生活保護制度は日本国憲法第25条に基づく重要なセーフティネットですが、一定の条件下では受給が停止または廃止される場合があります。一般的に「打ち切り」と呼ばれるこの措置は、正式には生活保護法において「保護の停止」または「保護の廃止」として規定されており、それぞれ異なる意味を持ちます。収入の変化、就労指導への対応、調査への協力度など、様々な要因が打ち切りの判断に影響します。2023年7月時点で約202万人が生活保護を受給している中、制度の適切な理解と運用が求められています。本記事では、生活保護が打ち切りになる具体的な条件から再申請の可能性まで、知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。

生活保護が打ち切りになる主な条件とは?収入超過や就労指導違反の具体例
生活保護が打ち切り(廃止)になる条件は多岐にわたりますが、最も多いのは収入が最低生活費を継続的に超過した場合です。例えば、東京都23区内の単身者(20~40歳)の場合、生活扶助基準額は76,420円、住宅扶助は最高53,700円となっており、就労による給料がこれらの合計額を安定して上回るようになると廃止の対象となります。
重要なのは、一時的な収入増加では即座に廃止されないことです。短期間のアルバイトや臨時収入の場合、まず「停止」措置が取られ、おおむね6ヶ月間収入が最低生活費を上回り続けた場合に廃止へと移行します。また、生活保護制度には「勤労控除」があり、働いて得た収入の一部(基礎控除として15,200円など)は差し引かれずに手元に残るため、就労意欲を損なわない配慮がなされています。
就労指導や福祉事務所からの指示に従わない場合も廃止の対象となります。具体的には、働けると判断されたにもかかわらず就労活動をしない、面談を無断欠席する、収入・生活状況の報告を怠るなどの行為が該当します。最近1年以内に指示違反が複数回あった場合や、立ち入り調査拒否を伴う場合は廃止が決定されることがあります。
その他の主要な廃止条件として、不正受給の発覚(収入や資産を隠して申告しない)、世帯状況の変化(収入のある人との結婚など)、受給者の失踪、死亡(2019年度で43.3%を占める最多の廃止理由)などがあります。ただし、これらの措置は段階的なプロセスを経て決定されるため、突然打ち切られることはありません。
生活保護の「停止」と「廃止」の違いは?一時的な措置と完全な打ち切りの境界線
生活保護の受給が終了する状態には、「停止」と「廃止」という根本的に異なる二つの措置があります。この違いを理解することは、今後の対応を考える上で極めて重要です。
生活保護の「廃止」は、一般的に「打ち切り」と呼ばれる措置で、生活保護受給者としての資格が完全に失われ、支給が終了することを意味します。廃止された場合、保護が再開される可能性は原則としてありませんが、再度生活に困窮した場合は新たに申請することが可能です。廃止は、収入が最低生活費を継続的に上回る場合や、重大な指導違反、不正受給などが理由となることが多く、比較的重い措置といえます。
一方、生活保護の「停止」は、生活保護の支給が一時的に止まる状態を指します。停止期間中も生活保護受給者であることには変わりなく、状況が改善しない場合は保護が再開される可能性があります。停止は、一時的な収入増加や、居住実態の確認が必要な場合、就労指導に従わない初期段階などに適用され、おおむね6ヶ月以内に再び保護が必要となることが予想される場合に行われます。
境界線となるのは、状況の継続性と重大性です。短期間のアルバイトによる収入増加なら停止、安定した就労による継続的な収入増加なら廃止となります。就労指導違反も、初回なら停止、繰り返しや悪質な場合は廃止となる傾向があります。
ただし、停止期間が長期化すれば最終的に廃止となることもあります。停止から廃止への移行は、個別の状況や福祉事務所の判断により決定されるため、ケースワーカーとの密な連絡と状況報告が重要です。停止措置を受けた場合は、状況改善に向けた具体的な行動を取り、早期の保護再開を目指すことが推奨されます。
不正受給が発覚した場合の生活保護打ち切りプロセスと再申請の可能性
生活保護の不正受給は犯罪行為とみなされ、発覚時には厳格な措置が取られます。不正受給とは、収入や資産を隠して申告しないことなどが該当し、2015年度からは被保護者に対し少なくとも年に一回「資産申告書」の提出が求められるようになりました。
不正受給が疑われる場合、福祉事務所は関係先への詳細な調査を実施します。預貯金の照会、就労先への確認、不動産の所有状況調査などが行われ、申告内容との食い違いが確認されると不正受給と判断されます。2005年の統計では、生活保護予算約1兆9230億円に対し、発覚した不正受給は約71億9000万円で、受給者に占める不正発覚率は約0.5%とされています。
