TOTOのウォシュレットは、2025年11月に累計出荷台数7000万台を突破しました。1980年の発売開始から約45年をかけて達成されたこのマイルストーンは、日本発の「水で洗う」トイレ文化が国内外で広く受け入れられた証です。特に直近の1000万台は約3年で達成されており、グローバル市場での急速な普及が進んでいます。
ウォシュレットという製品は、単なる温水洗浄便座にとどまらず、日本のものづくりの精神と技術力を象徴する存在となっています。かつては「お尻を洗う」という行為自体が奇異に思われた時代もありましたが、今や日本国内の普及率は80%を超え、海外においても高級ホテルや富裕層の住宅を中心に急速に浸透しています。本記事では、TOTOウォシュレットが7000万台という驚異的な数字を達成するまでの歴史、革新的な技術、グローバル展開の軌跡、そして未来への展望について詳しく解説します。

- TOTOウォシュレット7000万台突破とは
- ウォシュレットの開発の歴史と背景
- ウォシュレット開発における革新的なアプローチ
- ウォシュレットの「黄金法則」とは
- 「おしりだって、洗ってほしい」の衝撃
- ウォシュレットの洗浄技術の革命
- ウォシュレットの衛生技術「きれい除菌水」
- ウォシュレットを支える素材技術「セフィオンテクト」
- ウォシュレットのグローバル展開と北米市場
- ウォシュレットの北米市場での転機
- ウォシュレットのアジア・中国市場での成功
- ウォシュレットの欧州市場戦略
- 文化現象としてのウォシュレット「THE TOKYO TOILET」
- 映画『PERFECT DAYS』が世界に伝えたウォシュレットの価値
- ウォシュレットと「音姫」のプライバシー文化
- ウォシュレットの節水技術とサステナビリティ
- ウォシュレットの未来「ウェルネストイレ」構想
- ウォシュレット7000万台から1億台への展望
TOTOウォシュレット7000万台突破とは
TOTOウォシュレット7000万台突破とは、日本の住宅設備機器メーカーであるTOTO株式会社が製造・販売する温水洗浄便座「ウォシュレット」の累計出荷台数が7000万台に到達したことを指します。この発表は2025年11月に行われました。1980年6月の発売開始から数えて約45年という歳月をかけて積み上げられたこの数字は、単一の製品カテゴリーとしては極めて異例の実績です。
この7000万台という数字を時系列で見ると、普及のスピードが加速していることがわかります。最初の1000万台を達成するまでには18年もの歳月を要しましたが、6000万台から7000万台への到達はわずか3年強で成し遂げられました。6000万台の達成は2022年8月でしたので、約3年という短期間で1000万台を上乗せしたことになります。この加速度的な成長は、日本国内市場が成熟期を迎える中で、海外市場、特に北米やアジアにおける需要が急拡大していることを示しています。
ウォシュレットの開発の歴史と背景
ウォシュレットの歴史は1980年の発売以前から始まっています。1964年、高度経済成長期の只中において、TOTOはアメリカン・ビデ社から「ウォッシュエアシート」という製品を輸入し、販売を開始しました。この製品は元来、アメリカで痔疾患者や高齢者など、トイレットペーパーでの清掃が困難な人々のために開発された医療・福祉用機器でした。TOTOはこの製品に「水で洗う」という行為の潜在的な可能性を見出しましたが、市場の反応は冷淡なものでした。
当時の日本では和式トイレが主流であり、洋式トイレ自体の普及率が低かったことに加え、輸入製品ならではの問題を抱えていました。具体的には、湯温が安定せずに冷水が突然噴射されたり、逆に熱湯が出て火傷のリスクがあったり、ノズルの角度が悪く洗浄水が的確に患部に当たらなかったりと、一般家庭での快適な使用には程遠い品質だったのです。さらに、故障時の部品調達に数ヶ月を要するなど、アフターサービスの面でも課題が山積していました。
転機となったのは1977年です。この年、TOTOの便器出荷数において、洋式便器が和式便器を初めて上回りました。生活様式の洋風化が決定的となったこのタイミングで、TOTOは輸入販売に見切りをつけ、日本の生活習慣に合った製品を自社で開発するという決断を下しました。そして1978年、社運をかけた自社開発プロジェクトがスタートしたのです。
