医療費の負担は誰にとっても大きな関心事です。病院やクリニックで診察を受けた後、お薬をどこで受け取るかによって、実は支払う金額が大きく変わることをご存知でしょうか。「院内処方」と「院外処方」という2つの方法があり、その違いは単に受け取る場所だけではありません。特に「院内処方」は費用面で患者さんに大きなメリットをもたらすことが多いのです。
近年、「医薬分業」の流れから院外処方が増えていますが、患者さんの立場から見ると院内処方には経済的なメリットが少なくありません。同じ薬でも受け取る場所によって料金が3〜6倍も違うケースもあるのです。このような費用の差が生じる仕組みや、院内処方を選ぶことで得られるその他のメリット、そして注意点についても知っておくことで、賢い医療機関の選び方ができるようになります。
このQ&A記事では、「院内処方が安い」という点に焦点を当て、その理由や実際の費用差、メリット・デメリットなどを詳しく解説します。医療費の節約を考えている方や、自分に合った医療機関を探している方にとって、有益な情報となるでしょう。

院内処方と院外処方の費用はどう違う?患者負担額の具体的な比較
院内処方と院外処方では、同じ薬を処方されても患者さんの自己負担額に大きな差が生じます。厚生労働省の資料によると、解熱鎮痛剤・抗生剤7日分の処方例では、院内調剤が270円なのに対し、院外調剤薬局では1,050円〜1,100円、かかりつけ薬剤師・薬局での院外調剤では1,780円にもなります。つまり、院内処方に比べて院外処方では3.9〜6.6倍もの費用がかかる計算になるのです。
具体的な費用の内訳を見てみましょう:
院内調剤の場合(合計270円)
- 調剤技術基本料:80円
- 調剤料:90円
- 薬剤情報提供料:100円
院外調剤薬局の場合(合計1,050円〜1,100円)
- 調剤基本料:200〜250円
- 調剤料:350円
- 薬剤服用歴管理指導料:500円
かかりつけ薬剤師・薬局での院外調剤(合計1,780円)
- 基準調剤加算:320円
- 調剤基本料:410円
- 調剤料:350円
- かかりつけ薬剤師指導料:700円
さらに、調剤費用以外にも「処方料(処方箋料)」という費用があり、これも院内処方と院外処方で異なります:
- 院内処方医療機関での処方料:420円
- 院外処方医療機関での処方箋料:680円
つまり、処方料の時点で院外処方は260円高くなっています。
実際の診療例で見てみると、月2回の通院で内服薬1種類14日分を処方した場合:
院内処方の場合:薬価+(処方料420+基本料80+調剤料90)×2+情報提供料100(月1回のみ)=薬価+1,280円
院外処方の場合:薬価+(処方箋料680+基本料400+調剤料630+情報提供料150+指導料300)×2=薬価+4,320円
この例では、院内処方と院外処方で3,040円の差額が生じます。3割負担の患者さんでも約1,000円の差となり、長期間の通院や多くの種類の薬を処方される場合には、この差額はさらに大きくなります。
なぜ院内処方は院外処方より安くなるの?費用構造の仕組みを解説
院内処方が院外処方より安くなる理由は、医療費の仕組みと保険点数制度に関係しています。主な理由は以下の通りです:
1. 二重の料金構造が発生しない
院外処方では「医療機関での処方→調剤薬局での調剤」という流れになるため、それぞれの機関での料金が別々に発生します。一方、院内処方では「医療機関での処方→同じ医療機関での調剤」となるため、料金が一元化されるのです。
2. 処方料と調剤料の違い
院内処方と院外処方では、処方料と調剤料の点数設定自体が異なります:
- 処方料:院内処方(420円)<院外処方(680円)
- 調剤基本料:院内処方(80円)<院外処方(200〜410円)
3. 調剤料の計算方法の違い
院内処方と院外処方では、調剤料の計算方法も大きく異なります:
院内調剤の場合
- 内服薬調剤料:90円(頓服薬含む、種類・日数関係なく定額)
- 外用薬調剤料:60円(種類・混合関係なく定額)
院外調剤の場合
