スタバの米粉カステラが販売中止となった理由は、原材料に含まれていた「大麦麦芽」の存在です。スターバックス コーヒー ジャパンは2025年12月25日、グルテンフリー商品として企画していた「米粉カステラ」および「抹茶の米粉カステラ」について、微量の大麦麦芽が含まれていることが判明したため、販売を取りやめると発表しました。この決定により、12月26日に予定されていた全国店舗での販売開始は見送られ、12月23日に予定されていたオンラインストアでの先行発売も開始前に停止されました。
今回の販売中止は、消費者からのクレームや健康被害の報告によって発覚したものではありません。スターバックス社内の最終確認プロセスにおいて問題が発見され、市場に流通する前にすべての商品が差し止められた「未然防止」のケースでした。実際に商品を購入した消費者は存在せず、健康被害も発生していません。本記事では、スタバの米粉カステラが販売中止に至った詳しい原因と経緯、グルテンフリー食品における大麦の問題点、そしてこの事例から消費者が学ぶべきことについて詳しく解説していきます。

スタバ米粉カステラ販売中止の経緯と対象商品
スターバックスが販売を中止した商品は、「米粉カステラ」と「抹茶の米粉カステラ」の2品目です。これらの商品は、国産米粉を100%使用したグルテンフリーを訴求する和洋折衷スイーツとして開発されました。当初の販売スケジュールでは、オンラインストアでの先行発売が2025年12月23日、全国店舗での販売開始が2025年12月26日に設定されていました。
スターバックスは近年、日本独自の食文化を取り入れたメニュー開発に注力してきました。特にインバウンド需要の高まりを受けて、海外で一般的なグルテンフリー対応商品の拡充を進めていた背景があります。カステラは日本の伝統菓子でありながら、コーヒーとの相性も良く、外国人観光客にも認知度が高い商品です。米粉を使用することで、小麦アレルギーを持つ層や健康志向層を取り込む狙いがあったことは明らかでした。
販売中止に至るまでの経緯を時系列で見ていくと、まず開発段階においてグルテンフリー商品として企画・設計が行われ、製造はOEMとして井村屋株式会社が担当することになりました。12月23日以前に実施された製造工程および原材料の最終確認において、使用している原材料の一部に大麦麦芽が含まれていることが判明しました。この発見を受けて、12月23日にはオンラインストアでの先行発売がシステム上で停止され、この時点で購入者は一人も発生しませんでした。
そして12月25日の17時37分、スターバックス公式サイトおよびプレスリリースにて販売中止が正式に発表されました。発表における中止理由は「グルテンフリー商品としてお客様にご案内することが適切ではないと判断したため」とされています。当初の店頭販売予定日であった12月26日には、商品は店頭に並ぶことなく、バックヤードからの回収または廃棄手配が進められたと考えられます。
販売中止の原因「大麦麦芽」とは何か
スタバの米粉カステラが販売中止となった直接的な原因は、原材料に含まれていた「大麦麦芽」です。スターバックスの公式発表において注目すべき点は、単に「アレルギー物質の混入」とするのではなく、「グルテンフリー商品として計画していたが、微量の大麦麦芽が含まれていることが判明した」と具体的に言及していることです。
この発表は二つの重要な事実を示唆しています。一つ目は、これが工場のラインで誤って小麦が混ざったというような意図せぬ混入ではない可能性が高いということです。レシピを構成する原材料の選定段階において、大麦由来の成分が見過ごされていた、あるいはサプライヤーからの情報伝達に齟齬があった可能性が考えられます。二つ目は、法的義務としての「特定原材料」の表示違反に該当するかどうか以前に、「グルテンフリー」というブランドの約束を守れないと判断した倫理的な決断であったということです。
大麦麦芽は食品加工業界において極めて一般的な副原料であり、さまざまな経路で意図せず製品に入り込むことがあります。たとえば、カステラのしっとり感を出すために不可欠な水飴を作る際、デンプンを糖化するために麦芽酵素を使用する場合があります。原料がトウモロコシやジャガイモであっても、加工助剤として大麦麦芽が使われれば、最終製品に微量のグルテンが残留することになります。