ウォシュレット開発における革新的なアプローチ
開発チームは早々に巨大な壁に直面しました。それは「基礎データの欠如」でした。世界中の文献を探しても、肛門の位置の平均値や排泄後の洗浄に最適な水温といったデータはどこにも存在しませんでした。そこで開発チームは、社員自身を実験台にするという極めて泥臭い、しかし科学的なアプローチを選択しました。
開発メンバーだけでなく、社内からボランティアを募り、のべ300人以上の社員がデータ収集に参加しました。具体的な実験方法は驚くべきものでした。便座の中央に針金を張り、その上に紙を設置します。被験者が座って用を足す位置をマーキングすることで、座り方や体格による肛門の位置のばらつきを徹底的に計測しました。また、最適な湯温を探るために、0.1度単位で温度を変えながら自らのお尻に温水を当て続け、快適と感じる温度と熱すぎると感じる境界線を検証しました。
ウォシュレットの「黄金法則」とは
この膨大な生体データ収集の結果、TOTOは後に「黄金法則」と呼ばれる4つの重要な数値を導き出しました。これらは発売から40年以上が経過した最新モデルにおいても、基本設計として厳格に守られ続けています。
洗浄水の温度は38℃です。これは体温よりわずかに高く、最も快適に感じられる温度として導き出されました。これより低いと不快感があり、高いと火傷の危険性が高まります。便座の温度は36℃で、肌が触れた瞬間に温かさを感じ、かつ長時間座っても不快にならない温度です。乾燥温風の温度は50℃であり、濡れた肌を乾かすのに最適で、かつ熱すぎない風の温度として設定されています。
そして最も重要な発見がノズルの吐水角度43度です。洗浄水が汚物に当たった際、汚れた水が跳ね返ってノズル自体にかかることを防ぎ、かつ洗浄効果が最も高い角度として導き出されました。この43度という角度は、幾多の試行錯誤の末に発見された、衛生と機能を両立させるための特異点なのです。
「おしりだって、洗ってほしい」の衝撃
技術的な課題をクリアし、1980年6月に発売された初代ウォシュレットは、製品としての完成度は高かったものの、発売直後は心理的な壁に阻まれました。「どうやって使うのかわからない」「お尻を洗うなんて奇妙だ」という反応が多かったのです。この状況を一変させたのが、1982年に放映されたテレビCMでした。
コピーライター仲畑貴志氏による「おしりだって、洗ってほしい。」というキャッチコピーと、戸川純氏を起用したこの広告は、日本社会に強烈なインパクトを与えました。「手や顔が汚れたら洗うのに、なぜお尻は紙で拭くだけなのか」という根源的な問いかけは、食事時の放映に対して「不潔だ」というクレームを巻き起こした一方で、人々の潜在意識にあった紙で拭くことへの不満を顕在化させました。このCMを境に、ウォシュレットは「奇妙な機械」から「清潔のための新しい習慣」へと認識を転換させることに成功したのです。
ウォシュレットの洗浄技術の革命
7000万台という普及を支えたのは、競合他社の追随を許さない技術革新の連続でした。初期のウォシュレットは単に温水を噴射するだけでしたが、1990年代に入ると「節水」と「洗浄力」の両立が求められるようになりました。そこで1999年に開発されたのが「ワンダーウェーブ洗浄」です。
この技術の核心は流速の制御にあります。ノズルから一秒間に約100回という高速で、流速の「遅い水」と「速い水」を交互に噴射します。すると、空中で後から出た速い水玉が先に出た遅い水玉に追いつき、衝突・合体します。これにより、お尻に到達する時点では大きな水玉となり、少ない水量でもたっぷりとした量感と確かな洗い心地を実現しました。これは人間の感覚が一定以上の速い刺激の変化を感知できないことを逆手に取った、感性工学の勝利でした。
さらに2017年には、この技術を進化させた「エアインワンダーウェーブ洗浄」が登場しました。流体力学を応用し、水玉の中に空気を混入させることで、水の一粒一粒を体積比で約30%拡大させることに成功しました。空気を含んだ水玉は、肌当たりが柔らかいにもかかわらず、汚れを落とす力は強いという相反する要素を両立させています。この技術開発にはPIV(粒子画像流速測定法)などの最先端の解析技術が用いられ、ノズル内部の微細な流路設計がなされています。
