生活保護と持ち家の関係について、多くの方が「持ち家があるから生活保護は受けられない」と思い込んでいるのではないでしょうか。実際には、この認識は完全に正しいとは言えません。生活保護制度は、日本国憲法第25条に基づく生存権を具体化した重要なセーフティネットであり、生活に困窮するすべての国民に対して最低限度の生活を保障する制度です。持ち家を所有していても、一定の条件を満たせば生活保護を受給することは可能です。厚生労働省の調査によると、生活保護受給世帯の約3%(4万6,887世帯)が実際に持ち家を保有しています。この事実からも分かるように、持ち家の所有と生活保護受給は必ずしも相反するものではありません。重要なのは、個々の状況に応じて適切な判断がなされることです。本記事では、持ち家と生活保護の関係について、具体的な条件や注意点を詳しく解説し、皆様の疑問にお答えします。

持ち家があっても生活保護を受けることはできるの?
結論から申し上げると、持ち家があっても生活保護を受けることは可能です。 厚生労働省も「持ち家がある方も申請できる」と明記しており、一律に生活保護が受けられないわけではありません。
生活保護制度の基本原理の一つに「保護の補足性の原理」があります。これは、申請者が利用できる資産や能力を最大限に活用することを前提として保護が行われるという考え方です。確かに持ち家は「資産」として扱われるため、原則として売却が求められる場合があります。しかし、居住用の持ち家については、保有が認められるケースが多く存在します。
最も重要なポイントは、現在実際に住んでいる家屋およびそれに付属する土地については、原則として保有が容認されるということです。これは、憲法で保障される「居住・移転の自由」を尊重し、生活再建のために住み慣れた環境を維持することが、申請者にとってメリットとなる場合があるためです。
また、持ち家の資産価値が低い場合も保有が認められやすくなります。具体的には、売却価格が引っ越しにかかる費用を下回る場合や、売却代金よりも売却に要する経費が高い場合などです。このような状況では、売却しても生活資金として十分に活用できないと判断されるためです。
住宅ローンに関しても、完済している持ち家は保有を認められる可能性が高く、ローンの残高が300万円以下かつ5年以内に完済の見込みがあるなど、残債が少ない場合も例外的に所有が認められるケースがあります。ただし、生活保護費を住宅ローンの返済に充てることは原則として認められていない点にご注意ください。
さらに、賃貸物件の入居条件を満たせず住み替えができない場合や、共有名義で独断で売却・現金化できない場合なども、持ち家の保有が認められる理由となります。
持ち家を保有したまま生活保護を受けられる条件とは?
持ち家を保有したまま生活保護を受けるためには、いくつかの具体的な条件を満たす必要があります。これらの条件を理解することで、ご自身の状況が該当するかどうかを判断できます。
第一の条件は「居住用であること」です。現在実際に住んでいる家屋とその付属地については、生活の基盤として保有が容認されます。一方で、現在住んでいない別の家や土地を所有している場合は、資産として売却が求められる可能性が高くなります。
第二の条件は「資産価値の程度」です。厚生労働省の目安では、標準3人世帯の生活扶助基準額に住宅扶助特別基準額を加えた額の概ね10年分(約2,000万円程度)が、売却を検討する目安とされています。この基準を大幅に超える高額な不動産の場合は、売却してお金に換えることで生活費に充てられると判断される可能性があります。
第三の条件は「住宅ローンの状況」です。住宅ローンを完済している場合は保有が認められやすく、残債がある場合でも300万円以下で5年以内に完済見込みがあるケースでは例外的に認められることがあります。しかし、多額の住宅ローンが残っている場合は、生活保護費をローン返済に充てることができないため、売却が指導される可能性が高くなります。
第四の条件は「住居の規模の適正性」です。同居人数に対して住居の規模が明らかに見合わない場合(例:一人暮らしで4LDKの広大な家)は、より適切な規模の住居への転居を指導されることがあります。
第五の条件は「処分の可能性」です。不動産に売却価値がない場合、共有名義で独断で売却できない場合、その他の理由で処分することが困難な場合は、「活用できない財産」として売却する必要がないと判断されます。
さらに、社会通念上処分させることが適当でない場合も考慮されます。長年の生活の基盤となっている家や、家族の思い出が詰まった家など、目に見えない価値がある場合も保有が認められる要因となります。
また、賃貸物件への入居が困難な事情がある場合も重要な条件です。保証人の確保が困難、年齢や職業上の理由で入居審査に通らない、その他の事情で適切な賃貸住宅を見つけることができない場合は、現在の持ち家に住み続けることが認められやすくなります。
生活保護受給中に持ち家の修繕費用はどうなる?
生活保護を受給しながら持ち家に住んでいる場合、家の修繕が必要になることがあります。この場合、「住宅維持費」として修繕費用の支給を受けることが可能です。
住宅維持費の対象となるのは、畳、建具、水道設備、配電設備などの修理、家屋の補修、その他維持に必要な費用です。年間の上限額は124,000円とされており、社会通念上最低限度の生活にふさわしい程度の補修が対象となります。
124,000円を超える場合でも、特別な事情がある場合は1.5倍の186,000円まで特別基準の認定がされることがあります。ただし、これは修繕しなければ居住に耐えがたい真にやむを得ない事情がある場合に限られます。
具体的な支給例としては、大雨による雨漏りの修理、水道管凍結による破損の修繕、豪雪地帯での雪下ろし費用などがあります。これらは生活に直結する重要な修繕として認められやすい傾向にあります。
最も重要な点は、修繕を希望する場合は必ず事前にケースワーカーに連絡することです。 自分で業者を手配し、修繕した後に福祉事務所に費用を請求することは原則として認められません。事前相談なしに修繕を行った場合、費用が支給されない可能性が高いため、必ず事前に相談してください。
災害による補修については特例があります。台風、暴風、豪雨、豪雪、高潮、地震、津波、火災などの災害によって家屋の補修が必要な場合は、すでに認定した住宅維持費とは関係なく、被災の時点から新たに住宅維持費を認定してもらうことが可能です。
また、持ち家が老朽化して住めなくなった場合や、介護が必要となり自宅生活が困難になった場合には、役所に引っ越し費用を支給してもらい、賃貸住宅へ転居することも可能です。この場合、転居後は家賃も住宅扶助として支給されるようになります。
なお、持ち家を保有している場合、家賃が発生しないため、原則として家賃補助としての住宅扶助費は支給されません。しかし、上記のような住居の維持や転居が必要になった場合には、別途費用が支給される仕組みになっています。
持ち家を売却しなければならないケースはどんな場合?
