ロッテリアが閉店する理由は、長年にわたる経営難と収益構造の限界にあります。2026年1月21日、ゼンショーホールディングスはロッテリアの国内全店舗を同年3月を目処に閉店し、新ブランド「ゼッテリア」へ順次転換することを発表しました。1972年の創業から54年間にわたり日本のハンバーガー文化を支えてきたロッテリアですが、売上の停滞、原材料費の高騰、そして競合チェーンとの競争激化という三重苦により、単独での事業継続が困難な状況に追い込まれていたのです。
この記事では、ロッテリアが経営難に陥った構造的な背景から、ゼンショーホールディングスによる買収の狙い、そして新ブランド「ゼッテリア」への転換がもたらす変化まで、その全貌を詳しく解説します。ロッテリアの閉店に驚きや寂しさを感じている方はもちろん、外食産業の大きな転換点に関心をお持ちの方にとって、背景事情を深く理解できる内容となっています。

ロッテリアとは:54年の歴史を持つ日本のハンバーガーチェーン
ロッテリアは、1972年にロッテグループのファストフード事業として設立された日本を代表するハンバーガーチェーンです。同年9月に埼玉県浦和市(現・さいたま市)のロッテ浦和工場敷地内に1号店を出店し、マクドナルドの日本上陸(1971年)とほぼ同時期に事業をスタートしました。
ロッテリアの最大の強みは、単なる欧米スタイルの模倣ではなく、日本人の味覚に合わせた独自の商品開発にありました。「エビバーガー」や「てりやきバーガー」といったヒット商品は、日本の食文化とハンバーガーを融合させた象徴的なメニューとして多くのファンに愛されました。最盛期には47都道府県すべてに店舗網を展開し、都市部から地方まで幅広く親しまれるナショナルチェーンとしての地位を確立していたのです。
しかし、2000年代以降、その成長には陰りが見え始めました。マクドナルド、モスバーガーと並ぶ主要チェーンとして長く存在感を示していたロッテリアですが、後述する複数の構造的要因により、徐々にその地位を失っていくことになります。
ロッテリア閉店の理由:経営難の背景にある構造的要因
ロッテリアの閉店を決定づけたのは、売上規模の縮小とコスト構造の悪化による「利益創出能力の喪失」という深刻な経営課題でした。「経営難」という言葉の裏側には、収益構造の脆弱性、コスト高騰、店舗数の減少、そして競合環境の激化という複数の構造的な問題が複雑に絡み合っていたのです。
収益構造の脆弱性が招いたロッテリアの投資余力枯渇
ロッテリアの年間売上高は約200億円規模と推定されていましたが、その損益状況は「収支トントン(ブレークイーブン)」の状態が長く続いていました。利益が出ないということは、将来への投資原資がないことを意味します。店舗の改装、新メニューの開発、デジタルマーケティングへの投資、そして従業員の賃上げといった企業の成長に不可欠な取り組みに充てるキャッシュフローを生み出せない「現状維持が精一杯」の状態が続いたことが、ブランドの陳腐化を招いた最大の要因でした。
原材料価格の高騰によるコスト構造の悪化
2020年代に入り、世界的な原材料価格の高騰とエネルギーコストの上昇、さらには物流費の高騰が外食産業全体を直撃しました。特にハンバーガーチェーンにとって重要な輸入ビーフ、小麦、食用油の価格上昇は深刻なものでした。マクドナルドのような巨大チェーンであれば、圧倒的な購買力(バイイング・パワー)によってコスト上昇をある程度吸収したり、緩やかに価格転嫁したりすることが可能です。しかし、店舗数を減らし続けていたロッテリアには、サプライヤーに対する十分な価格交渉力がありませんでした。コスト増をメニュー価格に転嫁すれば客離れを引き起こし、価格転嫁を躊躇すれば収益がさらに悪化するという、厳しいジレンマに陥っていたのです。
ロッテリアの店舗数減少と地方からの撤退
ロッテリアの経営難は、店舗数の推移にも明確に表れています。以下の表は、主要な時点におけるロッテリアの国内店舗数の変遷を示したものです。
| 時期 | ロッテリア国内店舗数 |
|---|---|
| 2011年6月 | 398店舗 |
| 2017年8月 | 370店舗 |
