「みんなで大家さん」に対する114億円の返金請求訴訟は、2025年11月に全国の出資者1191人が大阪地方裁判所に提起した集団訴訟です。この事件の原因は、成田空港周辺開発プロジェクト「ゲートウェイ成田」の事業破綻と、年利7%という高利回りを維持するための自転車操業的な資金構造にあります。経緯としては、2024年6月の行政処分による新規募集停止をきっかけに資金繰りが悪化し、2025年7月以降に配当停止と解約拒否が発生したことで、投資家たちが法的手段に訴えることとなりました。
本記事では、「みんなで大家さん」がなぜこのような事態に陥ったのか、その原因と経緯を詳しく解説していきます。2000億円規模の資金を集めた不動産小口化商品がどのようにして崩壊に至ったのか、投資家保護の観点から知っておくべき重要な情報をお伝えします。

みんなで大家さんとは何か
「みんなで大家さん」は、不動産特定共同事業法に基づいて運営されていた不動産小口化商品です。この商品は、都市綜研インベストファンド株式会社が運営し、みんなで大家さん販売株式会社が販売を担当していました。投資家から集めた資金で不動産を取得・運用し、そこから得られる賃料収入を配当として分配するという仕組みでした。
この商品の最大の特徴は、「匿名組合契約」という形式を採用していた点です。匿名組合契約とは、出資者が営業者に対して出資を行い、営業者がその資金を用いて事業を行い、利益を分配する契約形態です。この仕組みでは、出資者は不動産の所有権そのものを取得するわけではなく、あくまで資金を提供するだけという立場になります。不動産登記などの煩雑な手続きが不要であり、投資家にとっては手軽に参加できる一方で、営業者が倒産した場合の保全性が脆弱であるというリスクを内包していました。
114億円返金請求訴訟の概要と原因
訴訟提起の経緯
2025年11月、全国の出資者1191人が原告となり、都市綜研インベストファンド株式会社とその親会社などを相手取り、大阪地方裁判所に約114億円の返還を求める集団訴訟を提起しました。この訴訟は第一次提訴であり、今後さらに原告数と請求額が増加することが見込まれています。
請求額114億円の内訳は、主に出資元本の返還と未払いの配当金で構成されています。原告側は、債務不履行、不法行為(詐欺)、適合性原則違反、そして親会社の責任を主張しています。債務不履行については、契約に基づき支払われるべき配当金が支払われておらず、また解約に伴う元本返還も行われていないことを根拠としています。不法行為については、当初から実現不可能な事業計画に基づき、虚偽の説明を行って資金を集めた行為が民法上の詐欺に該当すると主張しています。
返金請求に至った直接的な原因
返金請求訴訟に至った直接的な原因は、2025年7月以降に発生した配当金の支払い遅延・停止と、解約申し入れに対する返金拒否です。これまで「順調」と報告されていた事業が一転して支払い不能に陥ったことで、多くの投資家がパニック状態となり、個別の交渉ではらちが明かないと判断した結果、集団での法的闘争に踏み切ることとなりました。
事業破綻の根本原因
年利7%という高利回りの維持困難
「みんなで大家さん」が多くの資金を集められた最大の要因は、日本国内の長期にわたる超低金利環境にあります。メガバンクの定期預金金利が0.002%から0.02%程度で推移する中、「年利7%」という数字は文字通り桁違いの魅力を持っていました。100万円を預けても年に数百円にしかならない銀行預金に対し、「みんなで大家さん」であれば年に7万円(税引前)が手に入るという触れ込みでした。
しかし、投資の世界においてリスクとリターンはトレードオフの関係にあり、高利回りで元本割れリスクがない商品は理論上存在しません。運営側は「優先劣後システム」という仕組みを強調することで、この矛盾を解消したかのように見せていました。優先劣後システムとは、対象不動産の価値が下落した場合でも、まず営業者の出資分(劣後出資)から損失を負担し、投資家の出資分(優先出資)は守られるという説明でした。しかし、問題はその「対象不動産の評価額」自体が適正かどうかにありました。
