障害年金の認定基準見直しで不支給急増!総合評価の実態と対策

社会

障害年金の認定基準は、2024年から2025年にかけて大きな見直しが行われ、特に精神障害や発達障害の審査において総合評価の運用が厳格化されました。この変化により、従来であれば受給が認められていた事例でも不支給となるケースが急増しており、申請者や支援者の間で「不支給ショック」と呼ばれる深刻な事態が生じています。本記事では、障害年金の認定基準見直しの実態と総合評価の仕組み、そして厳格化された審査環境において受給を勝ち取るための実践的な戦略について、厚生労働省の調査報告書や専門機関の声明に基づき詳しく解説します。

障害年金は、病気や事故、先天的な障害によって就労や日常生活が困難となった方々にとって、経済的な生存権を保障する「最後のセーフティネット」としての役割を担っています。しかし、近年の審査運用の変化により、この制度の恩恵を受けることが以前よりも難しくなっているのが現実です。特に精神障害や発達障害を有する申請者に対する審査では、数値的な基準が厳格に適用される傾向が強まっており、個別の事情を考慮した柔軟な判定が行われにくくなっています。

障害年金の認定基準見直しで不支給が急増した背景とは

2024年度から2025年にかけて、障害年金の実務現場で最も注目されたのは、精神障害および発達障害にかかる新規裁定請求における不支給決定の異例の増加です。一部の報道や関係機関のデータによれば、特定の時期において不支給となるケースが前年度比で約2倍に達したとも報じられており、これは統計上の自然な変動の範囲を明らかに超えています。

この不支給率の急増は、単に申請件数が増えたことによるものではありません。審査の基準適用の強度そのものが変化したことを強く示唆しています。具体的には、日本年金機構内部において、審査の「平準化」や「適正化」を名目とした引き締めが行われた可能性が指摘されています。報道によれば、地域ごとの認定のばらつきを是正するため、医師に対して厳格な判定を促すような内部文書の存在や、判定傾向の誘導があったとの指摘もなされました。

こうした背景から、従来であれば個別の事情を鑑みた総合評価によって受給が認められていたグレーゾーンの事例が、数値的な目安を機械的に適用されることで、3級相当(基礎年金では不支給)あるいは非該当へと判定が厳格化される流れが定着しつつあります。

厚生労働省の調査報告書が明らかにした衝撃の実態

こうした事態を受け、厚生労働省は「令和6年度の障害年金の認定状況についての調査報告書」をまとめました。この報告書には、不支給判定の実態を読み解くための極めて重要なデータが含まれています。

報告書において分析対象となった不支給事案85件の内訳を見ると、驚くべき傾向が浮かび上がります。ガイドライン上の「目安」において「2級以上」とされていたにもかかわらず、実際には下位等級に認定され、結果として不支給となったケースが32件あり、全体の37.6%を占めていました。さらに、目安が「2級または3級」といったようにボーダーラインの事案において、下位等級(不支給)に認定されたケースも同じく32件で37.6%に達しています。

これらを合計すると、不支給となった事案の約75.3%が、「目安」が本来示唆していた等級よりも低い評価、あるいはボーダーライン上の厳しい方の評価を下された結果であることが判明しました。残りのケースには、目安通りに不支給となったもの(12.9%)や、てんかん発作の頻度等が基準を満たさなかったその他のケース(11.8%)が含まれますが、圧倒的多数は「目安よりも厳しく判定された」事例であることがわかります。

等級判定ガイドラインの功罪と運用の問題点

障害年金の認定基準見直しにおいて、問題の核心となるのが「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の存在と、その運用方法です。このガイドラインは、精神障害の等級判定における公平性を確保するために導入されたもので、診断書に記載された「日常生活能力の判定(7項目)」と「日常生活能力の程度(5段階)」を数値化し、その組み合わせによって等級の「目安」を算出する仕組みとなっています。

本来、このガイドラインはあくまで「目安」であり、最終的な等級決定は、診断書の備考欄や日常生活の具体的記述、病歴・就労状況等申立書の内容を加味した「総合評価」によって行われるべきものと定義されています。しかし、前述の調査結果が示す通り、現場の運用ではこの「目安」が事実上の「上限基準」として機能してしまっている懸念があります。

特に深刻なのは、「目安」が2級相当であっても、就労している事実や独居である事実をもって「能力あり」とみなされ、総合評価の名の下に等級が下げられるケースが常態化しているのではないかという点です。数値化できない「生きづらさ」を拾い上げるはずの総合評価が、逆に「数値を下回る等級をつけるための理由付け」に使われているというパラドックスが、2025年の障害年金制度における最大の論点となっています。

