近年、インターネット上で「外国人の生活保護受給」について様々な議論が交わされていますが、その中には事実に基づかない情報も多く含まれています。特に「外国人が生活保護を優遇されている」「外国人の受給率が異常に高い」といった言説が広まっていますが、これらの主張は本当に正確なのでしょうか。
生活保護制度は、日本国憲法第25条に基づく重要なセーフティネットです。この制度における外国人の位置づけや実際の受給状況を正しく理解することは、建設的な議論を行う上で欠かせません。本記事では、2023年度の最新統計データを基に、外国人の生活保護受給の実態を客観的に分析し、制度の仕組みや課題について詳しく解説します。感情論ではなく、事実とデータに基づいた冷静な視点から、この複雑な問題を紐解いていきましょう。

生活保護を受けている外国人の割合は実際どのくらい?最新データで検証
2023年度の最新統計によると、生活保護を受けている世帯のうち、外国籍の世帯が占める割合は約2.8%です。具体的な数字を見ると、総被保護世帯数162万6,263世帯のうち、世帯主が外国籍の世帯数は4万5,973世帯となっています。
この数字だけを見ると「意外に少ない」と感じる方も多いのではないでしょうか。実際、一部で流布している「外国人が生活保護を大量に受給している」というイメージとは大きく異なる結果です。
さらに興味深いのは、この割合が前年度からわずかに減少している点です。2022年度の外国籍被保護世帯数は4万6,005世帯でしたが、2023年度は4万5,973世帯と32世帯減少しました。これは、新たに保護が開始された外国人世帯よりも、生活状況の改善などにより保護が停止された外国人世帯の方が多かったことを意味します。
国籍別の内訳を見ると、韓国・朝鮮国籍の世帯が最も多く約66.2%を占めており、これは在日韓国・朝鮮人の特別永住者が含まれるためです。続いてフィリピン(10,700人)、中国(9,544人)となっています。これらの数字は、戦後の歴史的経緯や国際結婚、技能実習生制度などの背景を反映したものと考えられます。
重要なのは、外国籍受給世帯の内訳です。高齢者世帯、母子世帯、障害者世帯、傷病者世帯といった就労が困難と推察される世帯が全体の約82.5%を占めています。この割合は日本人受給世帯とほぼ同じであり、「働けるのに働かない外国人が生活保護に頼っている」というイメージを裏付けるデータは見当たりません。
外国人の生活保護受給率は日本人より高いのか?人口比較で分析
この疑問に答えるために、日本に住む外国人の人口割合と比較してみましょう。2023年1月1日時点で、日本の総世帯数約6,026万世帯のうち、外国人住民の世帯数は約177万世帯で、全体の約2.9%を占めています。
つまり、生活保護受給世帯における外国籍世帯の割合(約2.8%)と、日本に住む世帯全体における外国人世帯の割合(約2.9%)はほぼ同じなのです。この数字が示すのは、「外国人が不当に多く生活保護を受給している」という主張には根拠がないということです。
むしろ、外国人の方が言語の壁や文化の違い、就労機会の制約など、日本人以上に困難に直面することを考えれば、この割合は決して高いとは言えません。実際、外国人は以下のような特有の困難を抱えています:
言語の障壁:日本語が不十分なために、就職活動や職場でのコミュニケーションに支障をきたすケースが多々あります。特に高齢の外国人住民にとって、新たに日本語を習得することは容易ではありません。
就労の制約:在留資格によっては就労できる業種や時間に制限があり、安定した収入を得ることが困難な場合があります。また、不況時には外国人労働者が真っ先に雇用調整の対象となりやすい現実もあります。
社会保障制度への理解不足:複雑な日本の社会保障制度について十分な情報を得られず、適切な支援を受けられないまま生活困窮に陥るケースも少なくありません。
文化的偏見:就職活動や住居探しの際に、外国人であることを理由に断られるケースもあり、社会参加の機会が制限されることがあります。
これらの要因を考慮すると、外国人の生活保護受給率が人口比とほぼ同じであることは、むしろ外国人が困難な状況下でも自立した生活を送ろうと努力していることの表れとも解釈できます。
外国人が生活保護を受給できる条件とは?対象となる在留資格を解説
外国人の生活保護受給については、多くの誤解があります。まず重要なのは、外国人への生活保護は法的な「権利」として保障されているわけではないという点です。これは1954年の厚生省通達に基づく「行政措置」として行われています。
対象となる在留資格は厳格に限定されており、以下の者のみが準用の対象となります:
身分系在留資格:永住者、定住者、永住者の配偶者等、日本人の配偶者等。これらの在留資格を持つ人々は、日本での定住性が高く、日本人と同様の税金や社会保険料を納める義務があります。
特別永住者:在日朝鮮人、在日韓国人、在日台湾人など、戦前からの歴史的経緯により特別な地位を有する人々です。
認定難民:入管法上の正式な難民認定を受けた人々。ただし、難民認定申請中の人々は対象外とされています。
これら以外の在留資格、例えば技能実習生、留学生、就労ビザ(技術・人文知識・国際業務など)では生活保護の受給はできません。また、生活保護の目的で入国したことが明らかな場合には、急迫の場合を除き、準用の取扱いは行われません。
