた販売不振

関税以上に深刻な問題が、商品戦略の失敗です。2024年から2026年にかけての米国市場では、EVの成長鈍化、いわゆる「EVキャズム」が発生し、消費者は現実的な選択肢としてハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に殺到しました。

トヨタはこのトレンドを的確に予測し、主力SUV「RAV4」やセダン「カムリ」をハイブリッド専用車にするなどの大胆な戦略で、過去最高益を更新し続けました。一方で日産は、EVの「リーフ」や「アリア」に経営資源を集中させるあまり、独自のハイブリッド技術「e-POWER」の北米市場への投入を後回しにし続けました。

その結果、2026年のショールームにおいて、日産には競合に対抗できるハイブリッドSUVが存在しないという異常事態が発生しています。北米向けの次世代「ローグ」にe-POWERが搭載されるのは、早くても2026年後半の2027年モデルになると報じられています。この「空白の期間」に、日産の顧客はトヨタやホンダ、さらにはハイブリッド攻勢を強める韓国メーカーのヒョンデやキアへと流出しました。ハイブリッド車がない日産は、燃費の劣るガソリン車を売るために多額の販売奨励金(インセンティブ)を積まざるを得ず、一台当たりの収益性が極端に悪化し、ブランド価値の毀損が続いています。

中国市場における構造的敗退の分析

かつて日産のグローバル販売の3割を占め、利益成長のエンジンであった中国市場は、深刻な不振に陥っています。中国市場での販売低迷は、日産の26年3月期6500億円純損失を押し上げた重要な原因の一つです。

中国ではBYDを中心とする現地メーカーが、低価格かつ高性能なプラグインハイブリッドやBEV(バッテリー式電気自動車)を次々と投入し、市場を席巻しています。これに対し、日産は伝統的なガソリン車主体のラインナップから脱却できていません。かつて「技術の日産」として称賛されたエンジン技術も、電動化とSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)が競争軸となった中国市場では訴求力を失っています。

日産の中国合弁パートナーである東風汽車との関係も厳しさを増しています。販売台数の急減に伴い、合弁工場の稼働率は損益分岐点を大きく割り込みました。6500億円の赤字には、中国事業における持分法投資損失の拡大に加え、中国国内の過剰生産設備に対する減損処理が含まれています。日産は中国での生産能力を最大で30%削減する計画を進めており、事実上の事業縮小モードに入っています。かつての「台数を追う」戦略は完全に破綻し、いかに傷を浅くして規模を縮小するかという局面に移行しています。

日産内部の経営課題と固定費の肥大化

日産の巨額赤字は外部環境の悪化だけが原因ではありません。長年の経営混乱が生んだ内部の構造的な問題も、純損失を拡大させた大きな要因です。

2024年に発表された中期経営計画「The Arc」では、新車投入による販売拡大と収益改善が掲げられていました。しかし、この計画はEVの普及スピードや為替動向、地政学リスクといった前提条件の見積もりが甘く、開始早々に修正を余儀なくされました。計画に基づき先行投資した人件費や設備投資などの固定費だけが重くのしかかり、売上が伴わないため利益が出ない体質がさらに強化されてしまいました。

また、コスト削減を優先するあまり、新車の開発サイクルが長期化し、商品鮮度が低下するという悪循環にも陥っています。プラットフォームの老朽化は深刻で、競合他社が最新のアーキテクチャで高性能な車を投入する中、日産は一世代前の技術で戦わざるを得ない状況が続いています。その結果、「値引きしなければ売れない」というブランドイメージが市場で定着してしまいました。

経営陣の交代と企業統治をめぐる問題の分析

6500億円の純損失という歴史的赤字の背後では、経営体制の混乱も深刻化しています。2025年3月末には、日産の舵取りを担っていた内田誠前社長を含む執行役員らが退任しました。しかし、この退任は企業統治の観点から大きな問題を残しました。

内田氏ら退任役員4名に対する報酬総額が6億4600万円に上ったことが明らかになっています。会社が過去最大級の赤字を計上し、現場では2万人規模の人員削減が進められている最中での高額報酬の支払いは、株主や従業員、サプライヤーからの猛烈な反発を招いています。経営責任を明確化するはずの退任が「逃げ得」のように映る現状は、日産のコーポレートガバナンスが機能不全に陥っていることを示唆しています。

