インターネット上で誹謗中傷や権利侵害を行ってしまった場合、被害者から発信者情報開示請求をされる可能性があります。特に近年はSNSでの誹謗中傷やファイル共有ソフトでの著作権侵害を理由とした請求が増加しており、多くの方が「発信者情報開示請求の意見照会書はいつ届くのか」と不安を抱えています。
発信者情報開示請求を受けると、通常は意見照会書という書類が届きます。これは発信者の個人情報を請求者に開示してよいかどうかを確認するためのものです。しかし、いつ届くのか、届いたらどう対応すべきかなど、多くの疑問があるでしょう。
本記事では、発信者情報開示請求の意見照会書がいつ届くのか、法改正後の流れ、届いた後の対応方法や法的責任の追及についてわかりやすく解説します。ネットトラブルに不安を抱える方はぜひ参考にしてください。

発信者情報開示請求の意見照会書はいつ届くの?プロバイダ別の期間を解説
発信者情報開示請求に基づく意見照会書が届くタイミングは、請求先のプロバイダや請求方法によって大きく異なります。まずは、意見照会書が届くまでの期間を詳しく見ていきましょう。
サービス管理者(コンテンツプロバイダ)への請求の場合
SNSや掲示板などのサービス管理者(コンテンツプロバイダ)に対して発信者情報開示請求がなされた場合、以下のようなタイミングで意見照会書が届きます:
- 任意請求の場合:発信者情報開示請求がなされてから数週間後
- 裁判手続(仮処分)の場合:1〜2週間程度
ただし、これはサービスに利用者情報が登録されている場合の話です。匿名掲示板など利用者情報を登録せずに利用できるサービスの場合、サービス管理者は発信者の氏名や住所を把握していないため、意見照会書は届かないことがあります。
プロバイダ(アクセスプロバイダ)への請求の場合
インターネット接続サービスを提供するプロバイダ(アクセスプロバイダ)に対して発信者情報開示請求がなされた場合は以下のようになります:
- 任意請求の場合:発信者情報開示請求がなされてから数週間〜半年程度
- 裁判手続の場合:1か月以内
特に大手プロバイダの場合、同種の請求を多数処理しているため、任意請求では半年近く経ってから意見照会書が届くこともあります。一方、裁判手続では比較的早く届く傾向にあります。
弁護士依頼から発信者情報開示請求までの期間
被害者が権利侵害に気づいてから直ちに発信者情報開示請求がなされるわけではありません。被害者側のアクションには以下のような時間がかかります:
- 権利侵害への気づき:数日〜数ヶ月
- 弁護士への相談・依頼:数日〜数週間
- 発信者情報開示請求の準備:1週間〜1ヶ月
このように、被害者が行動を開始するまでの期間は予測が難しいため、権利侵害行為から意見照会書が届くまでの正確な期間を特定することは困難です。
権利侵害から何年経てば発信者情報開示請求は来ない?時効の考え方
「投稿してからどれくらい経てば、発信者情報開示請求は来ないと安心できるのか」という疑問を持つ方も多いでしょう。結論から言えば、最後の権利侵害から概ね1年を経過すれば発信者情報開示請求の通知が来る可能性は低いと考えられます。
これには以下のような理由があります:
プロバイダのログ保存期間
多くのプロバイダはアクセスログを3〜6ヶ月程度しか保存していません。保存期間が6ヶ月のプロバイダの場合を考えてみましょう:
- 6ヶ月目ぎりぎりに弁護士が発信者情報開示請求の手続きに着手
- サービス管理者からIPアドレスなどのアクセス記録の開示を受けるのに1ヶ月
- その後、発信者情報開示請求訴訟を提起するのに1ヶ月
- 訴訟提起から1ヶ月以内にプロバイダから意見照会書が届く
この場合、最後の権利侵害から約9ヶ月後に意見照会書が届くことになります。各過程で多少遅延する可能性も考慮すると、1年を経過すれば発信者情報開示請求の可能性は低くなるといえるでしょう。
ただし、プロバイダによる任意の開示請求の場合は半年以上かかることもあるため、より慎重に考えるなら最後の権利侵害から1年半程度経過していれば、さらに可能性は低くなります。
発信者情報開示請求の意見照会書が届いた場合の正しい対応方法は?
