スリムビューティハウスに対する業務停止命令は、消費者庁が特定商取引法違反を認定し、2026年1月30日に発出した行政処分です。違反内容の核心は、エステ契約に付随する関連商品をオンラインショップ経由で購入させることでクーリング・オフを回避しようとした「不実告知」と、店舗での「迷惑勧誘」の2点にあります。この処分により、同社は2026年4月29日までの3カ月間、新規のエステ契約に関する勧誘や申込受付、契約締結が全面的に禁止されています。
エステティック業界の老舗として知られるスリムビューティハウスが、なぜこのような厳しい処分を受けることになったのか、多くの方が関心を寄せています。さらに今回の処分では、法人だけでなく代表取締役個人に対しても業務禁止命令が出されるという、特定継続的役務提供事業者として史上初の事態となりました。この記事では、消費者庁が認定した具体的な違反行為の内容、処分の詳細、代表者個人への業務禁止命令の意味、そして利用者が取るべき対応策まで、詳しく解説していきます。

スリムビューティハウスへの業務停止命令の概要と処分内容
消費者庁が2026年1月30日に公表したスリムビューティハウスへの業務停止命令は、特定商取引法に基づく3カ月間の行政処分です。処分の対象となったのは、東京都港区に本社を置く株式会社スリムビューティハウスであり、同社は1987年に設立された従業員数約500名を擁するエステティック業界の大手企業です。「東洋美容」をベースにしたカッピングや骨盤ケアなどのオリジナル施術を強みとし、全国に店舗を展開してきました。日本エステティック機構の認証サロンを取得するなど、業界内での信頼性は高いと見られていた企業だけに、今回の処分は業界に大きな衝撃を与えました。
今回の処分は大きく3つの内容で構成されています。法人に対する業務停止命令は、特定商取引法第47条第1項に基づくもので、2026年1月30日から2026年4月29日までの3カ月間、特定継続的役務提供であるエステティックサービス契約に関する勧誘、申込受付、契約締結の全プロセスが停止されました。これにより、処分期間中は事実上、新規顧客の獲得が不可能となっています。
代表取締役の西坂才子氏個人に対する業務禁止命令も同時に発令されました。特定商取引法第47条の2第1項に基づくこの命令は、同じく3カ月間にわたり、業務停止命令の対象業務を新たに開始すること、および同種の業務を行う法人の役員となることを禁じるものです。この措置によって、別会社を設立して営業を継続するといった抜け道が完全に封じられました。
さらに、特定商取引法第46条第1項に基づく指示命令も出されています。その内容は、違反行為の発生原因の究明、再発防止策の構築、コンプライアンス体制の強化、そしてこれらの違反事実を消費者と従業員に周知徹底することです。消費者庁が求めているのは、単なる処分期間の経過ではなく、同社の企業体質そのものの根本的な改善であると言えます。
消費者庁が認定したスリムビューティハウスの違反内容の詳細
消費者庁の調査によれば、スリムビューティハウスの違反行為は少なくとも2024年10月から2025年3月にかけて組織的に行われていました。この期間中、同社は組織的に不当な勧誘活動や解約妨害を行っていたとみなされており、消費者からの相談件数の増加や具体的な被害報告が調査の契機となったと考えられています。認定された主な違反は「不実告知によるクーリング・オフ妨害」と「迷惑勧誘」の2つです。
関連商品のオンライン販売を利用したクーリング・オフ回避の手口とは
今回の処分で最も注目すべき違反内容は、エステ契約とセットで販売される健康食品などの関連商品における販売手法です。スリムビューティハウスでは、エステティックサービスの目的達成のために必要な商品として、同社のプライベートブランドである酵素ドリンク「エンザイムフローラ」等の購入を消費者に勧めていました。
特定商取引法の規定では、店舗でエステ契約と同時に商品を購入する場合、その商品は「関連商品」として扱われ、エステ契約本体と同様にクーリング・オフの対象となります。しかし、同社はこの規定を回避するための巧妙な仕組みを構築していました。具体的には、店舗内で商品の説明と勧誘を行い、消費者に購入の意思決定をさせたにもかかわらず、実際の契約手続きは消費者のスマートフォン等を操作させ、同社の「公式オンラインショップ」を通じた定期購入(サブスクリプション)という形式で申し込ませていたのです。
