生活保護における医療費の自己負担について、多くの方が疑問を持たれているのではないでしょうか。日本国憲法第25条に基づく生活保護制度では、医療扶助という仕組みを通じて、経済的に困窮している方々の健康を保障しています。
特に2024年3月からは、マイナンバーカードを活用したオンライン資格確認システムが本格導入され、従来の紙ベースの医療券システムに加えて、デジタル化による利便性向上が図られています。この制度変更により、医療機関での手続きが簡素化され、受給者と医療従事者双方にとってメリットが生まれています。
生活保護の医療扶助は、指定医療機関制度と医療券システムを組み合わせた独特の仕組みで運営されており、医療アクセスの確保と費用管理のバランスを取った制度として機能しています。しかし、申請手続きや利用時の注意点など、実際に制度を利用する際には知っておくべき重要なポイントがいくつもあります。
本記事では、生活保護における医療費の自己負担の実態、医療券の具体的な使用方法、受診可能な医療機関の制限、最新のデジタル化対応、そして緊急時の対処法まで、制度利用者が知っておくべき実践的な情報を詳しく解説していきます。

Q1. 生活保護を受けると医療費の自己負担は本当にゼロになるの?
はい、生活保護を受給すると医療費の自己負担は完全になくなります。 これは生活保護法第15条に規定される医療扶助による現物給付の仕組みによるものです。
具体的には、生活保護受給者は指定医療機関において医療券を提示することで、診察料、薬剤費、治療材料費、手術費、入院費など、保険給付の範囲内のすべての医療サービスを自己負担なしで受けることができます。 これは国民健康保険の給付範囲と基本的に同一であり、すべての疾病が対象となっています。
ただし、重要な注意点があります。生活保護を受給すると、国民健康保険や後期高齢者医療制度などの医療保険制度から除外されます。これは保険料の支払い義務が免除される代わりに、保険証を失うことを意味します。従って、医療扶助による医療サービスを受けることになります。
自己負担が発生する場合もあります。患者が希望する個室代(差額ベッド代)や、健康保険の適用外である先進医療、美容整形などの自由診療については、原則として医療扶助の対象外となり、全額自己負担となります。ただし、医学的に必要と認められる場合には、福祉事務所の判断により特別な配慮が行われることもあります。
医療機関への交通費(移送費)についても医療扶助の範囲に含まれており、経済的理由で医療機関への通院をあきらめることなく、必要な医療を受けることができる仕組みが整備されています。この移送費は、自宅から医療機関までの最も経済的な交通手段による実費が支給されます。
処方薬についても自己負担はありません。 2018年の制度改正により、ジェネリック医薬品(後発医薬品)の使用が原則化されていますが、医師が医学的見地から先発医薬品が必要と判断した場合は、先発医薬品も自己負担なしで処方されます。調剤についても調剤券が発行され、指定調剤薬局において無料で薬剤を受け取ることができます。
Q2. 医療券って何?どうやって使うの?申請から受診までの流れを教えて
医療券は、生活保護受給者が医療機関で治療を受ける際に必要な券で、生活保護法による医療扶助の中核をなす制度です。現金で支給される生活扶助や住宅扶助とは異なり、医療扶助は原則として現物給付で行われ、その手段が医療券です。
医療券の申請から受診までの具体的な流れは以下の通りです:
- 事前相談: 生活保護受給者が医療機関を受診する必要が生じた場合、まず担当のケースワーカーに連絡し、受診の必要性を相談します。
- 医療券の発行: ケースワーカーが受診の必要性を認めた場合、自治体から医療券が発行されます。緊急時を除き、原則として受診前に医療券を取得する必要があります。
- 医療機関での受診: 医療券を指定医療機関に提示して受診します。医療券には有効期限が設けられており、多くの自治体では暦月を単位として発行されています。
- 継続受診: 医療券の有効期間内であれば、2回目以降の受診では身分証明書等の個人確認書類があれば受診が可能です。
医療券の重要な特徴として、すべての医療機関で利用できるわけではありません。自治体によって指定された生活保護法指定医療機関でのみ利用することができます。保険医療機関が医療扶助を給付するためには、都道府県知事から指定を受ける必要があります。
2024年3月からの新システムでは、マイナンバーカードを活用したオンライン資格確認も利用可能になりました。この場合、以下の条件が揃えば、従来の紙の医療券に加えてデジタル確認が可能です:
- 受給者がマイナンバーカードを取得している
- マイナンバーカードを健康保険証として利用する申込みを完了している
- 医療機関がオンライン資格確認対応の端末を準備している
- 福祉事務所が資格情報等の登録手続きを完了している
緊急時の特別な取り扱いも用意されています。患者が医療券を持たずに受診する場合、特に急性疾患や事故などによる傷病の場合には、医療機関が担当する福祉事務所に電話連絡し、生活保護受給者であることの確認を行います。確認が取れれば、医療券は後から発行され、受給者は自己負担なしで緊急医療を受けることができます。
医療券の有効期限は自治体によって異なりますが、一般的には月単位で設定されており、期限内であれば複数回の受診に利用できます。有効期限が切れた場合は、新たに医療券の発行申請が必要となります。
Q3. 生活保護で病院に行く時の制限はある?どこの病院でも受診できるの?