- 内服薬調剤料:処方日数に応じて350円〜890円と変動
- 頓服薬調剤料:210円(別途加算)
- 外用薬調剤料:1種類100円、2種類200円、3種類以上300円
- 計量混合調剤加算(軟膏):800円
院内調剤では薬の種類や日数にかかわらず一律の料金ですが、院外調剤では薬の種類や日数が増えるほど料金が高くなる仕組みになっています。
4. 管理指導料などの追加料金
院外処方では、薬剤服用歴管理指導料(500円)やかかりつけ薬剤師指導料(700円)など、院内処方では発生しない追加料金が生じます。これらは患者さんへの服薬指導や薬歴管理のための費用とされていますが、結果として患者負担を増加させる要因となっています。
5. 薬局独自の加算
院外処方では、調剤薬局の種類や体制によって、基準調剤加算(320円)などの様々な加算が設けられています。これらの加算は薬局のサービス向上を目的としていますが、患者さんの負担増に直結します。
このように、院内処方が安くなる理由は、医療制度上のさまざまな料金設定の違いによるものです。同じ薬を受け取るだけでも、受け取る場所が違うことで負担額が大きく異なるという現実は、多くの患者さんにとって驚きかもしれません。
院内処方のメリット・デメリットは何?費用面以外の特徴も含めて
院内処方には費用面だけでなく、様々なメリットとデメリットがあります。ここでは費用面以外の特徴も含めて詳しく解説します。
院内処方のメリット
1. 費用面でのメリット
- 自己負担金額が少ない:前述の通り、院外処方に比べて3〜6倍も安くなることがあります
- ジェネリック変更や分包の追加料金がない:院外処方では薬の形態変更ごとに加算されますが、院内処方では発生しません
2. 利便性のメリット
- 薬局への移動の手間や時間が節約できる:特に雨の日や足の不自由な方、小さな子どもを連れた方にとって大きなメリットです
- 会計が一度で済む:医療機関での診察と薬の受け取りが一カ所で完結するため、二度手間になりません
- 待ち時間の短縮:調剤薬局での待ち時間が不要になります
3. 柔軟性のメリット
- 薬の変更追加、日数の調節が窓口で簡単にできる:処方内容の変更が必要になった場合、その場で対応してもらえます
- 薬に関する質問にすぐに回答してもらえる:疑問点があれば、すぐに医師や医療スタッフに確認できます
院内処方のデメリット
1. 薬の選択肢に関するデメリット
- ジェネリック医薬品の選択がしづらい:院内で採用している薬の中からしか選べないため、選択肢が限られることがあります
- 処方する薬が院内採用薬でない場合には対応できない:院内に在庫がない薬は院外処方での対応となります
2. 安全面でのデメリット
- 複数の医療機関からの処方薬の飲み合わせチェックが不十分:異なる医療機関で処方された薬との相互作用をチェックする機能が弱い場合があります
- 専門的な服薬指導が少ない可能性:薬剤師による詳細な服薬指導が受けられないケースがあります
3. 医療機関側の制約
- 在庫管理の手間と費用:多くの種類の薬を常備しておく必要があるため、医療機関の負担になります
- 薬剤師の確保が必要:院内処方を行うには薬剤師の配置が必要で、人件費がかかります
- 調剤スペースの確保:特に都市部の小規模クリニックでは物理的なスペースの確保が難しい場合があります
院内処方は費用面と利便性において大きなメリットがある一方で、薬の選択肢の制限や複数医療機関での処方薬の一元管理という点ではデメリットもあります。自分の状況や優先事項に合わせて、どちらがベターかを判断することが大切です。例えば、通院頻度が高い慢性疾患の方や、移動が困難な高齢者などは、院内処方のメリットを特に享受できるでしょう。
どんな医療機関が院内処方を採用している?選ぶべき病院の特徴
現在の「医薬分業」の流れから院外処方が主流となりつつありますが、それでも院内処方を採用している医療機関は存在します。どのような特徴を持った医療機関が院内処方を継続しているのでしょうか?また、患者さんはどのような点に注目して医療機関を選べばよいのでしょうか?