| 2023年1月 | 358店舗 |
| 2025年12月 | 106店舗 |
2011年6月時点で398店舗を数えた店舗網は、その後一貫して減少を続けました。特にゼンショーHD傘下入り後のスクラップ&ビルド(整理統合)は加速し、2025年12月時点でロッテリアブランドの店舗数は106店舗にまで激減しました。これは最盛期の4分の1程度の規模であり、もはやナショナルチェーンとしての機能を果たせない状況だったのです。
特に深刻だったのは地方からの撤退です。2025年6月時点において、青森県、山形県、福井県、長野県、鳥取県、島根県、高知県、長崎県の8県にはロッテリアの店舗が存在しない「空白県」となっていました。かつての全国ネットワークは寸断され、ブランドの認知度維持も困難な状況に追い込まれていたのです。
競合チェーンとの競争激化によるロッテリアの地位低下
日本のハンバーガー業界では長らく、マクドナルドが圧倒的1位、モスバーガーが2位、ケンタッキーフライドチキンが3位という上位3強の構図が続き、ロッテリアはそれに続く位置にいました。しかし、この序列は近年大きく変化しました。再上陸を果たした米国発のバーガーキングが、攻撃的な出店戦略と明確な「直火焼き」の差別化によって急成長を遂げ、店舗数においてロッテリアを逆転したのです。これによりロッテリアは業界5位へと転落しました。
「安さのマクドナルド」「品質のモス」「ボリュームのバーガーキング」といった競合各社が明確なポジショニングを確立する中、ロッテリアは「絶品チーズバーガー」などのヒット商品はあったものの、ブランド全体としての訴求力が曖昧になっていました。消費者がハンバーガーを食べたいと思ったとき、ロッテリアを第一候補に挙げる理由が薄れていったことが、客数の減少につながったと考えられます。
ロッテグループの「選択と集中」によるロッテリア売却の背景
ロッテリアの経営難が深刻化する中、創業家であるロッテホールディングスは2023年にロッテリアの売却を決断しました。この決定の背景には、グループ全体の戦略的な「選択と集中」がありました。
ロッテグループにとって、本業である菓子・食品製造や韓国市場での事業と比較し、日本国内のファストフード事業は成長余地が限定的であり、リソースを割く合理性が低下していたのです。日本国内におけるロッテリア事業の再建には、巨額の投資と抜本的なサプライチェーン改革が必要でした。それを自社単独で行うよりも、外食事業に特化したノウハウとインフラを持つ他社に委ねる方が、ブランド存続の可能性が高いと判断されたのです。これは事実上、単独での経営再建を断念する決定であると同時に、ブランドの価値を最大限に活かすための現実的な選択でもありました。
ゼンショーホールディングスによるロッテリア買収とゼッテリア転換の狙い
2023年4月、すき家、はま寿司、ココスなどを展開する外食最大手のゼンショーホールディングスがロッテリアの全株式を取得しました。斜陽のロッテリアをなぜゼンショーが買収したのか、そこには同社独自の成長戦略と明確な勝算がありました。
「フード業世界一」を目指すポートフォリオ戦略
ゼンショーは「フード業世界一」を企業理念に掲げ、牛丼、回転寿司、ファミリーレストラン、うどん、パスタなど、多様な食のジャンルを展開する「マス・マーチャンダイジング・システム(MMD)」を構築しています。この巨大なポートフォリオの中で、唯一手薄だった主要ジャンルが「ハンバーガー」でした。ハンバーガーは世界的に見ても最大級の外食市場規模を持つジャンルです。ゼンショーにとってロッテリアの買収は、ゼロからブランドを立ち上げる時間を省略し、一挙に数百店舗規模のチェーン網と50年培われたブランド認知を手に入れるための「時間を買うM&A」だったのです。
ゼンショー流サプライチェーンによる収益構造の変革
ゼンショーの真骨頂は、原材料の調達から製造、加工、物流、店舗販売に至るまでをグループ内で一貫して管理する垂直統合型のサプライチェーンにあります。ロッテリア(現・ゼッテリア)においても、このインフラを活用することで劇的なコストダウンが実現されています。
