2025年の国内新車販売台数は456万5777台となり、前年比3.3%増で2年ぶりに前年実績を上回りました。ダイハツ工業は認証不正問題からの反動増により前年比46.2%増という驚異的なV字回復を達成した一方、日産自動車は前年比15.2%減の40万3105台にとどまり深刻な苦戦を強いられました。この記事では、2025年の自動車市場を振り返り、ダイハツとスズキが軽自動車市場で存在感を示す中、なぜ日産だけが取り残されたのか、その構造的要因と2026年以降の展望について詳しく解説します。日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会が発表したデータによれば、登録車と軽自動車を合わせた市場全体が回復基調を示したものの、メーカー間の明暗は過去にないほど鮮明になっています。

2025年国内新車販売台数456万台の内訳と市場動向
2025年の国内新車販売市場は、統計上では明確な回復を示しました。しかし、この456万5777台という数字を詳しく分析すると、単純な「市場回復」とは言い切れない複雑な構造が見えてきます。
登録車(普通車・小型車)の販売台数は289万8417台で前年比1.2%の微増にとどまりました。これに対して軽自動車は166万7360台を記録し、前年比7.0%増という高い伸びを示しています。軽自動車主導の回復となった背景には、物価高騰が続く中で維持費の安い軽自動車を選択する消費者が増えていることがあります。実質賃金の伸びがインフレに追いつかない経済環境において、車両価格そのものの上昇も顕著になっています。このような状況下で消費者は、税金や保険料、燃費といったランニングコストが安く、リセールバリューも高い軽自動車を生活防衛のための合理的な移動手段として選択する傾向を強めています。軽自動車が新車販売全体の約4割を占める「軽のインフラ化」は2025年においてさらに強固なものとなりました。
3.3%増という全体の伸び率は、ダイハツ工業の出荷停止からの回復による「反動増」が大きく影響しています。2024年に発覚した認証不正問題で大規模な出荷停止に追い込まれたダイハツが生産を再開したことで、技術的に押し上げられた側面があることを理解しておく必要があります。
メーカー別販売実績から見る勝者と敗者
2025年のメーカー別販売実績では、明暗がこれまでにないほどはっきりと分かれました。
トヨタ自動車は前年比4.1%増の150万1050台を販売し、市場における圧倒的なリーダーシップを維持しました。レクサスを含む販売台数は、2位以下を大きく引き離しています。認証不正問題の影響を早期に払拭し、ハイブリッド車を中心とした強力なラインアップで需要を取り込んでいます。「ヤリス」「カローラ」「シエンタ」といった主力車種が登録車ランキングの上位を独占する状況が続きました。
ダイハツ工業は前年比46.2%増の53万5919台という記録的な伸び率を達成しました。前年の出荷停止期間の反動を含んでいるとはいえ、同社の販売力と商品力が損なわれていないことが証明されています。
スズキは前年比1.0%増の72万8952台を販売しました。「スペーシア」や「ハスラー」といった高付加価値モデルが好調を維持し、軽自動車市場でダイハツの猛追を受けながらも安定した収益基盤を確保しています。
日産自動車は前年比15.2%減の40万3105台という厳しい結果となりました。軽自動車市場でも前年比12.5%減、登録車市場でも大幅なマイナスとなり、国内市場における存在感が急速に薄れています。
ホンダも前年比7.3%減の61万9437台と苦戦を強いられました。主力のN-BOXが販売を落としたことが響いています。
ダイハツ工業のV字回復を支えた3つの要因
ダイハツが2025年に達成した46.2%増というV字回復には、複数の要因が重なっています。
販売店と顧客の関係維持
出荷停止期間中においても、ダイハツの販売店と顧客との信頼関係は維持されました。地方部においてダイハツの軽自動車は生活必需品となっており、顧客の多くは他メーカーへの乗り換えではなく「ダイハツ車の供給再開を待つ」ことを選択しました。これが生産再開後のペントアップ需要の顕在化につながっています。「タント」が前年同月比4.8倍、「ムーヴ」が29.7倍という異常値を記録した月があったことからも、待ちわびていた顧客の需要が一気に顕在化したことがわかります。
