【名誉毀損】訴える際の費用はいくら?弁護士費用から慰謝料の相場まで徹底解説

社会

インターネットやSNSの普及により、誹謗中傷やフェイクニュースなどの名誉毀損問題が増加しています。実際に名誉を傷つけられた場合、法的手段で解決を図ることが可能ですが、多くの人が「費用がどれくらいかかるのか」「どのような手続きが必要なのか」という疑問を抱えています。

名誉毀損の裁判には、弁護士費用や訴訟費用など様々な費用がかかります。インターネット上の匿名による名誉毀損の場合、加害者特定から損害賠償請求まで含めると140万円前後の費用が必要になることもあります。しかし、法的対応を取ることで誹謗中傷の拡散を防ぎ、精神的苦痛に対する賠償を受けられる可能性があります。

この記事では、名誉毀損の裁判にかかる費用の内訳から、発信者特定の方法、慰謝料の相場、名誉毀損と侮辱罪の違い、そして費用を抑える方法まで、名誉毀損問題に直面している方に必要な情報を詳しく解説します。

名誉毀損の裁判を起こすためにはどのくらいの費用がかかるのか?

名誉毀損で裁判を起こす場合、主に「訴訟費用」と「弁護士費用」の2種類の費用がかかります。それぞれの内訳と相場を詳しく見ていきましょう。

訴訟費用の内訳と相場

訴訟費用とは、裁判を起こすために必要な費用で、以下のようなものが含まれます。

  1. 裁判所手数料(収入印紙代): 請求する賠償額に応じて金額が決まります。例えば:
    • 100万円までの請求:10万円ごとに1,000円
    • 500万円までの請求:20万円ごとに1,000円
    • 1,000万円までの請求:50万円ごとに2,000円
  2. 予納郵便代: 裁判所によって金額が異なります。東京地方裁判所の例:
    • 原告・被告がそれぞれ1名の場合:6,000円
    • 当事者が1名増えるごとに2,000円が追加
  3. その他の費用:
    • 証人の日当と旅費:証人1人につき日当8,000円を上限として日数分
    • 鑑定費用:数十万円単位になることも
    • 謄写費用:1万円〜2万円程度

例えば、東京地方裁判所で300万円の損害賠償を請求する裁判を起こす場合、裁判所手数料が2万円、予納郵便代が6,000円、謄写費用が2万円で、合計4万6,000円程度の訴訟費用が必要になります。

弁護士費用の内訳と相場

弁護士に依頼する場合の費用は、法律事務所によって異なりますが、一般的には以下のような費用が発生します。

  1. 相談料: 初回相談時に支払う費用(無料の場合もあります)
    • 相場:1万円程度
  2. 着手金: 弁護士に仕事を依頼する際に支払う費用
    • 損害賠償請求の場合:10万円〜30万円
    • IPアドレス開示請求:20万円前後
    • 契約者情報開示請求:20万円〜30万円
  3. 報酬金: 事件が解決した際に支払う成功報酬
    • 損害賠償請求:獲得した賠償金の15〜20%程度
    • IPアドレス開示請求:15万円前後
    • 契約者情報開示請求:15万円〜20万円
  4. 日当: 弁護士が裁判所に出廷する際などに発生
    • 相場:3万円〜5万円/日
  5. 実費: 交通費や書類作成費など

インターネット上の匿名による誹謗中傷に対応する場合、発信者を特定するための開示請求手続きが必要になることが多いため、これらの費用を合計すると143万円程度(上記の例では)になることもあります。

名誉毀損裁判の総費用例

東京地方裁判所で300万円の損害賠償を請求し、200万円の賠償金を獲得した場合の例:

  • 訴訟費用:4万6,000円
  • 弁護士費用:
    • 相談料:1万円
    • IPアドレス開示請求(着手金・報酬金):35万円
    • 契約者情報開示請求(着手金・報酬金):35万円
    • 損害賠償請求(着手金):20万円
    • 損害賠償請求(報酬金):40万円(賠償金の20%)
    • 出廷日当(3日分):12万円
  • 合計:147万6,000円

重要ポイント: 名誉毀損の裁判で勝訴した場合、被告側に弁護士費用の一部(通常は総額の10%程度)を請求できることがあります。場合によっては、弁護士費用の大部分が認められるケースもあります。

名誉毀損でのインターネット上の誹謗中傷者を特定する方法と費用は?