ゲートウェイ成田プロジェクトの虚構
2000億円もの資金を集めるためには、それに見合うだけの巨大な投資対象が必要でした。そこで打ち出されたのが、成田空港周辺開発プロジェクト「ゲートウェイ成田」です。成田国際空港の北側に位置する広大な土地に、東京ドーム10個分以上に相当する複合施設を建設するという国家プロジェクト級の構想でした。計画では、日本の特産品を扱う巨大市場、国際展示場、高級ホテル、データセンター、物流倉庫などが立ち並び、世界中から観光客やビジネスマンが訪れる「日本の玄関口」となるとされていました。
このビジョンのもと、シリーズ化されたファンドが次々と組成され、「成田シリーズ」だけで1500億円以上が集められました。投資家たちは、自分たちの資金が日本の未来を拓く巨大インフラに使われ、そこから生み出される莫大なテナント料や事業収益が配当として還元されると信じ込まされました。
しかし、現実の土地の姿はパンフレットに描かれた未来予想図とはかけ離れたものでした。2025年時点になっても、現地の大部分は雑草が生い茂る更地か、あるいは単なる山林・原野のままでした。一部で造成工事が行われているように見せかけていましたが、本格的な建設工事が進んでいる形跡は皆無でした。
土地評価額の問題
さらに深刻な問題は、その土地の「評価額」にありました。不動産鑑定評価において、開発許可が下りていない、あるいはインフラが未整備の土地は、本来であれば二束三文の価値しか持ちません。しかし、運営会社側は「開発完了後の収益還元法」などを根拠に、将来生み出されるであろう架空の収益を現在の価値に織り込み、不当に高い評価額を算出していた疑いが濃厚です。この過大な評価額こそが、貸借対照表上の債務超過を隠蔽し、「健全な経営」を装うためのマジックでした。
崩壊への経緯
2024年6月の行政処分
事業の継続性に決定的な疑問符がついたのは、2024年6月のことでした。大阪府と東京都は、運営会社である都市綜研インベストファンド株式会社と、販売代理店であるみんなで大家さん販売株式会社に対し、業務停止命令を出しました。これは、不動産特定共同事業法に基づく監督権限の発動でした。
処分の理由の核心は「事業計画の実現可能性の欠如」と「会計処理の不当性」にありました。行政側は、同社が提出した事業報告書の内容と、実際の開発状況や資金の動きに著しい乖離があることを見抜いていました。特に、開発許可が得られていない段階での過大な資産計上や、外部からの借入金に依存した自転車操業的な体質が問題視されました。
会社側はこれを不服として大阪地裁に処分の取り消しを求める訴訟を起こし、一時は執行停止の決定を勝ち取りましたが、その後大阪高裁でその決定が覆され、新規の出資募集が完全に停止されました。
自転車操業とポンジ・スキームの疑義
「ポンジ・スキーム」とは、運用益が出ているように装いながら、実際には後から参加した出資者の元本を、先に始めた出資者への配当金に回すという詐欺手法です。この仕組みは、新規加入者が指数関数的に増え続けない限り、いずれ必ず破綻します。
「みんなで大家さん」の資金フローを分析すると、この特徴に酷似した構造が見えてきます。ある期の決算データによると、出資者への「分配金の支払い」が約100億円に達しているのに対し、事業から得られる本来の収益はそれに見合う規模ではありませんでした。さらに、償還金(過去の出資の返金)に約12億円、銀行返済や運転資金にも多額の資金が流出しており、これらを賄うための収入源は、新たな出資者からの「預り金」と銀行借入以外に見当たらない状況でした。
つまり、成田の原野から生み出される利益ではなく、新しく入った投資家のお金が、既存の投資家の「年利7%」を支えていた構造だったのです。これが、一部のメディアや専門家から「ポンジ・スキームである」と指摘される最大の理由です。
成田国際空港株式会社との契約解除
「ゲートウェイ成田」の計画地の約45%(264筆)は、成田国際空港株式会社(NAA)が所有する土地でした。NAAは国が100%出資する特殊会社であり、成田空港の運営主体です。共生バンクグループは、NAAからこの土地を借り受ける契約を結んでおり、これが投資家に対する「国のお墨付き」のような安心材料となっていました。
