マイナポータルは、2025年12月31日午後10時から2026年1月2日午前3時まで、大規模改修のための年末年始メンテナンス停止を実施します。このメンテナンスは作業状況によって最大で2026年1月4日午後10時まで延長される可能性があり、過去に例を見ない長期間のサービス停止となります。この期間中は、マイナポータルのログインを伴う全てのサービスが利用できなくなるため、医療機関でのマイナ保険証の新規利用登録や、ねんきんネットとの連携、e-Taxへの認証などが一切行えません。年末年始に行政手続きを予定している方は、12月30日までに必要な手続きを済ませておくことが極めて重要です。
今回のメンテナンスは、単なる定期的なサーバー更新ではありません。2026年を見据えたマイナポータルの抜本的なシステム刷新を目的としており、従来のシステム基盤からデジタル庁が主導する「ガバメントクラウド」への完全移行が実施されます。この改修により、今後のサービス拡大や利用者数の増加に対応できる柔軟で安定したシステムが構築されることになります。この記事では、年末年始のメンテナンス停止の詳細なスケジュールと影響範囲、2026年大規模改修の具体的な内容、同時期に導入される次世代マイナンバーカードの仕様変更、そして健康保険証廃止後の実務的な対応策について詳しく解説します。

2025年-2026年 年末年始メンテナンス停止のスケジュールと詳細
マイナポータルの年末年始メンテナンスは、2段階で実施される計画となっています。第1段階のプレメンテナンスは2025年12月6日午後10時から12月8日午前6時までの約32時間にわたって実施され、すでに完了しました。この期間は年末年始の本番作業に向けた予備的なシステム更新やデータ移行のリハーサルを目的としたものでした。
そして最も注意すべき第2段階の本メンテナンスが、2025年12月31日午後10時から2026年1月2日午前3時まで実施される予定です。ここで極めて重要な点は、作業状況によってメンテナンス期間が最大で2026年1月4日午後10時まで延長される可能性があるということです。もし延長が発動された場合、正月の三が日が完全にシステム停止期間となり、仕事始めの前日である1月4日まで影響が及ぶことになります。
このメンテナンスが年末年始という利用者の多い時期に実施される理由は、今回の改修が単なるパッチ当てレベルではなく、システムの基盤そのものを入れ替える大規模な作業だからです。データベースの構造変更や大量のデータ移行、アプリケーションサーバーの総入れ替えが伴うため、データの整合性を保つにはシステムへの書き込みを完全に遮断する必要があります。行政機関の窓口業務が停止している年末年始は、対面業務との連携エラーが発生しない唯一のタイミングであり、この時期にシステムを完全に止めて一気に移行を完了させる手法が採用されました。
メンテナンス期間中に利用できなくなるサービスの範囲
メンテナンス期間中は、マイナポータルのログインを伴う全サービスが停止します。これはウェブブラウザでマイナポータルにアクセスできないだけでなく、API連携している全ての外部システムにも波及する広範な影響をもたらします。
健康保険証利用登録の停止は、最も深刻かつ生命や健康に関わるリスクを伴う影響です。通常、マイナ保険証の利用登録をしていない人でも、病院の受付にある顔認証付きカードリーダーにカードを置くことでその場で利用登録を行い、直ちに保険適用を受けることができます。しかしメンテナンス期間中はこのサーバー通信が遮断されるため、カードリーダーを通じた新規登録が一切できなくなります。セブン銀行ATMでの登録機能も同様に停止します。
ねんきんネット連携の停止も大きな影響を及ぼします。自身の年金記録の確認や将来の年金受給額の試算など、マイナポータル経由でログインするねんきんネットの機能が利用できなくなります。年末年始に将来のライフプランを家族で話し合おうと計画している場合、正確なデータを参照することができません。
e-Taxおよび確定申告準備への影響も見過ごせません。年明けから始まる確定申告シーズンに向けて、医療費控除のための医療費通知情報の取得やふるさと納税のXMLデータ連携の準備を行いたい時期ですが、e-Gov連携やe-Taxへの認証機能が停止します。データ連携には数日のタイムラグが発生することがあるため、年始の作業開始が遅れる原因となります。
引越し手続きとパスポート申請についても、マイナポータルを利用した転出届の提出やパスポートの更新申請ができなくなります。休暇中に引越し準備を進めようとしても、役所の窓口も閉まっており、オンラインも停止しているため、手続きが完全にストップする事態となります。
スマートフォン機能への影響も考慮が必要です。Android端末等に搭載されたスマホ用電子証明書を用いたサービス利用についても、バックエンドの認証局との通信が必要な処理に関しては制限される可能性があります。特に機種変更に伴う証明書の失効や再発行手続きは、この期間中避けるべきです。