インターネット上の匿名による誹謗中傷の場合、まず投稿者を特定するための手続きが必要になります。その方法と費用について解説します。

発信者情報開示請求の流れ

インターネット上の誹謗中傷の発信者を特定するには、一般的に以下の2段階の手続きが必要です。

  1. IPアドレス等の開示請求(第1段階):
    • 対象:ウェブサイトやSNSの運営会社(コンテンツプロバイダ)
    • 目的:投稿時のIPアドレスなどの接続情報を取得する
    • 方法:仮処分申立て
  2. 発信者の個人情報開示請求(第2段階):
    • 対象:インターネットサービスプロバイダ(ISP)
    • 目的:IPアドレスから発信者の氏名・住所などの個人情報を特定する
    • 方法:発信者情報開示請求訴訟

なお、2022年10月に改正プロバイダ責任制限法が施行され、従来2段階だった手続きを1回の非訟手続きで済ませることができるようになりました。これにより、手続きの簡略化と費用削減の可能性が高まっています。

発信者特定にかかる費用

発信者特定には、弁護士費用と裁判所に納める費用が必要です。

  1. IPアドレス開示請求(仮処分)の費用:
    • 着手金:約20万円
    • 報酬金:約15万円
    • 担保金:10万円〜30万円(後日返還されます)
  2. 契約者情報開示請求(訴訟)の費用:
    • 着手金:20万円〜30万円
    • 報酬金:15万円〜20万円
    • 印紙代・予納郵便切手代:数千円〜数万円

合計すると、発信者特定だけで70万円〜100万円程度の費用がかかる可能性があります。ただし、改正プロバイダ責任制限法による新たな手続きを利用すれば、費用を抑えられることもあります。

特定にかかる期間と注意点

発信者特定の手続きには、以下のような期間がかかります。

  • IPアドレス開示請求:1ヶ月〜2ヶ月
  • 契約者情報開示請求:3ヶ月〜4ヶ月
  • 合計:4ヶ月〜6ヶ月程度

注意点: IPアドレス等のログ情報は、一般的に3ヶ月〜6ヶ月程度しか保存されていません。そのため、被害に遭ったらできるだけ早く(遅くとも1ヶ月以内に)法的対応を検討することが重要です。

名誉毀損による慰謝料の相場はいくらで、どのように請求できるのか?

名誉毀損による精神的苦痛に対しては、慰謝料として損害賠償を請求することができます。ここでは、慰謝料の相場と請求方法について解説します。

名誉毀損の慰謝料相場

名誉毀損による慰謝料の相場は、被害者の属性や誹謗中傷の内容、拡散状況などによって異なります。

  • 個人の場合: 10万円〜50万円程度
  • 事業主・法人・企業の場合: 50万円〜100万円程度

ただし、これはあくまで目安であり、実際の金額は事案によって大きく変動します。

判例にみる具体的な賠償額

実際の判例から、具体的な賠償額の例を見てみましょう。

  1. X(旧Twitter)での誹謗中傷:
    • 状況:政治家に対する誹謗中傷投稿
    • 慰謝料:30万円
    • 訴訟費用:3万円(50分の3)
  2. SNSでのなりすまし:
    • 状況:被害者の顔写真を使用して他者を罵倒する投稿
    • 慰謝料:60万円
    • 弁護士費用:58万6,000円(発信者情報取得)、12万円(損害賠償請求)
  3. ブログでの誹謗中傷:
    • 状況:作家に対する名誉毀損・脅迫
    • 慰謝料:200万円
    • 弁護士費用:94万5,000円(発信者情報取得)、29万4,500円(その他)
  4. 週刊誌での「捏造」報道:
    • 状況:根拠のない悪評の掲載
    • 慰謝料:150万円
    • 訴訟費用:15万円(8分の1)