しかし、2025年11月、この命綱が断ち切られました。NAAの藤井直樹社長は定例記者会見で、共生バンク側との土地賃貸借契約を2025年11月末で終了することを正式に表明しました。その理由は「事業者に残りの造成工事を遂行できる能力があると確認できなかった」ためです。NAA側は長年にわたり事業の進捗を見守ってきましたが、一向に進まない工事と、資金繰りの悪化を示す報道を受け、これ以上の契約継続は不可能と判断しました。
敷地の半分近くを占めるNAAの土地が使えなくなれば、一体開発を前提とした「ゲートウェイ成田」構想は物理的に成立しません。投資対象としての事業価値は、この瞬間に事実上ゼロになったと言っても過言ではありません。
配当停止と解約拒否の発生
2024年の業務停止命令以降、資金繰りは急速に悪化しました。そして2025年7月以降、ついに配当金の支払いが遅延、あるいは停止されました。さらに、不安を感じた投資家が契約解除(解約)を申し入れても、会社側は「資金がない」などの理由で返金に応じなくなりました。
投資家層とマーケティング手法の問題
ターゲットとされた高齢者層
「みんなで大家さん」のマーケティングは、極めて洗練され、かつ特定の層に集中していました。主なターゲットは、退職金を持つ団塊の世代や、遺産相続を受けた高齢者でした。彼らはインターネット上の複雑な情報収集よりも、テレビCMや新聞広告、あるいは「電話での親切な対応」を信頼する傾向にあります。
同社はテレビCMを大量に投下し、知名度のある演歌歌手やタレントを起用し、さらには「共生バンク」というグループ名を冠することで、伝統的な信頼感を演出しました。また、ギフトカードのプレゼントキャンペーンを頻繁に行い、投資というよりも「お得な定期預金」のような感覚で資金を誘導しました。
これにより、本来であればリスク許容度の低い保守的な層が、リスクの高い不動産開発事業に虎の子の資産を投じるというミスマッチが生じました。郊外の自宅を売却し、その資金で駅近のマンションを購入する代わりに「みんなで大家さん」に全額投資してしまった高齢夫婦の事例なども報告されており、生活防衛資金が根こそぎ奪われる構造が出来上がっていたのです。
「過去一度も元本割れがない」という実績の魔力
運営側は「過去一度も元本割れがない」という実績を強力なマーケティングツールとして利用しました。この言葉は、特に老後の資金に不安を持つ高齢者層を強力に惹きつけました。しかし、ポンジ・スキーム的な構造を持つ事業においては、新規資金が流入し続ける限り「元本割れ」は表面上発生しないため、この実績自体が事業の健全性を証明するものではありませんでした。
行政の対応と責任論
成田市長の「投資家の勉強不足」発言
成田市は、都市計画法に基づく開発行為の許可を出しており、これが事業の正当性を裏付けるもう一つの柱となっていました。しかし、事業の破綻が濃厚となる中で、成田市の小泉市長が行った発言が大きな物議を醸しました。
2025年11月26日の会見で、市長は「市はあくまで法に基づいて許認可を出しただけであり、事業の内容や将来性を保証したわけではない」と行政の無答責を強調しました。その上で、市が事業にお墨付きを与えたと誤認した投資家がいるとの指摘に対し、「それは投資家の勉強不足だと思いますよ、はっきり言って」と発言しました。この言葉は、老後の資金を失いかねない被害者の感情を逆なでするだけでなく、複雑な許認可行政の仕組みを一般市民が完全に見抜くことの難しさを看過した冷淡な態度として、激しい批判を浴びることとなりました。
投資家保護の限界
今回の事件は、行政の許可を受けた商品であっても、必ずしも安全ではないという冷徹な事実を突きつけました。不動産特定共同事業法はあくまで事業の枠組みを規制するものであり、個々のプロジェクトの成功を国が保証するものではありません。しかし、「許可事業者」という言葉が持つ権威性は、消費者の警戒心を解くのに十分すぎました。