後を引き継いだエスピノーサCEOは、かつて日産の商品企画部門を統括していた人物です。商品力の低下を招いた当事者の一人でもあり、「Re:Nissan」という再建計画を掲げながら過去の自分たちの決定を否定し改革を進めなければならないという矛盾を抱えています。この構造的な矛盾が、新体制の求心力を削ぐ要因となっています。

再建計画「Re:Nissan」の全貌と日産再生への課題

日産がこの危機的状況を脱するために打ち出した再建計画が「Re:Nissan(リ・ニッサン)」です。この名称には「再生」「再起」の願いが込められていますが、その中身は成長を追うことを諦め、身の丈に合った規模へ会社を縮小させるという、過去のどのリストラ計画よりも過酷な内容となっています。

Re:Nissan計画の主な定量目標

「Re:Nissan」の全体像を把握するために、主要な数値目標を以下の表にまとめます。

項目目標・内容
黒字化目標2026年度(2027年3月期)に営業黒字化・FCF黒字化
損益分岐点年間販売台数250万台(従来350万台から100万台引き下げ)
コスト削減規模固定費・変動費合計で5000億円(2024年度比)
人員削減グローバルで2万人(全従業員の約15%以上)
工場再編17工場から10工場へ集約(7工場が閉鎖・機能停止)
新規モデル開発期間37ヶ月へ短縮
派生モデル開発期間30ヶ月へ短縮
プラットフォーム数13種から7種へ半減(2035年まで)
部品複雑性70%削減

2万人規模の人員削減とコスト構造改革

「Re:Nissan」において最も社会的インパクトが大きいのが人員削減です。2027年度までに全世界で2万人の従業員を削減することが決定されました。これは2024年11月に発表されていた9000人の削減枠を倍増させた形です。削減対象は工場のライン作業員だけでなく、本社の管理部門や研究開発部門にも及びます。日産のグローバル従業員数は約13万人(2024年時点)であったことから、全従業員の約15%以上が職を失う計算になります。企業としての基礎体力を奪いかねない規模ですが、切迫した財務状況を反映した決断です。

工場閉鎖と生産体制の大規模再編

生産体制の再編は過去に例を見ない規模で行われます。全世界に存在する17の主要車両生産工場を10工場へと集約し、7つの工場が閉鎖または機能停止に追い込まれます。

日本国内では、神奈川県横須賀市にある追浜工場の再編計画が最大の焦点です。追浜工場は日産の歴史そのものとも言える存在で、「ノート」や「リーフ」といった主力車種を生産してきたマザー工場です。しかし、施設の老朽化と効率性の低下を理由に、車両生産を終了し、福岡県の日産自動車九州などへ生産を移管・集約する方向で調整が進められています。追浜工場の閉鎖は、首都圏におけるモノづくりの象徴が消えることを意味し、地元の雇用やサプライヤー網への影響はもちろん、日本の自動車産業の空洞化という観点からも大きな懸念を呼んでいます。

海外では、メキシコのクエルナバカ工場の閉鎖が報じられています。日産の海外進出の足がかりとなった歴史ある工場ですが、設備の古さと生産効率の悪さ、トランプ関税による輸出競争力の低下が決定打となりました。同工場で生産していたピックアップトラックやセダンは、より近代的なアグアスカリエンテス工場へ統合されます。中国でも常州工場などの生産ライン停止や閉鎖が進んでおり、拡大路線の負の遺産を清算する動きが加速しています。

さらに、九州で計画されていたLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリー工場の自社建設計画もキャンセルされました。LFPバッテリーは安価なEVを作るために不可欠な技術であり、BYDなどが強みを持つ分野です。この内製化を諦めるということは、将来的な低価格EV競争においてキーデバイスを外部調達に依存することを意味し、長期的な競争力への影響が懸念されます。