意見照会書が届いた場合、適切に対応することが重要です。対応方法によってその後の展開が大きく変わってきます。
開示に同意する場合
発信者情報開示に同意する回答書を返送した場合、プロバイダは請求者に対して発信者情報を開示します。これにより、被害者側はあなたの個人情報を入手し、民事・刑事の法的責任追及に向けた準備を進めることができるようになります。
開示に同意するのは、以下のような場合に考えられます:
- 権利侵害の事実を認め、早期解決を図りたい場合
- 自分に非があることが明らかで、示談による解決を目指したい場合
開示に不同意とする場合
発信者情報開示に同意しない回答書を返送した場合、プロバイダはその理由も踏まえて発信者情報を開示するかどうか判断します。ただし、安易に開示するとプロバイダ自身が契約者から責任追及される恐れがあるため、よほど権利侵害が明白でない限り、開示はされません。
不同意とするのは、以下のような場合に考えられます:
- 権利侵害をした身に覚えがない場合
- 投稿はしたが権利侵害にあたらないと考える場合
この場合、被害者側は裁判で発信者情報開示を求めることになり、裁判所が権利侵害を認めれば発信者情報開示が命じられることになります。
回答書を返送しない場合
意見照会書を受け取っても、どうすれば良いかわからず放置したり、無視したりする方もいますが、これは最も避けるべき対応です。この場合、プロバイダは契約者に特に意見はないものとみなして判断を行いますが、以下のようなデメリットがあります:
- 不誠実な態度と受け取られ、その後の和解交渉が難航する
- 適切な法的反論ができず、開示されるリスクが高まる
したがって、意見照会書を受け取った場合は必ず回答するようにしましょう。対応に迷う場合は、専門の弁護士に相談することをお勧めします。
改正プロバイダ責任制限法で発信者情報開示請求の流れはどう変わった?
2022年10月から施行された改正プロバイダ責任制限法により、発信者情報開示請求の手続きが大きく変わりました。改正前後の流れを比較しながら解説します。
改正前:二段階の手続きが必要だった
改正前のプロバイダ責任制限法では、発信者を特定するために通常、二段階の手続きが必要でした:
- 第1段階:サービス管理者に対する裁判手続きでIPアドレスの開示を求める
- 第2段階:開示されたIPアドレスをもとに、プロバイダに対して契約者情報の開示を求める裁判をする
この二段階の手続きでは、発信者情報開示までに半年以上の時間を要することが一般的でした。
改正後:一つの裁判手続きで可能に
改正法では、「発信者情報開示命令」という新しい裁判手続きが創設され、先ほどの二つの手続きを一つの裁判手続きの中で行えるようになりました:
- 裁判所に発信者情報開示命令の申立てを行う
- コンテンツプロバイダからIPアドレス等の情報提供を受ける
- その情報をもとにアクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令申立てを行う
- 裁判所が命令を認めれば、アクセスプロバイダから発信者情報が開示される
これにより、発信者情報開示までの期間が短縮されました。ただし、従来の二段階の手続きも引き続き利用可能であり、ケースによってはどちらの手続きが適切かは専門家の判断が必要です。
発信者情報開示請求から法的責任追及までの全体的な流れとタイムライン
発信者情報開示請求から法的責任追及までの全体的な流れとおおよそのタイムラインを見ていきましょう。
1. 権利侵害行為の発生
インターネット上での誹謗中傷、名誉毀損、著作権侵害などの権利侵害行為が発生します。
2. 被害者による発信者情報開示請求(約1〜3ヶ月)
被害者は権利侵害を発見後、弁護士に相談し、発信者情報開示請求の準備を行います。
- 権利侵害発見から弁護士相談まで:数日〜数週間
- 発信者情報開示請求の準備:1週間〜1ヶ月
- 発信者情報開示請求の実施:数日〜数週間
3. 意見照会書の送付(約1週間〜6ヶ月)
プロバイダから発信者に意見照会書が送付されます。
- 裁判手続の場合:1週間〜1ヶ月
- 任意開示の場合:数週間〜6ヶ月
4. 意見照会書への回答(約2週間)
発信者は意見照会書を受け取ってから通常2週間以内に回答します。
5. 発信者情報の開示(約1〜6ヶ月)
プロバイダが発信者情報を請求者に開示します。
- 開示に同意した場合:約1ヶ月
- 開示に不同意または無回答の場合:約3ヶ月〜6ヶ月(裁判手続きを経るため)
6. 法的責任の追及(約3ヶ月〜数年)
発信者情報の開示を受けた被害者は、法的責任追及を行います。
民事責任の追及:
- 示談交渉:数週間〜数ヶ月
- 裁判による損害賠償請求:6ヶ月〜2年
刑事責任の追及:
- 警察への被害届・刑事告訴:数日〜数週間
- 捜査・起訴判断:数ヶ月〜1年
- 刑事裁判(起訴された場合):数ヶ月〜1年
なお、民事での損害賠償額は、一般的な誹謗中傷の場合で10万円〜50万円程度が通常ですが、発信者情報開示請求に要した弁護士費用として50〜100万円ほども合わせて請求されることがあります。また、著作権侵害の場合には数百万円から数千万円の損害賠償を請求されることもあります。
発信者情報開示請求の意見照会書が届くかどうかは、被害者の意思や行動、プロバイダの対応などによって大きく左右されます。しかし、権利侵害行為から概ね1年が経過していれば、意見照会書が届く可能性は低くなると考えられます。
もし意見照会書が届いた場合は、放置せずに適切に対応することが重要です。状況に応じて弁護士に相談し、最善の対応策を検討しましょう。権利侵害が事実である場合は、早期に被害者と和解することで損害を最小限に抑えることも検討すべきでしょう。
インターネット上での発言には責任が伴います。他者の権利を侵害するような行為は避け、健全なインターネット利用を心がけましょう。
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