総合評価のメカニズムと審査がブラックボックス化している問題

障害年金の審査における総合評価とは、診断書の数値データだけでは把握しきれない申請者の障害の実態を、定性的な情報を加味して全人的に判断するプロセスのことです。人間の精神活動や生活能力は、単純な数値やチェックリストだけで完全に把握することは不可能であるため、制度の柔軟性を担保する上で不可欠な仕組みとなっています。

総合評価で考慮される5つの要素

精神の障害に係る等級判定ガイドラインや関連する審査実務の指針では、目安となる等級が算出された後、主に5つの要素を考慮して最終的な等級を決定するとされています。

第一の要素は「現在の病状・状態像」であり、症状の重さや持続性、変動の有無が問われます。第二は「療養状況」で、通院頻度や服薬内容、治療に対する反応性が評価されます。第三は「生活環境」であり、単身か同居か、家族のサポートの有無、福祉サービスの利用状況が考慮されます。第四は「就労状況」で、労働能力、職場での配慮の有無、就労の安定性が極めて重要な要素となります。そして第五に、特に知的障害や発達障害の場合には、発育歴や教育歴などが加味されます。

本来、これらの要素は、数値だけでは軽度に見えてしまう障害の実態を補正し、申請者を救済するための「加点要素」として機能するはずでした。例えば、数値上は「日常生活能力の程度」が(3)であっても、家族の献身的な常時サポートがなければ生活が破綻している場合や、職場で特例的な配慮を受けて辛うじて雇用が継続されている場合などは、総合評価によって上位等級に認定される余地があったのです。

審査の不透明性と恣意性への懸念

2025年の議論において焦点となったのは、この総合評価が、申請者にとって有利に働く「救済」ではなく、むしろ不支給を正当化するための「調整弁」として使われているのではないかという疑念です。日本弁護士連合会(日弁連)や患者団体、日本自閉症協会などが相次いで声明を発表し、審査の透明性確保と恣意的な不支給判定の排除を求めているのは、まさにこの点に危機感を抱いているからです。

審査における最大の問題点は、認定医がどのような論理で「総合評価」を行い、等級を決定したのかというプロセスが、外部からは完全なブラックボックスになっていることです。不支給通知書等の理由付記において、「総合的に判断した結果、○級には該当しない」という定型的な文言だけで処理されてしまえば、請求者は具体的にどの要素が不足していたのかを知ることができず、効果的な反論や再請求を行うことが極めて困難となります。

厚生労働省や日本年金機構は、こうした批判に応える形で、審査書類の丁寧な記載や不利益処分の理由付記の改善を進める方針を示しています。具体的には、認定医が等級決定に至った理由をより詳細に記録することや、認定事例の公表などが進められていますが、その実効性は依然として検証の途上にあります。

認定医のランダム化がもたらす新たな問題

2025年の制度運用変更において、実務上大きな影響を与えているもう一つの要素が、担当認定医の決定プロセスの変更です。従来は特定の地域や事案に対して特定の認定医が継続的に担当する傾向も見られましたが、審査の公平性を担保し、特定の医師による偏った判断を排除する目的で、担当認定医を無作為(ランダム)に決定する方式への移行が進められています。あわせて、認定医に関する情報の非開示化も強化されました。

この改革は一見、公正な審査に寄与するように見えます。しかし、現場の専門家の間では、これが「専門性のミスマッチ」を生むリスクを孕んでいるとの指摘も根強くあります。精神科領域と一口に言っても、統合失調症、うつ病などの気分障害、知的障害、発達障害、高次脳機能障害など、その特性は多岐にわたります。ランダム化によって、当該障害の特性に詳しくない医師が審査を担当した場合、微妙なニュアンスや生活上の困難さが見過ごされる恐れがあるのです。

例えば、発達障害特有の「一見すると流暢に会話ができ、知能も高いが、臨機応変な対応が全くできず、社会生活で重大な摩擦を生じさせている」といった特性は、専門外の医師から見れば「会話も成立しており、問題なし」と判断されかねません。このように、医師の専門性と担当事案が一致しないことによる「判定の質の低下」が、総合評価の形骸化を加速させ、結果として不支給率の上昇に寄与している可能性は否定できません。