新型「ムーヴ」の大ヒット
ダイハツの回復を決定づけたのは、2025年6月に投入された新型「ムーヴ」の成功です。7代目となるこのモデルは、歴代で初めて後席スライドドアを採用しました。
従来、軽ハイトワゴン(全高1600mm〜1700mmクラス)はヒンジドアが主流であり、スライドドアはスーパーハイトワゴン(タントやN-BOXなど全高1700mm超)の特徴とされてきました。しかしダイハツは、ハイトワゴン市場のユーザーもスライドドアの利便性を求めていることを見抜きました。新型ムーヴは、タントほどの高さを必要としないものの狭い駐車場での乗降性を求める層、特に高齢者やダウンサイジングユーザーのニーズに応えています。発表後1ヶ月で月販目標6,000台の5倍となる約30,000台を受注するロケットスタートを切りました。
DNGA プラットフォームによる商品力向上
ダイハツの新しい設計思想「DNGA(Daihatsu New Global Architecture)」の採用により、走行性能、静粛性、安全性能が大幅に向上しています。ターボモデルにおける「パワーと快適性のバランス」は軽自動車の枠を超えるものと評価されており、登録車からの乗り換え需要を促進しました。電動パーキングブレーキや全車速追従機能付アダプティブクルーズコントロールなどの先進装備も、登録車に見劣りしないレベルに達しています。
2025年11月の販売ランキングでは、ダイハツ「ムーヴ」は10,951台を販売し全体5位にランクインしました。前年同月比140.2%という数字は新車効果が持続していることを示しています。「タント」も9,520台で全体8位と堅調を維持しています。さらにSUVテイストの「タフト」やコンパクトSUVの「ロッキー」も、それぞれのセグメントで底堅い需要を維持しています。ダイハツは不正問題という最大の危機を、新型車の投入タイミングと商品力そのもので乗り越え、市場シェアを取り戻すことに成功しました。
日産自動車が苦戦する構造的な3つの理由
日産自動車の2025年における苦境は、単なる不調ではなく構造的な問題を抱えています。
国内市場への新型車投入の空白
日産苦戦の最大の要因は、国内市場への新型車投入が極端に滞っていることです。グローバル市場向けには「新型キックス」「新型ムラーノ」「新型アルマーダ」「インフィニティQX80」といった新型車を投入しているものの、日本国内では量販モデルのフルモデルチェンジが空白化しています。ショールームに並ぶのはモデルライフ後半に入った車種ばかりという状況が続きました。
2025年8月には主力コンパクトカー「ノート」「ノートオーラ」の一部仕様向上を実施しましたが、消費者が求める「目新しさ」を提供するには至らず、販売の起爆剤とはなりませんでした。トヨタが「ヤリス」「アクア」「プリウス」と新型車を投入し、ダイハツが「ムーヴ」を刷新する中で、日産のラインアップは見劣りすることが否めません。
e-POWERの競争優位性低下
日産独自の電動パワートレイン「e-POWER」は、かつて革新的な技術として評価されましたが、2025年時点ではその競争優位性が相対的に低下しています。
e-POWERはシリーズハイブリッド方式でエンジンの発電でモーターを駆動する仕組みですが、高速巡航時の燃費効率やシステムコストの面では、トヨタのTHS II(シリーズ・パラレル方式)に対して不利な状況にあります。物価高で消費者がコストパフォーマンスを厳しく見極める中で、日産車は「割高」と判断されるケースが増えています。
世界的にEVシフトが減速しハイブリッド車への回帰が進む中で、日産の商品ポートフォリオはEVに偏重しすぎていたことも響いています。内田社長自身が「主力製品でハイブリッド車がなく、インセンティブの負担が増えた」と認めています。
EV戦略の停滞と「サクラ」の需要一巡
日産が先行していたはずのEV市場でも成長が鈍化しています。軽EV「サクラ」は発売当初こそ市場を席巻しましたが、2025年には需要が一巡し販売台数は減少傾向に転じました。