また、メディアリテラシー、金融リテラシーの課題も浮き彫りになりました。テレビでCMが流れているから、有名人が宣伝しているから、自治体が許可を出しているから、という理由で投資判断を行うことの危うさです。特に認知機能が低下しつつある高齢者が、複雑な金融商品のリスクを正確に理解することは極めて困難であり、家族や周囲のサポート、あるいは制度的な販売制限の必要性が改めて問われています。
二次相続と「負の遺産」問題
本件特有の深刻な問題として、「二次相続」のリスクが挙げられます。被害者の多くが高齢者であるため、本人が存命中に問題が解決しないまま亡くなるケースが増加しています。その場合、事情を知らない子供世代が遺産を相続することになりますが、その中身は「価値のない出資証券」と「回収不能な債権」です。
相続税は、原則として相続時の時価で計算されますが、このようなトラブル案件の評価は難しく、場合によっては過大な相続税が課されるリスクや、遺産分割協議が紛糾する原因となります。また、親が「みんなで大家さん」への投資を隠していた場合、子供が気づいたときには既に解約期間を過ぎていたり、会社が破綻していたりするという悲劇も起きています。
訴訟における法的論点
今回の訴訟では、複数の法的論点が争われることになります。まず適合性原則違反については、リスク許容度の低い高齢者に対し、ハイリスクな商品を安全確実であるかのように誤認させて販売した行為が、金融商品取引法等の精神に照らし違法であるとの主張がなされています。適合性原則とは、投資家の知識、経験、財産の状況、投資目的に照らして不適当な勧誘を行ってはならないという原則であり、高齢者への積極的な販売活動がこの原則に抵触する可能性が指摘されています。
また、親会社の責任も重要な論点です。運営会社の都市綜研インベストファンド株式会社だけでなく、実質的な支配権を持つ親会社である共生バンクグループやその代表者の責任も追求される見込みです。法人格否認の法理の適用も視野に入れられており、形式的には別法人であっても、実質的に一体として事業を行っていた場合には、親会社も責任を負う可能性があります。
会社側の対応と今後の見通し
提訴に対し、共生バンク側は「訴状が届きましたら誠実に訴訟を行ってまいる所存です」とのコメントを発表しました。しかし、法廷で争う姿勢を見せたとしても、実際に返済原資があるかどうかは別の問題です。NAAとの契約解除により主要資産の価値が消滅している現状を鑑みると、会社側が全面勝訴する可能性は低く、また敗訴したとしても支払い能力がない「勝訴判決の紙切れ化」が懸念されます。
今後、会社側が破産や民事再生法の手続きに移行する可能性は極めて高いでしょう。その際、残された資産がどれだけあり、投資家にどれだけ還元されるかは不透明ですが、過去の類似事件(安愚楽牧場事件やジャパンライフ事件など)を参考にすれば、回収率は数パーセントから良くても10パーセント程度にとどまるという厳しい予測もなされています。
この事件から学ぶべき教訓
「みんなで大家さん」を巡る114億円の返金請求訴訟は、2000億円という巨額のマネーが消失する過程の一場面に過ぎません。その背後には、3万8000人の投資家の人生と、日本の地方開発の歪み、そして金融規制の限界が横たわっています。
原因は複合的です。実現性のない「ゲートウェイ成田」という蜃気楼を描き続けた事業者のモラルハザード、それをチェックしきれなかった行政の監督不全、そして「高利回り・元本保証」というあり得ない果実を求めた投資家の心理。これらすべてが絡み合い、巨大なバブルが形成され、そして今、弾けようとしています。
この事件を単なる他人の不幸として片付けるのではなく、現代社会に潜む資産運用の陥穽として深く記憶に刻む必要があります。公的年金の不安やインフレへの恐怖が、人々を安易な高利回り商品へと駆り立てる構造がある限り、第二、第三の「みんなで大家さん」が現れる可能性は消えないからです。

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