キオクシアが語る「HDD不滅」の真意とSSD猛追の理由を徹底解説

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キオクシアが「HDDは不滅」「SSDは猛追中」と発言した理由は、世界のデータ総量の爆発的増加に対してNANDフラッシュの供給能力だけでは対応しきれないこと、そしてHDDとSSDの間に依然として5倍から10倍のコスト差が存在することにあります。この発言の背景には、生成AIの普及によるストレージ需要の急増と、データセンターにおける役割分担の再定義という産業構造の変化があります。NANDフラッシュメモリの世界的メーカーであるキオクシアは、本来であればSSDでHDDを駆逐する立場にありますが、あえてHDDの存続を認めることで、自社製品が最も付加価値を発揮できる高性能ストレージ領域に経営資源を集中する戦略を採っています。

本記事では、キオクシアの発言を起点として、HDDが不滅である理由とSSDが猛追する実態を詳しく解説します。グローバルなデータ量の増加とNAND供給能力の限界、ビット単価という経済的要因、そしてHAMRやCBAといった最新技術の動向まで、ストレージ業界の全体像をお伝えします。

キオクシア「HDD不滅」発言とは何だったのか

キオクシアの「HDD不滅」発言は、2024年から2025年にかけてストレージ業界で大きな注目を集めました。キオクシアは旧東芝メモリから社名変更した世界有数のNANDフラッシュメモリメーカーであり、SSDの心臓部となるフラッシュメモリを製造する企業です。本来であれば自社製品であるSSDの優位性を主張し、競合技術であるHDDの衰退を歓迎する立場にあるはずの同社幹部が、「HDDは不滅である」と公言したことは、業界関係者に衝撃を与えました。

この発言の真意を理解するためには、世界のデータ量がどれほど急速に増加しているかを把握する必要があります。IDCの予測では、全世界で生成・複製されるデータ量は2025年に175ゼタバイトを超え、その後もAIの普及によって指数関数的な増加が続くとされています。ゼタバイトとは1兆テラバイトに相当する途方もない単位であり、この「データの津波」をすべてNANDフラッシュメモリで受け止めることは、現実的に不可能です。

キオクシアの発言は単なる謙遜や業界への配慮ではありませんでした。そこには、グローバルなデータ量の爆発的増加と、それを物理的に収容するためのシリコンウェハー供給能力の限界、そして生成AIがもたらす新たな計算需要という現実に基づいた、極めて冷徹な市場分析が存在していました。同社は「SSDの猛追」も同時に強調しており、これはデータセンターにおけるストレージの役割分担、いわゆるティアリングの再定義を意味しています。

HDDが不滅である理由の詳細分析

圧倒的なコスト差という現実

HDDが不滅である最も直接的な理由は、SSDとの間に存在する圧倒的なコスト差です。SSDの価格は技術革新によって年々下落していますが、HDDもまた技術革新によって容量を増やし、ビット単価を下げ続けています。2025年時点において、データセンター向けのエンタープライズSSDと大容量ニアラインHDDの容量あたり単価差は、依然として5倍から7倍、場合によっては10倍近い開きがありました。

この価格差が意味することを具体的な数字で示すと、クラウドサービスプロバイダーが1エクサバイト、つまり100万テラバイトのデータを保存するストレージインフラを構築する場合、オールフラッシュ構成とHDD中心の構成では、初期投資額に数億ドル単位の差が生じます。YouTubeにアップロードされる動画、SNSのログ、AIの学習用生データ、企業のバックアップデータなど、一度書き込まれた後は頻繁にアクセスされない「コールドデータ」や「アーカイブデータ」にとって、SSDの高速性は過剰品質であり、コストの高さは許容されません。

キオクシア自身も、SSDがランダムアクセス性能やスループットでHDDを圧倒していることを自負しつつ、この「容量単価」という土俵においてHDDに勝つことが当面不可能であることを熟知しています。この認識こそが「HDD不滅」発言の核心部分です。

NANDフラッシュ供給能力の物理的限界

キオクシアが「HDDは不滅」と断言するもう一つの根拠は、需要と供給の圧倒的な非対称性にあります。HDD業界の分析によれば、現在HDDが担っているエクサバイト級のマスストレージ需要をすべてSSDに置き換えようとした場合、NANDフラッシュ業界全体で現在の生産能力を数倍に引き上げる必要があります。

