韓国EMU-370とは?時速370キロの次世代高速列車を徹底解説

社会

韓国の次世代高速列車EMU-370は、営業運転速度で時速370キロを実現する世界最高水準の高速鉄道車両です。2025年12月22日、韓国国土交通部と韓国鉄道技術研究院は、このEMU-370の核心技術開発が完了したことを正式に発表しました。EMU-370は2031年の商用化を目指しており、実現すれば韓国は中国に次ぐ世界第2位の高速鉄道大国となり、ソウルから釜山までの移動時間が現在の約2時間30分から1時間50分台へと大幅に短縮されます。

この記事では、EMU-370の開発背景から技術的特徴、インフラ整備計画、そして社会経済的な影響まで、韓国が誇る次世代高速列車の全貌を詳しく解説していきます。世界の高速鉄道競争において韓国がどのような戦略で臨んでいるのか、最新の情報をもとにお伝えします。

EMU-370とは何か:韓国が開発した次世代高速列車の概要

EMU-370とは、韓国が国を挙げて開発を進めてきた次世代高速鉄道車両のことです。「EMU」はElectric Multiple Unit(電車方式)の略称であり、「370」は営業最高速度370km/hを意味しています。この列車は設計最高速度407km/hという性能を持ち、現在世界で営業運転を行っているフランスのTGV、日本の新幹線、ドイツのICEなどが概ね時速320キロ前後で運行されている状況を大きく上回る速度性能を実現しています。

EMU-370の開発プロジェクトは、2022年4月から2025年12月までの3年8ヶ月間にわたって実施されました。総事業費は225億ウォンで、その内訳は政府が180億ウォン、民間が45億ウォンを負担しています。開発体制としては、韓国鉄道技術研究院を中心に、車両メーカーである現代ロテムをはじめとする計8つの公的機関および民間企業が参画し、産官学連携のもとで技術開発が進められました。

韓国高速鉄道の歴史とEMU-370への道のり

韓国の高速鉄道の歴史は、2004年にフランスのアルストム社からTGVの技術移転を受けた「KTX-I」の導入によって始まりました。当時の最高営業速度は300km/hであり、動力方式は前後の機関車が客車を牽引・推進する「動力集中式」と呼ばれるものでした。

その後、韓国はTGVの技術を消化・吸収し、国産化を果たした「KTX-山川(サンチョン)」を開発しました。しかし、この車両も依然として動力集中式を踏襲していたため、世界の高速鉄道の潮流である「動力分散式」への転換が課題となっていました。

動力分散式とは、各車両の床下にモーターを分散配置する方式のことです。この方式は加減速性能に優れており、急勾配や駅間の短い区間が多い韓国の地形に適しています。また、機関車が不要となるため編成全体を客室として利用でき、輸送定員を大幅に増やせるというメリットもあります。

この技術転換の先駆けとなったのが、試験車両「HEMU-430X」です。HEMU-430Xは最高時速430キロを記録し、韓国における動力分散式高速列車の技術実証に成功しました。この技術は、まず準高速列車である時速260キロ級の「KTX-イウム(EMU-260)」として実用化され、続いて2024年に営業運転を開始した時速320キロ級の「KTX-青龍(EMU-320)」へと継承されました。

EMU-370は、このKTX-青龍のプラットフォームをベースとしつつ、HEMU-430Xで実証された超高速域での走行技術を商用レベルまで昇華させたモデルとなっています。KTX-青龍が最高設計速度352km/h、営業速度320km/hであるのに対し、EMU-370はこれらをそれぞれ約50km/h上回る性能を持っています。

EMU-370を支える6つの核心技術

時速370キロという速度域は、単にモーターを強力にするだけでは到達できません。空気抵抗、騒音、振動といった物理的な課題が速度の二乗に比例して増大するためです。EMU-370開発プロジェクトでは、これらの課題を克服するために6つの主要な核心技術が開発されました。

超高出力・高効率推進システムの開発

高速鉄道の心臓部であるトラクションモーター(主電動機)において、劇的な性能向上が図られました。EMU-370に搭載される新型高出力モーターの定格出力は560kWに達します。これは、既存のKTX-青龍に搭載されているモーター(380kW)と比較して、約47.4%もの出力向上を実現したものです。

この560kWという出力は、一般的な中型乗用車(現代アバンテ1.6L換算)約6台分に相当する驚異的なパワーです。EMU-370が16両編成で構成され、24基のモーターを搭載する場合、列車全体ではアバンテ144台分が一斉に牽引するのと同等の推進力を発揮することになります。