審査基準についても、外国人だからといって優遇されることはありません。「資産」「収入」に関しては生活保護法と同様の厳格な基準により審査されます。一部で「外国人は基準が緩い」という噂がありますが、これを裏付ける証拠は存在しません。
ただし、外国人特有の制約もあります。審査請求権がないため、申請を却下された場合の法的救済手段が限られています。また、原則として在留カードに記載された自治体でしか申請ができないなど、日本人よりも厳しい条件が課されている面もあります。
さらに、生活保護の利用が在留資格の更新に不利になるという懸念から、本来受給できる状況にありながら申請を控える外国人も存在します。これは制度の不安定さを示す一例と言えるでしょう。
生活保護における外国人優遇説は本当?データで見る実態と誤解
インターネット上では「外国人は生活保護を簡単に受けられる」「外国人優遇の制度だ」といった主張が散見されますが、これらは事実に基づかない誤解です。データを詳しく分析すると、むしろ逆の実態が浮かび上がってきます。
優遇説の根拠とされる主な主張と反証:
「外国人の受給率が異常に高い」→前述のとおり、外国人の生活保護受給世帯割合(2.8%)は、日本の外国人世帯割合(2.9%)とほぼ同じです。
「外国人は審査が甘い」→実際には、外国人は在留資格による厳格な制限があり、対象者は限定的です。また、生活保護の目的での入国が疑われる場合は原則として対象外となります。
「働かない外国人が多い」→外国籍受給世帯の82.5%は高齢者、傷病者、障害者、母子世帯など、就労が困難な世帯です。これは日本人世帯と同様の傾向です。
実際の制度運用の厳格さを示す事例もあります。大阪市では、生活保護受給を目的とした入国と判断された中国人に対して支給打ち切りの方針を示し、在留資格が剥奪され、生活保護費の全額返還を求めたケースがありました。また、中国に数千万円の個人資産を隠しながら生活保護を受けていた中国人夫妻が詐欺容疑で逮捕された事例もあります。
不正受給の実態についても正確な理解が必要です。厚生労働省の2021年の試算では、生活保護全体の不正受給率はわずか0.29%にすぎません。この中には日本人の不正受給も含まれており、外国人だけが不正を働いているわけではありません。
誤解が生まれる背景には、以下のような要因があります:
情報の断片化:一部の事例だけがセンセーショナルに報道され、全体像が見えにくくなっています。
確証バイアス:既存の偏見に合致する情報だけが注目され、反証するデータは無視される傾向があります。
制度の複雑さ:生活保護制度自体が複雑で、外国人への適用についてはさらに理解が困難です。
歴史的経緯の無理解:在日韓国・朝鮮人の特別永住者制度などの歴史的背景が十分に理解されていません。
外国人の生活保護をめぐる課題と今後の制度はどう変わる?
外国人の生活保護制度には、現在も多くの課題が存在しており、今後の制度改革が注目されています。
現在の主要な課題:
制度基盤の不安定性:外国人への生活保護は1954年の通達という不安定な根拠に基づいており、法的な「権利」として確立されていません。このため、政策変更により突然対象から除外される可能性があります。
在留資格による二段階選別:国籍と在留資格による厳格な選別により、日本での居住期間や居住実態に関わらず、多くの外国人が制度から排除されています。
就労支援の限界:言語の壁や文化的違いが就労支援の障害となり、外国人受給者の自立支援が十分に機能していない現状があります。
今後の制度変更の動向:
在留資格取り消し制度の強化:2024年には、税金などを納めない永住者の在留資格を取り消せるようにする法改正が検討されており、生活保護の不正受給も取り消し理由となる可能性があります。
運用の柔軟化:2024年4月から、外国人が一時的に海外渡航した場合でも、国内に居住地がある限り生活保護を受ける権利が維持されるなど、より柔軟な支援が可能になりました。
地域支援体制の強化:NPOなどが中心となって、外国人特化型の相談窓口設置、通訳派遣、食料支援などの地域レベルでの支援体制が拡充されています。
中国残留邦人問題:身分系在留資格を持つ中国残留邦人2世の8割以上が生活保護を受給している実態があり、日本語教育や職業訓練などの包括的支援策の検討が進められています。
今後必要とされる対策:
不正防止の徹底:厳格な資産・収入調査に加え、在留資格の適正な管理により、制度の信頼性を確保する必要があります。
自立支援プログラムの充実:日本語教育、職業訓練、文化理解促進など、外国人の特性に配慮した自立支援策の拡充が求められます。
制度の透明性向上:外国人の生活保護に関する正確な情報提供により、社会の理解促進と不適切な偏見の解消を図る必要があります。
国際的視点の導入:他国の外国人支援制度を参考に、より効果的で持続可能な制度設計を検討することが重要です。
政府は当面、現在の通達に基づく運用を継続する方針を示していますが、外国人人口の増加や社会情勢の変化に応じて、より包括的な制度改革が必要になる可能性があります。重要なのは、感情論ではなく客観的なデータに基づいた冷静な議論を通じて、真に必要な人への適切な支援と制度の持続可能性を両立させることです。
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