就労していると障害年金は受給できないのか

障害年金の認定実務において、最もセンシティブかつ誤解を生みやすいのが「就労状況」の評価です。「働いているなら障害年金はもらえない」という通説は、法律上の要件としては誤りです。しかし、実務上の運用、特に精神障害の審査においては、就労の事実が審査に極めて大きな影響を与えることは厳然たる事実となっています。

ガイドラインにおける就労の位置づけ

ガイドラインや関連通知では、「就労系障害福祉サービス(就労継続支援A型、B型)や障害者雇用制度を利用している場合」や「一般企業であっても、障害に対する配慮を受けている場合」は、労働に従事していることをもって直ちに日常生活能力が向上したとは判断せず、その実態を詳細に見るべきであると明記されています。

しかし、これは建前としては存在しているものの、実際の審査では、就労している事実をもって「社会性あり」「生活能力あり」と判断されるバイアスが依然として強く残っています。この認識のずれが、「不支給ショック」の根底にある問題の一つです。

審査で重視される3つのポイント

就労している精神障害・発達障害者が障害年金を申請する際、認定医が特に注視し、審査の合否を分けるポイントは3点に集約されます。

第一のポイントは、「仕事中の状況だけでなく、日常生活の状況も併せて見ているか」という点です。職場では極度の緊張感から過剰適応して何とか業務をこなしていても、帰宅後は疲労困憊して入浴も食事もままならない、休日は一日中寝たきりである、といった「反動」が出ているケースは非常に多く見られます。審査においては、「仕事ができている」という表面的な事実だけでなく、その代償として「私生活が破綻していないか」という側面が重視されるべきですが、診断書にこの「家庭での疲弊」が記載されていなければ、審査側はそれを知る術がありません。

第二のポイントは、「職場の配慮と支援の実態」です。「一般就労」であっても、上司や同僚から業務量の調整、休憩の頻回取得、対人業務の免除、急な体調不良による欠勤の容認などの配慮を受けている場合は、それが「就労能力の制限」として評価されます。逆に言えば、これらの配慮が診断書や申立書に具体的に記載されていなければ、「通常通り勤務できている」とみなされ、等級が下がる直接的な原因となります。

第三のポイントは、「就労の継続性と安定性」です。就労期間が極端に短い、あるいは欠勤・早退・遅刻が頻発している、短期間での転職を繰り返しているといった事実は、就労能力が不安定であることの証拠となります。一時的にフルタイムで働けていても、それが長続きしない状態であれば、障害の状態は重いと判断される余地があります。審査側は直近の就労状況だけでなく、過去数年間の就労歴を見て、長期的な労働能力を判断する傾向にあります。

働きながら障害基礎年金2級を受給できた事例の特徴

実際に「働きながら障害基礎年金2級」を獲得した事例を分析すると、共通して「職場での具体的な困りごと」と「周囲のサポート」が診断書に詳細かつ具体的に反映されていることがわかります。

例えば、ある知的障害や発達障害を持つ労働者の事例では、単純作業には従事できているものの、突発的なマシントラブルに対応できずパニックになること、指示理解に時間がかかり専任の指導員が常についていること、同僚とのコミュニケーションが取れず孤立していることなどが、医師によって医学的な観点から診断書に記述されていました。これにより、就労している事実があっても、それは「保護的な環境下での限定的な就労」であると認定され、2級の受給につながったのです。

逆に、不支給となるケースでは、診断書上の就労状況欄が単に「一般就労」、勤務日数が「週5日フルタイム」となっており、備考欄に具体的な配慮事項の記載が一切ない場合が圧倒的に多いという傾向があります。

2025年の障害年金制度改正と実務的な変化

2025年度には、障害年金の支給額改定をはじめとする複数の制度変更が実施されました。これらの変更は申請者にとってプラスの側面もあれば、審査の厳格化という形でマイナスに働く側面もあります。

障害年金支給額の改定

2025年度(令和7年度)には、昨今の物価変動や賃金上昇に伴い、障害年金の支給額が前年度比で約1.9%引き上げられました。障害基礎年金2級の年額は約81万6千円(令和6年度)から増額され、受給者にとっては生活費の補填としての意義がわずかながら増しています。この1.9%という数字は、近年の物価上昇率を完全にカバーできるものではありませんが、固定収入である年金額のベースアップは、経済的に困窮しやすい障害者世帯にとっては確実なプラス材料です。