この課題を金額に換算すると、将来のHDD需要をNANDで代替するためには、業界全体で約2,400億ドル、日本円にして約35兆円規模を超える追加設備投資が必要になると試算されています。現在のNANDフラッシュ製造工場の建設には1棟あたり数千億円から1兆円規模の投資が必要であり、最先端の製造装置のリードタイム、工場を稼働させるための莫大な電力供給、そして熟練した技術者の確保といった物理的な制約を考慮すれば、短期間でこれほどの生産能力を構築することは現実的ではありません。

キオクシア幹部の発言は、「我々NANDメーカーだけでは、人類が生み出す全てのデータを保存しきることはできない」という、供給サイドの限界を率直に認めたものでした。この事実認識は、同社の経営戦略全体に深く影響を与えています。

キオクシアの「ニューノーマル」戦略

キオクシアの技術戦略を深掘りすると、同社が無闘な「打倒HDD」を掲げていない理由がさらに明確になります。同社は近年、3D NANDの積層数競争において、単に層数を増やすことよりも「資本効率」を重視する「ニューノーマル」という戦略方針を打ち出しています。

かつてNAND業界は、64層、96層、112層と、層数を増やすことでチップのビット密度を高めることに邁進してきました。しかし、層数が200層、300層と増えれば増えるほど、製造工程におけるエッチングの難易度は指数関数的に上昇し、歩留まりの低下や製造装置コストの高騰を招きます。

キオクシアは、無理な積層競争による投資効率の悪化を避けるため、後述するCBA技術などを駆使し、必ずしも世界最多の層数でなくとも、チップ面積あたりの密度とコスト競争力を最大化する戦略を追求しています。この経営判断は、「低収益なHDD代替市場を無理に奪いに行って自社の採算を悪化させるよりも、高付加価値な高性能ストレージ領域で確実にSSDのシェアを伸ばす」という合理的な選択に基づいています。

SSD猛追の実態とAI時代の需要構造

生成AIがもたらすストレージ革命

HDDが不滅である一方で、キオクシアが「猛追」と表現するように、SSDが特定の領域においてHDDの市場を侵食し続けているのも紛れもない事実です。特に生成AIの学習・推論プロセスにおける高速データアクセスの要求は、従来のHDDストレージシステムでは対応しきれない領域を急速に拡大させています。

生成AI、特に大規模言語モデルのトレーニングや、RAGと呼ばれる検索拡張生成を用いた推論システムでは、膨大なパラメータやデータセットに対してランダムかつ高速なアクセスが頻繁に発生します。HDDはディスクが回転してヘッドが移動するという機械的な動作を伴うため、シーケンシャルな読み書きには強いものの、ランダムアクセス性能においてはSSDに数桁劣ります。

最新のAIサーバー、特にNVIDIAのGPUを搭載したシステムにおいては、GPUの計算能力が極めて高いため、ストレージからのデータ供給が遅れると、高価なGPUがデータ待ちでアイドル状態になる「I/Oボトルネック」が発生します。これを防ぐため、AIのチェックポイント作成や、学習データの読み出し、推論時のベクトルデータベース参照といった用途では、HDDではなく高速なNVMe SSDが必須となっています。

キオクシアのエンタープライズNVMe SSD「CM7シリーズ」などは、PCIe 5.0インターフェースを採用し、1秒間に数百万回の読み書きを実現しています。AIワークロードにおいては、「容量単価が高くても、時間あたりの処理性能で勝るSSDを使わなければ、トータルの計算コストが高くつく」という状況が生まれており、これがSSDの「猛追」を加速させる最大の原動力となっています。

SSD大容量化の技術的ブレイクスルー

かつて「SSDは容量が少ない」と言われた時代は終わりを告げました。3D NAND技術の進化により、SSDの容量密度はHDDを追い越しつつあります。特に1つのメモリセルに4ビットの情報を記録するQLC技術の成熟は、エンタープライズSSDの大容量化を劇的に推進しました。さらに5ビットを記録するPLC技術の研究開発も進んでいます。

現在、データセンター向けには30TB、60TBを超える超大容量SSDが登場しています。キオクシアのパートナーでもあるPure Storageは、独自のフラッシュモジュールにより75TB、150TB、将来的には300TBという、HDD単体の容量を遥かに凌駕する容量を実現するロードマップを描いています。

HDDは3.5インチという物理的な規格サイズの中で、プラッタと呼ばれる円盤の枚数を増やすことに物理的な制約があり、現在は10枚から11枚が限界です。対してSSDはNANDチップを積層し、パッケージングを工夫することで、同じ物理体積の中にHDDの数倍から10倍以上のデータを詰め込むことが可能です。これはデータセンターの「場所代」が高い都市型データセンターや、電力供給に制約のあるエッジ環境において、SSDの強力な武器となっています。

