アシックスとミズノ厚底シューズ徹底比較!2026年箱根駅伝で見えた違い

社会

アシックスとミズノの厚底シューズは、設計思想と走法への適性が根本的に異なります。アシックスは片足129gという超軽量化を追求した「METASPEED RAY」を筆頭に、ランナーの走法に合わせた複数のモデルを展開しています。一方ミズノは、実測61mmという規格外の厚さと独自のSSA形状を持つ「WAVE REBELLION PRO 3」で、強烈な反発力による推進力を重視しています。2026年1月2日・3日に開催された第102回箱根駅伝では、アシックスが着用率28.5%でシェア2位を獲得し、2021年の「着用者ゼロ」から劇的なV字回復を遂げました。この記事では、両ブランドの最新厚底シューズについて、技術的な特徴から実際のレースでの選択傾向、そして市民ランナー向けモデルまで、徹底的に比較解説していきます。

アシックスとミズノ 厚底シューズの設計思想とは

アシックスとミズノは、ともに日本を代表するスポーツメーカーですが、厚底ランニングシューズに対するアプローチは全く異なる方向性を示しています。

アシックスは「軽さは正義」という哲学のもと、足の末端重量を極限まで削ぎ落とすことでランニングエコノミーの改善を目指しています。この考え方は、F1マシンの設計思想に近いものがあります。素材の反発性も重要視していますが、それを阻害しない範囲で徹底的に軽量化を追求するという姿勢が特徴的です。特に2021年の箱根駅伝で着用者がゼロになるという屈辱的な事態を経験したことで、社長直轄の「C-Project」が発足し、科学的アプローチによる製品開発が加速しました。

一方のミズノは「反発こそ正義」という信念を貫いています。多少重くなったとしても、規格外の厚さと反発力があれば、重量のデメリットを相殺して余りある推進力が得られるという発想です。シューズの質量を、位置エネルギーと運動エネルギーの変換装置として積極的に活用するという、高出力エンジンを搭載したマッスルカーのような思想と表現できます。

この根本的な設計思想の違いが、両社の厚底シューズの特性を大きく分けています。アシックスは軽さを武器にレース後半のペース維持を容易にし、ミズノは強烈な反発で一歩一歩の推進力を最大化するという、対照的なアプローチを採用しているのです。

アシックスの厚底シューズ「METASPEED」シリーズの特徴

アシックスの厚底シューズを語る上で欠かせないのが、METASPEEDシリーズです。2026年モデルでは、超軽量の「METASPEED RAY」と、主力ラインの「METASPEED SKY TOKYO」「METASPEED EDGE TOKYO」という3つのモデルが展開されています。

METASPEED RAYが示す超軽量化の新境地

METASPEED RAYは、アシックスの2026年シーズンにおける最大のトピックと言える超軽量モデルです。片足わずか129g(27.0cm基準)という重量は、従来の厚底レーシングシューズが一般的に180gから220g程度であることを考えると、常識を根底から覆す数値となっています。

この驚異的な軽量化を実現した核心技術が、新開発のミッドソール素材「FF LEAP」です。従来の「FF TURBO」と比較して、約15%の軽量化を達成しながら、反発性を13.7%向上させることに成功しました。通常の開発では、軽量化と反発性・耐久性はトレードオフの関係にありますが、アシックスは化学的な組成を見直すことで、この二律背反を克服しています。

軽量化のためのもう一つの大きな変更点が、カーボンプレートの形状です。従来の厚底シューズの多くがフルレングス(かかとからつま先まで)のプレートを採用しているのに対し、RAYでは3/4レングス(中足部から前足部のみ)のプレートを採用しています。ヒール部分のプレートを排除することで重量を削ぎ落とすと同時に、前足部での蹴り出し局面に特化した推進力を生み出すことが狙いです。

ただし、この設計には明確なトレードオフがあります。かかと着地を行うランナーや、レース後半に疲労でフォームが崩れて後傾したランナーにとっては、ヒール部分の剛性と安定性が犠牲になっているため、不安定な挙動を示す可能性があります。開発チーム自身が「トップアスリート向け」と明言している通り、METASPEED RAYは使い手を選ぶシューズなのです。

METASPEED SKY TOKYOとEDGE TOKYOの走法別アプローチ

アシックスのMETASPEEDシリーズの根幹をなす思想は、「ランナーが靴に合わせるのではなく、靴がランナーの走法に合わせる」というものです。主力ラインである「SKY」と「EDGE」は「TOKYO」シリーズとして刷新され、より精緻なパーソナライズ化が図られています。

