生活保護は、日本国憲法第25条に規定される「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する重要な制度です。生活に困窮した際の最後のセーフティネットとして機能していますが、受給するためには複数の条件を満たす必要があります。現在、生活保護を受けている人は全国で約201万人、世帯数では約165万世帯となっており、その半数以上が65歳以上の高齢者世帯です。制度の利用を検討している方にとって、受給条件を正しく理解することは非常に重要です。単に収入が少ないだけでなく、資産状況や扶養義務者の存在、他の制度の活用可能性など、様々な要素が総合的に判断されます。この記事では、生活保護の受給条件について、最新の基準額や具体例を交えながら詳しく解説していきます。

生活保護を受けるための4つの基本条件とは?収入・資産・扶養・国籍の要件を詳しく解説
生活保護を受給するためには、補足性の原則に基づいて4つの基本条件をすべて満たす必要があります。これは、あらゆる資産や能力、他の制度による援助をすべて活用してもなお、最低限度の生活を維持できない場合にのみ適用される制度だからです。
第一の条件:収入が最低生活費未満であること
最も重要な条件は、世帯の収入が厚生労働大臣が定める「最低生活費」を下回ることです。この収入には、働いて得た給料だけでなく、年金、各種手当、恩給、生命保険の保険金、車や家の売却金、退職金、親族からの仕送り金など、世帯全員が得るすべての現金が含まれます。最低生活費は地域、世帯の人数、構成、年齢、障害の有無などによって個別に算定されるため、同じ世帯構成でも住んでいる地域によって金額が異なります。
第二の条件:資産がないこと
収入が最低生活費未満であっても、すぐに換金できる資産がある場合は、まずそれらを生活費に充てる必要があります。売却や解約を求められる資産には、使用していない土地や田畑、別荘、貴金属、ブランド品、高級車、2台目以降の携帯やパソコン、クレジットカード、貯蓄性のある生命保険、株などがあります。一方で、住宅ローンを完済した持ち家は生活のために必要と認められれば保有が可能で、生活に必要な家具や家電、IT機器、自転車なども所持が認められます。
第三の条件:他の公的制度の優先利用
生活保護は「最後のセーフティネット」として位置づけられているため、年金制度や国の公的融資制度、各種手当など、他の法律による援助が利用できる場合は、まずそれらを利用する必要があります。ただし、年金受給額だけでは生活費が不足する場合は、年金と生活保護を同時に受給することが可能です。
第四の条件:扶養義務者からの援助の検討
民法に定められた扶養義務者(直系血族、兄弟姉妹、配偶者など)からの扶養は、生活保護よりも優先して検討されます。ただし、扶養義務者の援助は生活保護の要件ではありません。援助はできる範囲で行えばよく、親族が援助を断っても生活保護は利用可能です。虐待やDVの事情がある場合や、長年音信不通の場合には、扶養照会を差し控えてもらうことができます。
生活保護の収入条件は?最低生活費の計算方法と地域別の支給額目安
生活保護の収入条件を理解するには、最低生活費の算定方法を知ることが重要です。最低生活費は、厚生労働大臣が定める基準に基づいて、世帯の状況に応じて個別に計算されます。
最低生活費の構成要素
最低生活費は、主に生活扶助の基準額で構成され、第1類(個人ごとの飲食や衣服・娯楽費等)と第2類(世帯として消費する光熱費等)に分けられます。これに住宅扶助(家賃相当額)や各種加算が加わって総額が決定されます。
具体的な計算例(2023年10月時点の基準)
東京都23区在住の45歳ひとり暮らしの場合、最低生活費は13万5,140円となります。内訳は生活扶助が約8万円、住宅扶助の上限が5万3,700円で、冬季(11月~3月)には冬季加算3,080円が追加されます。大阪市在住の母33歳・子14歳・子8歳の3人世帯では、最低生活費は26万6,090円となり、世帯人数や子どもの年齢によって金額が大きく変わることがわかります。
地域による違い
生活保護の基準額は、全国を1級地から3級地まで6段階に分類し、地域の生活水準に応じて設定されています。1級地-1(東京都区部など)が最も高く、3級地-2(郡部など)が最も低くなります。同じ単身世帯でも、地域によって月額数万円の差が生じることがあります。
各種加算制度
基本の生活扶助に加えて、世帯の状況に応じて各種加算が支給されます。冬季加算は暖房費などを補填し、地域により10月~4月のうち5~7ヶ月間支給されます。妊産婦加算は妊娠中や産後の追加的な栄養補給費用として支給され、障害者加算は身体障害者等級1・2級で26,310円、3級で17,530円が支給されます。児童養育加算は18歳までの子ども1人につき10,190円、母子加算はひとり親世帯に最大18,800円が支給されます。