オールフラッシュ・データセンターへの野心

SSDの強みを極限まで推し進め、「HDDの完全駆逐」を掲げるプレイヤーも存在します。オールフラッシュストレージ専業ベンダーのPure Storageは、「2028年以降、新たなHDDストレージは販売されなくなる」という、業界を揺るがす大胆な予測を発表しました。

Pure Storageの主張は、主に「電力効率」と「信頼性」、そして「サステナビリティ」に基づいています。同社はHDDの機械的な回転機構が消費する電力や、故障率の高さ、リビルド(データ復旧)にかかる時間の長さが、脱炭素化と効率化を求める将来のデータセンター要件に合致しなくなると指摘しています。

特筆すべきは、キオクシアがこのPure Storageと戦略的な協業関係にある点です。キオクシアは高品質なQLC NANDフラッシュをPure Storageに供給し、Pure Storageはそのフラッシュの特性をソフトウェアで完全に制御することで、HDD並みのコスト効率とSSDの性能を両立させようとしています。キオクシアは自ら「HDDは不滅」と語りながらも、その一方でHDDを駆逐しようとする勢力に最強の武器を提供しています。この「両面作戦」こそがキオクシアの強かさであり、SSD猛追の現実的な側面を表しています。

HDD陣営の技術革新と反撃

HAMR技術が切り拓く100TB時代

キオクシアが「不滅」と認めるHDD側も、座して死を待っているわけではありません。SeagateやWestern DigitalといったHDDメーカーは、磁気記録技術の物理的限界を突破するために、革新的な技術を実用化させています。その中心にあるのがHAMRと呼ばれる熱アシスト磁気記録技術です。

Seagateが主導するHAMR技術は、HDDの記録密度を飛躍的に高めるためのブレイクスルーです。従来の磁気記録方式では、記録ビットを微細化すればするほど、磁気エネルギーが不安定になりデータが消えてしまう「熱揺らぎ」の問題に直面していました。これを解決するには、より保磁力の高い材料を使う必要がありますが、今度は保磁力が高すぎて既存の磁気ヘッドではデータを書き込めなくなります。

HAMRはこのジレンマを解決するため、記録ヘッドに極小のレーザーを搭載し、データを書き込む瞬間にプラッタの記録面を400度以上に局所加熱します。加熱されることで一時的に保磁力が下がった瞬間にデータを書き込み、直後に急冷してデータを固定する仕組みです。この技術により、これまでの限界を超えた高密度記録が可能になりました。

Seagateは2024年から2025年にかけて、この技術を用いた「Mozaic 3+」プラットフォームを立ち上げ、30TBを超える大容量HDDの出荷を開始しました。さらに彼らのロードマップでは、2026年には40TBから50TB、そして2030年代初頭には1プラッタあたり10TB、10枚構成で100TBのHDDを実現可能としています。

SMRとその他の技術革新

HDDの容量を増やすもう一つの技術がSMRと呼ばれる瓦記録方式です。これはデータの書き込みトラックを屋根瓦のように一部重ねて記録することで、トラック密度を高める手法です。データを上書きする際に隣接するトラックのデータも書き直す必要があるため、ランダムライト性能が低下するというデメリットがありますが、読み出し性能には影響しません。

ハイパースケーラーなどの巨大なデータセンター事業者は、アプリケーション側でデータの書き込み順序を制御したり、データをシーケンシャルに書き込む用途に限定したりすることで、このデメリットを回避しつつ、安価な大容量ストレージとしてSMR HDDを積極的に採用しています。SeagateやWestern Digitalは、HAMR技術とSMR技術を組み合わせることで、さらなる大容量化を実現しています。

Western Digitalは、HAMRへの移行においてSeagateとは異なるアプローチを採り、マイクロ波アシスト磁気記録や、ePMRといった技術を段階的に投入してきました。さらにHDD内部にNANDフラッシュを搭載してメタデータを管理する「OptiNAND」技術を採用し、性能と容量のバランスを最適化しています。HDDメーカーのメッセージは明確です。「速度が必要ならSSDを使えばいい。しかし、世界中のデータを経済的に保存できるのは我々の技術だけだ」という強固な自負がそこにはあります。

キオクシアの技術戦略「BiCS FLASH」と「CBA」

CBA技術がもたらす製造革命

HDDを「猛追」し不滅の牙城を崩そうとするキオクシアの武器、それがNANDフラッシュ技術の最前線です。同社は単なる容量拡大だけでなく、製造コストと性能のバランスを極限まで追求する独自の技術ロードマップを歩んでいます。

