串カツ田中ホールディングスは、2026年3月1日付で社名を「ユニシアホールディングス」に変更します。この社名変更の理由は、グループ再編とブランド価値向上にあり、背景には約95億円で完全子会社化したイタリアンレストラン「ピソラ」との統合や、「脱・串カツ田中」を掲げた多角化戦略があります。2026年1月23日に発表されたこの決定は、串カツ居酒屋という単一業態への依存から脱却し、食の総合企業へと進化するための大きな転換点となります。
本記事では、串カツ田中HDがなぜ創業以来のブランド名を冠した社名を変更するのか、その戦略的意図と背景にある複合的な要因について詳しく解説します。ピソラとの事業シナジー、DX戦略の推進、採用力強化といった観点から、新生ユニシアホールディングスが目指す未来像を読み解いていきます。

串カツ田中HDからユニシアホールディングスへの社名変更とは
串カツ田中ホールディングスからユニシアホールディングスへの社名変更とは、2026年3月1日を効力発生日として実施される商号変更のことです。この変更は2026年2月26日に開催予定の第24回定時株主総会における定款一部変更の承認を条件としており、英文表記は「UNISIA HOLDINGS CO.」となります。
「ユニシア(UNISIA)」という新社名には、複数の意味が込められています。「UNI」の部分は「Union(統合)」「Universal(普遍的な)」「Unique(唯一の)」といった言葉を想起させ、単一ブランドへの依存からの脱却と、多様な事業体が統合されたグループ企業としての一体感を表現しています。また「SIA」は「Asia(アジア)」を連想させることから、グローバル市場への視座も示唆されています。
この社名変更により、ホールディングス名から「串カツ田中」の文字は消えることになりますが、事業会社としての「株式会社串カツ田中」は存続し、店舗の看板もそのまま維持されます。つまり、消費者が馴染んでいる「串カツ田中」というブランドは変わらず営業を続けながら、持株会社としてはより広範な事業展開を可能にする体制へと移行するのです。
社名変更の理由と戦略的背景
社名変更の理由として公式に発表されているのは「グループの再編およびブランド価値向上」ですが、その背景にはより深い戦略的意図が存在します。
創業から約20年を経た串カツ田中HDは、市場環境の変化、労働人口の減少、消費者ニーズの多様化という課題に直面していました。居酒屋という単一業態、夜間営業という営業スタイル、大衆的なブランドイメージに縛られたままでは、さらなる成長に限界があったのです。
特に重要なのは、社名と主要ブランド名が一致していたことで生じていた制約です。「串カツ田中=串カツ屋」という強固なイメージは、ブランド認知の初期段階では有効でしたが、マルチブランド化やM&Aを推進する段階においては障害となっていました。異なる業態の企業を買収しようとしても、「串カツ田中グループに入る」という印象が相手企業の心理的障壁となる可能性があったためです。
こうした背景から、同社は2025年9月に「脱・串カツ田中」という衝撃的なコーポレートスローガンを発表しました。これは串カツ田中ブランドを捨てるという意味ではなく、「串カツ田中の成功体験や既存の常識に囚われない」という組織風土の改革宣言です。居酒屋業態を超越した「食の総合企業」への脱皮を図る強い意志が、今回の社名変更に結実したのです。
ピソラ買収がもたらす事業ポートフォリオの変革
ユニシアホールディングスへの移行における最大の原動力となったのが、2025年9月に発表された株式会社ピソラの完全子会社化です。取得価額は約95億円にのぼり、当時の串カツ田中HDの規模と比較しても極めて大規模な投資案件でした。
ピソラは「リゾートホテルのダイニング」をコンセプトとしたイタリアンレストランを、関西・東海・関東地方の郊外ロードサイドを中心に約60店舗展開しています。バリ島のビーチクラブをイメージした内装、水のせせらぎ、色鮮やかな植物といった空間演出により、非日常的なリゾート体験を提供しているのが特徴です。
この買収が戦略的に優れている理由は、串カツ田中とピソラの事業特性が見事に補完関係にある点にあります。
立地と顧客層の相互補完性
串カツ田中とピソラは、ターゲットとする市場が明確に異なっています。串カツ田中は駅前立地や繁華街に出店し、夕方から夜間にかけてのアルコール需要を主戦場としてきました。客単価は2,000円から3,000円台の大衆的な価格設定で、サラリーマンやファミリー層がメインターゲットです。