年末年始の医療受診で想定されるリスクと具体的な対策
メンテナンス期間中に発生しうる最も深刻なリスクは、医療受診時のトラブルです。具体的なリスクシナリオと、それを回避するための対策を理解しておくことが重要です。
帰省先での急病というリスクシナリオを考えてみます。年末年始に実家に帰省中、インフルエンザや怪我で救急外来を受診することになったとします。手元にはマイナンバーカードしかないものの、まだ保険証利用登録を済ませていなかった場合、病院で登録しようとしてもメンテナンス中で登録ができず、無保険扱いの10割負担を求められる、あるいは後日の精算手続きが必要になる可能性があります。
転職や退職直後の空白期間というリスクも存在します。12月末で退職あるいは転職し、保険証が切り替わったタイミングでは、新しい保険情報がマイナポータルに反映されているか確認しようとしてもログインができず確認できません。この状態で年始に急病で救急病院に行くと、マイナ保険証で資格確認ができない、または情報が古いという事態に陥る恐れがあります。
これらのリスクに対する最も効果的な対策は、資格情報のお知らせを事前にダウンロードしておくことです。マイナ保険証の登録者は、マイナポータルアプリから自分の被保険者資格情報を表示し、PDFとしてダウンロードすることができます。これを12月30日までにスマートフォンに保存しておけば、システムがダウンしていても窓口で資格を目視確認してもらえる可能性が高まります。このPDFはネットが繋がらない災害時にも役立つ情報です。
健康保険組合等から送付される紙の通知書を携帯しておくことも有効な対策となります。A4程度の紙で送られてくる「資格情報のお知らせ」を捨てずに財布に入れておくことで、万が一の際の備えとなります。
それでも対応できない最悪の場合は、その場で全額自己負担の10割負担となることを覚悟しておく必要があります。ただし、後日領収書と診療明細書、そして有効な保険資格が確認できるものを持って手続きすれば、差額の7割から9割分は払い戻されます。
2026年大規模改修の目的とマイナポータルの進化
今回の大規模改修は、マイナポータルの歴史における最大の転換点となります。デジタル庁はこれを「今後のサービス拡大や利用者数の増加に対応するため」と説明していますが、その背景にはより深遠な戦略と技術的な刷新が存在します。
柔軟性と迅速性の実現が第一の目的です。これまでの行政システムは、一度作ると変更が困難な重厚長大な構造でした。新しいサービスを追加するには年単位の計画と予算が必要でした。2026年の改修では、システムをマイクロサービス化し、機能ごとに独立して開発・更新できる疎結合なアーキテクチャへ移行します。これにより、新しい給付金制度ができたり法律が変わったりした際に、即座にマイナポータル上の機能を修正・追加できるようになります。
安定性と信頼性の向上が第二の目的です。マイナポータルの月間ログイン数は、2025年3月時点で既に3,000万件を突破しています。確定申告時期や給付金の申請時期には、これの数倍のアクセスが集中します。従来のシステムではアクセス集中による遅延やダウンが発生するリスクがありました。改修後は、クラウドの特性であるオートスケーリング機能を最大限に活用し、アクセス数に応じてサーバー資源を自動的に増減させることで、どんなにアクセスが集中しても落ちないシステムを目指します。
災害対策の強化が第三の目的です。日本は災害大国です。特定地域のデータセンターが被災しても行政サービスが止まらないよう、データとシステムを地理的に分散させ、瞬時に切り替えられる冗長構成を強化します。ガバメントクラウドを利用することで、マルチクラウド環境や異なる地域間でのバックアップ体制がより強固になります。
マイナポータルの新しいユーザー体験とプッシュ型行政サービス
技術的な基盤の刷新に加え、利用者が直接触れる画面や体験も2026年を境に劇的に進化します。これは2024年3月に正式採用された実証版トップページの方向性をさらに推し進めたものです。
プッシュ型行政サービスの実現は、行政サービスのあり方を根本から変える変革です。これまでの行政サービスは、国民が自ら制度を調べ、自分が対象かどうかを判断し、申請するプル型でした。しかし多くの国民は自分が受けられる支援を知らないまま過ごしています。2026年の改修では、マイナンバーに紐付いた個人の属性情報に基づき、行政側から「あなたはこの給付金の対象です」「お子さんの予防接種の時期が来ました」といった通知がマイナポータルに届くプッシュ型のサービスが本格化します。
