PlayStation 6(PS6)の発売延期は、半導体不足やメモリ価格の高騰、AI需要の急拡大といった複合的な要因によって検討されています。当初2027年と見込まれていた発売時期は2028年以降、場合によっては2029年まで後ろ倒しになる可能性が高まっており、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)にとって重大な戦略的判断が求められる局面です。この記事では、PS6の発売延期が検討される理由と背景を、半導体市場の動向やソフトウェアエコシステムの変化、さらには日本市場への影響まで多角的に掘り下げていきます。
ゲーム業界はこれまで、おおむね6年から7年のサイクルで新世代のハードウェアが登場してきました。しかし2026年初頭の現在、その常識が大きく揺らいでいます。背景にあるのは、生成AI(人工知能)ブームがもたらした半導体サプライチェーンの劇的な変化であり、これはゲーム産業だけでなくテクノロジー業界全体に波及する構造的な問題です。PS6の発売延期検討は、こうした時代の転換点を象徴する出来事と言えます。

PS6発売延期の最大の理由「RAMmageddon」とは
PS6の発売時期を不透明にしている最大の外的要因は、業界で「RAMmageddon(ラムマゲドン)」と呼ばれる世界的なメモリ供給危機です。RAMmageddonとは、生成AIインフラの爆発的な拡大が引き起こした構造的な資源配分の変化に起因するメモリ不足のことを指します。従来のPCやスマートフォン需要のサイクルとは本質的に異なる要因で発生しており、ゲーム業界に深刻な影響を及ぼしています。
OpenAI、Google、Microsoft、Metaといったハイパースケーラー(巨大IT企業)は、AIモデルの学習と推論能力を強化するためにNVIDIA製AIアクセラレータを競って導入しています。これらのAIチップにはHBM(High Bandwidth Memory:広帯域メモリ)が不可欠であり、Samsung Electronics、SK Hynix、Micron Technologyなどの主要メモリメーカーは利益率の高いHBM生産を最優先としています。HBMの製造は従来のDRAMより複雑で多くのウェハー容量を消費するため、コンソールやPC向けの標準DRAM(GDDR6やGDDR7)の生産ラインが大幅に縮小される事態を招いています。
メモリ価格の記録的な高騰がPS6のコストを直撃
この供給構造の激変は、メモリ価格の急騰という形で市場に直接的な影響を及ぼしています。DRAM価格は2025年12月から2026年1月にかけてのわずか1ヶ月間で75%も上昇しました。2026年を通じてさらに40%以上の値上がりが予測されており、一部の試算では前年比で172%ものコスト増に直面しているケースも報告されています。64GBのRAMキット単体の価格が現行のPS5本体価格を上回る地域すら出現しているという、異常な状況が続いています。
次世代機であるPS6は、4Kから8K解像度でのテクスチャ処理やレイトレーシング、AI処理に対応するために30GB以上のGDDR7メモリの搭載が技術的な目標とされています。しかし現在の市場価格でこの仕様を実現しようとした場合、メモリだけで製造原価の大部分を占めることになり、本体価格を800ドルから1,000ドル(約12万円から15万円)に設定せざるを得ない状況です。これはマスマーケット向けの家庭用ゲーム機としては到底受け入れられない価格帯であり、ソニーが発売延期を検討する主たる経済的動機となっています。
2nmプロセスの技術的課題がPS6の量産を阻む背景
PS6の心臓部となるAPU(加速処理装置)には、AMDの次世代アーキテクチャである「Zen 6」(CPU)と「RDNA 5」(GPU)の採用が有力視されています。これらの高性能チップを家庭用ゲーム機に収まる電力効率で実現するためには、TSMC(台湾積体電路製造)の最先端プロセスノードである2nm(N2)技術の採用が不可欠です。
しかし2nmプロセスの導入には莫大なコストが伴います。TSMCの2nmウェハーの価格は1枚あたり約30,000ドル(約450万円)に達すると予測されており、従来の3nmプロセスの約20,000ドルと比較して大幅なコスト増です。さらに2nmプロセスでは、従来のFinFET構造からGAA(Gate-All-Around)ナノシートトランジスタ構造という、より微細で複雑な技術への移行が行われます。この構造変化により、初期段階の歩留まり(良品率)確保が極めて困難な状況にあります。
競合ファウンドリの現状とリスク分散の限界