消費者が後にクーリング・オフを申し出ると、同社の担当者は「この商品はオンラインショップでの通信販売として購入されたものです」「通信販売にはクーリング・オフ制度は適用されません」「定期購入契約なので、規定回数が終了するまでは解約できません」と説明し、解約を拒否しました。確かに、特定商取引法において通信販売には法定のクーリング・オフ制度は設けられていません。同社はこの法律の形式的な区分を利用し、消費者の解約権を封じ込めようとしました。
しかし、消費者庁はこの主張を明確に退けました。消費者庁の判断基準は契約の「形式」ではなく「実態」にあります。たとえ手続きがウェブ上で行われたとしても、店舗内で事業者による対面の説明や勧誘が行われていること、その商品が提供されるエステサービスの目的達成のために必要不可欠なものとして推奨されていること、そしてエステ契約(主契約)に付随して商品契約(従契約)が締結されていることの3点を重視しました。これらの要件を満たす場合、実質的には店舗販売であり、特定継続的役務提供の付帯契約とみなされるという判断です。
消費者庁は、このスキームがクーリング・オフ制度の潜脱(法律の規制を逃れること)を目的としたものであると認定しました。関連商品についてもクーリング・オフが可能であるにもかかわらず「できない」と消費者に告げたことは、特定商取引法第44条等の「不実告知」すなわち嘘の説明に該当すると断じています。この判断は、エステ業界だけでなく、店舗での対面接客とECサイトを融合させた販売手法を採用するすべての業界に対して、強い警鐘を鳴らすものとなりました。
店舗における迷惑勧誘の実態と消費者被害
もう一つの重要な違反認定事項は、店舗における勧誘方法の問題です。認定された事実によると、同社は体験コース等で来店した消費者に対し、契約を締結しない意思を明確に表示しているにもかかわらず、執拗に勧誘を続けていました。
施術中や施術後のカウンセリングルームという密室空間において、長時間にわたって契約を迫る行為が確認されています。消費者が「検討したい」「今日は帰りたい」と告げても、「今日契約しないとこの価格にならない」「体が変わるチャンスを逃す」といった言葉を繰り返し、退去を妨げるような状況を作り出していたとされています。
このような行為は、特定商取引法第44条第2項における「迷惑勧誘」に該当します。エステティックサロンという業態は、身体的なコンプレックスに触れるサービスを提供するため、消費者が心理的に断りづらい状況に置かれやすいという特性があります。そうした心理的な弱みにつけ込む形での強引な勧誘は、消費者被害を深刻化させる要因として厳しく取り締まられるべき行為です。
業務停止命令の中心にあった商品「エンザイムフローラ」の価格と販売手法
今回の行政処分において重要な位置を占めているのが、ダイエット食品「エンザイムフローラ(Enzyme Flora)」です。この商品は、植物発酵エキスやプロテインを含有した粉末状の食品で、水や牛乳に溶かして摂取するタイプのものです。
最も注目すべきはその価格設定にあります。定価は1箱(60包入り)あたり71,280円(税込)と設定されており、一般的な同種の商品と比較して極めて高額な水準です。フリマアプリ等では新品未開封の2箱セットが3万円台、つまり1箱あたり1万6千円程度で取引されている事例も確認されており、定価との間に大きな乖離が見られます。この高額商品を販売するために、同社は「サロン専売の高品質商品」「エステの目的達成のために不可欠」といった付加価値を強調した販売戦略を取っていたと考えられます。