ライフイベントごとのワンスオンリーも実現します。出生、引越し、死亡などのライフイベントごとに必要な手続きがパッケージ化されます。例えば引越しの場合、転出届、転入予約、電気・ガス・水道の住所変更、郵便局の転送届などを、マイナポータルの1つの画面から一括で申請できるようになります。一度入力した住所や氏名は他の手続きにも自動で転記されるため、何度も同じことを書く必要がなくなるワンスオンリーの原則が徹底されます。
スマホファーストと対話型UIへの移行も進みます。PC画面の縮小版ではなく、スマートフォンアプリでの操作を最優先に設計されたデザインになります。複雑な行政用語を並べるのではなく、チャットボット形式で質問に答えていくだけで申請書が出来上がるウィザード形式のUIが標準となります。
ガバメントクラウドへの移行と自治体システムの標準化
この大規模改修を支えるインフラ基盤が「ガバメントクラウド」です。政府は2025年度末までに、全国の地方自治体の基幹業務システムをガバメントクラウド上の標準準拠システムに移行させる目標を掲げています。住民基本台帳、税、社会保障など20業務がその対象となっています。
マイナポータルの改修は、この自治体システムの標準化とセットで進行しています。自治体側のシステムが標準化され、ガバメントクラウド上でマイナポータルとAPIで直接つながることで、これまで自治体ごとに異なっていたオンライン申請の可否や手続きの方法が全国で統一されます。リアルタイムでのデータ連携が可能になり、2026年1月のマイナポータル改修は日本の行政システムの中央と地方の完全接続を意味することになります。
次世代マイナンバーカードの導入と仕様の変更点
2026年は、マイナポータルのシステムだけでなく、物理的な鍵であるマイナンバーカード自体が生まれ変わる年でもあります。2016年のカード交付開始から10年が経過し、カードの有効期限が到来し始めること、そして10年前の技術では対応しきれない新たなセキュリティリスクに対処するため、次世代マイナンバーカードの導入が計画されています。
性別表記の削除は最も象徴的な変更点です。カードの券面から性別の記載が削除されます。性別情報はICチップ内部のデータとしては記録されますが、視覚的な情報として券面に印字しないことで、トランスジェンダーの方々など自身の性自認と外見・戸籍上の性別が一致しない方々のプライバシーに配慮し、カード提示時の心理的負担を軽減する設計となります。これは多様性を尊重する社会に向けた行政の意思表示とも言えます。
氏名のフリガナ追加も重要な変更です。2025年5月の改正戸籍法施行により、戸籍に氏名のフリガナが正式に記載されるようになりました。これを受け、次世代カードの券面にもフリガナが記載されます。金融機関や行政窓口での本人確認時に読み方の確認がスムーズになり、データベース上の検索や突合の精度が向上します。
日本国JAPANの明記により、国際化への対応が進みます。現在のカードには発行元として市区町村長の名前はありますが、国名は目立っていません。次世代カードでは、海外での本人確認書類としての利用を想定し、券面に日本国JAPANと明記することが検討されています。パスポートと同様に、日本政府が保証する公的な身分証明書としての地位が明確化されます。
西暦表記とローマ字氏名も希望者に対して可能になります。在留外国人や海外での利用機会が多い日本人のために、生年月日を和暦だけでなく西暦で表記したり、氏名をローマ字で併記したりすることができるようになります。
次世代マイナンバーカードのセキュリティ強化と利便性向上
外見の変化以上に重要なのが、ICチップ内部のセキュリティ技術の刷新です。デジタル技術の進化は早く、現在の暗号技術がいずれ量子コンピュータによって破られる日が来るかもしれません。次世代カードはこれに備えた設計になっています。
暗号方式の更新と電子証明書有効期間の延長が実現します。今後10年以上の技術進歩を見据え、より解読が困難な最新の暗号アルゴリズムへ移行します。このセキュリティ強度の向上により、現在5年ごとに更新が必要な電子証明書の有効期限を、カード本体と同じ10年に延長することが可能になります。18歳未満は5年のままですが、成人の利用者は5年ごとの役所での更新手続きから解放され、カードを作れば10年間そのまま使えるようになります。
暗証番号の整理・統合も利便性を高めます。現在のカードには用途の異なる4つのアプリケーションが搭載されており、それぞれに暗証番号の設定が必要でした。これは利用者にとって混乱の元でした。次世代カードではこれらを用途別に整理・統合し、ユーザーが管理すべき暗証番号を減らす方向で再設計されています。
更新申請期間の早期化も便利な変更です。現在は有効期限の3ヶ月前からしか更新申請ができませんが、次世代カードでは1年前から更新申請が可能になります。余裕を持って更新手続きができ、窓口の混雑分散も期待できます。