一方、ピソラは郊外のロードサイドに出店し、ランチタイムからディナータイムにかけての食事需要を取り込んでいます。食べ放題の「スタンダードコース」は大人一人税込3,699円、「プレミアムコース」では税込4,948円と、ファミリーレストラン業態としては高価格帯の設定となっています。平日ランチタイムのセレクトランチでも1,758円からという価格設定であり、「ハレの日」需要や「プチ贅沢」を楽しむ層を明確にターゲットとしています。
都心と郊外、夜と昼、大衆価格と高価格帯という異なる市場をカバーすることで、グループ全体として収益機会を最大化できる体制が整いました。
業態リスクの分散効果
新型コロナウイルスのパンデミックにおいて、アルコール提供を主とする居酒屋業態は営業時間短縮や酒類提供禁止により壊滅的な打撃を受けました。これに対し、食事主体のレストラン業態は相対的にダメージが軽微でした。ピソラのような食事需要を持つブランドを保有することは、将来的な感染症リスクや法規制に対する有効なリスクヘッジとなります。
体験価値という共通のDNA
業態は異なりますが、両社には「体験価値の重視」という共通のDNAが存在します。ピソラが提供するのは単なるイタリア料理ではなく「リゾート気分」という非日常体験であり、串カツ田中も「チンチロリンハイボール」や「子供向けたこ焼き無料」といったエンターテインメント性を重視してきました。「外食=楽しい体験」という哲学を共有しているからこそ、異なるブランドでも「ユニシア」という一つの傘の下で共存し、互いのノウハウを融合させることが可能なのです。
定款変更に見るデジタル事業への進出
今回の社名変更に伴う定款変更案には、同社の将来戦略を示す重要な要素が含まれています。特筆すべきは、事業目的に「ウェブサイトの企画、設計、制作、運営及び保守」という項目が追加されている点です。
この変更は、従来の外食企業の枠組みを超え、デジタル領域を新たな収益の柱として位置づける明確な意思表示といえます。飲食業界は長らく労働集約型ビジネスモデルからの脱却が課題とされてきましたが、この定款変更により、単なる「飲食店運営会社」から「食とテクノロジーを融合させた企業」へと進化するための法的基盤が整備されました。
この背景には、2021年に設立された合弁会社「株式会社Restartz(リスターツ)」の存在があります。BtoBプラットフォーム大手の株式会社インフォマートとの共同出資(インフォマート55%、串カツ田中HD45%)により設立されたこの会社は、店舗運営プラットフォームアプリ「V-Manage(ブイ・マネージ)」を開発・運営しています。
V-Manageは、飲食店の開店から閉店までに行う膨大な業務(清掃、仕込み、機器点検、衛生管理など)を可視化し、アルバイトスタッフだけでも高品質な運営ができるようにする「仮想マネージャー」機能を持っています。従来の飲食業界は店長の「勘と経験」に依存する部分が大きく、それが多店舗展開のボトルネックとなっていましたが、このアプリの導入により属人性を排除し、オペレーションを標準化することが可能になります。
ユニシアHDとしてグループ化が進む中で、串カツ田中、ピソラ、そして将来加わる新たなブランドの店舗運営状況を統一プラットフォームで管理・分析できるようになれば、グループ全体の生産性は大幅に向上します。さらに、このアプリを他社へ外販し、SaaS型ビジネスとして収益化する将来構想も視野に入っているものと考えられます。
ガバナンス体制の強化と経営基盤の整備
社名変更と同時に、機関設計の大幅な見直しも行われます。具体的には、監査役会および会計監査人の設置を定款に明文化し、取締役の員数上限を現行の8名から10名へと増員します。
この変更は、企業規模の拡大、特にピソラ買収というM&Aに伴い、経営の監督機能を強化する狙いがあります。取締役枠の拡大は、多様なバックグラウンドを持つ外部人材や、買収先企業の経営陣をボードメンバーとして迎え入れるための準備とも解釈できます。
単一ブランドの運営会社から、複数の事業会社を統括する純粋持株会社としての機能を高めるためには、意思決定の迅速化と監督機能の強化を両立させる必要があります。今回の一連の定款変更は、そのための組織的な布石といえるでしょう。
1000店舗体制を目指す長期ビジョン