METASPEED SKY TOKYOは、ストライド(歩幅)を伸ばすことで速度を上げるランナー向けに設計されています。カーボンプレートはミッドソールの上部にフラットに配置されており、着地時のフォーム変形を利用して垂直方向への反発力を最大化します。これにより滞空時間を延ばし、より大きなストライドを生み出すことができます。

METASPEED EDGE TOKYOは、ピッチ(回転数)を上げることで速度を上げるランナー向けです。カーボンプレートはスプーン状に湾曲して配置されており、前方への転がり抵抗を減らすことで、スムーズな足の回転をサポートします。ランナーはリズムを崩すことなく、効率的にピッチを維持・向上させることが可能となります。

TOKYOシリーズでは、RAYで使用された「FF LEAP」をトップ層に、従来の「FF TURBO+」をボトム層に配置するハイブリッド構造を採用しています。RAYほどの軽さ(TOKYOは約170g)ではありませんが、優れた安定性と耐久性を確保しており、箱根駅伝のような長丁場かつ過酷なコースにおいては、多くの選手がTOKYOシリーズを選択する要因となりました。

ミズノの厚底シューズ「WAVE REBELLION PRO 3」の革新性

ミズノのWAVE REBELLION PRO 3は、ランニングシューズの「形状」に対する既成概念を完全に破壊する革新的なモデルです。シェア争いにおいてはアシックスに後れを取っていますが、その技術的アプローチの大胆さにおいては、むしろ他社を凌駕しています。

61mmの厚さを実現するSSA形状の仕組み

WAVE REBELLION PRO 3の最大の特徴は、そのスタックハイト(ソールの厚さ)にあります。世界陸連の規定では、ロードレース公認シューズのソール厚は「40mm以下」と定められています。しかし、WAVE REBELLION PRO 3のヒール部分の実測値は、驚くべきことに約61mmにも達します。

この一見不可能に思える仕様が公認レースで使用可能な理由は、ミズノの「ルールの解釈」と「幾何学的なトリック」にあります。世界陸連のルールでは、ソールの厚さを計測するポイントが厳密に定義されています。ミズノは、この計測ポイントにあたる部分のソールを極端に削ぎ落とすベベル加工を施すことで、計測点上の厚さは40mm未満(約39.9mm)に抑えつつ、実際にランナーが体重を預けるポイントには60mm以上のフォームが存在するという構造を実現しました。

この「Smooth Speed Assist(SSA)」と呼ばれる独特な形状は、単なるルール逃れではありません。かかとを物理的に「無くす」ことで、ランナーは強制的にヒールストライク(かかと着地)ができなくなります。これにより、ミッドフットからフォアフットでの接地が半ば強制され、ふくらはぎの筋肉への負担を軽減しつつ、厚底フォームの反発を最大限に利用する走法へと誘導されるのです。

2026年モデルのPRO 3では、このSSAがさらに進化しました。前作PRO 2ではかかとの削ぎ落としが中足部付近まで及んでいましたが、PRO 3ではベベルの開始位置が調整され、よりアグレッシブな前傾姿勢を促す形状となっています。接地した瞬間、ランナーの重心はコロンと前方に転がり、60mm厚のスーパーフォームが圧縮・反発することで、まるでトランポリンの上を走っているかのような推進力が生まれます。

MIZUNO ENERZY XPとカーボン注入ナイロンプレートの素材革命

WAVE REBELLION PRO 3は形状だけでなく、素材面でも大きな進化を遂げています。ミッドソールには、超臨界流体発泡成形されたPEBA系素材「MIZUNO ENERZY XP」が全面的に採用されています。この素材は軽量でありながら極めて高いエネルギーリターン率を誇り、60mmという厚みがあっても沈み込みすぎず、強烈なバネのような反発を返します。

興味深いのは、ミズノが純粋なカーボンプレートではなく、カーボン繊維を注入したナイロン製の「WAVE PLATE」を採用している点です。60mmもの厚みがあるソールに剛性の高すぎるフルカーボンプレートを入れると、シューズ全体が硬くなりすぎて足への負担が大きくなり、また横方向への不安定さが増大します。

ミズノは適度な柔軟性(しなり)を持つナイロンベースのプレートを採用し、さらにその形状を波型(WAVE形状)にすることで、構造的な剛性と安定性を確保しました。これにより、超厚底特有の「横ブレ」を抑制し、前方への推進力へと効率的に変換しています。