収入がある場合の取り扱い
給料などの収入がある場合でも、それが最低生活費を下回れば、その差額が生活保護費として支給されます。働いて得た収入の一部は必要経費として認められるため、実際の手取り額は最低生活費に控除額を加えた金額となり、働くインセンティブが保たれる仕組みになっています。
生活保護で認められる資産・認められない資産は?持ち家や車の扱いについて
生活保護における資産の取り扱いは、生活の維持に必要かどうかという観点から判断されます。原則として、すぐに現金化できる資産は生活費に充てる必要がありますが、生活に不可欠な資産については保有が認められています。
売却・解約を求められる資産
まず処分を求められるのは、生活に直接必要でない資産です。使用していない土地や田畑、別荘、貴金属、ブランド品、高級車、2台目以降の携帯電話やパソコン、クレジットカード、貯蓄性のある生命保険(終身保険、養老保険など)、株式などの有価証券が該当します。これらの資産は、生活保護申請前に売却や解約を行い、その代金を生活費に充てることが求められます。
持ち家の取り扱い
住宅ローンを完済した持ち家については、生活のために必要と認められれば継続して保有することが可能です。生活保護を受給しながら持ち家に住み続けることができるのです。ただし、住宅ローンが残っている場合は、生活保護費でローンを支払い続けることは原則としてできません。ローンの残債がある場合は、家を売却してローンを完済し、残った資金を生活費に充てることが一般的です。
自家用車の取り扱い
自家用車は原則として所有や運転が認められません。しかし、通院や子どもの送迎に不可欠な場合、公共交通機関が少ない地域に住んでいる場合、自営業に利用する場合などの特別な事情があれば、継続して使用できる可能性があります。車の価値や維持費、地域の交通事情などを総合的に判断して決定されるため、ケースワーカーとの相談が重要です。
保有が認められる資産
生活を送る上で必要な資産は保有が認められます。具体的には、エアコン、ストーブ、電子レンジ、冷蔵庫、炊飯器などの生活に必要な家電、スマートフォンやパソコンなどのIT機器、自転車、車椅子などの介護用品です。また、1~10万円程度の預金については、当面の生活費として使う必要がありますが、資産とはみなされず、生活保護の申請は可能です。
生命保険の取り扱い
生命保険については、掛け捨て型は保険料の支払いが継続できれば維持することが可能ですが、貯蓄性のある終身保険や養老保険は解約して解約返戻金を生活費に充てることが求められます。ただし、解約返戻金が少額の場合や、保険料が低額で家計に大きな負担とならない場合は、保有が認められることもあります。
資産調査の実施
生活保護の申請後は、福祉事務所による資産調査が行われます。預貯金については金融機関への照会が行われ、不動産については登記簿謄本や固定資産税納税通知書による確認が行われます。虚偽の申告は不正受給にあたるため、正直に申告することが重要です。
生活保護の扶養義務者への照会とは?親族からの援助は必須条件なのか
生活保護における扶養義務者への照会は、多くの人が心配する問題の一つです。扶養義務者からの援助は生活保護の要件ではないという重要なポイントを理解することが必要です。
扶養義務者の範囲
民法に定められた扶養義務者は、直系血族(父母、祖父母、子、孫など)と兄弟姉妹です。結婚している場合は、夫婦も互いに扶養義務者となります。また、家庭裁判所の審判によって、3親等以内の親族(伯父、叔母、甥、姪など)が扶養義務者になることもあります。ただし、これらの親族に法的な扶養義務があるからといって、必ずしも経済的援助を強制されるわけではありません。
扶養照会の実際
役所は、生活保護を申請した人の親や兄弟に対し、「援助できますか?」という問い合わせ(扶養照会)を行うことがあります。これは書面で行われ、「○○さんが生活保護を申請されました。援助の可能性についてお聞かせください」といった内容です。しかし、援助はできる範囲で行えばよく、援助する気持ちや余裕がない場合には断ることができます。親族が援助を断っても、申請者の生活保護は利用可能です。
扶養照会を差し控えるケース
一定の条件を満たす場合は、扶養照会を差し控えてもらうことができます。虐待やDVの事情で親族に居場所を知られたくない場合、長年音信不通(おおむね20年程度)である場合、未成年者、主婦、おおむね70歳以上の高齢者などで明らかに仕送りが期待できない場合には、本来、扶養照会を行わないとされています。このような事情がある場合は、申請時にケースワーカーに説明することが重要です。