商品開発の効率化と車種の選択集中

コスト削減は車の作り方そのものにも及びます。「Re:Nissan」では、新規モデルの開発期間を37ヶ月、派生モデルの開発期間を30ヶ月へ短縮する目標を掲げています。プラットフォームの数も現在の13種類から2035年までに7種類へと半減させ、部品の複雑性を70%削減することで調達コストを下げ、開発リソースを少数の「売れる車」に集中させる戦略です。ただし、これはニッチな車種や多様な市場ニーズに応えるラインナップを維持できなくなることを意味しており、「スカイライン」や「GT-R」のような象徴的なモデルの今後については不透明な状況です。

ホンダ・三菱との戦略的提携と合併協議の行方

単独での生存が極めて困難な状況において、日産が重要な活路として位置づけているのが、ホンダおよび三菱自動車との戦略的提携の深化です。

2024年から開始された日産とホンダの提携協議は、2026年に入りその重要度を増しています。当初はEV部品の共通化やソフトウェア開発の協力といった限定的な協業でしたが、日産の財務状況が悪化したことで、より踏み込んだ資本提携や経営統合の可能性まで取り沙汰されるようになりました。しかし、一部では「合併協議は難航している、あるいは事実上決裂した」との観測も出ています。

最大の障壁は、両社の財務格差と企業文化の違いです。ホンダは北米で高い利益率を維持し、財務体質も健全です。一方の日産は巨額の有利子負債と赤字を抱えており、ホンダの株主にとって日産の救済に自社のリソースを割くことへの抵抗感は大きいのが現実です。対等な合併は到底受け入れられる状況にはありません。

それでも、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)の基盤開発や次世代バッテリー(全固体電池など)の研究開発においては、1社単独での投資負担が限界を超えており、現場レベルでの協力は進まざるを得ない状況です。3社がプラットフォームや電動コンポーネントを共通化できれば、合計販売台数で800万台規模となり、トヨタ・グループやフォルクスワーゲン・グループに対抗しうる「規模の経済」を実現できます。2026年中には電動アクスルの共通化や相互のOEM供給が発表される可能性がありますが、それが日産の足元の資金繰り危機を即座に解決するわけではありません。

日産の2027年までの展望と再生への道筋

日産自動車にとって、これから2027年までの期間はまさに生存をかけた「死の谷」となります。最も懸念されるのは、リストラを進めている間に売る車がなくなり、販売網が崩壊するシナリオです。

北米市場でのe-POWER搭載車の本格投入は2026年後半以降であり、それまでの間、日産のディーラーは古くなったガソリン車と競争力の落ちたEV「リーフ」「アリア」だけで戦わなければなりません。トヨタやホンダが次々と魅力的なハイブリッド車を投入する中、売れる車がないディーラーが日産ブランドを見限り、他メーカーのフランチャイズに鞍替えする動きが加速する恐れがあります。一度離れたディーラーや顧客を取り戻すには、長い年月と多大なコストが必要です。

財務面でも、ムーディーズによる「Ba2」への格下げは資金調達コストの上昇に直結します。手元の現預金は一定水準を確保しているものの、営業キャッシュフローがマイナスである以上、現預金は流出し続けます。リストラ費用の支払いが先行する2026年度中の資金繰りは、綱渡り状態が続くことが予想されます。万が一、世界経済がリセッション入りしたり、為替が急激に円高に振れたりした場合、日産が再び公的資金の注入やメインバンクによる救済を仰ぐ事態も否定できません。

日産自動車が直面している6500億円の純損失は、一過性の出来事ではなく、過去20年間にわたる経営判断の歪みが蓄積した結果です。ゴーン氏時代の拡大路線の修正に時間をかけすぎ、その間に起きた「電動化」と「知能化」という産業構造の変化に対応しきれなかったことが、現在の苦境を招いています。「Re:Nissan」計画は日産が生き残るための必要最低限の外科手術であり、2万人の人員削減や追浜工場の閉鎖は日本社会に大きな痛みを伴いますが、これを完遂できなければ企業そのものが消滅するリスクがあります。

再生の鍵を握るのは、e-POWERの北米市場での成功、断固たるリストラの実行、そしてホンダ・三菱との提携の実利化という3つの要素に集約されます。2026年は、創業90年を超える名門・日産自動車にとって、その歴史を閉じるか新たな形で生まれ変わるかの分水嶺となる1年です。

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