ユニシアHDは長期的なビジョンとして、グループ全体で1000店舗体制の構築を掲げています。従来の「串カツ田中」単独での出店ペースでは、国内市場の飽和や競合との競争により、この目標達成は困難になりつつありました。一般的に居酒屋業態の適正店舗数は500から600店舗が限界とも言われています。
しかし、ピソラという新たな成長エンジンを手に入れたことで、出店余地は劇的に拡大しました。ピソラはまだ60店舗程度であり、全国のロードサイドには数百店舗規模の未開拓市場が広がっています。加えて、ユニシアHDとなることで第3、第4のブランドを買収・開発する土壌も整いました。
「串カツ田中」で500店舗、「ピソラ」で300店舗、その他新業態や海外展開で200店舗といったポートフォリオを組むことで、1000店舗という数字は現実的なターゲットとなります。社名変更はこの壮大な成長戦略を実現するための重要なステップなのです。
採用力強化と人材戦略の刷新
社名変更の隠れた重要な目的の一つが「採用力の強化」です。少子高齢化が進む日本において、人材確保は企業存続に関わる最重要課題となっています。
特にDXを推進するエンジニアや、M&A戦略を立案する経営企画人材、デジタルマーケティングのプロフェッショナルを採用しようとした際、「串カツ田中」という社名は「油の匂いがする現場仕事」というイメージを想起させ、ホワイトカラー層やテック人材の応募障壁となる可能性がありました。
「ユニシアホールディングス」という洗練された響きの社名に変更することで、飲食業の従来イメージを払拭し、より広範な業界から高度人材を引きつけやすくなります。実際に同社はマーケティング本部のマネージャー候補やITエンジニアの中途採用を積極的に行っており、年収レンジも業界水準以上の金額を提示しています。求人情報においても「脱・串カツ田中」や「変えよう」といったメッセージを打ち出し、変化を好む人材を求める姿勢を明確にしています。
また、同社は「人が資産」という考えの下、積極的な賃上げも実施しています。2024年12月には平均4.7%の賃上げを実施しており、これはインフレ率や業界平均を上回る水準です。ピソラについても、社員の独立支援制度や独自の評価制度を持ち、従業員満足度が高いことで知られています。このピソラの優れた人事制度をグループ全体に横展開することで、離職率の高い飲食業界において定着率の高い組織を構築しようとしています。
堅調な業績が支える変革への投資
ユニシアへの移行を支えているのは、足元の堅調な業績です。2025年11月期第2四半期時点で、売上高は前年同期比125.1%の210.91億円、営業利益は同139.8%の11.85億円に達しました。この成長要因として、串カツ田中の既存店における客数増加に加え、新規事業の稼働が挙げられています。
財務面で注目すべきは、M&Aによって取得した子会社の繰越欠損金を活用した税効果会計の適用です。子会社を吸収合併することで繰越欠損金を引き継ぎ、法人税等の支払額を圧縮することに成功しました。これは単に店舗を増やすだけでなく、M&Aと財務戦略を組み合わせた高度な経営手腕を同社が有していることを示しています。
株式市場の反応については、買収発表時に「成長への期待」と「財務負担への懸念」が交錯し、様子見の姿勢も見られました。95億円という買収資金調達による株式希薄化懸念や有利子負債増加が警戒された面もあります。しかし、長期的視点に立てば、居酒屋一本足打法からの脱却による収益安定化は高く評価される要素です。ピソラがグループの連結利益に貢献し始めれば、市場評価は大きく変化する可能性があります。
外食業界における競合との差別化戦略
ユニシアホールディングスが目指す姿は、すかいらーくホールディングスやゼンショーホールディングス、コロワイドといった巨大外食コングロマリットに連なる存在です。これら先行する巨人たちはセントラルキッチンと物流網を駆使した低コスト運営とマス・マーケティングで業界を支配しています。
こうした競合に対し、後発であるユニシアHDの勝機は「情緒的価値への特化」にあります。ゼンショーやすかいらーくが「日常食の利便性と安さ、効率性」を追求しているのに対し、ユニシア(串カツ田中+ピソラ)は「わざわざ行く楽しさ」「非日常感」「人との触れ合い」に重きを置いています。
AIやロボットによる配膳が進み無機質になりがちな外食体験の中で、人間的な温かみや賑やかさといった「アナログな価値」こそが最大の差別化要因となります。串カツ田中のお祭り的な雰囲気とピソラのリゾート空間という、それぞれ異なる形での体験価値を提供できることが、新生ユニシアの強みなのです。