具体的には、グループ全体での大量一括購入によりビーフパティやチーズ、コーヒー豆などの原材料原価が低減されています。また、全国に張り巡らされた「すき家」や「はま寿司」への配送ルートにハンバーガー事業の物流を乗せることで、配送効率を向上させ物流コストを圧縮しています。これにより、従来のロッテリア体制では実現不可能だった「高品質な食材を使用しながら、競争力のある価格設定を行い、かつ利益を確保する」という収益モデルへの転換が図られているのです。
小川洋平新社長のもとで加速するロッテリア改革
2025年6月、ゼンショーHDの社長に小川洋平氏が就任しました。創業者の小川賢太郎氏を父に持ち、東京大学法学部卒業後、財務省を経てゼンショーに入社した経歴を持つ小川新社長は、論理的かつ合理的な経営判断を行うことで知られています。小川新体制のもと、ロッテリアの改革は聖域なく進められました。歴史ある「ロッテリア」という屋号に固執せず、「ゼッテリア」という新ブランドへの完全転換を決定したことは、過去のしがらみを断ち切り、不退転の決意で市場競争に挑むという新経営陣の意志の表れです。
ゼッテリアとは:新ブランドの特徴とロッテリアからの転換による差別化戦略
ゼッテリアとは、ロッテリアの遺伝子を継承しつつ、ゼンショーの合理性と戦略を注入して生まれた新しいハンバーガーチェーンです。ブランド名「ゼッテリア(ZETTERIA)」は、ロッテリア時代の看板商品「絶品バーガー(Zeppin)」と、気軽に利用できる空間を意味する「カフェテリア(Cafeteria)」を組み合わせた造語です。
このネーミングには二つの重要な戦略的意図が込められています。第一に、ロッテリアの資産の中で最も価値のある「絶品」ブランドを前面に押し出すことで、既存顧客の離脱を最小限に抑えること。第二に、「カフェテリア」という要素を加えることで、食事需要だけでなく喫茶や休憩、軽食といったカフェ需要を取り込み、食事時以外の時間帯(アイドルタイム)の稼働率と収益性を高めることです。
ゼッテリアのメニューと価格戦略
ゼッテリアのメニューは、ロッテリア時代の多品種展開から、より収益性と品質を重視したラインナップへと再構築されています。主力商品と価格帯は以下のとおりです。
| メニュー | 価格(単品) | 特徴 |
|---|---|---|
| 絶品チーズバーガー | 590円(セット940円〜) | チェダー・ゴーダ・ゴルゴンゾーラの3種チーズブレンド |
| てりやきビーフバーガー | 420円〜 | ロッテリア時代からの定番メニュー |
| えびバーガー | 440円〜 | ロッテリアの人気メニューを継承 |
| チュロスなどスイーツ | セット420円〜 | カフェ利用客向けのサイドメニュー |
主力商品である「絶品チーズバーガー」は、ロッテリア時代のものと比較して明確な味の改良がなされています。チェダーチーズに加えてゴーダチーズとゴルゴンゾーラチーズをブレンドした特製チーズソースを採用し、チーズの風味とコクを大幅に強化しています。BBQソースの風味が強まり、肉の厚みも増したことで、ハンバーガーとしての満足感を高める改良が施されています。単品590円、セットで940円〜という価格設定は、ファストフードとしては中〜高価格帯にあたり、安売り競争を避けて付加価値を認める層をターゲットにする戦略です。
一方で、「てりやきビーフバーガー」(単品420円〜)や「えびバーガー」(単品440円〜)といった、ロッテリア時代からの定番かつ手頃な価格帯のメニューも維持されています。幅広い客層を逃さないバランス感覚を持ったメニュー構成となっているのです。
フェアトレードコーヒーによるカフェ需要の開拓
「カフェテリア」の看板を掲げるゼッテリアでは、コーヒーにもゼンショーグループの強みが投入されています。ゼッテリアで提供される「フェアトレードコーヒー」は、キリマンジャロ豆などをメインに、すべて直接提携型のフェアトレードで調達された豆を使用しています。ルワンダの生産者組合との取引を通じて社会開発資金を提供し、水道施設や学校の建設を支援するといったストーリーを持つ商品は、エシカル消費に関心の高い現代の消費者に訴求するものです。