特急発行の対象拡大により、カードを紛失した際や、新生児、海外からの転入者に対して、通常よりも早くカードを発行する仕組みが拡充されます。最短で数日以内での発行を目指し、カードがない期間の不便を解消します。
健康保険証廃止後の実務対応と資格確認書の活用
2025年12月2日をもって、従来の健康保険証の新規発行が停止されました。この「マイナ保険証」への一本化政策は、2026年のシステム改修と密接にリンクしており、全ての国民に影響を与えています。
マイナンバーカードを取得していない人、あるいはカードは持っているが保険証としての利用登録をしていない人に対しては、申請に基づき資格確認書が無償で交付されます。当面は職権交付も行われています。
資格確認書は従来の健康保険証に近い形状のもので、氏名、生年月日、被保険者番号などの資格情報が記載されています。有効期間は従来の保険証と同様に原則1年から2年、最長5年と設定されますが、あくまでマイナ保険証への移行までの暫定的な措置という位置づけです。
医療機関での使い方は従来の保険証と同じで、受付に提示し事務員が目視で確認します。ただし、マイナ保険証のような顔認証での自動受付や、過去の健診結果・薬剤情報の共有によるより良い医療の提供といったメリットは受けられません。また、高額療養費制度の限度額適用認定証の情報が自動連携されないため、別途認定証の申請が必要になる場合があります。
スマートフォン戦略とマイナポータルアプリの進化
デジタル庁の戦略において、物理カードと並んで重要な柱がスマートフォンの活用です。2026年は、スマホが単なる閲覧端末から法的な効力を持つ身分証明書そのものになる年となります。
Android端末では既に実装されていたスマホ用電子証明書ですが、iPhoneへの対応も段階的に進められています。iPhoneだけで確定申告が可能になるなど利便性は向上していますが、Apple社のセキュリティ要件は極めて厳格です。
iOS 16.4未満の端末への対応終了は重要な変更点です。セキュリティ強化のため、2026年5月以降、iOS 16.4未満の古い端末ではマイナポータルアプリおよびマイナポータル自体が利用できなくなることが予告されています。これはiPhone 8やiPhone X以前のモデルを使用しているユーザーに対し、実質的な買い替えを促す内容となっています。最新のセキュリティパッチが適用されない端末を行政サービスから排除することで、システム全体の安全性を担保するための措置です。
マイナアプリによる機能統合の構想も進んでいます。現在、マイナポータルアプリ、マイナ資格確認アプリ、公的個人認証アプリなど、機能ごとにアプリが分かれている現状に対し、これらを統合し一つのアプリであらゆる行政サービスにアクセスできるスーパーアプリ化の構想があります。
2026年以降、行政手続きだけでなく民間のビジネス領域にもマイナンバーカード機能が開放されます。コンサートチケットの不正転売防止のための本人確認、セルフレジでの酒・たばこ購入時の年齢確認、銀行口座開設時の本人確認などに、スマホをかざすだけで対応できる実証実験が進められています。これによりマイナポータルアプリは、生活のあらゆるシーンで本人であることを証明するデジタルIDウォレットへと進化します。
年末年始のメンテナンスに備えて今すぐ行うべき準備
2025年12月31日から始まるメンテナンス期間に備えて、今すぐ行うべき準備があります。最も重要なのは、12月30日までに必要な行政手続きを全て完了させることです。確定申告の準備、年金記録の確認、引越し手続きなど、年末年始の休暇中に予定していた作業は、メンテナンス開始前に済ませておく必要があります。
マイナ保険証を利用している方は、マイナポータルアプリから資格情報のお知らせをPDFでダウンロードし、スマートフォンのローカルフォルダに保存しておくことを強く推奨します。システム停止中でもこのPDFを医療機関の窓口で提示することで、保険資格を目視確認してもらえる可能性が高まります。紙の通知書も捨てずに財布に入れておくと、万が一の備えとなります。
iPhone 8やiPhone X以前のモデルを使用している方は、2026年5月以降にマイナポータルが利用できなくなることを念頭に、機種変更の計画を立てておくことをお勧めします。
今回のメンテナンス停止は、便利な未来を実現するための必要な過程です。2026年のシステム改修と次世代カード導入が完了すれば、行政サービスは役所に行ってお願いするものから手のひらの上で完了するものへと変わります。給与、年金、医療費、ふるさと納税などのデータが自動連携され、確認ボタンを押すだけで終わる「書かない確定申告」の実現や、出生届から児童手当の申請、予防接種の管理までがシームレスにつながる子育て支援の自動化など、行政サービスの質が大きく転換する時代が目前に迫っています。


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