2026年以降の消費動向と事業戦略の適合性
2026年以降の日本経済は、人手不足の深刻化と消費の二極化がさらに進むと予想されています。「安くてそこそこのもの」は淘汰され、「高くても価値があるもの(プレミアム)」か「徹底的に安いもの(エコノミー)」のどちらかしか生き残れない時代が到来しつつあります。
この環境において、ピソラは「高付加価値・体験型」ゾーンをカバーし、4,000円から5,000円の客単価でも満足度の高いサービスを提供します。一方、串カツ田中は「リーズナブルかつ高体験」ゾーンをカバーし、日常的な利用を促進します。
この両翼を持つことで、消費者の財布の紐が固い時は串カツ田中が、ハレの日や記念日にはピソラが選ばれるという、景気変動に左右されにくい収益構造を築くことができます。社名変更によるマルチブランド戦略は、まさにこうした消費動向の変化に対応するための布石といえます。
創業の歴史と継承される企業理念
社名変更の重みを理解する上で、同社の原点を確認することは重要です。創業者の貫啓二氏(現会長)は、もともとトヨタグループの輸送会社で働いていましたが、脱サラしてバーを開業しました。次の商売を模索していた時、後に副社長となる田中洋江氏(現相談役)の亡き父、田中勇吉氏が残した串カツのレシピが発見されました。
大阪西成の味を再現したその串カツは、2008年12月、東京・世田谷の住宅街にあるわずか15坪の店舗で「串カツ田中」として産声を上げました。「ソースの二度づけ禁止」という大阪のローカルルールをエンターテインメントとして東京に持ち込み定着させた功績は、日本の外食文化に大きな影響を与えました。
今回の社名変更でホールディングス名から「田中」が消えることに対し、寂しさを感じる古くからのファンや社員もいることでしょう。しかし、店舗ブランドとしての「串カツ田中」は存続し、むしろホールディングス名を変更することで個々のブランドの個性がより際立つことになります。創業者たちが大切にしてきた「親孝行」「地域社会への貢献」「笑顔を生む」という理念は、ユニシアという新しい器の中でより大きなスケールで継承されていくことでしょう。
先行事例に学ぶ社名変更の成功法則
この戦略の先行事例として参考になるのが、「スシローグローバルホールディングス」から「FOOD & LIFE COMPANIES」へと社名変更した事例です。スシローも圧倒的な知名度を持つブランド名を社名から外すことで、「京樽」の買収や居酒屋業態「杉玉」への参入など、寿司にとどまらない多角化を加速させました。
また「物語コーポレーション」も、「焼肉きんぐ」や「丸源ラーメン」など多様なブランドを展開していますが、社名には特定の業態名を含んでいません。ユニシアHDも同様に、社名から特定の料理名と創業者名を外すことで、M&Aを行う際の相手先企業の心理的障壁を下げる効果が期待されます。
買収される側の企業にとって、「串カツ田中グループに入る」のと「ユニシアグループに入る」のでは、後者の方が独立性が保たれ、対等なパートナーシップとしての印象が強くなります。これはピソラの経営陣や従業員のモチベーション維持においても重要な要素であったと考えられます。
まとめ:ユニシアホールディングスが描く外食産業の未来
2026年3月1日、株式会社ユニシアホールディングスの発足は、日本の外食産業史における重要な転換点として記録されることになるでしょう。大阪の下町から始まった一軒の串カツ屋は、わずか20年足らずで、イタリアンリゾート、DX、そしてグローバル展開を視野に入れた総合企業へと変貌を遂げようとしています。
この社名変更は単なる名称変更ではありません。「居酒屋」という業態の限界を突破し、「食」を通じたあらゆる幸福な体験を提供するプラットフォーム企業へと進化するための覚悟の表れです。95億円を投じたピソラの買収、インフォマートとの技術提携、そして「脱・串カツ田中」という自己否定を伴うスローガン。これらすべてが「ユニシア」という一つの方向性を構成しています。
成熟し閉塞感が漂う日本の外食産業において、新生ユニシアホールディングスがどのような成長曲線を描くのか。その行方は業界全体にとっての新たなモデルケースとなる可能性を秘めています。


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