生活保護で病院を受診する際には、いくつかの重要な制限があります。 最も基本的な制限は、指定医療機関でのみ受診が可能ということです。
指定医療機関制度により、医療扶助を提供できるのは都道府県知事から「生活保護法指定医療機関」として指定を受けた医療機関に限定されています。指定を受けていない医療機関で受診した場合、医療費は全額自己負担となってしまいます。
指定医療機関の確認方法として、受診前に医療機関が指定を受けているかどうかを福祉事務所やケースワーカーに確認することが重要です。また、多くの自治体では指定医療機関のリストをホームページで公開しています。一般的に、大学病院、公立病院、多くの民間病院が指定を受けていますが、一部のクリニックや専門医療機関では指定を受けていない場合があります。
地域による制約も存在します。都市部では指定医療機関が豊富にある一方で、地方部では選択肢が限られる場合があります。この地域差を解消するため、近隣自治体間での連携や、遠方の医療機関への移送費の支給などの配慮が行われています。
専門医療への受診については、まず担当のケースワーカーに相談し、専門的な治療の必要性が認められた場合に、指定を受けている専門医療機関への紹介が行われます。精神科、眼科、歯科などの専門分野についても、それぞれ指定を受けた医療機関での受診が必要です。
入院についても制限があります。入院の場合は、特に事前にケースワーカーとの相談が重要で、入院の必要性、期間、医療機関の選択などについて十分な調整が行われます。長期入院の場合は、定期的な見直しが実施され、治療の継続性と適切性が確保されます。
歯科治療の特殊性として、歯科については保険診療の範囲内での治療が基本となりますが、義歯(入れ歯)の作製や一部の歯科治療については、福祉事務所の事前承認が必要な場合があります。審美目的の治療は対象外となります。
セカンドオピニオンを求める場合も、事前にケースワーカーに相談し、医学的に必要と認められた場合に限り、他の指定医療機関での意見を求めることが可能です。
薬局についても指定制があります。処方薬を受け取る薬局も、都道府県知事から指定を受けた「指定薬局」でのみ調剤券を利用できます。多くの薬局が指定を受けていますが、一部の薬局では指定を受けていない場合があるため、事前確認が必要です。
継続的な慢性疾患の管理については、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、精神疾患などの長期治療が必要な疾患について、定期的な受診と薬物療法が継続して受けられるよう配慮されています。ただし、定期的にケースワーカーとの面談があり、治療の必要性や効果について確認が行われます。
これらの制限は、医療費の適正化と質の高い医療提供を両立させるための仕組みであり、受給者が安心して医療を受けられる体制を確保するために設けられています。
Q4. 2024年から変わった!マイナンバーカードを使った新しい医療扶助の仕組みとは?
2024年3月1日から、医療扶助においてもマイナンバーカードを活用したオンライン資格確認が本格的に開始されました。 これは従来の紙の医療券に加えて、デジタル技術を活用した画期的な新システムです。
オンライン資格確認システムの仕組みでは、医療機関・薬局が受給者の資格情報(医療券情報を含む)をオンラインでリアルタイムに確認することができます。受給者がマイナンバーカードを医療機関の専用端末にかざすだけで、生活保護の受給資格や医療券の有効性が即座に確認され、従来の手作業による入力作業が大幅に削減されます。
利用するための条件は以下の4点すべてが揃う必要があります:
- 受給者側: マイナンバーカードを取得し、健康保険証として利用するための申込みを完了していること
- 医療機関・薬局側: 医療扶助オンライン資格確認対応の端末を準備していること
- 行政側: 福祉事務所が生活保護の資格情報等の登録手続きを完了していること
- システム環境: 安定したインターネット接続環境があること
従来システムとの大きな違いとして、紙の医療券では月初めに券の発行を待つ必要がありましたが、オンラインシステムでは資格情報がリアルタイムで更新されるため、より迅速な対応が可能になりました。また、医療機関での受付業務が効率化され、待ち時間の短縮にもつながっています。
医療機関・薬局にとってのメリットは多岐にわたります。従来の手書きによる医療券情報の転記作業が不要になり、入力ミスの削減と業務効率化が実現しています。また、委託されていない受診の際のレセプト返戻による事務コストも削減され、医療機関の経営効率向上に貢献しています。
患者情報の電子化による医療の質向上も重要なポイントです。他の医療機関での受診歴や処方歴の確認が容易になり、重複投薬の防止や薬剤相互作用のチェックが効率的に行えるようになりました。これにより、より安全で適切な医療提供が可能となっています。
調剤業務の効率化では、調剤券の月単位発行(通常25日頃以降)に対して、オンライン資格確認システムでは当月の受給者番号を25日以降にリアルタイムで確認できるため、薬局業務の効率化が図られています。
セキュリティと個人情報保護についても十分な配慮がされています。マイナンバーカードのICチップには、医療に関する個人情報は記録されておらず、オンライン資格確認では顔写真による本人確認も可能で、なりすまし防止機能も強化されています。
段階的導入の現状として、当面の間は従来の紙の医療券の発行も継続されており、段階的にオンラインシステムへの移行が進められています。北九州市などの一部の自治体では2024年6月から本格運用が開始されており、今後全国的に拡大していく予定です。
利用者にとっての利便性向上では、マイナンバーカード1枚で医療機関を受診できるため、複数の書類を持参する必要がなくなりました。また、引越し等で自治体が変わった場合でも、システム上での情報更新により継続的な医療サービスの利用が可能になっています。
今後の展望として、電子処方箋システムとの連携、予防接種歴の管理、健康診断結果の電子化など、さらなるデジタル化が計画されており、医療DXの推進により、より質の高い医療サービスの提供が期待されています。
Q5. 生活保護の医療扶助で薬代や緊急時の対応はどうなるの?