慰謝料請求の流れ

名誉毀損による慰謝料を請求する一般的な流れは以下のとおりです。

  1. 証拠の収集:
    • 誹謗中傷の内容をスクリーンショット等で保存
    • URLやタイムスタンプも必ず記録
  2. 弁護士への相談・依頼:
    • 名誉毀損に強い弁護士を選ぶことが重要
  3. 発信者の特定(インターネット上の誹謗中傷の場合):
    • 前述の「発信者情報開示請求」を実施
  4. 示談交渉:
    • 発信者に対して謝罪と慰謝料の支払いを求める
  5. 訴訟提起(示談が成立しない場合):
    • 損害賠償請求訴訟を提起

示談交渉から慰謝料の支払いまで含めると、弁護士への依頼から6ヶ月〜1年程度かかることが多いです。

慰謝料請求に必要な要件

名誉毀損による損害賠償が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 情報の発信者による故意または過失による違法な名誉毀損行為があったこと
  2. 発信者の違法行為によって精神的苦痛が生じたこと
  3. 情報の発信と精神的苦痛に因果関係が存在すること

これらの要件は被害者側が立証する必要があります。なお、名誉毀損の場合、実害が出ていなくても、社会的評価を害する状態が作り出されたことを証明できれば、損害賠償を請求できます。

名誉毀損と侮辱罪の違いは何か、それぞれの法的責任と費用対効果は?

名誉毀損と侮辱は、ともに他人の名誉や社会的評価を傷つける行為ですが、法律上は異なる罪として扱われています。それぞれの違いと法的責任について解説します。

名誉毀損と侮辱の違い

名誉毀損(刑法230条):

  • 公然と事実を摘示して人の名誉を傷つける行為
  • 特徴: 具体的な事実の摘示があること
  • : 「Aさんは過去に窃盗罪で逮捕された」「Bさんは不倫をしている」

侮辱(刑法231条):

  • 公然と人を侮辱する行為(事実の摘示はない)
  • 特徴: 抽象的な侮辱表現にとどまること
  • : 「バカ」「クズ」「ゴミ」など

両者の共通点として、「公然と」(他の人に広まる可能性があること)という要件があります。個室で1対1で言われた場合など、第三者に広まる可能性のない発言は、原則として名誉毀損罪や侮辱罪は成立しません。

刑事上の責任

名誉毀損罪:

  • 法定刑:3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金
  • 公訴時効:3年

侮辱罪:

  • 法定刑(2022年7月の法改正後):1年以下の懲役若しくは禁錮、30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料
  • 公訴時効:3年(改正前は1年)

両罪とも「親告罪」であり、被害者の告訴がなければ起訴されません。また、告訴期間は犯人を知ってから6ヶ月以内とされています。

民事上の責任(慰謝料)

名誉毀損:

  • 慰謝料の相場:個人の場合は10万円〜50万円、法人の場合は50万円〜100万円程度

侮辱:

  • 慰謝料の相場:1万円〜10万円程度

侮辱による慰謝料は名誉毀損と比べて相場が低い傾向にありますが、これはあくまで目安です。侮辱の内容や状況によっては、より高額になる場合もあります。

名誉毀損が成立しない例外

名誉毀損には以下の3つの要件をすべて満たす場合、違法性が阻却される例外があります。

  1. 事実に公共性があること(事実の公共性)
  2. 公益を目的とした行為であること(目的の公益性)
  3. 内容が真実であるか、真実と信じるに足りる相当な理由があること(真実性の証明)

例えば、政治家の不正を証拠に基づいて報道するような場合は、この例外に該当する可能性があります。なお、侮辱罪にはこのような例外規定はありません。

費用対効果の観点

名誉毀損や侮辱で法的対応を取る場合の費用対効果を考えると以下のような点が挙げられます。

メリット:

  • 精神的苦痛に対する賠償を受けられる可能性がある
  • 加害者の行為を止められる
  • 同様の被害の再発防止につながる

デメリット:

  • 弁護士費用や訴訟費用が高額になる可能性がある
  • 慰謝料だけでは弁護士費用を賄いきれないケースが多い
  • 裁判は長期化する傾向がある

特にインターネット上の誹謗中傷の場合、発信者の特定に多額の費用がかかるため、金銭的な回収だけを目的とするなら費用対効果は低いことが多いです。しかし、誹謗中傷の拡散を防ぎ、加害者に責任を取らせるという観点からは意義があると言えます。

名誉毀損の裁判費用を支払えない場合の対処法はあるのか?

名誉毀損の裁判を起こしたいが費用の支払いが難しい場合、いくつかの選択肢があります。以下では、費用を抑える方法や支援制度について解説します。

法テラスの民事法律扶助制度

経済的に余裕のない方は、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助制度を利用することができます。

民事法律扶助制度とは:

  • 弁護士費用や訴訟費用を法テラスが立て替えてくれる制度
  • 月々5,000円〜1万円程度の分割払いで返済できる
  • 無利子で立て替えてもらえる

利用条件:

  • 資力が一定額以下であること
  • 勝訴の見込みがないとはいえないこと
  • 民事法律扶助の趣旨に適すること

詳細は法テラスの窓口で確認することができます。収入や家族構成によって利用条件が異なるため、まずは法テラスに相談してみることをおすすめします。

弁護士費用保険の活用

近年は、弁護士費用をカバーする保険商品が増えています。

弁護士費用保険の特徴:

  • 月々数千円の保険料で、法的トラブル発生時に弁護士費用が補償される
  • 多くの保険には弁護士への無料相談サービスが付帯している
  • トラブルの種類ごとに専門の弁護士に相談できる場合もある

注意点:

  • トラブル発生後に加入しても、そのトラブルに関しては保険金の支払い対象にならない
  • 保険によって補償内容や上限額が異なる

万が一の法的トラブルに備えて、事前に弁護士費用保険に加入しておくことも一つの選択肢です。

弁護士との費用交渉

弁護士と交渉して、費用の支払い方法を相談することも可能です。

交渉のポイント:

  • 分割払いの相談
  • 着手金を抑え、成功報酬型の契約にするなどの交渉
  • 複数の弁護士に相談して費用を比較

多くの弁護士は初回相談を無料で受け付けているので、複数の弁護士に相談して費用面で最適な選択をすることも一つの方法です。

加害者に費用を請求できる可能性

名誉毀損の裁判で勝訴した場合、加害者に弁護士費用の一部を請求できる可能性があります。

費用請求のポイント:

  • 一般的に弁護士費用の総額の10%程度が認められることが多い
  • 裁判例によっては、弁護士費用の大部分が認められるケースもある
  • 発信者情報開示請求の費用は、「調査費用」として請求できることがある

ただし、加害者の支払い能力によっては、実際に費用を回収できない場合もあるため、注意が必要です。

簡易な解決方法の検討

裁判による解決以外にも、より費用を抑えた解決方法があります。

たとえば:

  • 誹謗中傷の投稿の削除依頼(個人でも可能、または弁護士に依頼する場合は1URLあたり5万円〜20万円程度)
  • SNSやウェブサイトの管理者への通報
  • 警察への相談(刑事事件としての対応)

特に、インターネット上の誹謗中傷の場合、まずは投稿の削除を優先することで、被害の拡大を防ぐことができます。

名誉毀損の問題に直面したときは、まず無料相談を活用して、自分の状況に最適な対応方法を検討することが大切です。金銭的な賠償だけでなく、精神的な被害の回復や再発防止といった観点も含めて、総合的に判断することをおすすめします。

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