通常、モーターの出力を上げれば重量とサイズも増大し、車両重量の増加や車内スペースの圧迫につながります。しかし、本開発では構成部品の小型化、高密度設計、冷却性能の向上、絶縁性能の強化といった技術革新により、出力が約1.5倍になったにもかかわらず、重量の増加は18%未満に抑えることに成功しました。これは、軸重制限(線路にかかる負荷の制限)をクリアしつつ、必要なパワーウェイトレシオを確保するための決定的なブレイクスルーでした。

極限のエアロダイナミクス(空力設計)

時速300キロを超える領域では、走行抵抗の大半を空気抵抗が占めます。EMU-370では、空気の壁を切り裂くための徹底的な空力設計が導入されました。

車両先頭部の形状は、スポーツカーのように低く滑らかな流線型に再設計され、空気の流れを最適化しています。さらに重要な改良点として、屋根上機器の「ビルドイン化」が挙げられます。従来の高速列車では、空調装置(エアコンユニット)や換気システム、制動抵抗器などが屋根上に突出しており、これが空気抵抗と騒音の発生源となっていました。EMU-370ではこれらの機器を車体内部や屋根のラインに合わせて埋め込む設計を採用し、車体表面の凹凸を極限まで減らしました。

これらの改良の結果、走行抵抗(空気抵抗)はKTX-青龍と比較して12.3%低減されました。空気抵抗の低減は、エネルギー消費の抑制だけでなく、環境騒音の低減にも直結するため、持続可能な超高速運行を実現するための重要な要素となっています。

アクティブな走行安定性と振動制御

時速370キロで走行する列車にとって、微細な線路の不整や横風は大きな動揺の原因となります。特に「蛇行動(ヨーイング)」と呼ばれる横揺れは、乗り心地を悪化させるだけでなく、最悪の場合は脱線事故につながる危険性があります。

EMU-370では、台車(ボギー)に搭載されるサスペンションシステムの設計が刷新されました。振動を検知して瞬時に減衰力を調整するセミアクティブ、あるいはアクティブサスペンション技術が高度化され、高速走行時の横方向の振動加速度(揺れ)を従来比で30%以上低減することに成功しました。これは、時速370キロという極限状態においても、既存のKTXと同等かそれ以上の静粛で滑らかな乗り心地を提供できることを意味しています。

世界最高水準の静粛性

一般的に、速度が上がれば風切り音(空力騒音)は急激に増大します。しかし、EMU-370の車内騒音レベルは68〜73デシベル(dB)に抑制されています。これは、KTX-青龍(EMU-320)よりも約2dB低い数値であり、海外の一般的な高速列車(72〜76dB)と比較しても優れた静粛性を実現しています。

この静粛性の実現には、前述の空力設計による風切り音の低減に加え、車体の気密性向上、遮音材の最適化、そしてドアシステムの国産化と再設計が寄与しています。特にドアシステムは、高速走行時の圧力変動に耐えうる高い気密性を確保しつつ、国産技術によってメンテナンス性を向上させています。

EMU-370の実用化に向けたロードマップ

車両技術が完成しても、それを支えるインフラと運用計画がなければ「時速370キロ」は実現できません。韓国政府は、車両開発と並行して大規模なインフラ整備プロジェクトを推進しています。

2031年の商用化に向けたタイムライン

国土交通部が提示したロードマップによると、EMU-370の実用化プロセスは以下の段階を経て進められる予定です。

2026年から実車の製作フェーズに入ります。国土交通部は2026年上半期にも最初のEMU-370車両の発注を行う計画です。先行量産車として1〜2編成、計16両程度が想定されており、製造は開発を主導した現代ロテムが担当すると見られています。

2030年からは完成した車両を用いた試験走行(テストラン)が開始されます。ここでは設計最高速度407km/hまでの増速試験や、各種安全性の検証が行われる予定です。

そして2031年以降に正式な営業運転(商用化)が開始される目標となっています。まずは乗車率が高く、線形が良い京釜高速線(ソウル〜釜山)や湖南高速線などの主要幹線に投入され、段階的に運行本数を拡大していくと予想されています。