また、商品を美味しそうな焼き色にするためのカラメル色素の一部や、コクを出すためのモルトエキスは大麦由来です。風味に深みを出すために添加される調味液に、麦芽エキスが含まれることもあります。スターバックスの商品情報によると、原材料には「水あめ」「もち米あめ」が使用されていました。推測される原因として、これらの糖類原料の規格書において起源原料の確認漏れがあったか、あるいは2次原料以下のキャリーオーバーとして扱われていた成分が、厳密なグルテンフリー基準に抵触した可能性が考えられます。
グルテンフリーにおける小麦と大麦の違い
米粉カステラがなぜ「大麦」を理由に販売中止となったのかを理解するには、グルテンフリーの科学的な定義を知る必要があります。一般消費者の多くは「グルテンイコール小麦」と認識していますが、科学的および医学的な定義はより広範です。
セリアック病やグルテン不耐症において問題となるタンパク質は、複数の穀物に含まれています。小麦にはグリアジンというタンパク質が含まれ、大麦にはホルデインが含まれ、ライ麦にはセカリンが含まれています。これらはアミノ酸配列が類似しており、免疫系が交差反応を起こすため、グルテンフリー食においてはこれらすべてを排除する必要があります。
ここで重要なのは、日本の食品表示法における「特定原材料」との関係です。日本では、発症数や重篤度が高い8品目を特定原材料として表示義務の対象としており、その品目は卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かに、くるみです。注目すべきは、「大麦」はこの8品目に含まれていないという事実です。つまり、大麦を使用しても「小麦不使用」と表示することは法的には可能なのです。
ここに、法規制と消費者の期待との間に大きなギャップが存在します。「グルテンフリー」という表示を見た消費者は、小麦だけでなく大麦やライ麦も含まれていないと期待します。しかし、日本の法律上は大麦の表示義務がないため、企業が「グルテンフリー」を謳う際には、法律を超えた自主的な基準を設ける必要があります。スターバックスはこのギャップを認識し、法的にはクリアできていたとしても、消費者の健康リスクと期待を優先したと分析できます。
国際的な基準では、グルテン含有量が20ppm(1キログラムあたり20ミリグラム)未満であればグルテンフリーと表示できるとされています。しかし、大麦麦芽はグルテンの塊のような素材であり、微量添加であっても、高感度の検査を行えば陽性反応が出る可能性が高いものです。
さらに厄介なのは、大麦に含まれるホルデインが発酵や加水分解を受けると分解され、一般的な検査キットでは検出されにくくなる場合があるという点です。これは「偽陰性」と呼ばれる現象で、検査上は問題なくても、セリアック病患者の体内では毒性を発揮するペプチドが残存しているケースがあります。これが「隠れグルテン」の恐怖として知られている問題です。スターバックスが「微量の大麦麦芽」を発見し中止したということは、かなり精度の高い検査あるいは詳細なトレーサビリティ調査が行われたことを裏付けています。
製造を担当した井村屋の専用工場について
今回の米粉カステラの製造を担当していたのは、あずきバーや肉まんで知られる井村屋株式会社です。同社は近年、海外輸出やアレルギー対応食品の製造に力を入れており、その拠点が三重県津市にある「あのつFACTORY」です。
2023年に本格稼働した「あのつFACTORY」は、井村屋グループの成長戦略の中核を担う施設として位置づけられています。この工場のコンセプトは、米国向け輸出が好調なカステラやロングライフ豆腐などを製造することにあります。アレルゲン管理においては、工場内に「小麦を持ち込まない」ことを徹底し、小麦アレルギーやセリアック病患者でも安心して食べられる製品作りを掲げています。設備投資としては、AIやDXを推進し、約16億円を投じて最新のオーブンや包装ラインを導入しています。