持ち家があっても生活保護を受けられるケースがある一方で、売却が求められる場合も存在します。どのような場合に売却が必要になるのか、具体的なケースを理解しておくことが重要です。
最も明確に売却対象となるのは「現在住んでいない家」です。居住地以外に家や土地を持っている場合、これらは明らかに資産とみなされ、原則として売却する必要があります。別荘や投資用不動産、相続した実家で現在誰も住んでいない家などは、確実に売却対象となります。
資産価値が高い家も売却対象となります。厚生労働省の目安として、標準3人世帯の生活扶助基準額に住宅扶助特別基準額を加えた額の概ね10年分(約2,000万円程度)を大幅に超える不動産は、売却してお金に換えることで生活費に充てられると判断されます。立地条件が良く、市場価値の high な不動産は売却が求められる可能性が高くなります。
多額の住宅ローンが残っている場合も売却対象となりやすいケースです。生活保護費を住宅ローンの返済に充てることは原則認められていないため、月々のローン返済額が大きい場合や、残債が多額の場合は売却が指導される可能性が高くなります。特に、収入がなくなったことでローン返済が困難になった場合は、早期の売却が求められることがあります。
住居の規模が同居人数に対して著しく不適切な場合も売却や住み替えの対象となります。例えば、一人暮らしで4LDKの広大な家に住んでいる場合、より適切な規模の住居への転居を指導されることがあります。この場合、現在の家を売却し、その資金で適切な規模の住居に住み替えることが求められます。
処分が容易で、売却により相当な資金が得られる場合も売却対象です。立地が良く買い手が見つかりやすい物件や、売却手続きが比較的簡単な物件で、売却により生活費として活用できる相当な金額が得られる場合は、売却が求められる可能性があります。
ただし、売却を求められた場合でも、売却活動には一定の期間が必要であり、その間の生活保護受給は継続されます。また、売却が困難な事情がある場合(買い手が見つからない、法的な問題がある、共有者の同意が得られないなど)は、個別に判断されることになります。
売却が決定した場合、売却代金は生活費として活用することになり、その金額によっては一時的に生活保護の受給が停止または廃止される可能性があります。売却代金を使い切った後は、改めて生活保護の審査を受けることになります。
持ち家がある場合の生活保護以外の選択肢はあるの?
持ち家を所有している方が経済的に困窮した場合、生活保護以外にも複数の選択肢があります。それぞれの制度には特徴とメリット・デメリットがあるため、ご自身の状況に応じて最適な選択を行うことが重要です。
リバースモーゲージ(要保護世帯向け不動産担保型生活資金)は、65歳以上の高齢者が利用できる制度です。家を担保にして住みながら融資を受けることができ、持ち家の資産価値が500万円以上であることが条件となります。民間のリバースモーゲージと比較して条件が緩く、生活保護受給世帯でも利用可能です。ただし、生活保護とこの制度を併用することはできません。通常、この制度の利用を開始する際に生活保護の受給をやめる必要があります。
貸付限度額は不動産の評価額の約70%まで(集合住宅の場合は50%)で、3ヶ月ごとに30万円(1ヶ月あたり10万円)が貸し付けられます。利用条件として、世帯全員が65歳以上、子どもと同居していないこと、住宅ローンが完済されていることなどがあります。長生きした場合、貸付限度額に達するとリバースモーゲージは終了し、生活資金が不足する可能性がある点は注意が必要です。
リースバックは、不動産を売却し、その後に同じ物件について賃貸借契約を交わして住み続ける方法です。融資ではなく不動産の売買であるため、金融審査に通りにくい人や、すぐにまとまったお金を手にしたい人に適しています。生活保護受給を予定している人や、リバースモーゲージの年齢制限に満たない若い人でも利用可能です。
リースバックにより売却益が出た場合、その売却益は生活費に充てることになります。売却益が高額であれば、一時的に生活保護の受給が停止または廃止され、売却益を使い切った後に改めて審査を受けることになります。
住居確保給付金は、失業や収入減少により家賃が支払えなくなった世帯が利用できる制度です。離職後2年以内または収入減少により離職・事業廃止と同等程度の状況にある者で、求職活動要件を満たす必要があります。支給額は生活保護の住宅扶助基準額を上限とする家賃額で、原則3ヶ月(最大9ヶ月まで延長可)支給されます。
緊急小口資金・総合支援資金は、新型コロナウイルスの影響で休業等により収入が減少した世帯が利用できる無利子の貸付制度です。緊急小口資金を先行利用し、その後要件を満たせば総合支援資金を借りることができます。
これらの制度を検討する際は、各自治体の福祉担当部署や自立相談支援機関に相談することをお勧めします。また、弁護士や行政書士などの専門家、居住支援法人なども、個々の状況に応じた最適な選択肢についてアドバイスを提供してくれます。重要なのは、一人で悩まず、適切な支援を受けながら最良の選択を行うことです。
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