平沢-五松2複線化事業:時速400キロ対応の新線建設

EMU-370の性能をフルに発揮するための最大の舞台となるのが、現在建設中の「平沢-五松 高速鉄道2複線化事業」です。

現在の平沢〜五松区間(約46.4km)は、京釜高速線と湖南高速線が合流するボトルネックとなっており、線路容量が限界に達しています。この問題を解消するために、既存路線の地下深くに新しい高速線トンネルを建設するプロジェクトが進行中です。

特筆すべきは、この新区間が韓国で初めて最高設計速度400km/hというスペックで建設されている点です。既存の京釜高速線第1期区間(ソウル〜大邱)は設計速度350km/hで建設されましたが、この新しい地下区間は最初から時速400キロ走行を前提とした線形(曲線半径)とトンネル断面積で設計されています。2030年の開通を目指して最新鋭のトンネルボーリングマシンなどが投入されており、この区間の完成とEMU-370の試験走行開始は時期的にもリンクしています。

既存路線のアップグレード

400km/h対応の新線区間以外の既存路線についても、高速化に向けた改良が必要です。特に課題となるのが、線路の下に敷かれた砂利(バラスト)です。時速350キロ以上で列車が走行すると、強力な風圧によってバラストが巻き上げられ、車体や設備を破損させる「バラスト飛散」現象が発生するリスクが高まります。

そのため、既存のバラスト軌道を、より強固でメンテナンスフリーなコンクリート軌道(スラブ軌道)へ交換する工事が求められています。毎日列車が運行されている営業線で、夜間のわずか4時間程度の作業時間を使って軌道を交換するのは極めて困難な作業ですが、韓国鉄道技術研究院は工場で予め製造したコンクリートパネルを持ち込んで迅速に設置するプレハブ工法などを開発し、この難題に挑んでいます。

EMU-370がもたらす社会経済的インパクト

EMU-370の導入は、韓国の国土構造と国民生活に劇的な変化をもたらすと予測されています。

「全国2時間生活圏」の実現

商用化が実現すれば、現在ソウルから釜山までKTXで約2時間30分を要している移動時間が、1時間50分台にまで短縮される見込みです。また、ソウルから光州(クァンジュ)までの移動時間は約1時間10分程度になると試算されています。

これにより、韓国全土の主要都市がソウルから2時間以内で結ばれる「全国2時間生活圏」が現実のものとなります。これは単なる時間の節約以上に、心理的な距離感を消滅させ、日帰りでのビジネスミーティングや観光を日常的なものに変える力を秘めています。特に、移動時間が1時間を切るような近距離圏(例えばソウル〜大田など)では通勤圏としての統合が進み、巨大なメガリージョンが形成される可能性があります。

地域経済への波及効果

交通網の高速化には、地方の人口や経済力が大都市(ソウル)に吸い上げられる「ストロー効果」と、大都市の機能や人口が地方へ分散する「スプロール効果」の二面性があります。

韓国政府は、EMU-370によるアクセシビリティの向上が、首都圏への過度な人口集中を緩和し、地方都市への企業移転や定住を促進するとして、「均衡ある国土発展」への寄与を強調しています。高速鉄道の駅周辺には新たな商業施設やオフィスビルが建設される傾向があり、地方経済の活性化につながることが期待されています。

産業エコシステムの高度化

EMU-370の開発プロジェクトには、現代ロテムだけでなく多数の部品メーカーや研究機関が参加しました。これにより、高出力モーター、インバーター、ブレーキシステム、空力パーツ、ドアシステムなど、高速鉄道の核心部品における国産化率が飛躍的に向上しました。

これは、将来的なメンテナンスコストの低減や部品供給の安定化に寄与するだけでなく、韓国の鉄道産業全体の技術底上げにつながります。また、防衛、航空宇宙、電気自動車(EV)などの他産業への技術波及効果も期待されています。

世界市場における韓国高速鉄道の競争力

EMU-370の開発は、国内需要を満たすだけでなく、拡大する世界の高速鉄道市場を攻略するための戦略的な布石でもあります。

グローバル市場での位置づけ

現在、世界の高速鉄道市場では、中国が時速400キロでの営業運転を目指す「CR450」の開発と試験走行を進めており、速度面での覇権を握りつつあります。韓国がEMU-370で時速370キロの営業運転を実現すれば、中国に次ぐ世界2番目の高速性能を持つことになり、西側諸国の技術としては最速の地位を確立することになります。

韓国(現代ロテム)は近年、高速鉄道車両の輸出において顕著な成果を上げています。ウズベキスタンへの動力分散式高速車両の供給契約や、ポーランド、ベトナムとの鉄道協力関係の構築などがその例です。