申請様式の変更と書類の質への要求の高まり

制度の運用面では、申請手続きにおける利便性向上を目的とした様式の変更も行われました。2025年6月からは、障害年金請求書の様式が一部簡素化・合理化され、年金加入状況の記載がチェックボックス方式になるなど、申請者の事務負担軽減が図られています。また、「事前確認票」の改正により、請求傷病名の記載欄が拡張され、複数の障害を併発している場合の申請のしやすさにも配慮がなされました。

しかし、こうした表面的な利便性の向上とは裏腹に、審査の実質的なハードル、すなわち「書類の質」に対する要求はかつてないほど高まっています。日本年金機構や厚生労働省は、審査の適正化の一環として「審査書類の丁寧な記載」を推進しています。これは、行政側が不支給理由等を丁寧に書くという意味だけでなく、請求者側に対しても「正確かつ詳細、そして矛盾のない情報提供」を求めるシグナルと解釈すべきです。

以前であれば多少の記載漏れや整合性の不備があっても認定されていたような事案でも、現在は厳しくチェックされるようになっています。特に、診断書の「現症時の状態」と、病歴・就労状況等申立書の「日常生活の状況」に矛盾がある場合は、審査が保留されたり、低い等級に認定されたり、あるいは診断書の記載が優先されて不支給となるリスクが高まっています。

初診日要件の見直しに関する議論

2025年の段階で議論が進められているテーマとして、障害厚生年金における「初診日要件」の見直しがあります。現行制度では、初診日に厚生年金に加入していなければ、手厚い保障のある障害厚生年金(3級を含む)は受給できません。しかし、退職後に症状が悪化した場合などの救済措置について、社労士や専門家の間で活発な議論が行われています。

具体的には、「保険事故の発生時点(障害認定日)」を重視する考え方や、過去に長期の厚生年金加入期間があれば、初診日が国民年金期間中であっても厚生年金の受給権を認めるべきだという議論です。これが実現すれば、これまで障害基礎年金(2級以上)のハードルが高すぎて無年金となっていた層が、より受給しやすい障害厚生年金の対象となる可能性があり、制度の大きな転換点となりうると注目されています。

日弁連や当事者団体が声をあげた障害年金認定基準の問題点

2025年は、障害年金制度に対する社会的監視の目がかつてないほど厳しくなった年でもあります。法律の専門家や当事者団体から、現行の審査体制に対する強い批判の声が上がりました。

日弁連による会長声明の発表

日本弁護士連合会(日弁連)は2025年7月、「障害認定基準等を見直し、障害年金について公平な制度の構築を求める会長声明」を発表しました。この声明において日弁連は、現在の認定基準や運用が不透明であり、受給権が不当に侵害されている可能性があると強く指摘しました。厚生労働省内に専門家検討会を設置すること、認定の透明性を確保すること、そして不支給判定の理由を明確にすることを強く求めています。

当事者団体からの異議申し立て

DPI日本会議や全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)、日本自閉症協会などの主要な当事者団体も同様の声明を発表しました。特に知的障害の判定において、状態変動が少ないにもかかわらず更新時に等級が下げられる問題や、発達障害の特性が十分に評価されていない現状に対して異議を申し立てています。

これらの団体は、認定医単独による閉鎖的な審査ではなく、ソーシャルワーカーなどを含めた多職種による合議体(チーム審査)の導入を提案しており、従来の医学モデル偏重の審査からの脱却を訴えています。

国会での議論と政府の対応

国会においても、この問題は取り上げられました。2025年6月の厚生労働委員会において、野党議員から「障害年金の認定はブラックボックスである」との指摘がなされ、透明性の向上が政府に強く迫られました。これに対し政府側は、認定事例集の公表やガイドラインの周知徹底で対応すると答弁していますが、第三者機関による監視など、抜本的な審査体制の改革には慎重な姿勢を崩していません。

この政治的・社会的な圧力は、現場の審査にも複雑な影響を与えています。一方で会計検査院等からの「適正化」の圧力がかかりつつ、他方で「不当な不支給は許されない」という市民社会からの監視の目が光る状況下で、審査員は極めて慎重かつ防衛的な判断を求められることになります。結果として、審査期間の長期化や、詳細な追加資料の要求増加といった形で、申請者に負担が転嫁されている側面も否定できません。

厳格化した審査環境で障害年金を受給するための実践戦略

以上の厳しい状況を踏まえ、これから障害年金を申請する、あるいは更新を迎える当事者が意識すべき実践的な戦略について解説します。

総合評価を味方につけるための情報武装

総合評価がブラックボックス化している現状において、申請者ができる最大の防御は「判断材料を過不足なく、かつ戦略的に提示すること」に尽きます。認定医は会ったこともない申請者の生活を、提出された書類の文字情報だけで想像し、判定しなければなりません。したがって、書類に書かれていない苦労は、審査上「存在しない」ものとして扱われてしまいます。

