障害年金は確定申告が必要?税金の仕組みと優遇措置を完全解説

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障害年金は、病気やケガなどにより障がいがある方を経済的に支援するための重要な公的給付制度です。一方、確定申告は私たちの収入に対する納税義務を果たすための手続きです。障害年金を受給している方や、障がいのある方を扶養している家族にとって、この二つの関係を正しく理解することは非常に重要です。

障害年金の受給者は、税金面で様々な優遇措置を受けることができます。しかし、「障害年金は確定申告が必要なのか」「どのような税制優遇が受けられるのか」といった疑問を持つ方も多いでしょう。また、障害年金以外にも収入がある場合には、確定申告についてさらに複雑な判断が必要になることもあります。

この記事では、障害年金と確定申告に関する基本的な知識から、実際の手続き方法、受けられる税制優遇までを分かりやすくQ&A形式で解説します。障害年金受給者やそのご家族が、適切な税務処理を行い、受けられる優遇措置を最大限に活用できるよう、実用的な情報をお届けします。

障害年金は確定申告が必要なのか?非課税所得の取り扱いについて解説

障害年金を受給している方にとって最も気になるのは、その年金が課税対象となるのか、そして確定申告が必要なのかという点です。結論から言うと、障害年金は非課税所得として扱われるため、基本的に確定申告は不要です。

障害年金が非課税所得である理由

障害年金は、障がいによって労働能力が制限された方の生活を支えるために支給される社会保障給付金です。このような社会福祉的な性格を持つ給付金は、所得税法上で非課税所得として定められています。つまり、障害年金の受給額がどれだけ高額であっても、それ自体に所得税はかかりません。

障害年金のみの収入の場合

障害年金だけを収入源としている場合は、確定申告をする必要はありません。年金支払者(日本年金機構など)から「公的年金等の源泉徴収票」も発行されないのが一般的です。これは、非課税所得である障害年金については、源泉徴収の対象とならないためです。

老齢年金との違い

ここで注意したいのは、老齢年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金など)と障害年金との取り扱いの違いです。老齢年金は課税対象の「雑所得」となり、年金額によっては確定申告が必要になります。一方、障害年金は非課税所得であるため確定申告は不要です。

同様に、遺族年金も非課税所得として扱われます。複数の年金を選択できる場合は、税金面を考慮して選択することも一つの方法です。

「公的年金等の源泉徴収票」が送られてこない理由

障害年金や遺族年金の受給者には、通常「公的年金等の源泉徴収票」は送付されません。これは、これらの年金が非課税であり、源泉徴収の対象ではないためです。源泉徴収票が送付されるのは、主に老齢年金など課税対象となる年金の受給者のみです。

このように、障害年金は税務上優遇されているため、障害年金だけを受け取っている方は確定申告の心配をする必要はありません。しかし、障害年金以外にも収入がある場合は状況が異なりますので、次の項目で詳しく見ていきましょう。

障害者控除とは?確定申告で受けられる税制優遇の種類と金額

障害者やその家族が確定申告で活用できる重要な制度の一つに「障害者控除」があります。これは所得税法上の所得控除の一種で、障がいのある方の経済的負担を軽減するために設けられています。

障害者控除の基本

障害者控除は、納税者本人が障がい者である場合や、扶養している家族に障がい者がいる場合に適用される所得控除です。控除を受けると、所得税や住民税の計算の基となる所得金額が減少するため、結果的に税負担が軽減されます。

障害者控除の対象となる方

障害者控除の対象となるのは、以下のような方々です:

  1. 精神上の障がいにより、物事を正しく判断し自分で意思決定する能力が常に欠けている方
  2. 知的障がい者と判定された方
  3. 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方
  4. 身体障害者手帳に障がいがあると記載されている方
  5. 65歳以上で、精神または身体に障がいがあり、市町村長等の認定を受けている方
  6. 戦傷病者手帳の交付を受けている方
  7. 原子爆弾被爆者で厚生労働大臣の認定を受けている方
  8. 常に寝たきりで複雑な介護を要する方

障害者控除の種類と金額

障害者控除は、障がいの程度によって控除額が異なります。

1. 一般の障害者控除

  • 所得税:27万円の所得控除
  • 対象:上記の対象者のうち、特別障害者に該当しない方

2. 特別障害者控除

  • 所得税:40万円の所得控除
  • 対象:
    • 精神上の障がいにより常に事理を弁識する能力を欠く方
    • 重度の知的障がい者と判定された方
    • 精神障害者保健福祉手帳で1級と記載されている方
    • 身体障害者手帳で1級または2級と記載されている方
    • 原子爆弾被爆者で厚生労働大臣の認定を受けている方
    • 常に就床を要し、複雑な介護を必要とする方

3. 同居特別障害者控除

  • 所得税:75万円の所得控除
  • 対象:納税者または生計を一にする配偶者や親族と同居している特別障害者

障害者控除の適用方法

給与所得者(会社員など)の場合は、年末調整で障害者控除を受けることができます。会社に対して「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出する際に、障害者控除に関する事項を記入します。

一方、個人事業主や年末調整で控除しきれなかった場合は、確定申告で障害者控除を申請します。確定申告書の第一表の「所得から差し引かれる金額」の欄に、障害者控除の金額を記入します。

なお、障害者控除を受ける際には、障がいの状態を証明する書類(障害者手帳のコピーなど)を確定申告書に添付するか、提示を求められた際に提示できるよう準備しておくことが重要です。

障害者控除は、適切に申請することで税負担を大きく軽減できる重要な制度です。障がいの程度や状況に応じて、最適な控除が受けられるよう正しく申告しましょう。

障害年金を受給しながら他の収入がある場合の確定申告はどうすべき?

障害年金を受給しながら、給与収入や事業収入、不動産収入などの他の収入がある場合、確定申告が必要になるケースがあります。ここでは、様々なケースに分けて解説します。

障害年金と給与収入がある場合

給与収入がある場合、年末調整で税金の清算が行われるため、通常は確定申告は不要です。ただし、以下のケースでは確定申告が必要になります:

  • 給与収入が2,000万円を超える場合
  • 複数の会社から給与を受け取っている場合
  • 医療費控除や住宅ローン控除などの追加の控除を受けたい場合

確定申告をする際、障害年金は非課税所得であるため、収入金額には含めません。給与所得やその他の所得のみを申告対象とします。

障害年金と事業収入(自営業など)がある場合

事業収入(自営業、フリーランスなど)がある場合は、その所得が年間38万円(2023年分の基礎控除額)を超えると、原則として確定申告が必要になります。

確定申告書を作成する際は、障害年金を収入に含めずに、事業収入から必要経費を差し引いた事業所得のみを申告します。また、青色申告や白色申告の特例なども活用できるので、税理士に相談するなどして最適な申告方法を検討するとよいでしょう。

障害年金と不動産収入がある場合

アパートやマンションの賃貸収入など不動産収入がある場合も、その所得が年間38万円を超えると確定申告が必要です。

不動産所得の計算方法は、賃貸収入から固定資産税、修繕費、減価償却費などの必要経費を差し引いた金額です。障害年金は非課税所得なので、不動産所得の計算に影響しません。

障害年金と利子・配当所得がある場合

預貯金の利子や株式の配当金などの収入がある場合、通常は源泉分離課税となり確定申告は不要です。ただし、確定申告を選択することで総合課税を選ぶこともできます。

なお、障害者は「少額預金の利子等の非課税制度(マル優)」を利用できる場合があります。元本350万円までの預貯金等の利子が非課税になるため、活用を検討するとよいでしょう。

障害年金と年金以外の収入がある場合の注意点

  1. 社会保険上の扶養からの脱退:障害年金は税法上は非課税ですが、社会保険(健康保険や国民年金)上では収入とみなされます。障害年金とその他の収入の合計が年間180万円以上になると、家族の社会保険の扶養から外れる可能性があります。
  2. 住民税の申告:所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告が必要な場合があります。特に、給与所得や公的年金等以外の所得がある場合は、市区町村に住民税の申告をする必要があるケースがあります。
  3. 医療費控除の活用:障害年金受給者は、医療費の支出が多い傾向があります。年間10万円以上(または所得の5%以上)の医療費を支払った場合は、医療費控除を受けるために確定申告をするとよいでしょう。

障害年金を受給しながら他の収入がある場合は、適切に確定申告を行うことで、必要な税金を納めつつ、受けられる控除は最大限活用することが大切です。不明点がある場合は、税務署や税理士に相談することをおすすめします。

障害者を扶養している家族が受けられる税制優遇措置とは?

障害のある方を扶養している家族も、様々な税制優遇措置を受けることができます。これらの制度を理解し活用することで、家計の負担を軽減することができます。

障害者控除(扶養家族が障害者の場合)

納税者が障害のある方を扶養している場合、所得控除として障害者控除を受けることができます。控除額は障害の程度によって異なります。

  • 一般の障害者:扶養している障害者1人につき27万円の所得控除
  • 特別障害者:扶養している特別障害者1人につき40万円の所得控除
  • 同居特別障害者:納税者または生計を一にする配偶者や親族と同居している特別障害者1人につき75万円の所得控除

特に注目すべきは「同居特別障害者控除」です。特別障害者と同居して介護している場合、75万円という高額な控除が受けられます。これは、同居して介護する家族の負担を考慮した制度です。

16歳未満の障害児を扶養している場合

16歳未満の子どもは、通常の扶養控除の対象にはなりませんが、障害がある場合は障害者控除の対象になります。つまり、16歳未満の障害児を扶養している場合でも、障害者控除(27万円または40万円)を受けることができます。

障害者を扶養している家族の確定申告方法

給与所得者(会社員など)の場合

  • 年末調整で障害者控除を受けることができます。
  • 会社に提出する「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に、扶養親族が障害者である旨を記入します。
  • 障害の程度(一般障害者か特別障害者か)や同居の有無も記入します。

個人事業主などの場合

  • 確定申告で障害者控除を申請します。
  • 確定申告書の第一表の「所得から差し引かれる金額」の欄に、障害者控除の金額を記入します。

いずれの場合も、扶養している方の障害者手帳のコピーなど、障害の状態を証明する書類を準備しておく必要があります。

医療費控除の活用

障害のある方を扶養している家族は、その方の医療費も合算して医療費控除を受けることができます。対象となる医療費には、通院費用や薬代だけでなく、次のような費用も含まれます:

  • 通院のためのタクシー代や電車・バス代
  • 医師が必要と認めた補装具(車椅子、補聴器など)の購入費
  • 障害者用のベッドや特殊寝台などの購入費(医師が必要と認めたもの)
  • 入院中の食事代や差額ベッド代

医療費控除を受けるためには、1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費が10万円(または所得の5%のいずれか少ない方)を超える必要があります。医療費の領収書は5年間保管することが求められますので、整理して保管しておきましょう。

その他の優遇措置

相続税の障害者控除: 障害のある方が相続人である場合、85歳に達するまでの年数に10万円(特別障害者は20万円)を乗じた金額を、相続税額から控除することができます。

贈与税の特例: 特定障害者(特別障害者、または精神に障害のある方)に対して生活費等のために信託された財産については、特別障害者は6,000万円まで、一般の障害者は3,000万円まで贈与税がかかりません。

障害のある方を扶養している家族は、これらの税制優遇措置を最大限に活用することで、経済的な負担を軽減することができます。不明点があれば、税務署や税理士に相談することをおすすめします。

障害年金受給者が知っておくべき医療費控除と確定申告の関係

障害年金受給者は、医療費の支出が一般的に多い傾向があります。そのため、医療費控除は特に重要な税制優遇制度となります。ここでは、障害年金受給者が知っておくべき医療費控除と確定申告の関係について解説します。

医療費控除の基本

医療費控除は、1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費が10万円(または所得の5%のいずれか少ない方)を超える場合に、その超えた金額(上限200万円)を所得から控除できる制度です。

障害年金は非課税所得なので「所得」には含まれません。そのため、障害年金のみを受給している方は通常、確定申告の必要はありませんが、医療費控除を受けるためだけに確定申告をすることもできます。ただし、障害年金以外に所得がない場合は、医療費控除を受けても税金の還付はありません。

障害関連の医療費として認められるもの

障害年金受給者が特に注目すべき医療費には、次のようなものがあります:

  1. 通常の医療費
    • 医師・歯科医師への診療費
    • 入院費
    • 医薬品の購入費
    • 治療のための通院費(電車、バス、タクシー代など)
  2. 障害関連の特別な医療費
    • 障害の治療や機能回復のためのリハビリテーション費用
    • 義肢、義歯、松葉杖、車椅子などの購入費や修理費(医師が必要と認めたもの)
    • 人工透析などの特殊な医療費
    • 介護保険サービスの自己負担分(医療系サービスに限る)
  3. その他認められる費用
    • 障害者用特殊ベッドなどの購入費(医師が必要と認めたもの)
    • 視覚障害者のための点字図書や音声読書機などの購入費(医師が必要と認めたもの)
    • 障害者用の特殊な浴槽やトイレなどの設備費用(医師が必要と認めたもの)

医療費控除を受けるための手続き

医療費控除を受けるためには、確定申告書に必要事項を記入し、医療費の明細書を添付する必要があります。

1. 確定申告書の作成

  • 確定申告書のA様式またはB様式に必要事項を記入
  • 「医療費控除に関する事項」欄に支払った医療費の総額などを記入

2. 医療費の明細書の添付

  • 2017年分の確定申告から、領収書の添付は不要となり、代わりに「医療費控除の明細書」の添付が必要になりました
  • 明細書には、医療を受けた人、病院・薬局などの支払先、支払年月日、支払金額などを記入
  • 領収書は自宅で5年間保管する必要があります

3. 確定申告書の提出

  • 確定申告期間(通常、2月16日〜3月15日)に、税務署に提出
  • e-Tax(電子申告)を利用すると、自宅からインターネットで申告できます

障害者の場合の特例措置

セルフメディケーション税制との選択 医療費控除の特例制度として「セルフメディケーション税制」があります。これは、健康診断などを受けている方が、特定の市販薬(OTC医薬品)を購入した場合、年間12,000円を超える部分(上限88,000円)を所得から控除できる制度です。

障害者おむつ税制 寝たきりの方など、おむつの使用が必要であると医師が認めた場合、おむつ代も医療費控除の対象になります。この場合、「おむつ使用証明書」が必要です。ただし、2年目以降は「おむつ使用確認書」で代用できる場合があります。

医療費控除を活用するためのポイント

  1. 領収書の整理
    • 医療費の領収書は日付順やカテゴリー別に整理して保管する
    • 通院の交通費も記録しておく(使用した交通機関、区間、金額など)
  2. 家族全員の医療費を合算
    • 生計を一にする家族の医療費は合算できる
    • 障害のある家族の医療費も含められる
  3. 高額療養費との関係
    • 健康保険から払い戻された高額療養費は、医療費控除の対象となる金額から差し引く
    • 実際に自己負担した金額のみが医療費控除の対象
  4. 定期的な通院がある方へ
    • 定期的に通院している場合は、年間の医療費が10万円を超える可能性が高いため、領収書を常に保管しておくことが重要

障害年金受給者は、医療費が多くかかることが多いため、医療費控除を活用することで税負担を軽減できる可能性があります。障害年金以外に所得がある場合は特に、医療費控除を申請することで税金の還付を受けられる可能性が高いので、しっかりと確定申告の準備をしましょう。

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