2024年6月から実施されている定額減税は、多くの国民にとって家計の負担軽減をもたらす重要な経済政策です。特に年金受給者の方々にとって、この制度がどのように適用され、どのような影響をもたらすのかは関心の高いテーマでしょう。定額減税は所得税と住民税からの控除を通じて実施されますが、年金受給者特有の状況や確定申告との関係について正確に理解することが重要です。この記事では、年金受給者の方々が定額減税について知っておくべき基本情報から、確定申告の要否、複数の所得がある場合の対応、そして控除しきれない場合の給付金制度まで、幅広く解説します。2024年度限定の措置であるこの定額減税を最大限に活用するための知識を身につけましょう。

定額減税とは?年金受給者にとってのメリットを解説
定額減税とは、政府がデフレ脱却と物価高による負担軽減を目的として実施する税制措置で、所得に関わらず一定額が税金から控除される仕組みです。この制度の特徴と年金受給者へのメリットを解説します。
定額減税の基本的な仕組み
定額減税は、所得額にかかわらず、1人あたり所得税から3万円、住民税から1万円の合計4万円が一律で控除される制度です。これは通常の所得控除とは異なり、税額控除として実施されるため、課税所得ではなく実際の税額から差し引かれます。
定額減税の対象となるのは、以下の条件を満たす方です:
- 日本国内に住所を有する者
- 2024年分所得税および2024年度分住民税所得割の納税者
- 合計所得金額が1,805万円以下(給与収入のみの場合は2,000万円以下)の方
年金受給者の多くはこの条件を満たすため、原則として定額減税の対象となります。
年金受給者にとってのメリット
年金受給者にとって、定額減税には以下のようなメリットがあります:
- 手取り年金額の増加:源泉徴収される所得税が減額されるため、手取り金額が増えます
- 手続きの簡便さ:基本的に申請手続きが不要で自動的に適用されます
- 扶養家族がいる場合の加算:同一生計配偶者や扶養親族がいる場合、1人につき所得税3万円、住民税1万円が追加で控除されます
- 低所得者への配慮:所得税や住民税が少なく控除しきれない場合は、給付金として支給される調整措置があります
特に年金収入のみで生活されている高齢者世帯にとって、定額で4万円(夫婦の場合は8万円)の負担軽減は大きな経済的支援となり得ます。また、年金から源泉徴収される所得税額が少ない方でも、控除しきれない分は給付金として受け取れるため、公平性が保たれています。
定額減税の実施期間
この定額減税は2024年度限りの措置として実施されています。年金受給者の場合、所得税の減税は2024年6月支給分の年金から、住民税の減税は2024年10月支給分の年金からそれぞれ実施されます。翌年度以降の継続については、現時点では予定されていません。
年金受給者の定額減税はいつから実施される?具体的な時期と減税額
定額減税は年金受給者にも適用されますが、所得税と住民税では実施時期が異なります。具体的なスケジュールと減税の方法について解説します。
所得税減税の実施時期と方法
年金受給者の所得税に対する定額減税は、2024年6月1日以降に最初に受け取る年金から実施されます。実際の減税方法は、年金から源泉徴収される所得税額から定額減税額が差し引かれる形で行われます。
具体的には以下のような流れになります:
- 2024年6月に受け取る年金から、源泉徴収される所得税額から定額減税額(本人分3万円)が控除されます
- 6月の源泉徴収税額だけでは控除しきれない場合、以降2024年中に受け取る年金の所得税から順次控除されます
- 扶養親族分の控除は、提出済みの「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」の内容に基づいて適用されます
例えば、2カ月に1回支払われる年金から1万2千円の所得税を源泉徴収されている方の場合:
- 6月:1万2千円の所得税から控除→0円に(残り1万8千円の控除額)
- 8月:1万2千円の所得税から控除→0円に(残り6千円の控除額)
- 10月:1万2千円の所得税から控除→6千円分だけ控除され、6千円の所得税を納付
このように、定額減税分が控除された後の税額が年金振込通知書に記載されます。
住民税減税の実施時期と方法
住民税の定額減税は、2024年10月分の特別徴収税額から実施されます。住民税は前年の所得に基づいて課税されるため、2023年の所得に基づいて計算された2024年度の住民税に対して減税が行われます。
具体的には以下のような流れになります:
- 定額減税前の住民税額をもとに、2024年10月分の特別徴収税額から定額減税額(本人分1万円)が控除されます
- 10月分だけでは控除しきれない場合、2024年12月以降の特別徴収税額から順次控除されます
住民税の場合、4月・6月・8月に納める仮特別徴収税額からは控除されず、10月以降の本徴収分から控除される点に注意が必要です。