ウォシュレットの衛生技術「きれい除菌水」
近年のウォシュレットにおける最大の技術的ブレイクスルーは、2011年頃から実装され始めた「きれい除菌水」です。海外では「Ewater+」という名称で展開されています。これは、トイレの黒ずみやノズルの汚れといった衛生課題に対し、洗剤を使わずに水だけで除菌するという画期的なソリューションです。
そのメカニズムは、水道水に含まれる塩化物イオンを電気分解し、除菌成分である次亜塩素酸を含む水を生成するというものです。次亜塩素酸は細菌の細胞膜を破壊して繁殖を抑制する強力な除菌効果を持ちますが、時間が経過すると光や温度の影響で元の普通の水道水に戻ります。そのため、環境負荷が極めて低く、洗剤の補充も不要という持続可能な技術となっています。
この「きれい除菌水」は複数の機能に応用されています。「ノズルきれい」機能では、使用前後にノズルを水で洗浄するセルフクリーニングに加え、使用後にきれい除菌水でノズルの内側と外側を洗浄・除菌します。「便器きれい(プレミスト)」機能では、使用前に便器ボウル面にミストを吹きかけ汚れをつきにくくし、使用後および8時間使用がない時にはきれい除菌水のミストを吹きかけ、菌の繁殖や黒ずみの発生を抑えます。「においきれい」機能では、トイレ空間の不快なニオイをカートリッジに捕集し、きれい除菌水で洗浄・脱臭することでフィルターの性能を維持します。2022年の最新モデルでは「便座きれい」機能も搭載され、汚れが付着しやすい便座裏の先端部分にきれい除菌水をミスト噴射し、尿跳ねなどによる黄ばみや汚れを漂白・除菌します。
ウォシュレットを支える素材技術「セフィオンテクト」
ウォシュレットの性能を最大限に発揮するためには、受け皿となる便器側の進化も不可欠でした。TOTOが開発した「セフィオンテクト(CeFiONtect)」は、陶器表面の平滑性をナノレベルまで高める技術です。
従来の陶器の表面は、肉眼では滑らかに見えても、顕微鏡レベルでは無数の凹凸が存在していました。この凹凸に汚れや細菌、カビが入り込むことが、落ちない汚れや臭いの原因となっていました。セフィオンテクトは、通常の釉薬の上に高温で溶かした純度の高いガラス層を焼き付けることで、表面の凹凸を100万分の1ミリメートル(ナノメートルオーダー)まで平滑化しました。
さらに、このガラス層は親水性(水となじみやすい性質)を持っており、洗浄水が便器表面に広がって汚れの下に入り込み、汚れを浮かせて流す効果があります。耐久性も極めて高く、ナイロンたわしで40万回こする耐久試験を行っても傷がつかないほどの硬度を誇り、経年劣化による輝きの喪失を防ぎます。このセフィオンテクトときれい除菌水、プレミストの相乗効果により、TOTOのトイレは「汚れる前に防ぐ」という能動的な衛生管理を実現しています。
ウォシュレットのグローバル展開と北米市場
日本国内での普及率が80%を超え成熟期を迎える中、TOTOの成長エンジンは海外市場へとシフトしています。しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。
1986年にアメリカでの販売を開始した際、TOTOは日本とは比較にならないほど厚い文化的障壁に直面しました。当時のアメリカでは「お尻を洗う」という行為自体が一般的ではなく、ビデという言葉にはどこか性的なニュアンスや医療用というイメージがつきまとっていました。さらに、アメリカのバスルームには電源コンセントがない場合が多く、ユニットバス形式のため漏電の懸念もありました。設置には専門の配管工が必要であり、DIY文化の強いアメリカでも導入のハードルが高かったのです。
マーケティング面でも苦戦を強いられました。2007年、TOTOはニューヨークのタイムズスクエアに広告を掲出しましたが、保守的な層からの批判を浴び、撤去議論が巻き起こるほどの物議を醸しました。テレビCMや雑誌広告でも、お尻に関する表現やトイレの具体的な描写は「品位に欠ける」として拒絶されることが多く、製品の良さを伝える言葉を見つけるのに長年苦労しました。
ウォシュレットの北米市場での転機