チュロスなどのスイーツメニューを充実させることで、ハンバーガーを注文しないカフェ利用客の獲得も狙っています。食事需要とカフェ需要の両面を取り込むことで、時間帯を問わず安定した売上を確保する戦略です。
ロッテリアからゼッテリアへの転換スケジュールと店舗展開
ゼッテリアは2023年9月に東京都港区の田町芝浦店を1号店として営業を開始しました。それ以降、既存ロッテリア店舗からの転換を中心に店舗数を拡大してきています。2025年12月時点でゼッテリアの店舗数は172店舗に達しました。
2026年1月21日にゼンショーHDが発表した計画では、2026年3月を目処にロッテリアの国内全店舗を閉店し、残存する106店舗のロッテリアも順次ゼッテリアへと転換される予定です。最終的には約280店舗体制となる計画が示されています。かつての400店舗規模には及ばないものの、不採算店を徹底的に排除した上での280店舗は、収益性の高い「筋肉質」な店舗網となることが期待されています。また、ゼンショーHDの資金力を背景に、将来的には新規出店による再拡大も視野に入っています。
ロッテリア閉店に対する消費者の反応とゼッテリアの今後の展望
54年続いたロッテリアブランドの消滅に対し、消費者からは複雑な反応が寄せられています。SNSやブログメディア上では、幼少期からの思い出とともに喪失感を表明する声や、リブサンドなどロッテリア独自のメニューの行方を心配する声が多く見られます。ロッテリア特有の親しみやすい雰囲気を愛していたファン層からは、ゼッテリアの路線変化に対して戸惑いの声も上がっています。
一方で、実際にゼッテリアを利用した消費者からは肯定的な評価も増えてきています。チーズが濃厚になったことへの好評、コーヒーの本格的な味わいへの驚き、店内の落ち着いた雰囲気への好感といった声が寄せられており、徐々に新ブランドへの受容が進んでいる様子も窺えます。
ゼッテリアが狙うハンバーガー業界「第3極」の座
ゼンショーHDがゼッテリアで目指しているのは、マクドナルド、モスバーガーに次ぐ業界「第3極」の座です。現状の店舗数やシェアではバーガーキングやケンタッキーフライドチキンがその座に近い位置にいますが、ゼンショーには他社にはない強力な武器があります。それは、すき家などで培った「店舗オペレーションの科学的効率化」と「圧倒的なコスト競争力」です。
ゼッテリアがロッテリア時代には成し得なかった「高品質」と「適正価格」の両立、そして「高い提供スピード」を実現できれば、ハンバーガー市場の勢力図を塗り替えるポテンシャルを秘めています。特にマクドナルドが価格上昇傾向にある中で、品質と価格のバランスにおいて優位性を示すことができれば、多くの消費者を取り込む可能性があります。
まとめ:ロッテリア閉店とゼッテリア転換が意味する外食産業の変化
ロッテリアの閉店とゼッテリアへの転換は、表面的には名門ブランドの消滅という出来事に映ります。しかしその内実を詳しく見ると、これは外食産業における「適者生存」のプロセスであり、ブランドを現代の市場環境に適応させるための「発展的解消」と言える動きです。
単独のサプライチェーンと資本力では原材料高騰と激しい市場競争に抗えず、ロッテリアのビジネスモデルは限界を迎えていました。ゼンショー傘下に入ることで、ロッテリアが培った商品開発力と、ゼンショーが持つ強固な経営インフラが融合し、以前よりも高い付加価値を顧客に提供できる体制が整いました。不採算店の整理とブランド刷新により収益を生み出せる体質へと転換したことで、再び成長軌道に乗るためのスタートラインに立つことができたのです。
2026年3月、街角から「LOTTERIA」の看板は姿を消します。しかし、そのDNAは「ZETTERIA」の中に確実に受け継がれています。ゼンショーという強力なエンジンのもとで生まれ変わったハンバーガーチェーンが、日本の外食市場でどのような展開を見せるのか、今後の動向が注目されます。

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