キオクシアとWestern Digitalが共同開発する3D NAND「BiCS FLASH」は、第8世代の218層以降において、製造プロセスに革命的な変更を加えました。それが「CBA」と呼ばれる技術です。CBAはCMOS directly Bonded to Arrayの略称で、メモリセルとCMOS回路を別々に製造して貼り合わせるという革新的な手法を指します。

従来の3D NAND製造では、シリコンウェハー上に周辺回路を形成し、その横や上にメモリセルを積み上げる手法が一般的でした。しかしこの方法では、メモリセルの製造プロセスがCMOS回路に悪影響を与えたり、逆にCMOSの配置がメモリセルの密度向上を阻害したりするトレードオフがありました。

CBA技術では、メモリセルのウェハーと制御回路のウェハーを「別々に」製造し、最後にそれらを「貼り合わせる」という手法を採用しています。この手法には複数のメリットがあります。まず製造プロセスの最適化が可能になり、メモリセルにはメモリ専用の、CMOSにはCMOS専用の最適なプロセスルールや熱処理を適用できるため、それぞれの性能を妥協なく引き出せます。これによりI/Oインターフェース速度を飛躍的に向上させることが可能になり、最新のBiCS FLASHでは3.2Gbps以上の高速転送を実現しています。

1,000層への道と多値化技術

キオクシアは将来的に、1,000層を超える積層数を持つ3D NANDの実現可能性についても言及しています。現在の最先端が200層から300層レベルであることを考えると、1,000層というのは途方もない高さですが、これを実現できればテラバイト級ではなくペタバイト級のSSDが視野に入ってきます。

しかしキオクシアは「層数を増やすことだけが正義ではない」とも強調しています。層数が増えれば製造難易度と設備投資額が跳ね上がるため、CBA技術による水平方向の密度向上と組み合わせることで、最も投資対効果の高い「スイートスポット」を探る戦略です。

また1つのセルに記録するビット数を増やす多値化技術も重要です。現在はTLCと呼ばれる3ビット/セルが主流ですが、キオクシアはQLCと呼ばれる4ビット/セルの性能向上に注力しており、さらにPLCと呼ばれる5ビット/セルの研究も進めています。QLCはかつて「寿命が短い」「遅い」と言われましたが、コントローラー技術の進化により、読み出し中心のAIワークロードやアーカイブ用途では十分実用的なレベルに達しています。このQLC/PLC技術こそが、HDDの牙城である「ニアライン領域」への侵攻を可能にする鍵となっています。

データセンターにおけるHDDとSSDの共存経済学

ストレージ階層の再定義

「HDD不滅」と「SSD猛追」が最も激しく交錯する現場は、AIを駆動するハイパースケールデータセンターです。ここでは性能、コスト、電力、設置スペースという4つの変数が複雑な方程式を描き、HDDとSSDの役割分担を決定づけています。

AI時代のデータセンターでは、従来の単純な「高速なSSD」と「安価なHDD」という二分法では説明できない、多層的なストレージ階層が形成されています。最上位のTier 0はAI CacheやUltra-Hot領域と呼ばれ、GPUに直結するHBMやDRAMが使われます。超高速ですが容量単価は極めて高く、電源を切るとデータが消える揮発性メモリです。

その下のTier 1はHigh PerformanceまたはHot領域と呼ばれ、AIの学習データをGPUに供給するバッファ領域や、チェックポイントの高速書き込みに使われます。キオクシアのCM7シリーズのようなPCIe 5.0対応のハイエンドNVMe SSDが支配する領域であり、ここではコストよりも速度が最優先されます。

Tier 2はWarmまたはInference領域と呼ばれ、推論用のデータベースや頻繁にアクセスされる学習用データセットが置かれます。ここはHDDとSSDの激戦区であり、HDDではランダムリード性能が足りず、TLC SSDではコストが高すぎるため、大容量のQLC SSDが急速にシェアを伸ばしています。Pure Storageなどがターゲットにしているのは主にこの層です。

Tier 3はColdまたはArchive領域と呼ばれ、学習が終わった生データ、法的に保存義務のあるログ、将来のモデル更新に備えた巨大なデータレイクが保存されます。アクセス頻度は低いもののデータ量は膨大で、消去することは許されません。ここは圧倒的なビット単価と供給能力を持つHDDの独壇場であり、「不滅領域」と呼ぶにふさわしい場所です。