このように、ハードウェアとしての安全性は極めて高いレベルにありました。工場内での空気感染や、他ラインからの混入のリスクは最小限に抑えられています。しかし、「小麦を持ち込まない工場」で製造しても防げなかった今回の事態は、問題の本質が「場所」ではなく「情報」にあることを示しています。
サプライチェーンのブラックボックス化が一つの要因として考えられます。井村屋やスターバックスが直接調達する1次原料、たとえば米粉や卵などは厳格に管理されていても、その原料メーカーが仕入れる2次原料、たとえば水飴の素となるデンプンなど、さらにその先の3次原料、たとえばデンプン分解酵素まで完全にコントロールすることは、現代の複雑な食品流通において極めて困難です。
また、「アレルゲンフリー」と「グルテンフリー」の混同も考えられます。製造現場の管理基準が「小麦」という特定原材料の排除に主眼が置かれており、「大麦」という特定原材料ではないがグルテンを含む穀物への警戒レベルが相対的に低かった可能性があります。専用工場であるという安心感が、逆に盲点を生んだ可能性も否定できません。
グルテンフリー市場の拡大と米粉スイーツの課題
今回のスタバ米粉カステラ販売中止の事案は、スターバックス一社の問題にとどまらず、拡大するグルテンフリー市場全体への警鐘でもあります。
世界のグルテンフリー食品市場は、2024年時点で約129億米ドル、日本円で約1.9兆円と評価されており、2034年には330億米ドルに達すると予測されています。日本国内においても、2025年には約1億2000万米ドル規模への成長が見込まれており、健康志向やインバウンド需要、そして米粉の利用拡大政策がこれを後押ししています。
特に日本では、農林水産省が食料自給率向上の切り札として米粉の普及を強力に推進しており、製粉技術の進化によって、パンや麺、スイーツなど多用途での利用が進んでいます。スターバックスの米粉カステラ参入も、この大きな潮流の中に位置づけられます。
しかし、「米粉イコールグルテンフリー」というイメージが先行している一方で、実際の商品開発には多くの落とし穴があります。米粉にはグルテンがないため、生地の粘りや膨らみを出すために、小麦グルテンを添加した「米粉ミックス粉」が流通しているケースがあります。また、水飴や香料、ベーキングパウダーなどの添加物に小麦や大麦由来成分が含まれることもあります。
米粉だからといって安心できるわけではなく、原材料表示の「麦」の文字に注意が必要であること、そして企業側もサプライチェーンの最深部まで目を光らせる必要があることが、今回の事例からの重要な教訓です。
欧米では「グルテンフリー」の定義が法的に明確化されており、20ppm未満などの基準が設けられています。一方、日本では2025年現在、グルテンフリーに関する統一的な法的定義や表示ルールが存在しません。消費者庁のガイドラインはあくまでアレルゲン表示に関するものであり、ライフスタイルとしてのグルテンフリーを規定するものではありません。このルールの空白が、企業にとってはリスクとなっています。明確な基準がないため、企業は独自に厳しい基準を設定せざるを得ず、結果として今回のような微量混入でもアウトという厳しい判断を下すことになります。
スターバックスの対応は適切だったのか
今回の販売中止におけるスターバックスの対応は、企業のリスク管理の観点から高く評価できる側面があります。
販売開始のわずか数日前に全量廃棄・販売中止を決定することは、短期的な経済損失としては甚大です。製造原価、物流費、廃棄費、機会損失などを考えると、クリスマス直後かつ年末年始という小売業にとって極めて重要な商戦期に主力となるはずの新商品を欠品させる判断は、極めて重い意味を持ちます。
しかし、もしそのまま販売し、セリアック病患者が喫食して健康被害が発生していた場合、その賠償額とブランドイメージの毀損は計り知れないものになっていたでしょう。過去にカビ発生で自主回収を行った経験を持つスターバックスは、品質問題に対する感度が極めて高く、「疑わしきは出荷せず」の原則が組織に浸透していることがうかがえます。