この停滞を打破した戦略の一つが「体験の場の創出」でした。TOTOはリッツ・カールトンやパークハイアットなどの超高級ホテルへの導入に注力しました。富裕層やビジネスエリートが宿泊先でウォシュレットの快適さを体験し、その感動を自宅に持ち帰るという「トップダウン」のアプローチです。
そして、最大の転機となったのが2020年の新型コロナウイルスのパンデミックでした。ロックダウンに伴うトイレットペーパー不足が発生した際、多くのアメリカ人が「紙がなくても清潔を保てる手段」としてウォシュレットに注目しました。衛生意識の劇的な高まりとともに、AmazonなどのEコマースでの売上が倍増し、これまでニッチな製品だったウォシュレットが一気に「望ましい家電」へと昇格したのです。TOTOは北米市場を最重要成長市場と位置づけ、2026年度に向けて売上倍増を計画しています。
ウォシュレットのアジア・中国市場での成功
一方、中国やアジア市場においては、1990年代からの早期進出が功を奏しました。特に中国では、経済成長とともに「日本ブランド=高品質・高機能」というイメージが定着し、ウォシュレットは富裕層の住宅に不可欠なステータスシンボルとして受け入れられました。
2015年頃に話題となった「爆買い」現象も普及を大きく後押ししました。日本を訪れた中国人観光客が、日本のホテルや公共施設でウォシュレットの快適さに衝撃を受け、帰国時に便座を大量に購入して持ち帰る姿がニュースとなりました。現在、中国はTOTOにとって日本に次ぐ巨大市場となっており、インバウンドでの体験が自国での需要を喚起する好循環が生まれています。
ウォシュレットの欧州市場戦略
美意識が高く、伝統的な建築様式を重んじる欧州市場に対しては、アプローチを変えています。欧州では配管やタンクが露出したトイレは好まれず、壁掛け式ですっきりとしたデザインが求められます。
TOTOは便器とウォシュレットが完全な曲線で一体化した「ネオレストNX」や、壁掛けタイプの「ネオレストWX」など、デザイン性を極限まで高めたモデルを投入しています。フランスの「ホテル・プラザ・アテネ」などの歴史ある高級ホテルへの採用実績が示すように、機能性だけでなく「バスルームの家具」としての美しさを訴求することで、保守的な欧州市場を切り崩しています。
文化現象としてのウォシュレット「THE TOKYO TOILET」
TOTOのトイレは、単なる衛生陶器を超え、日本のポップカルチャーや「おもてなし」精神を象徴するアイコンとなっています。その象徴的な事例が、渋谷区で展開された「THE TOKYO TOILET」プロジェクトです。
日本財団が主導し、TOTOが技術協力を行ったこのプロジェクトは、安藤忠雄、隈研吾、坂茂ら世界的な建築家・クリエイター16人が、区内17カ所の公共トイレをリデザインするというものです。従来の公共トイレが持っていた「暗い・汚い・怖い・臭い」というネガティブなイメージを払拭し、誰もが快適に使えるインクルーシブな空間へと変革させました。特に坂茂氏による「透明トイレ」は、使用していない時は壁が透明で中の清潔さや安全確認ができ、鍵を閉めると瞬時に不透明になるという技術で、SNSを通じて世界中で話題となりました。
映画『PERFECT DAYS』が世界に伝えたウォシュレットの価値
このプロジェクトを舞台に制作されたヴィム・ヴェンダース監督の映画『PERFECT DAYS』は、2023年に公開され、世界に静かな衝撃を与えました。役所広司氏演じるトイレ清掃員・平山が、TOTOのトイレを慈しむように隅々まで丁寧に磨き上げる姿が描かれています。
この映画は単なるトイレの宣伝ではなく、「清掃」という行為に宿る尊厳や、公共財を大切にする日本の精神性を世界に伝えました。カンヌ国際映画祭での男優賞受賞やアカデミー賞ノミネートを受け、世界中から観光客が「平山のトイレ」を見学に訪れる「トイレ・ツーリズム」という新たな現象まで生み出しました。これはTOTOにとって、何億ドルの広告費を投じても得られない、ブランドの哲学的価値を高める機会となりました。
ウォシュレットと「音姫」のプライバシー文化
海外からの旅行者が日本のトイレで驚く機能の一つに、擬音装置「音姫」があります。これは、排泄音を他人に聞かれたくないという日本女性の羞恥心から、水を何度も流して音を消す習慣による水資源の浪費を防ぐために1988年に開発されました。
