経済的に困窮し、住居費の支援が必要になった際、多くの方が「生活保護」と「住宅確保給付金」のどちらを利用できるのか、または両方を同時に受けられるのかという疑問を抱きます。これらの制度は、どちらも住居に関する支援を目的としていますが、実は根本的に異なる性格を持った制度です。生活保護は憲法第25条に基づく生存権を保障する最後のセーフティネットとして、包括的な生活保障を行います。一方、住宅確保給付金は生活困窮者自立支援法に基づく制度で、一時的な困窮からの早期自立を支援することが主目的です。結論から申し上げると、これらの制度を同時に利用することはできません。しかし、それぞれに明確な役割分担があり、申請者の状況に応じて最適な制度を選択することで、効果的な支援を受けることが可能です。本記事では、なぜ併用ができないのか、どのような条件の違いがあるのか、そしてどちらを選択すべきかの判断基準について、2025年の最新情報を交えながら詳しく解説します。

Q1. 生活保護と住宅確保給付金は同時に利用できますか?併用が禁止されている理由とは
結論として、生活保護と住宅確保給付金の併用は法的に禁止されています。 この併用禁止には明確な法的根拠と合理的な理由があります。
まず法的根拠として、住宅確保給付金の支給要件には「申請者及び申請者と同一の世帯に属する者が生活保護を受けていないこと」が明確に規定されています。これは生活困窮者自立支援法及び関連する省令で定められた条件です。一方、生活保護法においても「他法他施策優先の原則」があり、他の制度による給付がある場合には、それを優先的に活用することが求められています。
制度の性格と目的が根本的に異なることが併用禁止の主な理由です。 生活保護は憲法第25条に基づく生存権を保障する制度として、健康で文化的な最低限度の生活を無条件で保障することを目的とした「最後のセーフティネット」です。支給期間に制限はなく、住居費だけでなく生活費全般を包括的に支援します。
これに対して住宅確保給付金は、離職や廃業等による一時的な経済的困窮に対して、住居の安定確保と就労支援を組み合わせることで、早期の自立を促進することを目的とした「短期集中型の自立支援制度」です。支給期間は最大9ヶ月間という制限があり、基本的に住居費(家賃相当額)のみを支援対象としています。
財源と実施主体の違いも併用禁止の理由の一つです。 生活保護は国が4分の3、都道府県・市町村が4分の1を負担し、福祉事務所が実施主体となります。住宅確保給付金は国が3分の2、都道府県・市町村が3分の1を負担し、自立相談支援機関が実施主体です。同一人に対して異なる財源・実施主体の制度を同時適用することは、行政運営上非効率であり、公費の重複支給につながります。
また、社会保障制度全体の整合性確保という観点からも併用禁止は必要です。限られた財源を効率的に活用し、真に支援が必要な方に適切な支援を届けるためには、制度間の役割分担が明確である必要があります。同じ住居費に対して二重の給付を行うことは、制度の趣旨に反するだけでなく、社会保障制度全体の信頼性を損なう可能性があります。
Q2. 生活保護と住宅確保給付金の支給条件にはどのような違いがありますか?
両制度の支給条件には大きな違いがあり、対象となる方の状況や困窮の程度によって使い分けられています。
収入・資産要件の違いが最も顕著です。 生活保護の場合、収入が最低生活費を下回り、かつ預貯金が単身で概ね50万円以下など、資産がほとんどない状態である必要があります。また、生命保険や自動車などの資産についても、原則として処分が求められます。
住宅確保給付金の収入要件は相対的に緩やかで、申請月の世帯収入が「基準額(市町村民税均等割が非課税となる収入額の1/12)+家賃額」を超えなければ対象となります。例えば東京都特別区の単身世帯では、基準額84,000円に家賃額を加えた金額が収入上限となります。資産についても、基準額の6月分以内(ただし100万円以下)まで所有が認められており、生活保護よりもかなり緩やかな条件となっています。
対象者の要件にも明確な違いがあります。 生活保護は年齢、離職歴、就労状況に関係なく、生活に困窮しているすべての人が対象となります。一方、住宅確保給付金は「離職・廃業から2年以内」または「給与等を得る機会が離職・廃業と同程度まで減少している」ことが前提条件となります。
就労に関する条件も大きく異なります。 住宅確保給付金では、積極的な就職活動が受給の必須条件となっており、月4回以上の自立相談支援機関での面談、月2回以上のハローワークでの職業相談、原則週1回以上の企業への応募等が義務付けられています。これらの活動を怠ると支給が停止されます。
生活保護では、稼働能力があり就労可能な場合には就労指導が行われますが、傷病や高齢、障害等により就労が困難な場合には就労を求められません。また、就労していても収入が最低生活費を下回る場合は、その差額が支給されます。
