シンガポールの自動車市場で、中国の電気自動車メーカーBYDが2025年に首位を獲得し、長年トップに君臨していたトヨタがその座を明け渡しました。BYDがシンガポールで首位となりトヨタが陥落した理由と背景には、シンガポール政府の強力なEV推進政策、BYDの巧みな「カテゴリーA」戦略、そして消費者の価値観の変化という複合的な要因があります。この歴史的な転換は、東南アジアにおける自動車市場の地殻変動を象徴する出来事として、大きな注目を集めています。
2025年通年の新車登録データにおいて、BYDは11,184台を記録し、市場シェア21.2%を獲得しました。一方、2位に転落したトヨタはレクサスを含めて7,466台にとどまり、市場シェアは14.2%となりました。両者の間には約3,700台もの差がつき、実質的な「BYD一強」体制が確立されたのです。この記事では、なぜこのような劇的な逆転が起きたのか、その理由と背景を詳しく解説します。

- 2024年から2025年にかけてのシンガポール自動車市場の変化
- シンガポールにおけるEV普及率の急上昇
- BYD躍進の理由:COE「カテゴリーA」戦略の成功
- BYDの製品戦略とコストパフォーマンスの高さ
- BYDの革新的な販売網とブランド構築
- トヨタ陥落の背景:政策との不整合
- トヨタを苦しめる優遇税制の格差
- トヨタのEVラインナップ不足という課題
- シンガポール政府の政策とインフラ整備の影響
- HDBへの充電器設置がもたらした劇的な変化
- 配車サービスGrabとBYDの提携効果
- シンガポール消費者の意識変化
- カローラとAtto 3の比較検討が一般化
- 2026年以降のシンガポール自動車市場の展望
- 激化する中国メーカー間の競争
- トヨタの巻き返し戦略
- ASEAN全体への波及効果
- まとめ:BYD首位とトヨタ陥落が示すもの
2024年から2025年にかけてのシンガポール自動車市場の変化
シンガポール自動車市場では、2024年から2025年にかけて急激な構造変化が起きました。BYDは2023年時点ではわずか1,416台の登録にとどまっていましたが、2024年には正規ディーラー経由の登録台数で6,191台を記録しました。これは前年比で約337%増という驚異的な成長率です。
2024年の段階で、BYDはすでにBMWの5,042台やメルセデス・ベンツの4,887台といった欧州プレミアムブランドを上回り、テスラの2,384台を大きく引き離していました。さらに重要なのは、BYDの正規ディーラーによる登録台数が、トヨタの正規ディーラーであるボルネオ・モーターズによる登録台数5,736台を上回っていたことです。並行輸入車を含めた総登録台数ではトヨタが辛うじて首位を維持したものの、正規ルートでの販売においては2024年の段階ですでに逆転が始まっていました。
2025年に入ると、この傾向はさらに加速しました。BYDの年間登録台数11,184台は前年比80.6%増であり、単一ブランドとして年間1万台の大台を超えた唯一のメーカーとなりました。3位以下にはBMWが5,091台、メルセデス・ベンツが4,871台、ホンダが4,845台と続きましたが、首位BYDとの差は歴然としています。
シンガポールにおけるEV普及率の急上昇
BYDの躍進を支えた最大の背景が、シンガポールにおけるEV普及率の急上昇です。2025年の新車登録全体52,678台のうち、EVが占める割合は45%となる23,684台に達し、過去最高を記録しました。2024年の34%から11ポイントも上昇しており、シンガポール市場がEV普及の初期段階から大衆化段階へと完全に移行したことを示しています。
この巨大なEVシフトの波に最も巧みに乗ったのがBYDでした。一方、ハイブリッド車中心のポートフォリオを持つトヨタは、その波に乗り遅れる結果となりました。シンガポール市場は都市国家という特性上、航続距離の心配が少なく、政府主導で充電インフラ整備が急速に進んだため、EVへの移行が他国よりも早いペースで進行したのです。
BYD躍進の理由:COE「カテゴリーA」戦略の成功
BYDがシンガポールで首位を獲得できた最大の理由は、同国独自の車両購入権制度、いわゆるCOE制度への巧みな対応にあります。シンガポールでは車両を購入する際にCOEを取得する必要があり、このCOEは排気量や出力によって「カテゴリーA」と「カテゴリーB」に大別されています。カテゴリーAは一般大衆車向けで、カテゴリーBは大型・高級車向けという位置づけです。
2022年5月、シンガポール政府はEV普及を促進するため、EVに限りカテゴリーAの出力上限を従来の97kWから110kWへと引き上げる制度変更を行いました。多くの大衆向けEVがモーター出力の特性上、従来の97kW基準を超えてしまうことから、高額なカテゴリーBに分類されてしまう状況を改善するための措置でした。
BYDはこの制度変更に最も迅速かつ効果的に対応しました。主力SUVである「Atto 3」やハッチバックの「Dolphin」において、モーター出力を意図的に100kW程度に調整した「カテゴリーA適合モデル」を市場に投入したのです。
カテゴリーAとカテゴリーBのCOE価格差は極めて大きく、2024年から2025年にかけての入札結果を見ると、時期によっては両カテゴリーの価格差が3万シンガポールドル、日本円で約330万円近くに達することもありました。車両本体価格に加えてこのCOE価格差が上乗せされるため、BYDの「カテゴリーA EV」はカテゴリーBに分類されるテスラのModel 3やModel Yの多くのグレード、そしてカテゴリーBに該当するガソリン車やハイブリッド車と比較して、圧倒的な価格競争力を持つことになりました。
テスラは依然として高出力モデルが中心であり、カテゴリーBに留まらざるを得ませんでした。BYDは「カテゴリーAで買える、十分な広さと機能を持った高性能EV」という独自のポジションを確立し、価格に敏感な中間層の需要を獲得することに成功したのです。
BYDの製品戦略とコストパフォーマンスの高さ
BYDの躍進を牽引したのは、コンパクトSUVの「Atto 3」です。シンガポールの家族層が求めるサイズ感、機能性、そして価格のバランスが極めて高い水準でまとまっていました。さらにBYDは、より安価なエントリーモデルである「Dolphin」、スポーティなセダン「Seal」、そして高級路線の「Denza」ブランドやMPVの「M6」など、矢継ぎ早に新モデルを投入しました。初めて車を買う若年層から、広さを求めるファミリー層、そして高級感を求める富裕層まで、あらゆるセグメントの顧客をカバーする体制を整えたのです。
シンガポールの消費者は「バリュー・フォー・マネー」、つまり支払った金額に対する価値に極めて敏感です。BYDの車両は、同価格帯の日本車や欧州車と比較して、標準装備が充実している点が高く評価されました。大型の回転式タッチスクリーン、パノラミックサンルーフ、360度カメラ、最新の先進運転支援システム、そしてスマートフォンアプリによる車両制御などが、多くのモデルで標準装備されています。
従来の「大衆車」の代名詞であったトヨタ・カローラアルティスなどが「質実剛健だが装備は保守的」であるのに対し、BYDは「ハイテクでプレミアム感のある大衆車」という新たな基準を提示しました。「同じ金額を払うなら、より多くの機能がついている方が良い」という消費者の合理的な判断が、BYDへの支持につながりました。
BYDの革新的な販売網とブランド構築
BYDのシンガポール展開において注目すべきもう一つの点は、その販売チャネル戦略です。通常、自動車メーカーは1国につき1社の総代理店を置き、その傘下で販売を行うのが一般的ですが、BYDはサイム・ダービー・モーターズ傘下のヴァンテージ・オートモーティブを主要パートナーとしつつ、柔軟かつ広範なネットワークを構築しました。
BYDは従来の自動車ショールームの枠を超えた展開を見せました。2024年7月にはアレクサンドラロードにフラッグシップショールームをオープンしましたが、ここは単なる車の展示場ではありません。カフェを併設したり、シンガポールのファッションブランド「Tocco Toscano」とコラボレーションしたサステナブルなグッズを販売したりするなど、「EVのある生活」を具体的にイメージさせるライフスタイル提案型の空間づくりを行いました。
また、ショッピングモール内へのポップアップストア出店や、レストラン形式のショールームなど、顧客が日常の買い物のついでに気軽に立ち寄れる接点を多数設けました。この戦略は、従来の「車を買うために郊外のディーラーに行く」という受動的な購買行動から、「生活動線の中で最新のEVに触れる」という能動的な体験へと消費者の行動変容を促しました。結果として、BYDというブランドの認知度は短期間で飛躍的に向上し、「中国車=安かろう悪かろう」という旧来のイメージを払拭することに成功したのです。
トヨタ陥落の背景:政策との不整合
トヨタがシンガポールで首位から陥落した理由は、単にBYDが強かったからだけではありません。シンガポールの政策環境とトヨタのグローバル戦略との間に生じた「ズレ」が、販売減少の主因となっています。
トヨタはグローバルで「マルチパスウェイ戦略」を掲げています。EV一本槍ではなく、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車、そして水素エンジン車など、地域ごとのエネルギー事情に合わせて多様な選択肢を提供するという方針です。電力供給が不安定な地域や充電インフラが未整備な地域においては、この戦略は極めて合理的です。
しかし、国土が狭く、政府主導で急速に充電インフラ整備とEV優遇へ舵を切った都市国家シンガポールにおいては、この戦略が裏目に出ました。シンガポール政府は明確に「EVシフト」を志向しており、ハイブリッド車はあくまで「過渡期の技術」という扱いに移行しつつあります。
トヨタを苦しめる優遇税制の格差
シンガポールには「車両排出ガス制度(VES)」と「EV早期導入奨励金(EEAI)」という二つの主要な優遇策があり、これがBYDとトヨタの価格差を決定的なものにしました。
VESは、車両の排出ガス量に応じてリベートまたはサーチャージが適用される制度です。最もクリーンな「バンドA1」には最大25,000シンガポールドルのリベートが適用されますが、ここには主に純粋なEVが分類されます。一方、トヨタの主力であるハイブリッド車の多くは「バンドA2」に分類されています。
問題は、このバンドA2に対するリベートが年々縮小されていることです。2024年まではA2にもそれなりのリベートがありましたが、2025年からはA2のリベートが従来の5,000ドルから2,500ドルへと半減されました。さらに、EEAIもEVには満額適用されますが、ハイブリッド車はその対象外あるいは効果が限定的です。
つまり、BYDのEVはVESとEEAIの恩恵をフルに受け、最大40,000ドル近い割引が適用されるのに対し、トヨタのハイブリッド車はその恩恵が大幅に削がれてしまいました。制度上、EVであるBYD車とハイブリッドであるトヨタ車の間には、政策による価格競争力の差が人為的に広げられてしまったのです。
トヨタのEVラインナップ不足という課題
トヨタも「bZ4X」やレクサス「UX300e」、「RZ」などのEVをシンガポール市場に投入していますが、BYDと比較するとモデル数が圧倒的に少なく、価格帯も高額です。BYDが300万円台から購入できる「Dolphin」や400万円台の「Atto 3」を展開しているのに対し、トヨタのEVはプレミアムセグメントに近い価格設定となっており、ボリュームゾーンであるマスマーケットの需要を取り込めていません。
消費者は「トヨタの車は信頼できる」という認識を持ちつつも、高騰するCOE価格と車両価格を前に、「より安く、より維持費が安く、より先進的な機能がついたBYD」を選ばざるを得ない、あるいは積極的に選ぶ状況が生まれたのです。
シンガポール政府の政策とインフラ整備の影響
BYDの躍進とトヨタの苦戦は、シンガポール政府が描く「グリーン・プラン2030」のロードマップに沿った現象でもあります。政府のインフラ整備計画が、消費者の「EVに対する不安」を払拭し、購入を後押ししました。
シンガポール政府は、2030年までにすべての新車登録を「クリーナーエネルギーモデル」に限定し、2040年には内燃機関車を全廃するという野心的な目標を掲げています。この目標達成のため、政府は「アメとムチ」の政策を明確にしています。アメとしてはVESやEEAIによるEV購入補助があり、ムチとしてはディーゼル車の新規登録禁止(2025年から実施)や、内燃機関車に対する税負担の維持・強化があります。
HDBへの充電器設置がもたらした劇的な変化
EV普及の最大の懸念点である充電インフラについても、シンガポールは急速な整備を進めています。政府は「2030年までに6万基の充電ポイント設置」を目標としており、特に国民の約8割が居住する公団住宅(HDB)の駐車場への設置を急ピッチで進めてきました。
2025年末時点で、HDB駐車場の約85%以上に充電器が設置される見込みとなっており、居住者の多くが自宅近くで充電できる環境が整いつつあります。HDBの駐車場に充電器が設置されたことは、EV普及における決定的なブレイクスルーとなりました。「充電場所がない」というEV購入の最大の心理的障壁が取り除かれたことで、BYDのような大衆向けEVが爆発的に普及する土壌が完成したのです。
自宅で夜間に充電が可能になれば、ランニングコストはガソリン車の数分の一で済むため、経済合理性を重視するシンガポール人にとってEVは極めて魅力的な選択肢となりました。
配車サービスGrabとBYDの提携効果
配車サービス大手のGrabがBYDと提携し、東南アジア全体でEV導入を進めていることも見逃せない要因です。Grabドライバーが業務用車両としてBYDを選択することで、街中でBYDを見かける頻度が激増し、それが一般消費者に対する「走る広告塔」の役割を果たしました。プロのドライバーが選ぶ車としての信頼性が醸成されたことも、普及を後押しした要因の一つです。
特に、配車サービスのドライバーにとって燃料費の安さは死活問題であり、彼らがこぞってBYDを採用したことで、その耐久性や経済性が実証され、一般消費者の安心感につながるという好循環も生まれました。
シンガポール消費者の意識変化
かつてシンガポールでも「中国製品は安かろう悪かろう」という偏見が根強く存在しました。しかし、BYDに関してはその認識が完全に覆されています。2025年のオーナーレビューやフォーラムでの声を分析すると、初期にはドアハンドルの形状の使いにくさや、日本の強力なエアコンと比較した際の冷房能力の弱さに対する不満も見られましたが、全体としては「静粛性が高い」「加速がスムーズ」「内装の質感が予想以上に高い」という肯定的な評価が支配的です。
特に、BYD独自の「ブレードバッテリー」技術による安全性への信頼感や、元アウディのデザイナーなどを起用した洗練されたデザインが、ブランドイメージの向上に大きく寄与しています。今やシンガポールにおいてBYDに乗ることは、予算の都合で妥協して安い車に乗ることではなく、「最新のテクノロジーを理解し、経済合理性を重視する賢い消費者」あるいは「先進的なライフスタイル」の象徴として受け入れられています。
カローラとAtto 3の比較検討が一般化
従来、トヨタ・カローラアルティスの競合はホンダ・シビックやマツダ3といった同クラスの日本車でした。しかし現在、多くの消費者は「カローラアルティス(ハイブリッド)か、BYD Atto 3(EV)か」という比較検討を行うようになっています。
価格帯が接近しており、補助金適用後はBYDの方が安いケースすらあります。維持費でEVが圧倒的に勝るとなれば、リセールバリューへの不安さえクリアできればEVに軍配が上がるケースが増えています。
2026年以降のシンガポール自動車市場の展望
BYDの優位は続くのか、それともトヨタの逆襲はあるのか。2026年以降のシンガポール市場を占う上での重要なポイントがいくつかあります。
政府はEV普及がある程度軌道に乗ったと判断すれば、補助金を徐々に削減していく方針を示唆しています。EEAIやVESのリベート額は段階的に見直されており、2026年や2027年にはさらなる削減が予定されています。補助金が減額された場合、車両本来の価格競争力がより重要になります。BYDは垂直統合型の生産体制によりバッテリーから半導体まで自社製造しているため、コストコントロール能力が極めて高く、補助金縮小の影響をある程度吸収できる余地があります。
激化する中国メーカー間の競争
BYDの成功を見て、他の中国メーカーも続々とシンガポール市場に参入し、攻勢を強めています。2025年にはXpeng、Zeekr、GAC Aion、Cheryなどが販売を伸ばし、市場シェアを奪い合っています。
特にZeekrやXpengは、より高度な自動運転技術やプレミアムな内装を武器に、BYDの上位モデルやテスラ、欧州車をターゲットにしています。また、GAC AionなどはBYDと同様のマスマーケットを狙っています。BYDはもはやトヨタだけでなく、これら同郷のライバルたちとも戦わなければなりません。市場は「日本車対中国車」の構図から、「BYD対その他中国勢対テスラ対欧州・日本勢」という多極化の様相を呈していくでしょう。
トヨタの巻き返し戦略
一方のトヨタも手をこまねいているわけではありません。2026年のシンガポールモーターショーでは、新たなハイブリッドモデルやEVラインナップの投入を発表し、巻き返しを図っています。
トヨタの強みである「圧倒的な信頼性」「高いリセールバリュー」「充実したアフターサービス」は依然として強力な武器です。EVの初期需要が一巡し、充電の手間やバッテリー劣化への懸念が顕在化した際に、ハイブリッドの利便性が見直される可能性もあります。特に、自宅に充電器を設置できない環境のユーザーや、長距離移動が多いユーザーにとって、トヨタのハイブリッドは依然として最適解であり続けます。
また、正規ディーラーだけでなく、並行輸入業者の存在もトヨタのシェアを支えています。正規ルートでは導入されていないモデルや、より安価な仕様を並行輸入業者が輸入販売することで、統計上の数字を押し上げている側面があります。この「草の根」的な販売網の太さは、他メーカーにはないトヨタならではの強みです。
ASEAN全体への波及効果
シンガポールでのBYDの成功は、東南アジア全域における市場変動の先行指標としての意味を持ちます。タイやインドネシアでも同様に中国製EVがシェアを急拡大させており、日本車の牙城を崩しつつあります。タイではBYDが工場を稼働させ、インドネシアでも現地生産への投資が進んでいます。
シンガポールは市場規模こそ小さいものの、東南アジアのトレンドセッターとしての役割は大きいです。ここで培われた「BYDはプレミアムで信頼できる」というブランド力と、Grabなどを通じた運用実績は、周辺国への展開において強力なマーケティングツールとなります。BYDがシンガポールで首位を取ったという事実は、ASEAN全域における「日本車神話」の終焉と「EV時代の到来」を告げる象徴的な出来事として記憶されることになるでしょう。
まとめ:BYD首位とトヨタ陥落が示すもの
BYDがシンガポールでトヨタを抜き去り首位に立った理由は、単一の要因ではありません。COEカテゴリーAへの迅速な適合とVES・EEAI優遇の最大活用による価格競争力の創出、Atto 3を中心とした価格以上の装備と価値を提供するモデルラインナップの充実、従来の自動車販売の慣習にとらわれないライフスタイル提案型の顧客接点の創出、トヨタをはじめとする既存メーカーが手頃な価格帯の魅力的なEVを提供できなかった空白期間の掌握、そしてHDBへの充電器設置によるEV所有のハードルの劇的な低下という要素が複合的に作用した結果です。
2025年のデータが示す通り、シンガポール市場は不可逆的なEVシフトの段階に入りました。トヨタが「陥落」した背景には、優れたハイブリッド技術を持ちながらも、シンガポールという特殊な市場において政策的に誘導されたEV化のスピード感に、短期的に適応しきれなかったというジレンマがあります。
今後、BYDがこのリードを維持できるかは、激化する中国メーカー同士の競争を勝ち抜き、補助金縮小後の「素の実力」勝負で消費者を惹きつけ続けられるかにかかっています。そしてトヨタにとっては、失ったシェアを取り戻すために、ハイブリッドの価値を再定義しつつ、魅力的なEVを市場に投入し、「信頼性」という最大の資産を次世代の技術と融合させることができるかが、今後の正念場となるでしょう。

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