具体的な減税額と世帯構成による違い
定額減税額は、本人と扶養家族の人数によって異なります:
世帯構成 | 所得税減税額 | 住民税減税額 | 合計 |
---|---|---|---|
年金受給者本人のみ | 3万円 | 1万円 | 4万円 |
年金受給者本人+同一生計配偶者 | 6万円 | 2万円 | 8万円 |
年金受給者本人+同一生計配偶者+扶養親族1人 | 9万円 | 3万円 | 12万円 |
ただし、同一生計配偶者が控除対象配偶者でない場合(年間所得が48万円超の場合)、配偶者分の住民税減税は2025年度分に行われる点に注意が必要です。
年金受給者は定額減税のために確定申告が必要?手続き方法を詳しく解説
年金受給者が定額減税を受けるために特別な手続きは必要なのか、また確定申告との関係について解説します。
基本的に手続きは不要
公的年金等の受給者は、原則として定額減税を受けるための特別な手続きは必要ありません。これは、年金支払者(日本年金機構など)が源泉徴収時に自動的に定額減税を適用するためです。
具体的には以下の流れで減税が行われます:
- すでに提出済みの「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」に基づいて、扶養親族の人数が判定されます
- その情報をもとに、年金から源泉徴収される所得税から自動的に減税が行われます
- 住民税についても、特別徴収される住民税から自動的に減税されます
つまり、通常の年金受給手続きをしている方は、特に新たな申請をしなくても定額減税の恩恵を受けることができます。
確定申告が必要となるケース
ただし、以下のようなケースでは確定申告が必要になる場合があります:
- 扶養親族の状況が変わった場合:令和6年中に扶養親族の人数が増えた場合など、定額減税額に変更が生じる場合
- 複数の所得がある場合:年金以外に事業所得や不動産所得などがあり、合計した所得に基づいて税額を計算する必要がある場合
- 医療費控除などを受ける場合:医療費控除やふるさと納税の寄附金控除などを受けるために確定申告をする場合
確定申告をする場合は、通常の所得税の計算に加えて、定額減税の金額も調整され、最終的な納税額または還付額が計算されます。
年金所得者の申告不要制度との関係
公的年金等の収入金額が400万円以下で、かつ公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合、「年金所得者の申告不要制度」により確定申告が不要とされています。
定額減税が実施されても、この申告不要制度は変わりません。したがって、上記の条件を満たす年金受給者は、定額減税によって確定申告が必要になるわけではありません。ただし、定額減税により所得税が還付される可能性がある場合は、確定申告をすることで還付を受けられます。
給与と年金の両方を受け取っている場合
給与と年金の両方を受け取っている方は、それぞれの源泉徴収税額から定額減税が行われます。この場合も基本的に特別な手続きは不要です。
ただし、重複して減税を受けた場合でも、複数の所得から定額減税を受けたことだけを理由に確定申告をする必要はありません。確定申告が必要なのは、上記のように他の理由で申告が必要な場合や、税金の還付を希望する場合です。
確定申告をする際は、「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、定額減税を含めた正確な計算ができます。特に、令和6年分確定申告では、定額減税が自動的に計算される仕組みになっています。
複数の収入がある年金受給者の定額減税はどうなる?計算方法と注意点
年金以外にも収入がある方や複数の年金を受け取っている方の定額減税について、その取り扱いや注意点を解説します。
給与所得と年金所得を併せて持つ場合
給与と年金を両方受け取っている方(例:再雇用されて働きながら年金も受給している方)の場合、基本的にはそれぞれの所得から源泉徴収される税額に対して定額減税が適用されます。
具体的には:
- 給与からの源泉徴収税額から本人分の定額減税額(所得税3万円)が控除されます
- 年金からの源泉徴収税額からも定額減税額が控除されます
- 結果として、同一人物に対して重複して定額減税が行われる可能性があります
この場合、重複して定額減税を受けたことだけを理由に確定申告をする必要はありません。ただし、確定申告が必要な条件(給与収入が2,000万円を超える、給与を2か所以上から受けている、給与所得や退職所得以外の所得が20万円を超えるなど)に該当する場合は、確定申告が必要です。
確定申告をする場合は、所得税の総額から最終的な定額減税額(本人分の3万円と扶養親族の分)を差し引いて精算します。
複数の年金を受け取っている場合
