ワーナー買収協議再開!パラマウントの提示額引き上げ詳細を解説

社会

ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)の買収をめぐり、パラマウント・スカイダンス(PSKY)との協議が再開され、提示額が1株あたり30ドルから31ドルへ引き上げられました。この協議再開は、2026年2月17日にネットフリックスが既存の合併契約における「ショップ禁止条項」を一時的に解除し、WBDがPSKYと7日間の交渉を行うことを認めたことで実現しています。提示額の引き上げに加えて、PSKYはネットフリックスへの解約手数料28億ドルの全額負担や、規制審査の長期化に備えた「ティッキング・フィー」の導入など、株主の懸念を払拭するための包括的な条件改善を提示しています。

この記事では、PSKYによる提示額引き上げの具体的な内容から、ネットフリックス案との財務構造の比較、オラクル創業者ラリー・エリソンによる404億ドルの個人保証、さらにはトランプ政権下の政治的力学まで、WBD買収協議再開の全貌を詳しくお伝えします。

ワーナー買収をめぐるパラマウントとの協議再開が実現した経緯

WBDとPSKYの買収協議が再開された直接のきっかけは、2026年2月17日にネットフリックスが発出した「限定的な権利放棄(waiver)」にあります。この権利放棄により、WBD取締役会はネットフリックスとの既存の合併契約を維持したまま、PSKYとの交渉を2026年2月23日までの7日間限定で行うことが可能になりました。

WBDとネットフリックスは2025年12月5日に合併合意を発表しました。この合意は、WBDのスタジオ事業とストリーミング事業(Max)をネットフリックスが買収し、残るリニアテレビ事業(CNN、TNT、TBSなど)を「ディスカバリー・グローバル」という新会社としてスピンオフさせるという構造でした。業界内ではネットフリックスの独走体制が確定したと見られていましたが、PSKYのデビッド・エリソンCEOは敵対的買収(TOB)を仕掛け、株主に対してネットフリックス案の否決を呼びかけるプロキシ・ファイト(委任状争奪戦)を展開していました。

WBD取締役会は当初、PSKYの提案を「資金調達の確実性に欠ける」「規制上のリスクが高い」として拒絶し続けていました。しかし2026年2月に入り、アクティビスト投資家からの圧力とPSKYによる提案内容の大幅な改善により、状況は一変しました。ネットフリックスが権利放棄を認めた背景としては、自社の株価が買収発表以降に下落し、株式交換を含む買収対価の実質価値が目減りしていたことから、善管注意義務違反の訴訟リスクを回避する狙いがあったとの見方も出ています。

パラマウント・スカイダンスによる提示額引き上げの詳細と条件

PSKYの提示額引き上げの核心は、1株あたりの買収価格を30ドルから31ドルへ引き上げたことにあります。わずか1ドルの差に見えるかもしれませんが、WBDの発行済株式数を考慮すると、これは数億ドル規模の企業価値評価の上乗せを意味します。ネットフリックス案の評価額が市場変動により1株あたり27.75ドル前後に低迷している中で、31ドルという確定した現金の提示は、リスク回避志向の強い機関投資家にとって極めて魅力的な選択肢となっています。

PSKYの提案が注目される理由は、単なる価格引き上げにとどまらない点にあります。PSKYは交渉再開にあたり、ティッキング・フィー解約手数料の全額負担負債調達コストの補填という三つの重要な条件を追加しました。これらの条件は、WBD株主が抱える規制リスクや財務リスクを金銭的に補償する仕組みとなっており、PSKYの買収提案の実質的な価値をさらに押し上げています。

PSKYは全株式を100%現金で買い取る方針を掲げており、総額は約1084億ドル相当に達します。これは、株式交換やスピンオフ株式を含むネットフリックスの提案(総額約827億ドル相当)と比較して、株主にとって確実性の高い選択肢です。