不正受給発覚時のプロセスは段階的に進行します。まず、不正に受給した保護費の返還請求が行われ、場合によっては最大40%の加算金も課されます。その後、生活保護の停止または廃止措置が決定されます。悪質な場合は詐欺罪での刑事告発も行われ、実際に逮捕されたケースも報告されています。
再申請の可能性については、不正受給が理由で廃止された場合でも、日本国民である限り再申請自体は可能です。ただし、審査は格段に厳しくなります。過去の不正行為に対する反省が十分にできているか、再発防止策が取られているか、申告内容に虚偽がないかなど、通常よりも詳細な審査が行われます。
再申請時には、過去の経緯を踏まえた誠実な対応が求められます。不正の事実を認め、反省の意を示し、今後は制度を適切に利用する意思があることを明確に伝える必要があります。また、収入や資産の状況をより詳細に申告し、透明性を確保することが重要です。支援団体や弁護士と相談しながら、適切な手続きを進めることも一つの方法といえるでしょう。
ケースワーカーの調査に協力しないと生活保護は打ち切られる?調査拒否のリスク
福祉事務所には、保護の決定や実施のために必要な調査を行う法的権限があります。これには、被保護者の居住場所への立ち入り調査、指定された医師・歯科医師の検診命令、資産状況や健康状態の確認などが含まれます。この調査権限は生活保護法に明確に規定されており、被保護者には協力義務があります。
調査拒否の具体的なリスクは深刻です。要保護者が立ち入り調査を拒否、妨害、または検診命令に従わない場合、保護の開始や変更の申請が却下されたり、保護の変更、停止、または廃止が行われる可能性があります。特に、居住実態調査への非協力は重大視されます。
居住実態調査では、ケースワーカーが定期的に訪問して不在状況を確認し、郵便受けに不在連絡票を投函したり、車両の駐車状況や洗濯物などの生活状況を外部から確認したり、水道・電気・ガス使用量を調査します。長期間連絡が取れない状態や、契約した賃貸住宅に実際に住んでいるか確認できない場合は、居住実態に疑義ありと判断される可能性があります。
ただし、調査拒否により即座に廃止されるわけではありません。まず弁明の機会が与えられ、正当な理由があれば考慮されます。例えば、病気で外出できない、仕事の都合で在宅時間が限られるなどの事情がある場合は、その旨を説明し、代替的な確認方法を提案することが重要です。
協力的な対応を心がけることで、円滑な調査が可能になります。事前に連絡が取れる時間帯を伝える、やむを得ず不在にする場合は事前連絡する、収入や生活状況に変化があった場合は速やかに報告するなど、積極的なコミュニケーションが求められます。緊急を要し、居住実態が明らかに事実と異なる場合は、事前通知なしに保護の停止または廃止が決定されることもあるため、日頃からの誠実な対応が不可欠です。
生活保護打ち切り後の再申請は可能?審査が厳しくなるケースと対策方法
生活保護が廃止された後でも、再度生活に困窮した場合の再申請は原則として可能です。日本国憲法第25条に基づく生存権の保障として、生活保護は国民のセーフティネットの役割を果たしており、社会復帰後に再び困窮状態に陥ることは十分にあり得るためです。
ただし、再申請時の審査は1回目よりも厳しくなる傾向があります。特に、ルール違反や虚偽申告が原因で廃止された経緯がある場合、過去の反省が十分にできているかが厳しく審査されます。就労指導違反による廃止の場合は就労意欲の確認、不正受給による廃止の場合は誠実性の確認などが重点的に行われます。
審査が特に厳しくなるケースとして、指導指示違反による廃止と再保護を繰り返している場合があります。実際に、稼働能力がありながら就労活動を行わない者への対応として、一定条件下で再々度申請があった場合の審査厳格化が検討されたこともあります。また、不正受給で刑事告発された場合や、調査に全く協力しなかった場合なども、再申請時により慎重な審査が行われます。
効果的な対策方法として、まず過去の廃止理由を正確に把握し、同じ問題を繰り返さないための具体的な改善策を示すことが重要です。就労指導違反が理由の場合は、求職活動の記録や就労意欲を示す資料を準備し、健康上の問題があれば医師の診断書を取得します。不正受給が理由の場合は、収入や資産の状況をより詳細かつ正確に申告し、透明性を確保します。
専門機関や支援団体の活用も有効です。弁護士会の無料相談や、「ほごらんど」「ほゴリラ」などのNPO法人は、申請サポートから同行支援まで無料で提供しています。これらの団体は「水際作戦」(不適切な申請拒否)への対抗ノウハウも持っており、適切な申請手続きをサポートしてくれます。
また、生活困窮者自立支援制度の活用も検討に値します。全国907自治体に設置された自立相談支援機関では、生活と就労に関するワンストップ型の相談窓口として、住居確保給付金や就労準備支援など多様な支援を提供しており、生活保護に至る前の段階での支援を受けることも可能です。
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