電力消費とTCO論争

データセンター運営において、電力消費は今や最大のボトルネックです。AIサーバーが莫大な電力を消費するため、ストレージ側の省電力化に対する圧力はかつてないほど高まっています。

一般的に「SSDはHDDより省電力」と考えられていますが、これには注釈が必要です。データの読み書きを行っている「アクティブ時」の電力効率ではSSDが圧倒的に優秀ですが、データをただ保存しているだけの「アイドル時」や、容量あたりの電力で見ると、最新のヘリウム充填HDDも非常に優秀な数値を叩き出します。

ここで議論になるのが、Pure Storageなどが主張する「システムレベルでの省電力」です。彼らの主張は、「SSDはHDDよりもはるかに高密度化できるため、必要なデバイス数を劇的に減らせる」というものです。例えば1ペタバイトを保存するのに、20TBのHDDなら50台必要ですが、75TBのフラッシュモジュールなら14台で済みます。デバイス数が減ればそれを収めるサーバー筐体、冷却ファン、電源ユニット、そしてラックの数も減らせるため、データセンター全体で見ればSSDの方が省電力でTCOも安くなるというロジックです。

キオクシアなどのNANDメーカーもこのロジックを支持し、高密度大容量SSDの展開を進めています。しかしHDDメーカー側は「導入コストの差があまりにも大きく、電力差で回収するには長期間かかる」と反論しており、このTCO論争は現在進行形で続いています。

今後の展望と業界の未来予測

2028年予言の現実性

Pure Storage幹部は「2028年以降、新たなHDDは販売されなくなる」と予言しました。しかしキオクシアを含む多くの業界関係者やアナリストは、この予言が的中する可能性は極めて低いと見ています。

その理由は、「NANDの供給能力不足」と「コスト差」が、あと数年で解消される見込みがないからです。特にAI需要によってNANDフラッシュの生産ラインの一部がHBMやエンタープライズ向けSSDに割り振られており、HDDを代替するほどの安価な大容量NANDを大量生産する余裕は業界にありません。

しかしこの過激な予言は「HDDの役割が大きく変わる」という点では真実を突いています。かつてPCのOS起動ドライブがHDDからSSDに完全に置き換わったように、データセンターにおいても「性能が必要な領域」からHDDは完全に排除され、「容量単価だけが求められる領域」へと特化していく流れは不可逆的です。

キオクシアの勝算と戦略的立ち位置

キオクシアにとって「HDD不滅」と認めることは敗北宣言ではありません。むしろNANDフラッシュの適正な市場規模と成長率を見極めた上での、極めて合理的な経営判断です。

同社は利益率の低いバルクストレージ市場をHDDに任せることで、NANDの生産能力を「より付加価値の高い領域」に集中させることができます。AI向けの超高速SSDや、スマートフォン、車載向けの高性能フラッシュなど、ビット単価が高くても売れる市場にリソースを集中することこそが、シリコンサイクルの影響を最小限に抑え、持続的な成長を実現する道です。

またキオクシアはHDDと競合するWestern Digitalと製造面でパートナーシップを結んでいるため、HDD市場の動向を誰よりも正確に把握できる立場にあります。この「敵を知り己を知る」立ち位置こそがキオクシアの強みであり、冷静な「不滅」発言の源泉となっています。

壮大なる分業体制の確立へ

2030年に向けて、ストレージの風景はどのように変わるのでしょうか。HDDはHAMR技術によって1台で100TBを超える巨大な「データの器」へと進化し、コストパフォーマンスという最強の盾を持って、世界のデータセンターの底支えを担い続けるでしょう。その意味でHDDは確かに不滅です。

一方SSDは、CBA技術や多値化によってさらなる高速化と高密度化を遂げ、HDDの領域を「猛追」しながら、AIという新たな知性がデータを処理するための「高速道路」を敷設し続けます。

キオクシアの発言が示唆するのは、どちらかが生き残るゼロサムゲームの終わりです。爆発的に膨張するデジタル宇宙を支えるためには、異なる物理特性を持った2つの技術がそれぞれの得意領域で極限まで進化し、相互に補完し合う「壮大なる分業体制」が必要不可欠です。キオクシアはその分業の中で最も付加価値の高い領域を支配し、同時にHDDというパートナーの存在を認めることで、データインフラ全体の持続可能性を担保しようとしています。

「HDDは不滅だが、SSDの猛追は無視できない」という言葉は、技術の限界と可能性を冷静に見据えた、データ爆発時代の新たな宣言と言えるでしょう。

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