同社がこの商品を定期購入形式で販売しようとした背景には、エステティック業界の収益構造の変化があります。エステサロンの施術による収益は、スタッフの稼働時間やベッド数という物理的な上限に制約されます。一方で、物販にはそのような制約がありません。高額な消耗品を定期購入契約で販売できれば、顧客の来店がなくとも毎月安定した売上が計上され、顧客一人あたりから得られる収益総額を大幅に引き上げることが可能となります。加えて、店舗に在庫を持たずECセンターから直送する形式を採用すれば、在庫リスクと物流コストの削減も実現できます。今回の違反行為は、この高収益モデルの確立を急ぐあまり、法令順守の意識が欠落した結果として発生したと言えます。
代表者個人への業務禁止命令が史上初となった理由と意味
今回の処分で最も大きな注目を集めたのが、法人への処分だけにとどまらず、代表取締役である西坂才子氏個人に対しても業務禁止命令が出されたことです。特定商取引法に基づく行政処分において、訪問販売業者などの代表者に対する処分事例は過去にもありますが、特定継続的役務提供事業者(エステ、語学学校、学習塾など)の代表者に対して業務禁止命令が発令されたのは、制度開始以来初めての事例です。
この処分の意義は極めて大きいものがあります。通常、行政処分は法人に対して行われますが、悪質な事業者の中には、処分を受けた法人を休眠させたり倒産させたりして、同じ経営者が別の法人を立ち上げ、同様の違反行為を繰り返すケースが少なくありませんでした。いわゆる「トカゲの尻尾切り」と呼ばれる手法です。業務禁止命令は、こうした抜け道を封じるために代表者個人に対し当該業務に携わること自体を禁止するもので、実質的には経営権の剥奪に等しい極めて強力な措置です。
消費者庁がこの異例の厳しい処分に踏み切った理由は、今回の違反行為が現場の担当者の独断ではなく、経営トップが「主導的な役割を果たした」と認定されたためです。オンラインショップを経由した定期購入形式でクーリング・オフを回避するというスキームは、個々のエステティシャンが考案できるレベルのものではありません。全社的な販売マニュアルの整備、オンラインショップのシステム構築、従業員への教育といった一連の取り組みが組織的に行われていたことから、経営判断としての関与が明白であると判断されました。西坂代表は創業家の一員として長年経営をリードしてきた人物であるだけに、この認定が業界全体に与えた衝撃は非常に大きなものがあります。この事例は、「知らなかった」では済まされない経営責任の厳格化を示す象徴的なケースとなりました。
エステ業界の構造的問題とスリムビューティハウスの違反の背景
スリムビューティハウスのような業界大手がこのような違反に至った背景には、エステ業界全体に共通する構造的な問題が存在します。この問題を理解することは、今回の事案の本質を把握する上で重要です。
エステ業界は現在、過当競争の状態にあります。大手脱毛サロン「キレイモ」の経営破綻に代表されるように、業界全体が厳しい経営環境に置かれています。集客のためには「500円」や「3,000円」といった採算度外視の安価な体験コースを広告で展開せざるを得ず、しかし体験のみを利用して本契約に至らない層も一定数存在するため、来店した顧客を確実に本契約に結び付けなければ赤字になるという構造的なジレンマを抱えています。この厳しい収支構造が、現場における強引な勧誘や即決の強要を生む温床となっていると指摘されています。
また、美容医療の低価格化と普及によって、従来のエステサロンが提供する施術の競争優位性は相対的に低下しています。施術だけでは十分な収益を確保することが難しくなる中、利益率の高い自社ブランド商品(化粧品や健康食品など)の販売に収益を依存する傾向が業界全体で強まっていました。スリムビューティハウスの事例は、この「物販依存」が法令の範囲を逸脱するまでに行き過ぎた結果、消費者の利益を大きく損なう販売スキームの構築に至ったという典型的なケースです。
近年の行政処分の動向を見ると、特定商取引法違反に対する取り締まりは確実に厳格化の方向に進んでいます。オンラインスクールのアドネスやKUROFUNE&Coなど、関連商品の取り扱いに関する処分事例が相次いでおり、これらに共通するのは、消費者契約における情報の非対称性を悪用して不利な条件で契約を結ばせようとする姿勢です。消費者庁は、特に「関連商品」を用いたクーリング・オフ回避の手法に対して、重点的な監視体制を敷いていることがうかがえます。
スリムビューティハウスの利用者が知っておくべき対応策と相談窓口
今回の業務停止命令を受けて、スリムビューティハウスを現在利用している方や、過去にトラブルを経験した方が取るべき対応について整理します。
まず、処分期間である2026年4月29日までの間、同社は新たなエステ契約の勧誘、申込受付、契約締結をすべて行うことができません。この期間中に店舗を訪れても新規のコース契約を結ぶことはできない状態です。ただし、既存の契約者に対する施術の提供は業務停止の対象外となっているため、すでに会員として契約済みの方は、原則として予約通りにサービスを受けることが可能です。
最も重要なのは、過去に「通販だからクーリング・オフできない」と説明され、やむなく解約を諦めてしまった方への救済についてです。今回の行政処分により、同社のその説明が「不実告知」、すなわち法律に違反する虚偽の説明であったことが公的に認定されました。特定商取引法には、事業者が不実告知によりクーリング・オフを妨害した場合、消費者が改めて「クーリング・オフが可能である旨の説明書面」を受け取るまでは、通常8日間とされるクーリング・オフ期間が進行しないという規定があります。これは、過去の契約であっても現在からクーリング・オフを主張し、全額返金を求められる可能性があることを意味しています。
さらに、「エンザイムフローラ」等の商品についても重要な点があります。これらはエステ契約と一体の関連商品として扱われるべきであるとの法的根拠が今回の処分で明確になったため、エステ契約の解除に伴い商品契約についても解除(返品・返金)を求めることができる可能性が生まれました。同社との交渉が難航する場合や、ご自身の契約が対象になるかどうか判断に迷う場合は、消費者ホットラインや各自治体の消費生活センターといった公的な相談窓口を積極的に活用することをお勧めします。
スリムビューティハウスの業務停止命令が示す今後の展望と業界への教訓
今回の行政処分は、エステティック業界における販売手法の適法性を根本から問い直す重大な転換点となりました。長年グレーゾーンとして扱われてきた「店舗販売とECの融合」における法的な位置づけが、消費者庁の判断によって明確化された意義は非常に大きいものがあります。
今後の展望として、まず業界全体における販売フローの抜本的な見直しが進むことが予想されます。多くのサロンが導入している「タブレットでのEC申込み」や「定期配送サービス」について、それが実質的に関連商品販売に該当しないかどうか、法的な観点からの厳格な検証が必要です。今回の処分は、形式的にオンライン販売の体裁を取っていても、実態として店舗での勧誘に基づく購入であれば関連商品として扱われるという判断基準を示したものであり、同様の販売手法を採用している事業者は早急な対応を迫られることになります。
消費者側の意識変革も今後ますます重要になってきます。「大手企業だから安心」という先入観にとらわれることなく、契約内容の詳細、特に解約条件や関連商品の取り扱いについて、消費者自身が十分な知識を持ち、契約前に確認する姿勢がこれまで以上に求められます。不当な勧誘や不正確な説明を受けた場合には、速やかに公的機関に相談することが、被害の拡大を防ぐ上で極めて重要です。
スリムビューティハウス自体の今後にも注目が集まっています。3カ月間の業務停止によるキャッシュフローへの深刻な影響に加え、ブランドイメージの大幅な毀損、そして代表者への業務禁止命令による経営体制の変化という三重の課題を同時に抱えることになりました。同社がこれらの困難を乗り越え、消費者の信頼を回復して事業を継続していけるかどうかが問われています。
今回の事案は、すべての消費者向けサービス事業者に対し、法令順守なくして企業の存続はあり得ないという教訓を改めて突きつけるものとなりました。消費者の信頼を裏切るような巧妙な販売スキームは、一時的に利益をもたらすことがあったとしても、最終的には企業そのものの存続を脅かす致命的なリスクとなることを、業界全体が深く認識する必要があります。


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