世界の鉄道市場では、導入コストと運用効率のバランスから時速250〜320キロ級の高速鉄道需要が主流ですが、「時速370キロの列車を独自開発できる」という技術力は、入札において圧倒的な信頼性とブランド力を付与します。特に、ライバルである中国(CRRC)が「CR450」で時速400キロ級をアピールする中、韓国がそれに肉薄する「EMU-370」をラインナップに加えることは、非中国圏の選択肢として西側諸国市場に食い込むための強力な武器となります。

ポーランド市場への展開

具体的なターゲットとして注目されるのがポーランドです。ポーランドは、新空港(CPK)建設に伴う大規模な高速鉄道網整備(Y字線など)を計画しており、時速350キロ級の車両調達を目指しています。

現代ロテムはポーランドとの防衛産業協力をテコに、高速鉄道市場への参入を狙っています。EMU-370の技術スペックはポーランド側の要求水準(設計350km/h以上)を十分に満たすものであり、今後の受注競争において有力な候補となることが期待されています。

ベトナム市場への展開

ベトナムもまた、ハノイとホーチミンを結ぶ南北高速鉄道計画(時速350キロ級)を推進しています。現代ロテムは現地のコングロマリットであるTHACOと戦略的提携を結び、現地生産や技術移転を含めた包括的な協力体制を構築しています。EMU-370で培われた最新の分散動力技術が提案の核となるでしょう。

EMU-370と他国の高速鉄道との比較

EMU-370の性能を正確に理解するために、世界の主要な高速鉄道との比較を行います。

列車名営業最高速度設計最高速度
EMU-370韓国370km/h407km/h
CR450中国400km/h(目標)450km/h(目標)
KTX-青龍韓国320km/h352km/h
TGVフランス320km/h574.8km/h(記録)
新幹線N700S日本285km/h360km/h
ICE 4ドイツ250km/h265km/h

この比較からわかるように、EMU-370は中国のCR450を除けば、世界で最も高速な営業運転を実現する高速鉄道車両となります。日本の新幹線やドイツのICEと比較しても、営業速度で大幅に上回っている点が特徴です。

韓国高速鉄道技術の将来展望

韓国政府は、EMU-370の成功を足掛かりに、さらなる技術革新を推進する方針を示しています。2026年からは「時速400キロ級」の第3世代高速列車技術の開発に着手すると表明しており、中国のCR450に対抗できる次世代車両の開発が視野に入っています。

また、高速鉄道技術の発展は、環境面でも重要な意義を持っています。航空機や自動車と比較して、高速鉄道は二酸化炭素排出量が大幅に少なく、持続可能な交通手段として注目されています。EMU-370の空力設計の改善によるエネルギー効率の向上は、この環境面でのメリットをさらに強化するものです。

韓国が2004年のKTX導入から約20年で世界トップクラスの高速鉄道技術を確立したことは、技術導入国から技術保有国への転換の成功例として、他の新興国にとっても参考になる事例といえます。EMU-370の開発完了は、フランスTGVの技術導入から始まった韓国高速鉄道の歴史における一大転換点であり、韓国が世界の鉄道技術をリードする存在へと成長したことを象徴しています。

まとめ:時速370キロが変える韓国の未来

韓国の次世代高速列車EMU-370は、営業運転速度時速370キロという世界第2位の高速性能を持つ革新的な車両です。2025年12月に核心技術の開発が完了し、2026年から車両製作、2030年に試験走行、2031年に商用化という明確なロードマップのもとで実用化が進められています。

560kWの超高出力モーター、12.3%の空気抵抗低減を実現した空力設計、30%以上の振動低減を達成したサスペンション技術、68〜73dBという静粛な車内環境など、EMU-370には世界最先端の技術が結集されています。

平沢-五松2複線化事業による時速400キロ対応新線の建設も並行して進められており、インフラ面での準備も着々と整いつつあります。EMU-370の商用化が実現すれば、ソウルから釜山まで1時間50分台、ソウルから光州まで約1時間10分という「全国2時間生活圏」が現実のものとなります。

さらに、ポーランドやベトナムなど海外市場への輸出も視野に入れており、韓国の鉄道産業にとってEMU-370は国際競争力を高める重要な戦略的資産となっています。世界の高速鉄道市場において、中国に次ぐ技術力を示すことで、西側諸国における有力な選択肢としての地位を確立することが期待されています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました