ミニストップは2026年2月期の通期業績予想を下方修正し、営業損益が当初予想の12億円の黒字から35億円の赤字へと大幅に悪化する見通しを発表しました。この修正は2026年1月8日に公表され、親会社株主に帰属する当期純損益も60億円規模の赤字に転落する見込みです。業績悪化の主な要因は、2025年夏に発覚した「手づくりおにぎり」等の消費期限表示不正問題による販売停止と、それに伴う関連購買の減少、さらに再発防止対策費用の増大です。
この発表は、コンビニエンスストア業界に大きな衝撃を与えました。ミニストップは「店内調理」を最大の差別化ポイントとしてきましたが、その根幹を揺るがす不祥事が経営を直撃したのです。本記事では、今回の業績予想修正の詳細な内容から、不正問題の経緯と影響、海外事業の状況、株式市場の反応、そして今後の再建に向けた展望まで、包括的に解説します。

ミニストップ2026年2月期業績予想修正の全容
ミニストップが発表した2026年2月期の通期連結業績予想修正は、当初計画からの大幅な下振れとなりました。営業損益については、期初に掲げていた12億円の黒字予想から一転し、35億円の赤字見通しへと修正されています。この差額は実に47億円にも及び、同社の事業規模を考慮すると極めて甚大な修正幅といえます。
営業赤字35億円への転落が意味すること
ミニストップの経営陣は2026年2月期を「再生と成長の年」と位置づけ、黒字転換を目指していました。前期である2025年2月期の営業損失が約34億8600万円であったことから、今期こそは収益化フェーズへ移行するという強い意志が示されていたのです。しかし、今回の修正により、赤字幅は前期とほぼ同水準、あるいはそれ以上に悪化する可能性が出てきました。これは構造的な収益力の欠如が改善されていないことを如実に示しています。
最終赤字60億円の深刻さ
さらに深刻なのが、親会社株主に帰属する当期純利益の見通しです。通期の最終損益は60億円規模の赤字になると見込まれており、期初予想で掲げていた7000万円程度の黒字確保という目標は完全に崩れました。営業赤字35億円に対して最終赤字が60億円まで膨らむという構造は、営業外費用や特別損失が多額に計上されることを意味しています。
具体的には、不採算店舗の撤退に伴う減損損失や店舗閉鎖損失、さらに後述する不正問題への対応に関連する臨時的な損失処理が発生していると考えられます。60億円という赤字額は同社の純資産を大きく毀損させる規模であり、自己資本比率の低下を招き、財務体質の健全性を著しく損なうものとなっています。
売上高据え置きに隠された構造的問題
今回の発表において注目すべき点は、営業総収入(売上高に相当)の通期予想が970億円で据え置かれていることです。これは前年同期比で10.9%の増収に相当します。通常、これほど利益が悪化する場合には売上高も未達になるのが一般的ですが、売上高の見通しは変えず利益だけが激減するという現象が起きています。
この背景には「直営店比率の上昇」という構造的な問題があります。コンビニエンスストア会計において、フランチャイズ加盟店の売上は本部の売上には計上されず、加盟店からのロイヤリティ収入のみが営業総収入となります。一方、本部が直接運営する直営店の場合、店舗の日販がそのまま本部の売上として計上されます。
フランチャイズオーナーの離脱や契約満了に伴い本部が店舗を引き取って直営化した場合、会計上の営業総収入は見かけ上増加します。しかし、直営店は人件費や地代家賃をすべて本部が負担するため、フランチャイズ店に比べて利益率は圧倒的に低く、むしろ赤字になるケースも多くあります。売上予想が変わらず利益だけが赤字転落した事実は、利益率の高いフランチャイズ店舗収入が減り、高コストな直営店収入が売上の大部分を構成するという非効率な体質への変質を裏付けています。
第3四半期決算から見る業績悪化の実態
通期予想の下方修正と同時に発表された2026年2月期第3四半期(2025年3月から11月)の連結決算内容も、苦境を裏付けるものでした。
第3四半期累計の数値詳細
第3四半期累計期間における営業総収入は700億3400万円で、前年同期比5.2%の増収となりました。しかし、利益面では営業損失14億4600万円、経常損失10億8500万円、親会社株主に帰属する四半期純損失21億1900万円を計上しています。
前年同期の実績と比較すれば赤字幅は縮小しており、前年同期は営業損失20億2300万円、経常損失16億9200万円、純損失18億5400万円でした。しかし、重要なのは期初計画との乖離です。本来であればこの第3四半期終了時点で黒字転換への確かな手応えを示しているはずでした。特にコンビニエンスストア業界にとって夏場は、アイスクリームや飲料が売れる最大の稼ぎ時です。この繁忙期を含んだ9ヶ月間でなお14億円もの営業赤字を出しているということは、構造的な収益力の欠如が決定的であることを示しています。
国内事業における増収減益の矛盾
セグメント別に見ると、国内事業の営業総収入は630億6100万円で前年同期比6.1%増となりました。しかし、営業損失は11億300万円となり、前年同期の11億1700万円の損失からほとんど改善していません。売上が6%以上伸びているにもかかわらず赤字額が横ばいであることは、限界利益率の低下か固定費の増大を意味します。
ここで大きく影響しているのが「おにぎり表示不正問題」による機会損失と対策費用です。売上の増加は前述の通り直営店の増加によるテクニカルな要因が大きく、実質的な稼ぐ力である加盟店からのロイヤリティ収入や商品供給による利益は毀損していると考えられます。
11月末時点の国内店舗数は1,796店舗となり、出店8店舗に対し閉店が60店舗と、店舗網の縮小が続いています。店舗数が減る中で直営店売上が増えるという状況は、不採算等の理由でフランチャイズオーナーが撤退し、本部がやむなく直営化した店舗が増えている可能性を示唆しており、極めて不健全な兆候といえます。
手づくりおにぎり消費期限表示不正問題の全貌
今回の業績下方修正の最大の要因として挙げられているのが、2025年夏に発覚した「手づくりおにぎり」等の消費期限表示不正問題です。このスキャンダルは、ミニストップのブランドイメージを失墜させただけでなく、同社のビジネスモデルである「コンボストア(店内調理)」の脆弱性を露呈させました。
不正発覚の経緯と手口
事の発端は2025年6月下旬でした。一部の店舗においておにぎりの消費期限ラベルが二重に貼られているのが発見されました。通常、コンビニのおにぎりは工場で製造されますが、ミニストップの「手づくりおにぎり」は店内の厨房で炊飯し握って提供されます。これが同社の最大の差別化ポイントでした。
社内調査の結果、埼玉、東京、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡という広範囲にわたる7都府県の23店舗で不正が確認されました。その手口は製造から数時間が経過した売れ残りのおにぎりに新しい製造時間を印字したラベルを貼り直し、消費期限を不正に延長していたというものです。厨房におにぎりを2から3時間放置した後にラベルを貼ることで本来の製造時間よりも新しい時間を表示したり、店頭に陳列されている商品の古いラベルの上から新しいラベルを重ね貼りしたりといった行為が横行していました。
全店販売中止の決断と経済的損失
事態を重く見たミニストップ本部は、2025年8月9日から全店で「手づくりおにぎり」と「手づくり弁当」の製造・販売を中止しました。さらに8月18日からはフライドポテトやチキンなどを除く店内加工の惣菜全般についても販売を一時停止するという異例の措置に踏み切りました。
この販売停止が業績に与えたインパクトは甚大でした。主力商品であるおにぎりや弁当の売上がゼロになっただけでなく、より深刻な影響が「関連購買の減少」です。コンビニ利用客の多くはおにぎりや弁当を「目的買い」し、そのついでに飲み物やデザート、雑誌などを購入します。目的商品である手づくりおにぎりが売り場から消えたことで、顧客の来店動機そのものが失われ、客数が激減しました。
販売再開に向けた動きも鈍く、11月末時点での再開店舗数は317店舗にとどまりました。これは全店舗の2割にも満たない数字です。期末である2026年2月末までに全体の4割にあたる700店舗での再開を目指すとされていますが、それでも過半数の店舗では販売できない状態が続くことになります。同社の最大の武器であった「出来たてのおいしさ」という提供価値が半年以上にわたって機能していない状況です。
信頼回復に向けた対策とコスト増大
売上が消失する一方でコストは増大しました。再発防止策として多額の設備投資が余儀なくされています。
第一に、製造計画と連動してラベルが発行される「新型ラベルプリンター」の導入があります。これは任意の時間にラベルを発行できないようにシステム的に制御することで、人為的な改ざんを防ぐ仕組みです。第二に、厨房内のオペレーションを監視するための「見守りカメラ」の設置が進められています。従業員がマニュアル通りに作業しているかを常時記録・監視するシステムは抑止力としては有効ですが、導入・維持には多額の費用がかかります。
さらに全店規模での再教育トレーニングの実施や、安全基準を満たしているかをチェックするための監査体制の強化など、人的・時間的コストも膨れ上がりました。売上が減る中で固定費が増加するという、経営的には最悪の負のスパイラルに陥っています。
不正が広がった構造的背景
なぜこれほど広範囲で不正が起きたのでしょうか。そこにはフランチャイズ特有の構造的な問題があります。
店内調理商品は工場製品に比べて消費期限が短く設定されています。売れ残れば即座に廃棄ロスとなり、そのコストの大部分は加盟店オーナーの負担となります。昨今の原材料費高騰や光熱費の上昇、人件費の高騰により、加盟店の経営はかつてないほど圧迫されています。「少しでも廃棄を出したくない」「利益を残したい」という現場のプレッシャーが、不正行為へと走らせた根本原因と考えられます。
また、23店舗という複数の店舗で同様の不正が起きた事実は、本部のスーパーバイザーによる指導・監視機能が形骸化していたことを示唆しています。現場の苦境を見て見ぬふりをしたのか、あるいは気づけないほど現場との距離が開いていたのか、ガバナンスの欠如が招いた側面は否定できません。
ベトナム事業の不振と海外戦略の課題
国内事業が危機に瀕する中、成長エンジンとして期待されていた海外事業、特にベトナム事業も深刻な不振に陥っています。
成長市場での苦戦
ベトナムは東南アジアの中でも特に高い経済成長率を誇り、小売市場は活況を呈しています。2025年のベトナム小売売上高は前年比9.2%増を記録し、12月単月では9.8%増と加速しています。インバウンド観光客の増加や中間所得層の拡大が追い風となり、市場全体は拡大基調にあります。
しかし、この強力な追い風の中でミニストップのベトナム事業は「減収赤字」に沈んでいます。第3四半期の海外事業営業総収入は69億7300万円で前年同期比2.4%減、営業損失は3億4200万円となりました。前年同期の9億500万円の損失と比較すれば赤字幅は縮小していますが、市場が約10%成長している中で売上が減少しているという事実は、マーケットシェアを競合他社に奪われていることを意味します。
競合との激しい争い
ベトナムのコンビニ市場は、地場大手のウィンマートが圧倒的な店舗網で支配的地位を築いており、さらに米系のサークルK、日系のファミリーマートやセブン-イレブンが激しいシェア争いを繰り広げています。
ミニストップはベトナムでも日本同様、イートインスペースを充実させたコンボストアモデルを展開してきました。しかし、ベトナムでも人件費や家賃の高騰が進行しており、広い店舗面積と多くのスタッフを必要とするこのモデルは収益化のハードルが年々上がっています。価格戦略を見直し高付加価値商品の品ぞろえを拡充したとされていますが、インフレで生活防衛意識が高まる現地の消費者に対しこの高価格化戦略が受け入れられず、客離れを招いた可能性があります。
株式市場の反応と投資家の懸念
今回の発表に対する株式市場の反応は厳しいものでした。
株価急落の状況
業績修正が発表された1月8日の後場、ミニストップの株価は急落しました。終値は前日比104円安の2,075円となり、下落率は4.77%に達しました。日経平均株価や他の小売銘柄が比較的堅調な中でのこの独歩安は、市場の失望の大きさを物語っています。
証券アナリストや投資情報メディアの評価も厳しく、投資判断は「売り」や「弱気」が大勢を占めています。目標株価を1,600円台に引き下げるレポートも見られ、さらなる下値模索の展開が予想されています。
株主優待制度と今後のリスク
業績が厳しいにもかかわらず株価が一定の水準を維持している理由の一つは、個人投資家から支持を集める株主優待制度の存在です。ミニストップの株主優待である「ソフトクリーム無料券」は個人投資家の間では価値を持つと見なされており、これを目当てに株を保有し続ける層が存在します。
しかし、今回の巨額赤字転落により、市場では優待改悪や無配転落のリスクが囁かれ始めています。現時点では配当維持の方針が示されていますが、最終赤字60億円という財務ダメージを負った企業が手厚い優待を維持し続けられるかは不透明です。もし優待の廃止や縮小が発表されれば、個人投資家の失望売りが殺到するリスクが高まっています。
競合他社との比較に見るミニストップの立ち位置
コンビニ業界全体を見渡すと、ミニストップの苦境がより鮮明に浮かび上がります。
大手3社との格差
最大手のセブン-イレブン・ジャパンは、親会社セブン&アイ・ホールディングスが買収防衛策やMBOの渦中にありながらも、国内コンビニ事業の営業利益は3,000億円規模を維持しており、その稼ぐ力は依然として強大です。
業界2位のファミリーマートも、伊藤忠商事の傘下でデジタルトランスフォーメーションを進め、デジタルサイネージ事業などの新たな収益源を育成しつつ、本業の営業利益も増益基調を維持しています。
ローソンはKDDIと三菱商事による共同経営体制に移行し、通信とコンビニを融合させた次世代型店舗の展開や、Ponta経済圏を活用したデータマーケティングで攻勢を強めています。
これら大手3社が規模の経済を活かした商品開発、アプリを活用した高度なマーケティング、そして巨額のIT投資を進める中で、規模で大きく劣るミニストップは投資余力が乏しく、完全に周回遅れの状況にあります。特に「食」の分野での競争において、これまでは「店内調理」という独自性が武器でしたが、ローソンやファミリーマートも店内キッチン導入店舗を増やしており、ミニストップの優位性は相対的に低下しています。
経営体制とガバナンスへの問いかけ
このような危機的状況下において、経営陣の責任とガバナンスのあり方が厳しく問われています。
新経営体制の発足と試練
2025年5月、ミニストップは経営体制の刷新を行いました。藤本明裕氏が会長に退き、プロパー社員である堀田昌嗣常務が新社長に昇格しました。堀田氏は管理畑や海外事業を歴任した実務家であり、新体制は「構造改革の断行」を掲げてスタートしました。
しかし、就任からわずか数ヶ月で「おにぎり不正問題」が発覚し、その対応に追われることとなりました。堀田社長は記者会見やインタビューにおいて、加盟店への指導不足や本部と現場のコミュニケーション不全を率直に認め謝罪しています。「売れないから不正をする」という現場の動機に対し、「売れるようにするための知恵と支援が不足していた」と語る社長の言葉は、本部の機能不全を自認するものであり、問題の根深さを物語っています。
根本的な課題への対応
今回の問題は単に「悪いことをした店員がいた」という話ではありません。「なぜ複数の店舗で組織的に行われたかのように同じ手口の不正が起きたのか」「なぜスーパーバイザーはそれを見抜けなかったのか」という問いに対する根本的な解明と対策がなされなければ再発防止は困難です。
カメラによる監視やシステムによる制御はあくまで対症療法に過ぎません。根本的な解決には、加盟店が正当な商売で利益を出せるビジネスモデルへの再構築が必要です。これにはロイヤリティ体系の見直しや廃棄ロス負担のルール変更など、本部の利益を削ってでも加盟店を支援する覚悟が問われます。しかし、赤字に転落した現状のミニストップにそれだけの体力が残されているかは不透明です。
今後の展望と再生への道筋
ミニストップがこの危機を脱し再生するためには何が必要なのでしょうか。
ブランド信頼の回復
最優先課題は地に落ちた信頼の回復です。これには近道はありません。販売を再開した店舗から順次、徹底した品質管理と美味しさをアピールし、地道に顧客を呼び戻すしかありません。失われた「ついで買い」需要を取り戻すためには、おにぎり単体ではなく飲料やスイーツと組み合わせた魅力的なキャンペーンを打ち出し、来店動機を再創出する必要があります。
ビジネスモデルの変革
人手不足が深刻化する日本において、人手に依存する「店内手づくり」モデルの維持は限界に近づいています。今後は調理ロボットの導入による自動化や、AI需要予測による廃棄ロスの極小化など、テクノロジーを駆使した省人化モデルへの転換が急務です。投資コストはかかりますが、これを避けては生き残れない状況となっています。
グループ再編の可能性
自力での再建が困難と判断された場合、親会社であるイオングループ内での再編シナリオも現実味を帯びてきます。例えば、都市型小型スーパー「まいばすけっと」との統合や、事業の切り分け、あるいは上場廃止による完全子会社化を行い、市場の短期的な圧力を排除した上で抜本的な改革を行うといった選択肢が考えられます。ミニストップの持つ駅前立地やファストフード機能はグループ全体で見れば依然として価値ある資産です。その資産をどう活かすか、イオングループ全体の戦略の中でミニストップの位置づけが再定義される可能性があります。
まとめ
2026年1月8日の業績修正発表は、ミニストップという企業の歴史における大きな転換点となりました。35億円の営業赤字、60億円の最終赤字という数字は、これまでの延長線上にある改善策では太刀打ちできないことを示しています。「おにぎり表示不正」というスキャンダルは、現場の疲弊とガバナンスの欠如を白日の下に晒しました。
投資家、加盟店、そして消費者の厳しい視線が注がれる中、ミニストップは「コンビニエンスストア」としてのあり方を根本から問い直し、痛みを伴う改革を断行できるかが問われています。その成否は、日本の小売業界における「食の安全」と「フランチャイズビジネスの未来」を占う試金石となるでしょう。


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