ティッキング・フィーと解約手数料負担の全容

PSKYの提案で最も革新的な条項の一つが「ティッキング・フィー」です。ティッキング・フィーとは、買収完了が遅れた場合に、待たされる期間に応じて株主に追加の現金を支払う仕組みのことです。具体的には、取引完了が2026年12月31日を超えた場合、その後四半期ごとに1株あたり0.25ドルが買収価格に上乗せされます。年間換算で約6億5000万ドルの追加支払いとなるこの条項は、規制当局による審査が長期化するリスクに対する「保険」として機能します。メディア企業の大型合併は反トラスト法の審査で1年以上かかることが珍しくないため、審査が長引くほど株主受取額が増えるこの仕組みは、規制リスクに対する株主の不安を金銭的に補償するものです。

もう一つの重要な条件が、ネットフリックスへの解約手数料28億ドル(約4200億円)の全額負担です。WBDがネットフリックスとの既存契約を破棄した場合、WBDはネットフリックスに対して28億ドルの解約手数料を支払う義務があります。この巨額の違約金は競合案への乗り換えを阻む最大の障壁でしたが、PSKYがWBDに代わって全額負担することを確約したことで、WBD株主は違約金を気にすることなくより高値のオファーを検討できるようになりました。敵対的買収においてはこれは「強手」とされる戦略であり、PSKYの本気度を示すものです。

さらにPSKYは、取引に伴う負債のリファイナンス(借り換え)に関連するコストとして、最大15億ドルを負担することにも合意しています。WBDは既に巨額の負債を抱えており、金利上昇局面における借り換えコストは経営上の大きな懸念材料でした。PSKYがこのコストを引き受けることで、統合後の財務健全性に対する懸念の緩和を図っています。

ネットフリックス案とパラマウント案の財務構造を比較

WBDの買収をめぐる二つの提案は、単なる価格の違いではなく、全く異なる財務構造と事業戦略に基づいています。両案の主要な条件を以下の表で比較します。

比較項目ネットフリックス案パラマウント・スカイダンス案
総額約827億ドル約1084億ドル
1株あたり評価額約27.75ドル(変動あり)31ドル(確定)
対価の種類現金+株式+スピンオフ株全額現金
リニアTV事業スピンオフ(分離独立)統合
解約手数料負担該当なし28億ドル全額負担
ティッキング・フィーなしあり(四半期0.25ドル/株)
負債調達コスト補填なし最大15億ドル

ネットフリックス案の最大のリスク要因は、スピンオフされる「ディスカバリー・グローバル」の評価額です。WBD側はCNNやTNT、ディスカバリーチャンネルなどを含むこの残存事業の価値を1株あたり1.33ドルから6.86ドルと見積もっています。しかしPSKYや一部のアナリストは、コードカッティング(ケーブルテレビ解約)の加速によりリニアTV市場が急速に縮小していること、そしてスピンオフに伴いWBDの既存負債の多く(約170億ドル相当)がこの新会社に割り当てられる計画であることを指摘しています。

PSKYの試算では、類似企業であるVersant Mediaの市場評価を適用した場合、過大な負債を背負った「ディスカバリー・グローバル」の株式価値は実質的にゼロ、あるいはマイナスになる可能性があるとされています。もしスピンオフ会社の価値がゼロであれば、ネットフリックス案の総額は1株あたり21ドル台から23ドル台にまで低下するリスクがあり、PSKYの31ドルとの差はさらに拡大することになります。

ラリー・エリソンの404億ドル個人保証がワーナー買収に持つ意味

PSKYの提案が抱える最大の課題であったレバレッジド・バイアウト(LBO)リスクを払拭したのが、オラクル創業者ラリー・エリソンによる404億ドル(約6兆円)の個人保証です。レバレッジド・バイアウトとは、買収資金の多くを負債で調達する手法のことで、PSKYはWBDよりも時価総額が小さいため、買収資金の大半を負債に依存する必要がありました。しかしラリー・エリソンがこの巨額のエクイティ・ファイナンス(株式出資)を個人資産で保証したことで、状況は大きく変わりました。