生活保護の医療扶助では、薬代についても完全に自己負担なしで処方薬を受け取ることができます。 医療券と同様に、調剤券という仕組みを通じて、指定薬局で処方薬を無料で受け取ることができます。
調剤券の仕組みでは、医療機関で処方箋を受け取った後、その薬局名が記載された調剤券が福祉事務所から直接薬局に郵送されます。重要な点として、調剤券に記載された特定の薬局でのみ公費調剤を受けることができ、薬局名が記載されていない調剤券では利用できません。
ジェネリック医薬品の使用原則化が2018年から実施されており、医師または歯科医師が医学的知見に基づいてジェネリック医薬品を使用することができると認められた場合は、原則としてジェネリック医薬品が給付されます。ただし、医師が医学的な見地から「先発医薬品が必要」と判断している場合は、先発医薬品の処方が可能で、この場合も自己負担はありません。
調剤券の発行タイミングは、月単位で該当月の25日頃以降に発行されるため、月初めの処方の場合は、前月の調剤券または2024年から導入されたオンライン資格確認システムを利用することになります。オンライン資格確認対応の薬局では、マイナンバーカードによる資格確認で、よりスムーズな調剤が可能です。
緊急時の医療対応については、生活保護制度では特別な配慮がなされています。急性疾患や事故などによる緊急事態では、医療券を持たずに受診することが可能です。この場合の具体的な流れは以下の通りです:
- 緊急受診: 患者が救急車で搬送されるか、自力で救急外来を受診
- 身分確認: 医療機関が患者の身分を確認し、生活保護受給者であることを把握
- 福祉事務所への連絡: 医療機関が担当する福祉事務所に電話連絡
- 資格確認: 福祉事務所が生活保護受給者であることを確認
- 事後処理: 医療券は後日発行され、患者の自己負担は発生しない
救急医療における特別措置では、生命に関わる緊急事態において、医療券の発行を待つことなく迅速な医療提供が可能となっています。心筋梗塞、脳梗塞、重篤な外傷など、一刻を争う医療では、この仕組みにより適切な救急医療が確保されています。
精神科救急の対応も重要な要素です。精神疾患の急性増悪や自殺企図などの精神科救急においても、同様の緊急時対応が適用され、精神科救急病院での治療が自己負担なしで受けられます。
継続的な薬物療法の管理では、糖尿病のインスリン、高血圧の降圧薬、精神疾患の向精神薬など、継続的な服薬が必要な薬剤について、定期的な処方と服薬指導が適切に行われています。薬剤師による服薬指導も医療扶助の範囲に含まれており、薬の効果や副作用についての説明も無料で受けることができます。
在宅医療における薬剤管理では、在宅療養を行っている受給者に対して、訪問薬剤管理指導も医療扶助の対象となっています。薬剤師が自宅を訪問し、薬の管理方法や服薬状況の確認を行うサービスも自己負担なしで利用できます。
医療機器や治療材料についても、医学的に必要と認められる吸入器、ネブライザー、血糖測定器などの医療機器は現物給付として提供されます。これらの機器のメンテナンスや消耗品についても、医療扶助の範囲内で提供されています。
薬局での注意点として、調剤券を利用する場合は、処方箋の期限(通常4日間)内に薬局を訪問する必要があります。また、処方内容の変更や追加が必要な場合は、再度医療機関を受診し、新しい処方箋と調剤券の発行を受ける必要があります。
緊急時から継続的な薬物療法まで、生活保護の医療扶助制度は受給者の健康を総合的に支える仕組みとして機能しており、経済的理由で医療や薬剤の利用をあきらめることがないよう配慮されています。
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