複数の年金を受け取っている方(例:老齢基礎年金と企業年金など)の場合も、それぞれの年金から源泉徴収される税額に対して定額減税が適用されます。
この場合も、重複して定額減税を受けたことだけを理由に確定申告をする必要はありません。ただし、確定申告をする場合は、所得税の総額から最終的な定額減税額を差し引いて精算します。
不動産所得や事業所得などがある場合
年金と併せて不動産所得や事業所得などがある方の場合:
- 年金からの源泉徴収税額からは通常通り定額減税が適用されます
- 不動産所得や事業所得については、確定申告時に精算されます
- 確定申告では、所得税の総額から最終的な定額減税額を差し引きます
不動産所得や事業所得がある場合は、原則として確定申告が必要です。その際に、年金で既に受けた定額減税との調整が行われますので、重複して減税を受けることはありません。
計算上の注意点
複数の所得がある場合の定額減税に関する重要な注意点は以下の通りです:
- 重複控除の精算:確定申告が必要な場合、最終的な所得税額に対して正しい定額減税額を計算し直します
- 扶養親族の扱い:扶養親族がいる場合、確定申告で最終的な定額減税額が計算されます
- 所得制限の考慮:合計所得金額が1,805万円を超える場合は定額減税の対象外となります
- 住民税の減税:住民税の定額減税は、前年の所得に基づいて計算された住民税額から控除されます
特に、給与と年金の両方から減税を受けている場合でも、確定申告の要否は従来の基準(年金収入400万円以下かつ年金以外の所得20万円以下の場合は申告不要など)によって判断されますので、注意が必要です。
定額減税で控除しきれない場合の給付金制度とは?年金受給者が知っておくべきポイント
所得税や住民税の額が少なく、定額減税分を十分に控除できない場合のための給付金制度について解説します。
調整給付金の概要
調整給付金とは、定額減税で控除しきれない金額がある場合に、その差額を給付金として支給する制度です。これは、所得が少なく税額が小さい方でも、定額減税の恩恵を受けられるように設けられた措置です。
具体的には:
- 本人と扶養親族の人数から計算される定額減税可能額が、実際の所得税・住民税額を上回る場合
- その差額(控除しきれない金額)を1万円単位で切り上げて給付金として支給します
- 給付金の支給は、市区町村が行います
例えば、年金受給者本人と配偶者の世帯で、本来8万円の定額減税を受ける権利があるにもかかわらず、所得税と住民税の合計が5万円しかない場合、控除しきれない3万円分が給付金として支給されます。
年金受給者が受け取る給付金の手続き
調整給付金を受け取るためには、基本的に以下のような手続きが必要です:
- 市区町村からの案内(確認書)が届きます
- 必要事項を記入してお住まいの市区町村に返送するか、オンライン申請します
- 市区町村による審査後、給付金が支給されます
通常、公的年金等の源泉徴収票に「控除外額(控除していない額)」として記載された金額が、給付金の対象となる可能性があります。
ただし、自治体によって手続きの方法や時期が異なる場合がありますので、お住まいの市区町村からの通知を必ず確認してください。また、市区町村が定める申請期限内に手続きを行う必要があります。
住民税非課税世帯や低所得者向けの給付金
定額減税とは別に、住民税非課税世帯や低所得者向けの給付金制度も実施されています。年金受給者で以下に該当する方は、これらの給付金を受け取れる可能性があります:
- 住民税非課税世帯:1世帯あたり10万円(2023年の夏以降に支給された3万円と合わせて)
- 住民税均等割のみ課税世帯:1世帯あたり10万円
- 子育て世帯への加算:上記世帯で18歳以下の子どもがいる場合、子ども1人あたり5万円が加算
これらの給付金は、定額減税とは別の制度ですが、低所得の年金受給者にとっては重要な経済的支援となります。対象者には市区町村から案内が届きますので、期限内に手続きを行ってください。
注意すべきポイント
定額減税や関連する給付金制度に関する注意点は以下の通りです:
- 申請期限:給付金の申請には期限があるため、市区町村からの通知を見逃さないよう注意してください
- 追加給付の可能性:2023年と比較して所得に変動があった場合など、不足額が判明した場合は追加で給付される場合があります
- 自治体独自の要件:市区町村によっては、給付金に独自の要件を設けている場合がありますので、案内をよく確認してください
- 控除外額の確認:年金の源泉徴収票の「控除外額」の記載を確認し、給付金の対象となる可能性があれば、市区町村に問い合わせることも検討してください
定額減税と給付金制度を合わせて活用することで、年金受給者の方々の経済的負担を軽減することができます。各制度の内容をよく理解し、必要な手続きを適切に行うことが重要です。
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