WBD取締役会は当初、合併後の企業が過剰な負債(約500億ドルの新規負債を含む)を抱えることで経営破綻のリスクが高まると警鐘を鳴らしていました。しかし400億ドルの自己資本投入は負債比率を劇的に引き下げ、合併後の財務健全性を担保する強力な材料となっています。この個人保証はWBD株主に対して、世界有数の富豪が後ろ盾についているという絶大な安心感を与えています。

PSKYのデビッド・エリソンCEOが描く買収後のビジョンは、「テック・メディア・ハイブリッド」企業の創出です。パラマウントが保有する『トップガン』『ミッション:インポッシブル』『スター・トレック』と、WBDが持つ『ハリー・ポッター』『ロード・オブ・ザ・リング』、DCユニバース(バットマン、スーパーマン)、そして『フレンズ』や『ビッグバン・セオリー』といったヒット作が一つの傘下に収まることで、ハリウッド史上かつてない規模のIPライブラリが誕生します。さらに、オラクルのクラウドインフラを活用したプラットフォームの技術刷新や、AIを活用した高度なレコメンデーションエンジンの導入、生成AIによるリップシンク技術を用いた字幕・吹き替え生成の自動化、そして制作現場における「バーチャル・プロダクション」の導入によるコスト削減も計画されています。

スポーツ放映権の観点でも、この買収は大きなシナジーを生みます。CBS(パラマウント傘下)が持つNFLや大学バスケットボールの放映権と、TNT(WBD傘下)が持つNBAやNHLの放映権が統合されることで、ストリーミングサービスの加入者維持に不可欠なライブスポーツコンテンツの支配力が大幅に強化されます。

トランプ政権下の政治的要因とCNN問題がワーナー買収に及ぼす影響

WBD買収の行方を左右する最も不透明な変数は政治です。第2次トランプ政権下における規制当局の動向と、エリソン家とトランプ大統領の密接な関係が、この買収劇に大きな影響を及ぼしています。

ネットフリックスによるWBDの部分買収は、ストリーミング市場における独占を強化するとして、トランプ政権下のポピュリスト的な反独占論者からも厳しい目を向けられています。PSKYや関係者は、ネットフリックスがHBO Maxを獲得すればサブスクリプション配信市場で実質的な独占に近づくと主張しています。これに対してネットフリックス側は、仮にHBO Maxを保有しても米国のテレビ視聴シェアは10%にとどまり、YouTubeを下回ると反論しています。この市場シェアをめぐる認識の違いが、規制当局の判断にどう影響するかが今後の焦点の一つです。民主党議員らはネットフリックスへの集中が消費者の選択肢を奪うと警告しており、司法省も既に調査に乗り出しているとの報道があります。

一方で、PSKYのバックにいるラリー・エリソンはトランプ大統領の有力な支持者として知られています。ラリー・エリソンはネットフリックスとWBDの合併発表直後にトランプ大統領に直接電話をかけ、この取引が競争を阻害すると訴えたとされています。トランプ大統領自身もCNNを「敵」と見なしており、デビッド・エリソンがWBD買収後にCNNに対して「抜本的な改革」を行うことを政権関係者に示唆したと報じられています。

PSKYによる買収が実現した場合、パラマウント傘下のCBSニュースとWBD傘下のCNNという米国を代表する二つのニュースネットワークがエリソン家の管理下に置かれることになります。民主党のジェイミー・ラスキン議員らはこれを「報道の多様性に対する脅威」として批判しています。エリソン家が過去にパラマウントを買収した際、ニュース部門に「オンブズマン」を設置して報道内容の「バランス」を監視させた事例があり、同様の介入がCNNに対しても行われるのではないかという懸念が広がっています。ネットフリックス案ではCNNはスピンオフされ独立企業として存続するため、報道の自由という観点からはネットフリックス案を支持する声も根強い状況です。