院内処方を採用している医療機関の特徴
1. 患者中心の医療を重視する医療機関
- 患者さんの経済的負担軽減を大切にするクリニックや診療所
- 「患者さんに優しい医療」を理念として掲げている医療機関
- 高齢者や子育て世代への配慮を重視するクリニック
2. 特定の診療科や診療形態
- 皮膚科・耳鼻科など、比較的限られた種類の薬を使用する診療科
- 小児科:子どもを連れての移動の負担を減らす配慮がある場合
- 地域のかかりつけ医:患者さんとの長期的な関係構築を重視する場合
- 郊外や農村部の診療所:近くに調剤薬局が少ない地域の医療機関
3. 規模や立地による特徴
- 単科の小規模クリニック:特定の疾患に特化した診療を行う医療機関
- 調剤薬局が近くにない地域の医療機関
- 開業年数が長い伝統的な診療所(医薬分業以前から開業している場合)
院内処方の医療機関を選ぶ際のポイント
1. 自分の状況に合わせた選択
- 頻繁に通院が必要な慢性疾患がある場合は、院内処方のメリットが大きい
- 雨の日や暑い日の移動が困難な場合、院内処方は大きな利点になる
- 子連れでの通院や高齢者の場合、移動の手間を省ける院内処方が便利
2. 診療内容と薬の種類を考慮
- 単一の疾患で通院している場合は、院内処方でも薬の選択肢の制限はあまり問題にならない
- 複数の疾患で複数の医療機関に通っている場合は、薬の一元管理ができる院外処方のメリットも考慮する
3. 医療機関の質を確認
- 薬剤師が常駐しているか確認する(院内処方では必須)
- 丁寧な薬の説明が受けられるか確認する
- 院内処方であっても薬の情報提供がしっかりしているかチェックする
4. コスト面の比較
- 通院頻度や処方される薬の種類・量によって、実際の費用差がどの程度あるか確認する
- 長期的な通院の場合、その差額は累積して大きな節約になる可能性がある
院内処方を採用している医療機関は確かに減少傾向にありますが、患者さんの立場に立ったサービスとして院内処方を続けている医療機関も少なくありません。自分の状況や優先事項に合わせて、適切な医療機関を選ぶことが大切です。特に経済的な負担軽減を重視する場合や、通院の利便性を重視する場合は、院内処方の医療機関を積極的に探してみる価値があるでしょう。
院内処方でも薬の種類や安全性は大丈夫?よくある不安と疑問点
院内処方のメリットは理解できても、「薬の安全性は大丈夫なの?」「必要な薬が全て揃っているの?」といった不安や疑問をお持ちの方も多いでしょう。ここでは、院内処方に関するよくある疑問と、その回答をご紹介します。
薬の種類と選択肢に関する疑問
Q: 院内処方だと薬の種類が限られてしまうのでは?
A: 確かに院内処方では医療機関が在庫として抱えられる薬の種類には限りがあります。しかし、その診療科でよく使用される薬については十分な種類を揃えているケースが多いです。特に専門性の高いクリニックでは、その科で必要な薬はほとんど院内に用意されています。
Q: ジェネリック医薬品は選べないの?
A: 院内処方でもジェネリック医薬品を採用している医療機関は多くあります。ただし、すべての薬のジェネリックを揃えるのは難しいため、選択肢は院外処方より限定される傾向があります。希望があれば、医師に相談してみましょう。
Q: 希望する薬が院内になかった場合はどうなるの?
A: 希望する薬や必要な薬が院内にない場合は、その薬だけ院外処方になることもあります。また、同等の効果を持つ別の薬を提案されることもあるでしょう。医師と相談しながら最適な対応を選ぶことができます。
安全性に関する疑問
Q: 院内処方は薬の安全性チェックが不十分なのでは?
A: 院内処方を行っている医療機関でも、薬剤師が処方内容をチェックしています。薬剤師法により、院内処方であっても薬剤師による調剤が義務付けられているためです。ただし、他の医療機関で処方された薬との相互作用チェックは、患者さん自身が情報提供する必要があります。
Q: 複数の医療機関からもらっている薬の飲み合わせは大丈夫?
A: これは院内処方の弱点と言えるかもしれません。異なる医療機関からの処方薬の情報は自動的には共有されないため、必ず医師や薬剤師に他で処方されている薬について伝えることが重要です。お薬手帳を活用して、すべての薬の情報を一元管理することをおすすめします。
Q: 薬の説明は十分にしてもらえるの?
A: 院内処方でも薬の説明は受けられますが、医療機関によって説明の詳しさには差があります。わからないことがあれば、遠慮なく質問するようにしましょう。また、薬剤情報提供料を算定している医療機関では、薬の情報を書面で受け取ることができます。
その他の疑問
Q: 院内処方の薬は品質が劣るのでは?
A: そのようなことはありません。院内処方で使用される薬も院外処方と同じ医薬品メーカーから供給されるものです。品質や効果に差はありません。
Q: 院内処方だと待ち時間が長くなるのでは?
A: 医療機関によって異なりますが、多くの場合、院内処方の方が総合的な時間は短縮されます。調剤薬局に移動して再度待つ時間がないからです。ただし、医療機関内での待ち時間は、処方箋を書くだけの院外処方より長くなる可能性はあります。
Q: 院内処方を行っているクリニックをどうやって探せばいい?
A: 地域の医師会のウェブサイトや、医療機関検索サイトで「院内処方」をキーワードに検索してみましょう。また、電話で直接問い合わせるのも確実な方法です。口コミサイトで「薬が院内でもらえる」といった情報を探すこともできます。
院内処方については様々な不安があるかもしれませんが、多くの場合、医療機関はしっかりとした管理体制のもとで安全な調剤を行っています。大切なのは、自分が服用している薬について医師や薬剤師に正確に伝え、疑問点があれば積極的に質問することです。院内処方のメリットを生かしつつ、安全に医療を受けられるよう、医療者とのコミュニケーションを大切にしましょう。
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