支給期間と支給内容の違いも重要なポイントです。 生活保護の住宅扶助は、生活保護を受給している限り継続的に支給され、期間の制限はありません。支給内容も住居費だけでなく、生活扶助(食費・光熱費等)、医療扶助、介護扶助など包括的な支援が受けられます。
住宅確保給付金の支給期間は原則3ヶ月間、延長しても最大9ヶ月間という明確な期限があります。支給内容は基本的に家賃相当額のみで、生活費は自己負担となります。ただし、2025年4月からは転居費用補助も新設され、より安価な住宅への転居支援も行われるようになりました。
申請時の調査内容も異なります。 生活保護では、資産調査、収入調査、扶養義務者調査、住居状況調査など詳細な調査が行われ、決定まで最長30日間を要する場合があります。住宅確保給付金は比較的簡素な手続きで、申請から支給決定まで概ね2週間程度となっています。
Q3. どちらの制度を選択すべき?生活保護と住宅確保給付金の判断基準を教えてください
制度選択の判断は、申請者の具体的な状況を多角的に検討して行う必要があります。 以下の判断基準を参考に、最適な制度を選択しましょう。
収入・資産状況による判断が最も重要な基準です。 収入や資産がほとんどない状態(預貯金が単身で50万円以下など)の場合は、生活保護の検討が適切です。一方、一定の収入や資産がある場合(預貯金100万円以下、一定の収入がある)は、住宅確保給付金の利用を検討できます。
支援が必要な範囲による判断も重要です。 住居費だけでなく、食費、光熱費、医療費など生活費全般について支援が必要な場合は生活保護が適しています。住居費のみの支援で生活が成り立つ場合は、住宅確保給付金が選択肢となります。
就労の状況と意向も大きな判断要素です。 積極的に就職活動を行い、9ヶ月以内の早期自立を目指したい場合は住宅確保給付金が適しています。ただし、月4回以上の面談や週1回以上の企業応募などの義務を継続的に履行する必要があります。
傷病や高齢、障害等により就労が困難な状況にある場合、または長期間の支援が必要と考えられる場合は、生活保護の方が適切です。生活保護では、個々の状況に応じた柔軟な支援が受けられます。
緊急性と支給開始時期の考慮も必要です。 住宅確保給付金は申請から支給決定まで概ね2週間程度と比較的迅速です。生活保護は詳細な調査により時間がかかる場合があるため、緊急性が高い場合は住宅確保給付金の方が適している可能性があります。
将来的な見通しも判断材料となります。 9ヶ月以内に就職し経済的自立を達成する見通しがある場合は住宅確保給付金が効果的です。長期間の支援が必要と予想される場合は、期間制限のない生活保護が適しています。
支援を受ける際の関わり方の希望も考慮要素です。 より協働的・伴走的な就労支援を希望する場合は住宅確保給付金、包括的で継続的な生活支援を希望する場合は生活保護が適しています。
実際の判断においては専門的な相談が重要です。 これらの判断基準はあくまで目安であり、実際の制度選択については以下の専門窓口での相談をお勧めします:
- 住宅確保給付金:自立相談支援機関
- 生活保護:福祉事務所
- 全般的な生活困窮:社会福祉協議会
相談窓口では、申請者の具体的な状況を詳しく聞き取り、最も適切な制度選択について専門的な助言を受けることができます。また、状況の変化に応じて制度を移行することも可能であることを理解しておくことが重要です。
Q4. 住宅確保給付金から生活保護への切り替えは可能ですか?制度移行の条件とは
住宅確保給付金から生活保護への移行は可能であり、実際に多くの方が状況の変化に応じて制度を切り替えています。 制度移行には特定の条件と手続きが必要ですので、詳しく解説します。
住宅確保給付金から生活保護への移行が必要となる主なケースは以下の通りです。 最も多いのは、住宅確保給付金の支給期間(最大9ヶ月)内に就職できず、経済的自立が困難な場合です。積極的に就職活動を行ったにも関わらず、雇用情勢や本人の状況により就職に至らないケースがあります。
また、住宅確保給付金受給中に病気やケガにより就労が困難になった場合、家族の介護が必要になった場合、その他の事情により収入が大幅に減少した場合なども移行の対象となります。
生活保護への移行に必要な条件は、基本的に新規申請と同様です。 収入が最低生活費を下回り、資産がほとんどない状態(預貯金が単身で概ね50万円以下など)である必要があります。住宅確保給付金を受給していたという事実は、生活保護の申請において不利になることはありません。
移行手続きは以下のような流れで行われます。 まず、住宅確保給付金の支給期間終了前に、自立相談支援機関に状況を相談します。就職活動の継続が困難であることが明らかになった場合、福祉事務所への相談を案内されます。
福祉事務所では、生活保護の申請要件を満たしているかの確認が行われます。住宅確保給付金受給中の就職活動実績や、収入・資産の状況変化などが考慮されます。要件を満たしている場合は、生活保護の申請手続きに進みます。
移行時の注意点として、給付の空白期間を避けることが重要です。 住宅確保給付金の支給終了日と生活保護の開始日の間に空白期間が生じないよう、早めの相談と手続きが必要です。通常、住宅確保給付金の支給期間終了の1ヶ月前頃から生活保護の相談を始めることが推奨されます。