具体的には、病歴・就労状況等申立書において、日常生活の「できない」を徹底的に具体化することが重要です。「家事ができない」と一行書くのではなく、「火の不始末が怖くてガスコンロを使えず、すべての食事をコンビニ弁当か家族の調理に頼っている」「入浴は週に1回、家族に強く促されてようやく入れる状態で、洗身も不十分であるため皮膚トラブルが絶えない」といったように、具体的なエピソード、頻度、そして誰のどのような介助があるかを記述します。これにより、数値上の評価が実態としてはより重い状態であることをアピールできます。

就労の実態については、「配慮」の観点から記述することが効果的です。単に職種を「事務職」とするのではなく、「電話応対が不可であるため全面的に免除されている」「始業時間を30分遅らせる特別措置を受けている」「上司との面談が週1回設けられ、タスク管理の支援を受けている」など、健常者とは異なる特別な労働条件であることを明記するのです。

医師とのコミュニケーションの重要性

診断書を作成するのは医師ですが、医師は患者の家庭での様子を詳細には知らない場合が多いという点を認識する必要があります。特に精神科の短時間の診察では、患者が医師に気を使って「調子はどうですか?」と聞かれて反射的に「大丈夫です」と答えてしまうこともあり、これがカルテに記載され、診断書に「状態安定」と書かれる致命的な原因となることがあります。

これを防ぐためには、診察時にメモを持参し、「最近、食事がとれていない」「夜眠れず、昼間動けない」「家族に当たってしまいトラブルになった」といった具体的な生活上の支障を医師に伝えることが不可欠です。可能であれば、家族や支援者が同席し、客観的な状態を伝えることも有効です。

また、社労士などの専門家に依頼し、医師への依頼状(日常生活状況の参考資料)を作成してもらうことも、診断書の精度を高める上で極めて有効な手段となります。医師に対して、診断書の記載内容がいかに審査に影響するかを理解してもらい、実態に即した内容を書いてもらうための協力関係を築くことが、受給への近道です。

不支給決定を受けた場合の対処法

万が一、不支給となった場合でも、あきらめずに審査請求(不服申し立て)を行う権利があります。2025年の法改正議論の中で、審査請求における審理の透明性向上も叫ばれており、認定調書(どのような判断で等級を決めたかの行政内部の記録)の開示請求を行うことで、審査の矛盾点を突くことができる場合があります。

また、一度不支給になっても、症状が悪化した時点で再請求を行う「事後重症請求」という道も残されています。この際も、前回の不支給理由を徹底的に分析し、不足していた情報を補強して挑むことが重要です。

障害年金認定基準見直しの今後の展望

2025年における障害年金の認定基準をめぐる状況は、「制度の持続可能性を求めた適正化という名の厳格化」と「生存権としての権利擁護を求める市民社会」の対立の構図の中にあります。統計データが如実に示す不支給率の上昇は、国が財政的な引き締めを図り、ガイドラインの数値を盾にして支給を抑制しようとする傾向を示しています。一方で、日弁連や当事者団体の活発な活動は、この制度が単なる行政の恩恵ではなく、憲法25条に根ざした国民の権利であることを再確認させる力となっています。

今後の見通しとしては、いくつかのトレンドが継続すると予測されます。まず、数値基準の厳格適用は続くでしょう。ガイドラインの目安等級がより重視され、そこから逸脱する認定にはより強固な理由付けが求められるようになります。次に、就労要件の精緻化が進みます。働く障害者に対する審査は、より一層「どのような配慮下にあるか」「労働の質はどうであるか」という質的評価に焦点が当たるようになります。そして、専門家の介在価値が増大します。複雑化・厳格化し、かつ不透明な審査に対応するためには、社労士等の専門家によるサポートや、医師との密な連携の必要性がますます高まります。

障害年金は、本来、障害によって生活の糧を得ることが困難になった人々を支える希望の光であるべきです。その認定プロセスが、運や担当医の当たり外れに左右される不透明なものであってはなりません。制度を利用する側としては、この激動の時期において、制度の仕組みを正しく理解し、自身の置かれた状況を客観的かつ論理的に証明する力を養うことが、自らの生活と尊厳を守る最大の武器となるでしょう。

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