株主からの圧力と善管注意義務をめぐる法的論点

WBD取締役会を交渉のテーブルに着かせたもう一つの重要な要因が、アクティビスト投資家からの強い圧力です。アンコラ・ホールディングスやペントウォーター・キャピタルといったアクティビスト投資家は、WBD取締役会がネットフリックス案に固執することに対し、公然と異議を唱えてきました。彼らの主張の核心は、「不確実な株式やスピンオフ株が含まれる27ドル相当の提案を選び、確実な現金31ドルの提案を拒否する合理的な理由はない」というものです。

ペントウォーターのマシュー・ハルバウアーCEOは、WBD取締役会がPSKYとの交渉を拒否し続けることは、株主価値を最大化すべき取締役の善管注意義務(Fiduciary Duty)に違反すると主張しました。さらに次回の株主総会での取締役解任や、独自の取締役候補の擁立(プロキシ・ファイト)を示唆して圧力をかけました。

デラウェア州の会社法において、企業売却時の取締役会は「レブロン基準」と呼ばれる厳格な義務を負う場合があります。レブロン基準とは、会社を売却することが決まった段階では、取締役の唯一の義務は「株主のために最高額を引き出すこと」になるという法理です。もしWBD取締役会がより高額な現金オファーであるPSKY案を十分な検討なしに却下し、ネットフリックス案を強行した場合、株主代表訴訟で敗訴して巨額の賠償責任を負うリスクがありました。今回の「7日間の交渉解禁」には、こうした法的リスクを回避し、あらゆる選択肢を真摯に検討したという実績を作るための手続き的な側面も指摘されています。

2月23日の期限に向けた今後の展望とメディア産業への影響

WBDとPSKYは2026年2月23日を期限とした集中協議を現在進めています。PSKYは既に提示額の引き上げ(31ドル)、解約手数料の負担、ティッキング・フィーの導入といった主要なカードを切っており、今後の焦点は統合後の経営体制、従業員の雇用維持、そして規制当局への対応策の具体化に移ると見られます。なお、WBDはネットフリックスとの取引を承認するための株主総会を2026年3月20日に予定しており、それまでにPSKY案とネットフリックス案の最終的な比較判断が行われる見通しです。

注目すべきは、両陣営がさらなる条件引き上げの余地を示唆している点です。PSKYのデビッド・エリソンCEOは現行案が最終案ではないと述べており、ネットフリックスの経営陣も株主に対して条件改善の用意があると伝えています。2月23日の交渉期限を経た後も、3月20日の株主総会に向けて両社の提示条件がさらに上積みされる展開も十分に考えられます。

ネットフリックスは「マッチング権」を保有しており、PSKYの提案と同等以上の条件を提示すれば優先的に買収する権利があります。マッチング権とは、競合する買収提案が出された際に、既存の買収者が同等の条件で対抗する機会を与えられる契約上の権利のことです。しかしネットフリックスが全額現金化やリニアTV事業の引き取りといった条件でPSKYに対抗することは、ストリーミング特化という自社のビジネスモデルと矛盾するため、容易ではありません。ネットフリックスが対抗提案を行わず撤退した場合、28億ドルの解約手数料を受け取ることになりますが、長期的には強力なライバルの誕生を許すことになります。

PSKYによるWBD買収が成立すれば、メディア産業は「テック・ジャイアント(Amazon、Apple、Google)」「ネットフリックス」「ニュー・パラマウント(およびディズニー)」という三極構造に集約されると見られています。コンテンツ制作から配信までを垂直統合した巨大コングロマリット同士の戦いとなり、中規模のスタジオや独立系メディアにとってはより厳しい環境が予想されます。クリエイターや制作現場にとっても、統合によるコスト削減やAI導入による業務フローの変化が避けられず、脚本家組合(WGA)や俳優組合(SAG-AFTRA)は巨大合併が労働条件に与える影響について警戒を強めています。

2026年2月、ワーナー・ブラザースの象徴である「給水塔」の影で繰り広げられるこの買収劇は、単なる企業の売買を超え、私たちが将来どのような物語をどのような形で見ることになるのかを決定づける歴史的な分岐点となっています。

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