Samsung Foundryも独自の2nmプロセス(SF2)で受注獲得を目指し、TSMCより安価な約20,000ドルの価格設定を提示しています。しかし同社のGAAプロセスにおける歩留まりは一部で60%未満とも言われており、数千万台規模の量産が必要なPlayStation向けチップの製造委託先としてはリスクが高い状況です。
AMDとソニーは長年にわたりTSMCとのパートナーシップを維持しており、品質と安定供給を優先する方針を採っています。TSMCの2nmプロセスの歩留まりが向上しウェハー価格が適正水準に落ち着く2028年頃まで次世代機の投入を待つことが、最も合理的な判断です。無理に2027年へ投入した場合、逆ざや(製造原価割れ)の幅が許容限度を超え、ソニーのゲーム事業の収益性を著しく損なう恐れがあります。
以下の表は、PS6に関連する主要な半導体プロセスのコスト比較です。
| 項目 | 3nmプロセス | 2nm・TSMC(N2) | 2nm・Samsung(SF2) |
|---|---|---|---|
| ウェハー価格(推定) | 約20,000ドル | 約30,000ドル | 約20,000ドル |
| トランジスタ構造 | FinFET | GAA ナノシート | GAA ナノシート |
| 歩留まり安定時期 | 量産中 | 2028年頃 | 未確定 |
| PS6への適用 | 性能不足 | 最有力候補 | リスクが高い |
PS5ライフサイクルの長期化とソニーの経営戦略
PS5のライフサイクルが延長されていることも、PS6発売延期を後押しする重要な要因です。2025年11月に行われた決算説明会において、ソニーグループの経営陣は発売から6年目を迎えるPS5について「まだライフサイクルの中間地点に過ぎない」との見解を示しました。この発言は、従来の6年から7年の更新サイクルからの明確な逸脱を意味しています。
前世代機であるPS4は、発売から10年以上経過してもなお強力なアクティブユーザー基盤を維持し収益を生み出し続けてきました。2024年時点でも月間アクティブユーザー(MAU)の約半数がPS4を利用していたとされており、ハードウェアの普及速度よりもユーザーがいかに長くエコシステムに留まるかが重要であることを示しています。
PS5 Proの「中継ぎ」戦略がPS6延期を支える
2024年末に市場投入された高性能モデル「PS5 Pro」の販売動向も、PS6延期の判断を裏付ける材料です。2025年の米国におけるPS5シリーズ総販売台数のうち、高価格帯のProモデルが約13%を占めました。コアゲーマー層が現行世代の拡張版を受け入れており、完全な次世代機への移行を急いでいないことの表れです。
PS5 Proに搭載されたAIアップスケーリング技術「PSSR(PlayStation Spectral Super Resolution)」は、ハードウェアのネイティブ性能に頼らずとも4K解像度や高フレームレートを実現可能にしました。この技術的ブレイクスルーにより、開発者は現行機上でも次世代に近いビジュアル表現が可能となり、ハードウェア世代交代の緊急性が相対的に低下しています。ソニーはProモデルでハイエンドユーザーの需要を満たしつつ、標準モデルでマス層を開拓する「二層構造」によって、2028年までの期間を収益性の高いフェーズとして維持する戦略です。
GTA VIなど超大型タイトルがPS5の寿命をさらに延ばす
ハードウェアの発売延期を可能にするもう一つの決定的な要因が、2026年以降に予定されている超大型ソフトウェアタイトルの存在です。特にRockstar Gamesの『Grand Theft Auto VI(GTA VI)』は、単独でゲーム業界全体のトレンドを左右するほどの影響力を持っています。
『GTA VI』の発売時期は2026年後半と予測されており、PS5およびPS5 Pro、Xbox Series X/S向けに最適化されてリリースされる見込みです。GTAシリーズの新作は過去の例を見ても数年間にわたってハードウェアの売上を牽引する力があります。仮に2027年にPS6が発売された場合、「GTA VIをプレイするためにPS5を買ったばかりなのに、すぐにPS6が出るのか」というユーザーの不満や買い控えを招く可能性があります。PS6の発売を2028年以降に設定すれば、PS5で『GTA VI』を十分に楽しんだユーザー層に対し、より高品質な完全版や次回作をフックとしてPS6への移行を促す理想的なマーケティングサイクルを構築できるのです。
開発費高騰とインストールベースの重要性
近年のAAAタイトル(大作ゲーム)の開発費は高騰の一途をたどっています。『GTA VI』の総予算は約20億ドル(約3,000億円)規模とも言われ、『Marvel’s Spider-Man 2』の予算も3億ドルを超えました。開発費の回収には膨大な販売本数が必要であり、普及台数がゼロからのスタートとなるPS6向けに専用タイトルを投入することは、パブリッシャーにとって極めてリスクの高い判断です。
むしろ全世界で約1億台近い普及台数を持つPS5向けにタイトルを供給し、確実に投資を回収したいという業界全体の力学が働いています。この構造がPS5のライフサイクルをさらに延長し、PS6の投入を遅らせる大きな要因となっています。
PS6「Orion」の予想スペックと携帯機「Project Canis」の展望
ソニーの次世代据え置き機(コードネーム:Orion)は、現行機からの飛躍的な性能向上を目指しています。CPUにはAMD Zen 6(またはそれ以降)のチップレット技術を活用したアーキテクチャが、GPUにはAMD RDNA 5(またはUDNA)によるレイトレーシング性能の大幅な強化が見込まれています。メモリは現行の16GBから倍増となる30GBから32GBのGDDR7を搭載し、帯域幅も大幅に強化される見通しです。さらに専用のNPU(Neural Processing Unit:ニューラルプロセッシングユニット)を搭載し、PSSR技術のさらなる進化やゲーム内NPC(ノンプレイヤーキャラクター)の挙動生成、リアルタイム対話生成への活用が構想されています。
これらの仕様はコンソールゲーム体験を根本から変えるポテンシャルを秘めていますが、前述のとおり製造コストの壁が立ちはだかっています。特に30GBのGDDR7メモリ搭載という野心的な計画は、現在の「RAMmageddon」下では実現が困難であり、メモリ市場価格の安定化を待つ最大の理由です。
携帯機「Project Canis」がゲーム体験の幅を広げる
据え置き機に加え、ソニーは新たな携帯ゲーム機(コードネーム:Project Canis)の開発を進めています。PlayStation Portalのようなリモートプレイ専用機ではなく、PS5やPS4のタイトルを本体単体でネイティブ動作させることが可能なスタンドアローン型の携帯機です。
この携帯機はSteam DeckやASUS ROG Ally、そして任天堂の次世代機に対抗する戦略的製品として位置づけられています。24GBのLPDDR5Xメモリを搭載し、PS5に近い性能を携帯サイズで実現することが目標とされています。しかし携帯機における熱設計やバッテリー寿命の課題に加え、高価なメモリの大量搭載はコスト面での厳しい制約です。499ドルから599ドルという競争力のある価格設定を実現するためにはメモリ価格の下落が必須であり、こちらも2028年以降の発売が有力視されています。
競合他社の動向:Xbox「Magnus」と任天堂Switch後継機
PS6の発売時期を考える上で、競合他社の動きも重要な判断材料です。マイクロソフトの次世代Xbox(コードネーム:Magnus)は、2027年から2028年の発売が予測されています。AMDのCEOであるリサ・スー博士は次世代Xbox向けのチップ開発が順調に進んでおり、2027年の投入も技術的には可能であるとの認識を示しています。
しかしマイクロソフトも同様の半導体コスト問題に直面しています。仮にXboxが先行して2027年に次世代機を投入した場合、ソニーは一時的に性能面でのリードを許すことになります。ただしPS5の圧倒的なインストールベースと強力なファーストパーティタイトル群があれば、1年程度の遅れは致命的なハンデにはなりません。むしろ後発でより完成度が高くコストパフォーマンスに優れたハードウェアを投入する方が、長期的には有利に働くという戦略的な計算が成り立ちます。
任天堂のSwitch後継機は、2025年から2026年にかけての発売が見込まれています。Switch後継機はPS6と直接競合するハイエンド市場向けではないものの、ゲーム市場全体の支出シェアを奪い合う存在です。特に日本国内では任天堂のシェアが圧倒的であり、ソニーとしてはSwitch後継機の普及が一巡しハイエンド体験への需要が再燃するタイミングを見計らってPS6を投入する方が、マーケティング効果を最大化できるという判断もあります。
日本市場への深刻な影響と価格受容性の課題
日本市場特有の課題として、円安の影響は極めて大きい問題です。2022年以降続く歴史的な円安傾向により、輸入に依存する半導体や電子機器の国内価格は高騰し続けています。PS5の値上げが繰り返されたことからもわかるように、グローバル価格が500ドルのハードウェアであっても日本では8万円近くの価格設定となる現状があります。
仮にPS6が半導体コスト高騰の影響を直接受けてグローバル価格で800ドル(約12万円)となった場合、日本国内での販売価格は消費税を含めると13万円から15万円に達する可能性があります。これは一部の熱狂的な愛好家を除き、一般消費者がゲーム機に支払える金額を大きく超えた水準です。この価格帯では普及が極めて限定的となり、日本市場におけるPlayStationブランドの存続自体が危ぶまれる事態になりかねません。
携帯機「Project Canis」が日本市場復権の鍵を握る
一方で、日本市場は世界的に見ても携帯ゲーム機の需要が極めて高い特異な市場です。通勤や通学時間の長さ、個人のプライベート空間の事情などから、据え置き機よりも手軽に遊べる携帯機が好まれる傾向にあります。
そのためソニーの次世代戦略において、据え置き型のPS6本体よりも携帯機「Project Canis」の方が日本市場での復権の鍵を握る可能性があります。PS5クラスのゲームを携帯モードでプレイ可能にし、かつ現実的な価格で提供されれば、日本では大きなヒットとなるポテンシャルを秘めています。ソニーが日本市場で再び存在感を発揮するためには、この携帯機プロジェクトの成功と適切な価格設定を実現するためのコストダウンが不可欠であり、それはすなわち発売時期の戦略的な調整を意味しています。
PS6発売延期の検討理由についてよくある疑問
PS6の発売延期が検討されている理由について、多くのゲームファンが疑問を抱いています。その中でも特に多いのが「なぜ半導体不足がPS6に影響するのか」という点です。これは前述のとおり、AI需要の急拡大がメモリメーカーの生産方針を根本から変えてしまったことに起因しています。メモリメーカーは利益率の高いHBM生産にリソースを集中させており、ゲーム機向けのGDDR7メモリの供給が後回しにされている構造です。
「PS5 Proがあるのにまだ待つ必要があるのか」という疑問も多く聞かれます。PS5 ProはあくまでPS5アーキテクチャの拡張版であり、完全な次世代機とは性能の飛躍度が異なります。しかしPSSR技術の搭載により現行機でも十分な映像体験が可能となったことで、ソニーには次世代機投入を急がずに済む時間的余裕が生まれました。この「中継ぎ」の役割こそがPS5 Proの戦略的意義です。
「競合のXboxが先に出たらPlayStationは不利にならないのか」という懸念もあります。確かに一時的な性能面でのリードは許す形になりますが、PS5の全世界での普及台数は約1億台に迫る規模であり、この強固なユーザー基盤とファーストパーティタイトルの充実度は、1年程度のハードウェア投入の遅れを十分にカバーできる競争優位性です。
PS6発売延期の検討理由を総括する
PS6の発売が2028年以降に延期される可能性が高い理由は、単一の要因ではなく複合的かつ戦略的な判断に基づいています。
第一に、「RAMmageddon」による経済的合理性の問題です。AI需要によるメモリ価格の暴騰とTSMC 2nmプロセスの高コストは、2027年時点での次世代機投入を財務的に正当化できない水準にまで製造コストを押し上げています。ハードウェアで巨額の赤字を出すビジネスモデルは、もはや持続可能ではありません。
第二に、エコシステムの持続性とソフトウェア主導の経営への転換です。PS5は依然として好調であり、Proモデルの投入や『GTA VI』などの超大型タイトルのリリースにより、あと数年は収益の柱として機能する余地が十分に残されています。
第三に、技術的成熟と安定供給の確保です。2nmプロセスやGDDR7メモリの歩留まりが向上し安定供給が可能になるのを待つことで、初期不良のリスクを低減しローンチ直後からのスムーズな普及を図ることができます。
第四に、日本市場を含むグローバルな価格受容性への配慮です。特に円安の影響を受ける日本市場において、10万円を超えるハードウェア価格は普及の致命的な障壁となります。コストダウンが実現可能になるまで待つことは、市場シェア維持のために不可欠な判断です。
2026年以降の数年間は、ハードウェアのスペック競争から既存ハードウェアでいかにリッチな体験を提供できるかというソフトウェアとサービスの競争へと一時的にシフトしていくことが予想されます。次世代機までの待ち時間が長くなることへの不安もありますが、その期間はPS5向けタイトルの充実と、より洗練され適正価格で提供されるであろうPS6への準備期間として機能することになります。ソニーの次世代機戦略は、「速さ」よりも「持続可能性」と「完成度」を選択したと言えるでしょう。

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