コミュニケーションの透明性も評価できます。発表において「大麦麦芽が含まれている」と具体的な原因物質を開示した点は、透明性が高いと言えます。曖昧に「品質基準を満たさないため」と濁す企業も多い中、具体的な理由を説明することで、アレルギーを持つ消費者に対して誠実な態度を示しました。
スターバックスは過去にも食品の自主回収を行った経験があります。2019年にはメイプルベイクドケーキで一部商品へのカビ発生により回収を行い、2022年にはガトーショコラで包装不備によるカビ発生により回収を行いました。これらは微生物汚染という衛生上の問題であり、原因は包装機械の調整不良や輸送中の摩擦などが主でした。
一方、今回の米粉カステラは原材料配合の設計ミスであり、衛生状態そのものは良好であった可能性が高いです。つまり、問題の所在が工場という現場から、開発室やサプライヤー選定へとシフトしている点が特徴的です。今回の事例は、表示ミスではなく「グルテンフリーというコンセプトに対する成分の不適合」であり、法的義務のない大麦を理由に販売中止とした点は、日本の食品安全基準が法令遵守から消費者の期待値へとレベルアップしていることを示唆しています。
消費者がグルテンフリー商品を選ぶ際の注意点
今回のスタバ米粉カステラ販売中止の事例から、消費者が学ぶべきことがいくつかあります。
まず、「小麦不使用」と「グルテンフリー」は同じ意味ではないということを理解する必要があります。パッケージに「小麦不使用」と表示されていても、大麦やライ麦が使われている可能性があります。特に重篤なアレルギーやセリアック病を持つ場合は、原材料表示を詳細に確認するか、メーカーに直接問い合わせることが確実です。
次に、企業の販売中止発表をネガティブに捉えるのではなく、ポジティブに評価することも重要です。販売中止は一見残念なニュースですが、それは企業が安全でないものを売らなかったという証でもあります。このような対応を行った企業は、品質管理に対する意識が高いと評価できます。
原材料表示を確認する際には、「水あめ」「麦芽エキス」「醸造酢」といった項目に注意が必要です。これらは大麦や小麦が隠れている代表的な原材料です。グルテンフリーを厳格に守る必要がある方は、これらの成分が含まれている商品については、メーカーに由来原料を確認することが推奨されます。
今後、同様の事案を防ぐために、食品業界ではブロックチェーン技術などを用いたトレーサビリティの完全化が進むと考えられます。1次原料だけでなく、添加物や加工助剤に至るまで、その由来と製造工程をデジタルデータとして追跡可能な状態にすることが、グルテンフリーのようなフリーフロム食品には不可欠となります。
まとめ
2025年12月25日に発表されたスターバックスの米粉カステラ販売中止は、単なる商品欠品にとどまらず、現代の食の安全が直面する複雑な課題を映し出す象徴的な出来事でした。
販売中止の原因は「大麦麦芽」という、法的には表示義務のない、しかしグルテンフリーを求める消費者にとっては重要な成分の存在でした。製造を担った井村屋の「あのつFACTORY」は最高レベルの専用設備を有していましたが、サプライチェーンの深層に潜む原材料リスクまでは完全に遮断することができませんでした。
しかし、スターバックスが販売直前にこの事実を突き止め、経済的損失を厭わずに全量中止を決断したことは、同社のブランド価値を守り、何より消費者の健康を守るための最善の行動であったと評価できます。オンラインストアでの先行発売も開始前に停止され、実際に商品を購入した消費者は存在せず、健康被害も発生しませんでした。
この事例は、今後の食品業界において、アレルギー対応やフリーフロム食品を開発する際の重要な教訓として参照されることになるでしょう。消費者としては、「小麦不使用」と「グルテンフリー」の違いを理解し、原材料表示を注意深く確認することが大切です。そして、企業の誠実な対応を正当に評価することで、より安全な食品市場の形成に貢献することができます。

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