扶養の現実的な考え方
扶養義務は道徳的・倫理的な義務であって、法的な強制力は限定的です。親族に一定の収入があったとしても、その人にも生活があり、子どもの教育費や住宅ローン、老後の備えなど様々な出費があります。援助を求められても、自分の生活に支障をきたしてまで援助する義務はありません。また、親族関係が良好でない場合や、過去に問題があった場合には、援助を断ることは当然の権利です。
扶養照会への対応方法
扶養照会を受けた親族は、援助が困難な理由を正直に回答すれば問題ありません。「経済的余裕がない」「自分の生活で精一杯」「長年疎遠で事情がわからない」などの理由で援助を断ることができます。また、月数千円程度の少額でも援助の意思があることを示せば、それ以上の援助を求められることはありません。
2025年4月からの制度変更
令和6年法律第21号の改正により、2025年4月1日から生活困窮者自立支援制度と生活保護制度の連携が強化されます。これにより、特定被保護者対象事業の対象に生活保護法の特定被保護者が追加され、両制度の対象者が切れ目のない一体的な支援を受けられるようになります。この変更は、より包括的な支援体制の構築を目指したものであり、扶養義務者への負担を増やすものではありません。
生活保護の申請から受給までの流れと必要書類・調査内容について
生活保護の申請から受給開始までは、法律で定められた手順に従って進められます。申請から結果通知まで原則2週間以内(特別な理由がある場合は最長30日以内)という期限が設けられています。
第1段階:福祉事務所への相談
まず、住んでいる地域の福祉事務所の生活保護担当窓口に相談します。ここで制度の説明を受け、他に利用できる手当や制度がないか検討されます。住む場所が定まっていないホームレス状態の場合でも、現在いる場所の役所で申請できます。相談時には、現在の生活状況や困っていることを具体的に説明することが大切です。
第2段階:申請手続き
生活保護が必要であると判断されたら、正式な申請を行います。申請書は役所でもらえますが、あらかじめ記入して持参することも可能です。必要書類には、印鑑(ゴム製は不可)、マイナンバーカードまたは通知カード、直近4か月分の給与明細(働いている場合)、年金証書や各種手当の通知書、全員分の銀行通帳、賃貸借契約書、不動産を所有している場合の登記書類などがあります。これらの書類が不足していても申請は可能ですが、後日提出を求められることがあります。
第3段階:保護決定のための調査
申請が受理されると、福祉事務所による詳細な調査が開始されます。実地調査(家庭訪問)では、ケースワーカーが実際の生活状況を確認します。資産調査では、預貯金、保険、不動産などの資産状況が調査され、金融機関への残高照会なども行われます。扶養義務者による援助の調査では、親族に対し扶養の意思や可否が確認されます。収入調査では、年金などの社会保障給付や就労収入の有無と金額が調査され、就労可能性の調査では、働ける見込みがあるかどうかも確認されます。
第4段階:保護決定と通知
すべての調査が完了すると、保護の可否が決定され、結果が通知されます。保護開始となった場合は、申請日にさかのぼって生活保護費が支給されます。却下された場合でも、却下理由に不服があれば60日以内に審査請求ができ、審査請求の裁決に不服があれば再審査請求や裁判を起こすことも可能です。
第5段階:生活保護費の支給開始
審査に通過すると、地域ごとに決められた支給日(多くは月初1日~5日)に、保護決定通知書で通知された金額が振り込まれるか、福祉事務所の窓口で直接受け取ります。医療扶助や介護扶助は、病院や介護施設に直接支払われるため、支給日に関係なく利用できます。
受給中の義務と注意点
生活保護の受給が開始されると、いくつかの義務が発生します。収入状況の毎月申告では、収入や支出、生計の状況に変動があった場合は速やかに届け出る必要があります。収入を隠して多く保護費を受け取ると不正受給とみなされ、過去の保護費の返還と支給の打ち切りを求められます。ケースワーカーによる訪問調査は世帯の実態に応じて年数回行われ、指導指示に従う義務では、保護の実施機関からの生活改善に関する指導に従わなければなりません。
水際作戦への対策
申請窓口では、「水際作戦」と呼ばれる申請の受付拒否や虚偽の説明で追い返すといった不適切な対応がされることがあります。このような状況に遭遇した場合は、地域の弁護士会や生活保護利用支援ネットワークなどに相談し、申請同行サポートなどの無料相談サービスを利用することが重要です。
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