日本の充電インフラ整備の遅れや電気料金の高騰により、EVの普及は想定以上に時間がかかっています。EVシェアは依然として2.9%程度にとどまっており、EV販売が伸び悩む中でガソリン車やハイブリッド車の販売も振るわないという厳しい状況に陥っています。
財務面での深刻な影響
販売不振は日産の財務基盤を直撃しました。2024年度決算において日産は6700億円規模の当期純損失を計上する見通しとなっています。1986年以降で過去3番目の規模となる巨額赤字です。
この危機に対応するため、日産は経営再建計画「Re:Nissan」を発表しました。世界で生産能力を20%削減し、17ある工場のうち7工場を閉鎖、全世界で2万人の人員削減を行う内容となっています。開発期間の大幅短縮や、ルノー・三菱自動車・ホンダとのパートナーシップ強化によるコスト削減も掲げていますが、これらの施策が実を結ぶには時間を要します。経営危機のニュース自体がブランドイメージを毀損し、消費者の買い控えを招く負のスパイラルに陥っていることも、苦戦を深刻化させています。
軽自動車市場の勢力図変化とN-BOXの失速
2025年の軽自動車市場では、長年首位を維持してきたホンダN-BOXに異変が生じました。
N-BOXが直面する課題
年間ランキングでは辛うじて首位を維持したものの、10月には販売台数が前年同月比24.0%減という大幅な落ち込みを記録し、月間ランキングで4位に転落する場面がありました。
2023年秋にフルモデルチェンジした3代目N-BOXは「シンプル&モダン」なデザインをコンセプトとしましたが、これが市場の一部からは「質素すぎる」「高級感がなくなった」と受け取られた可能性があります。競合するスズキ「スペーシアカスタム」や三菱「デリカミニ」が押し出しの強いフロントフェイスやSUVテイストを取り入れたデザインで訴求力を強める中で、N-BOXのデザイン戦略は裏目に出た側面があります。
原材料費高騰に伴う車両価格の値上げが行われる一方で、収納スペースの削減などコストダウンを感じさせる変更点もユーザーの不評を買いました。軽自動車に200万円以上を支払うことが常態化する中で、ユーザーは価格に見合う「豪華さ」や「充実した装備」を求めており、N-BOXはその期待とのギャップに苦しんでいます。
スペーシアの躍進と市場の多極化
N-BOXの足踏みを尻目に躍進したのがスズキ「スペーシア」です。2025年の販売台数は前年比プラスで推移し、月によってはN-BOXを上回る実績を残しました。後席にオットマンとしても使える「マルチユースフラップ」を装備するなど後席の快適性を追求した点や、SUVテイストの「スペーシアギア」をラインアップに加えることで多様なニーズを取り込んでいます。
三菱「デリカミニ」も好調を維持しており、軽スーパーハイトワゴン市場はN-BOX一強時代から、スペーシア、タント、デリカミニが激しくシェアを奪い合う「群雄割拠」の時代へと移行しました。
トヨタの登録車市場支配とハイブリッド戦略
登録車市場ではトヨタの「一強」体制がさらに強固になっています。
主力車種による市場席巻
車種別ランキングでは「ヤリス」が登録車首位を独走し、2025年11月には14,556台を販売しました。「カローラ」が10,997台、「シエンタ」が9,703台、「ルーミー」が8,664台と続き、トップ10の過半数をトヨタ車が占める状況が常態化しています。
コンパクトトールワゴン「ルーミー」とコンパクトSUV「ライズ」の伸びは特に顕著です。2025年11月実績でライズは前年同月比188.2%、ルーミーは191.3%という数値を記録しました。これらの車種はダイハツが開発・生産を担当しており、前年の出荷停止からの反動増が含まれています。同時に、扱いやすい5ナンバーサイズのスライドドア車やSUVへの需要が極めて旺盛であることも証明されています。
ハイブリッド車への回帰
登録車市場を支えているのはハイブリッド車です。EVシフトが叫ばれる中でも、日本の消費者は「燃費が良く、充電の心配がなく、価格も手頃」なハイブリッド車を最も合理的な選択肢として選んでいます。トヨタは第5世代ハイブリッドシステムを搭載したプリウスやコンパクトなヤリスハイブリッドなど全方位的なラインアップを揃えており、日産やホンダとの競争でコスト競争力とブランド力の両面で圧倒しています。