アシックスとミズノ厚底シューズの詳細比較

両ブランドの厚底シューズを具体的な数値と特性で比較すると、その設計思想の違いがより明確になります。

重量とスタックハイトの比較

項目アシックス METASPEED RAYミズノ WAVE REBELLION PRO 3
重量(27.0cm)129g218g
ヒール高さ約40mm約61mm(実測)
公認計測点の厚さ規定内約39.9mm
ドロップ非公表SSA形状により独特

この重量差は片足で約90gにもなります。長距離レースにおいて、足の末端重量は振り子の原理によりエネルギー消費に大きな影響を与えます。一般にシューズが100g軽くなればフルマラソンのタイムは分単位で短縮されると言われており、アシックスはこの理論値を極限まで追求しています。

一方でミズノは、重量のデメリットを60mm超の厚底フォームが生み出す反発力で相殺するという考え方を採用しています。両社のアプローチは対極にありながら、どちらも「速く走る」という同じゴールを目指しているのです。

プレート構造と安定性の違い

両モデルとも一般的なランニングシューズと比較すれば不安定ですが、その質は大きく異なります。

アシックスのMETASPEED RAYは、アッパーが極薄でソール幅も狭く、ヒールカウンターもほとんどありません。このシューズの不安定さは「構造の省略」によるものです。ランナーは自らの足首と体幹の筋力で着地を安定させる必要があり、高い身体能力を持つエリートのみが乗りこなせる特性を持っています。

ミズノのWAVE REBELLION PRO 3の不安定さは「意図された形状」によるものです。かかとが無いゆえに静止状態では後ろに倒れそうになりますが、走り出せばSSAのジオメトリーがレールのように足をガイドします。ランナーが制御するというよりは、シューズの軌道に「乗せられる」感覚に近く、ある種のリズム強制力を持っています。

価格と耐久性の比較

METASPEED RAYは税込33,000円、TOKYOシリーズは29,700円という価格設定です。WAVE REBELLION PRO 3は250ドル(日本円で3万円台後半と推測されます)となっています。いずれも高価格帯ですが、用途と耐久性には違いがあります。

アシックスのRAYは耐久性を犠牲にした決戦用モデルであり、寿命の目安は300km程度と言われています。一方ミズノはアウトソールに耐久性の高いG3ソールを使用しており、比較的長く使える可能性があります。

箱根駅伝2026でのシェアと選手の選択傾向

第102回箱根駅伝における両ブランドのシェアは、その特性と市場での位置づけを如実に表しています。

アシックスは着用率28.5%(54名)を獲得し、トップシェアのアディダス(36.2%、76名)に次ぐ2位となりました。2021年の第97回大会で着用者が「ゼロ」という事態に陥ってからわずか5年で、ここまでのV字回復を遂げたことは特筆に値します。

アシックスがシェアを伸ばした背景には、ラインナップの多様性があります。「一発の速さ」を求める区間ではMETASPEED RAYが、「安定してペースを刻む」区間ではMETASPEED EDGE TOKYOが、「ダイナミックな走り」が求められる区間ではMETASPEED SKY TOKYOが選ばれました。特に山下りの6区や疲労が蓄積する復路の区間においては、安定性が勝敗を分ける鍵となるため、TOKYOシリーズを選択する選手が多かったと考えられます。

一方ミズノの着用者は0.5%(1名)にとどまりました。しかし、この数字を単純に「敗北」と見なすべきではありません。現代の箱根駅伝では各大学がメーカーと包括的なスポンサー契約を結ぶケースが増えています。そうした中で他ブランドの圧倒的なシェアの中からミズノを選択して出走することは、その選手が同社のシューズに対して絶大な信頼を寄せていることの証明と言えます。

ミズノはシェアの拡大よりも、独自の技術的特異点の創出に注力しています。WAVE REBELLION PRO 3の218gという重量は、アシックスのRAY(129g)と比較すると片足で約90gの差があり、長距離レースでは無視できない要素です。また、SSA形状はフォアフット・ミッドフット走法が完成しているランナーには強力な武器となりますが、レース後半に疲労してヒールストライク気味になるランナーにとっては、かかとが無い構造がリスクとなる可能性があります。チームの責任を背負って走る箱根駅伝では、多くの選手が「爆発力」よりも「失敗しない安定感」を選んだと分析できます。