「音で音を消す」という発想は、欧米にはない独自の文化であり、当初は奇異な目で見られることもありました。しかし、ジェンダーレスなトイレ空間やオフィスでのプライバシー保護の観点から、近年では海外でも「Sound Princess」としてその価値が再評価され始めています。TOTOは、流れる水の音の周波数や音質を徹底的に研究し、最も自然で遮蔽効果の高い音を開発し続けています。
ウォシュレットの節水技術とサステナビリティ
7000万台という普及台数は、環境への責任の大きさも意味します。トイレは家庭内で最も多くの水を使う設備の一つです。1970年代のトイレは1回流すのに約13〜20リットルの水を消費していましたが、TOTOは「トルネード洗浄」などの技術革新により、洗浄水量を劇的に削減してきました。現在の主力モデルでは、床排水で大洗浄3.8リットル、小洗浄3.0リットルという、かつての3分の1以下の水量で洗浄が可能です。
TOTOのサステナビリティレポートによれば、これらの節水商品の普及による「商品使用時の水削減貢献量」は、2023年度実績で約9.1億立方メートルに達しています。これは東京ドーム約730杯分、あるいは大都市の年間水使用量に匹敵する膨大な量です。気候変動による水不足が深刻化する世界において、TOTOの節水技術は単なる経済的メリットを超え、社会インフラとしての持続可能性を支える核心技術となっています。
ウォシュレットの未来「ウェルネストイレ」構想
TOTOはトイレの定義を「排泄の場」から「健康管理のコックピット」へと再定義しようとしています。その最前線が「ウェルネストイレ」構想であり、具体的には「便スキャン」機能の実装です。
2024年以降の一部ハイエンドモデル(ネオレストLS-W/AS-Wなど)に搭載されたこの機能は、ウォシュレットのノズル横に設置されたLED光センサーを用いて、排泄された便の状態を自動的にモニタリングします。プライバシーに配慮し、カメラによる撮影ではなく、ラインセンサーによる光の反射解析を行います。便の「形(硬さ)」「色」「量」を計測し、形については国際的な医療基準である「ブリストル便性状スケール」を参考に、コロコロ状から液状まで7段階に自動分類します。
取得されたデータは「TOTOウェルネス」アプリに転送され、日々の排便傾向がグラフ化されます。これにより、ユーザーは自身の腸内環境の変化や体調の予兆を把握でき、アプリからは「水分を摂りましょう」「食物繊維が不足しているかもしれません」といった生活習慣へのアドバイスが届きます。かつて医療用機器として始まったウォシュレットが、半世紀を経て、最先端のIoT技術を搭載し、再び人々の健康を守るヘルスケアデバイスへと回帰・進化したことは、技術の螺旋的発展を象徴しています。
ウォシュレット7000万台から1億台への展望
TOTOウォシュレットの7000万台突破は、単なるヒット商品の歴史ではありません。それは「お尻を洗う」という行為に対する人類のタブーへの挑戦であり、300人以上の社員が自らのお尻でデータを取った執念の結晶であり、清潔で快適な生活を世界中に届けようとする日本企業の「良品主義」の勝利です。
その歩みを振り返ると、1980年から1998年までの導入期には最初の1000万台まで18年を要し、偏見との戦いや技術の確立、「黄金法則」の発見がありました。1998年から2015年の成長期には4000万台まで到達し、ワンダーウェーブやきれい除菌水などの機能進化による国内市場の制覇を成し遂げました。そして2015年から現在までの飛躍期には7000万台へと到達し、グローバル展開の加速、インバウンド効果、パンデミックによる衛生意識の変容が追い風となりました。
次のマイルストーンである1億台に向けて、TOTOは北米市場でのさらなる浸透、インドや東南アジアなどの新興国市場の開拓、そしてウェルネストイレによる付加価値の創出という新たな課題に挑んでいます。どれほど技術が進化しAIが搭載されようとも、38℃の温水と43度の角度という、人間が最も心地よいと感じる原点は変わりません。TOTOの挑戦は、技術と人間工学、そして文化の交差点において、これからも続いていくことでしょう。

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