2026年の国内自動車市場展望
2026年の国内新車市場は466万台程度で推移すると予測されています。ダイハツの回復特需が一巡するため急激な伸びは期待できませんが、新型車の投入効果により緩やかな安定成長軌道を描くと見込まれています。
トヨタの米国生産車逆輸入計画
2026年市場における注目点の一つが、トヨタによる米国生産車の日本導入計画です。米国で生産している「カムリ」「ハイランダー」「タンドラ」の3車種について、2026年から順次日本市場への導入を目指すと発表されています。
全長5.9メートルを超えるフルサイズピックアップトラック「タンドラ」の導入は、日本の道路事情を考えれば異例ですが、アウトドアブームや個性的なクルマを求める富裕層のニーズに応えるモデルとなる可能性があります。日本国内で一度販売終了となった「カムリ」は米国仕様のハイブリッド専用モデルとして復活し、セダン需要の受け皿となることが期待されます。3列シートSUV「ハイランダー」はハリアーやRAV4より大きなボディを持ち、ミニバンからの移行層をターゲットとしています。
この「逆輸入」戦略は、円安メリットを活かすだけでなく、日米貿易バランスへの配慮や国内ラインアップのマンネリ打破という多目的な意味合いを持っています。
日産復活への鍵となる新型エルグランド
崖っぷちの日産にとって2026年は正念場です。経営再建計画「Re:Nissan」に基づき固定費削減を進める一方で、商品力の強化が急務となっています。
希望の光となるのは新型「エルグランド」の投入です。長らくモデルチェンジがなかった高級ミニバン・エルグランドに第3世代e-POWERを搭載した次期型が登場するという情報があります。アルファード一強の市場にクサビを打ち込むことができれば、日産のブランドイメージ回復に大きく寄与するでしょう。商品企画畑出身の新CEOエスピノーサ氏の手腕により、市場ニーズに合致した商品を適正価格で投入できる体制への転換も期待されています。
EV市場は踊り場が継続
2026年もEV市場は「踊り場」が続くと予想されますが、水面下では技術革新が進んでいます。トヨタは2026年をEV普及の新たなマイルストーンとして設定し、次世代バッテリーや新プラットフォームを採用したEVの投入を計画しています。
しかし一般消費者にとっては2026年もハイブリッド車が主役であり続けるでしょう。日産がe-POWERのコストダウンを進め、トヨタと同等の価格競争力を持てるようになるかどうかが、ハイブリッド市場の勢力図を変える鍵となります。
2025年自動車市場が示した3つの教訓
2025年の新車販売データからは、日本の自動車市場における重要な示唆が読み取れます。
軽自動車の「生活インフラ化」の加速について、ダイハツのV字回復は地方部における軽自動車の絶対的な必要性を証明しました。新型ムーヴのスライドドア化は、実用性への強い要求に応えた結果です。物価高が続く中、維持費の安い軽自動車への需要は今後も堅調に推移すると考えられます。
新型車投入の重要性について、日産の苦戦とトヨタの独走は、消費者が「古いモデル」や「割高な技術」に対して厳しい判断を下していることを示しています。新型車投入の空白は致命的なシェア低下を招くことが改めて明らかになりました。
個々の商品力が問われる時代について、N-BOXの失速とスペーシアの躍進は、ブランドネームだけで売れる時代が終わり、装備やデザイン、コストパフォーマンスといった個別の商品力が厳しく問われる時代になったことを意味しています。
2026年の日本自動車市場は、トヨタの逆輸入車という新たな刺激と、日産・ホンダの反転攻勢、そして軽自動車のさらなる進化によって再び大きく動く可能性があります。消費者にとっては選択肢が増える一方で、将来の資産価値や維持費を見据えた賢明なクルマ選びが求められる一年となるでしょう。


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