市民ランナー向け厚底シューズの展開

箱根駅伝を走るエリートだけでなく、サブ3からサブ4を目指す市民ランナーにとっても、両社の技術は還元されています。

アシックスのS4+ YOGIRIとMAGIC SPEED 5

アシックスはエリート以外の層に対しても手厚いラインナップを用意しています。

「Sub 4(4時間切り)」を達成するためだけに開発された日本市場独自のモデル「S4」が、2026年に「S4+ YOGIRI」として進化しました。フルレングスのカーボンプレートを搭載しながら、あえて反発性をマイルドにして安定性を高めています。METASPEEDシリーズの技術を継承しつつ、ヒールストライクに対応した8.5mmドロップを採用しており、後半に足が止まりそうになってもシューズがブレを防いで前へ進めてくれる、まさに「サブ4請負人」と呼べるモデルです。価格も22,000円前後と、トップモデルより抑えられています。

エリートの練習用または中級者のレース用として人気のMAGIC SPEEDも第5世代となりました。トップモデルと同じ「FF LEAP」を上層に採用しつつ、下層に耐久性のある「FF BLAST PLUS」を配置しています。フルレングスのカーボンプレートを搭載しながら価格は180ドル(約2万円台後半)と競争力があり、METASPEEDの感覚をより安価に、より高耐久に体験できるため、部活生やシリアス市民ランナーのポイント練習用として最適です。

ミズノのWAVE REBELLION FLASH 3

ミズノはトップモデル「PRO 3」の設計思想をトレーニングモデルにも落とし込んでいます。WAVE REBELLION FLASH 3は、PRO 3と同様にヒール部分を削ぎ落としたSSA形状を採用していますが、プレートにはガラス繊維入りナイロンを使用してマイルドな反発感に調整されています。

このモデルは単なる廉価版ではなく、PRO 3を履きこなすための「フォーム養成シューズ」としての側面が強いです。フォアフット着地の感覚を養うためのトレーニングや、短めの距離のレースに適しています。サブ4を目指すランナーがレース本番で使うには少々アグレッシブすぎる可能性がありますが、スピード強化のツールとしては優秀な選択肢となります。

ランナータイプ別おすすめシューズの選び方

最後に、ランナーのタイプや目標別に、アシックスとミズノのどちらを選ぶべきか整理します。

自己ベスト更新を狙うシリアスランナーの場合

1秒を削り出すことを目指すシリアスランナーには、アシックスのMETASPEED RAYまたはTOKYOシリーズを試すことをおすすめします。特にRAYの軽さは、レース後半の「足の残り方」を劇的に変える可能性を秘めています。ストライド型のランナーはSKY TOKYO、ピッチ型のランナーはEDGE TOKYOと、自分の走法に合わせた選択が可能です。ただし、RAYについては十分な筋力トレーニングによる身体の強化もセットで考える必要があります。

新しい走りの感覚を求める探求者の場合

これまでのシューズに飽き足らず、新しい体験を求めるランナーには、ミズノのWAVE REBELLION PRO 3が最高のパートナーとなり得ます。その転がり感と反発力は、走る楽しさを再発見させてくれるでしょう。ただし、フォアフット走法への適応期間を十分に設けることが重要です。いきなり長距離レースで使用するのではなく、短い距離から徐々に慣らしていくアプローチが推奨されます。

サブ4やサブ3.5を目指す堅実派の場合

確実に目標を達成したい堅実派ランナーには、アシックスのS4+ YOGIRIやMAGIC SPEED 5が最も安全で確実な選択肢となります。エリートモデルのスペックに惑わされず、自分の走力と目的に合った「安定性」を選び取ることが、目標達成への近道です。これらのモデルはトップモデルの技術を継承しながらも、幅広いランナーが恩恵を受けられるよう調整されています。

厚底シューズ市場の今後の展望

第102回箱根駅伝の結果と両社の最新モデルの分析から、ランニングシューズ市場には新たなトレンドが見えてきています。

アシックスのMETASPEED RAYが示した「129g」という数値は、一度は厚底ブームで忘れ去られていた「軽さ」の重要性を再認識させました。今後は厚底のクッション性を維持したまま、いかに重量を削れるかという「素材戦争」が激化すると予想されます。FF LEAPのような新素材の開発競争が、次のブレイクスルーを生む鍵となるでしょう。

ミズノのWAVE REBELLION PRO 3は、シューズの「形」そのものが機能を持つことを証明しました。世界陸連のルールといたちごっこのように、ルールの隙間を突く独創的な形状が今後も登場し続ける可能性があります。

2026年の「足元の戦い」は、アシックスの復権とミズノの挑戦によって、かつてないほど多様でエキサイティングな状況を迎えています。ランナーは単にブランドで選ぶのではなく、「自分の走法に合った形状はどれか」という視点でシューズを選ぶ時代になりました。技術の進化は止まりません。私たちランナーは、その進化を楽しみながら、自らの足で新たな記録に挑み続けることができるのです。

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