逆方向の移行(生活保護から住宅確保給付金)も理論的には可能ですが、実際にはあまり行われていません。 これは、生活保護受給中に就労収入が安定し、住居費以外の生活費を自分でまかなえるようになった場合に考えられますが、そのような状況では住宅確保給付金に移行するよりも、生活保護を廃止して完全自立を目指すことが一般的です。
移行時のメリットとして、支援の継続性が確保されることが挙げられます。 住宅確保給付金の受給実績により、申請者の困窮状況や支援の必要性が客観的に証明されるため、生活保護の審査がスムーズに進む場合があります。
移行に伴う支援内容の変化についても理解しておくことが重要です。 住宅確保給付金では住居費のみの支援でしたが、生活保護では住宅扶助に加えて生活扶助、医療扶助など包括的な支援が受けられるようになります。一方で、積極的な就職活動の義務はなくなりますが、稼働能力がある場合は就労指導が行われます。
制度移行を検討している方は、必ず専門機関に早めの相談を行うことをお勧めします。 自立相談支援機関、福祉事務所、社会福祉協議会などで、個別の状況に応じた最適な移行方法について助言を受けることができます。
Q5. 2025年最新版:生活保護と住宅確保給付金の申請方法と注意点
2025年度から両制度ともに重要な変更点があり、申請方法も一部改善されています。 最新の申請方法と注意すべきポイントを詳しく解説します。
住宅確保給付金の2025年度の重要な変更点として、「転居費用補助」が新設されました。 現在の住居の家賃が上限額を上回る場合や、より安価な住宅への転居により住居費負担を軽減できる場合に、敷金、礼金、仲介手数料、引越し費用等を支給する制度です。また、収入認定において児童手当や児童扶養手当などの一部給付を申請により除外できるようになり、子育て世帯がより利用しやすくなっています。
住宅確保給付金の申請方法は以下の通りです。 申請窓口は居住地域を管轄する自立相談支援機関で、市にお住まいの方は市の機関、町村にお住まいの方は都道府県の機関が窓口となります。必要書類は住居確保給付金支給申請書、本人確認書類、離職・廃業確認書類、収入証明書類、金融機関通帳、ハローワーク求職申込み確認書、賃貸借契約書などです。
申請から支給までの流れは、申請受付→要件審査→支給決定(概ね2週間)→家主への通知書提出→家主口座への直接振込(月末)となります。 2025年度からはマイナンバーカードを活用した電子申請システムの導入により、手続きの効率化が図られています。
住宅確保給付金受給中の重要な義務として、月4回以上の自立相談支援機関での面談、月2回以上のハローワークでの職業相談、原則週1回以上の企業応募または面接、月1回の支給状況報告があります。 これらの義務を怠ると支給が停止されるため、必ず継続して行うことが重要です。
生活保護については、2025年度から生活扶助に特例加算(1人当たり月額1,500円、2年間の時限措置)が実施されています。 ただし、住宅扶助については従来通りの基準が維持されています。
生活保護の申請方法は、居住地域を管轄する福祉事務所での手続きとなります。 申請前の事前相談が一般的で、申請者の状況を詳しく聞き取り、他制度の利用可能性についても検討されます。必要書類は生活保護申請書、資産申告書、収入申告書、扶養義務者届、本人確認書類、収入・資産証明書類、賃貸借契約書などです。
申請後の調査として、資産調査(預金、保険、不動産等)、収入調査(勤務先、年金事務所等への照会)、扶養義務者調査(親族への扶養照会)、住居状況調査(家庭訪問等)が行われます。 これらの調査を経て、原則14日以内(最長30日以内)に支給決定が行われます。
両制度共通の重要な注意点として、虚偽申告の禁止があります。 申請時や受給期間中の虚偽申告は厳格に禁じられており、発覚した場合は給付の停止や返還、刑事告発される場合もあります。収入や資産の状況に変化があった場合は、必ず速やかに報告することが重要です。
デジタル化の推進により、2025年現在多くの自治体でオンライン申請や電子申請システムが導入されています。 特に住宅確保給付金については、マイナンバーカードを活用した申請システムにより、必要書類の提出や収入証明の確認が効率化されています。生活保護についても、段階的にデジタル技術を活用した手続きの簡素化が進められています。
申請を検討している方は、まず専門の相談機関に相談することを強くお勧めします。 住宅確保給付金については自立相談支援機関、生活保護については福祉事務所、全般的な生活困窮については社会福祉協議会が相談窓口となります。これらの機関では、申請者の具体的な状況に応じた最適な制度選択について専門的な助言を受けることができ、申請手続きについてもサポートを受けられます。
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