I’m donut?のタイル直置きは衛生面で大丈夫?安全性を徹底解説

社会

「I’m donut?(アイムドーナツ)」渋谷宮益坂店のタイル直置き陳列は、衛生面において重大な懸念があります。結論として、現状のタイル目地への直置き方式は、食品衛生法の基準を満たしていない可能性が高く、安全性に問題があると言わざるを得ません。2025年12月22日にX(旧Twitter)で拡散された店内写真をきっかけに、「目地に菌が入り込みそう」「トイレや浴室を連想させる」といった批判の声が殺到し、大きな話題となりました。この記事では、なぜタイル直置きが衛生上問題視されているのか、材質科学・微生物学・法規制の観点から詳しく解説するとともに、利用者が知っておくべき注意点についてお伝えします。

I’m donut?渋谷宮益坂店とは

「I’m donut?」渋谷宮益坂店は、2025年10月11日に東京都渋谷区の宮益坂エリアにオープンした生ドーナツ専門店です。「I’m donut?」は、福岡発の人気ベーカリー「アマムダコタン」のオーナーシェフである平子良太氏が手掛けるドーナツブランドとして知られています。従来のドーナツとは一線を画す「生ドーナツ」というカテゴリーを確立し、そのしっとりとした食感と視覚的な美しさで爆発的な人気を獲得してきました。

中目黒や原宿といった既存店舗では数時間の行列が常態化しており、商品は単なる食品を超えてSNSで共有されるコンテンツとしての側面を強く持っています。アマムダコタンおよびI’m donut?の成功要因の一つは、ドライフラワーやアンティーク家具を多用した独自の「世界観」の構築にあります。所狭しとパンやドーナツを並べる「盛り陳列」は、顧客に非日常的な没入感を提供してきました。

タイル直置き陳列とは何か

今回問題となった渋谷宮益坂店は、2階建ての建物の2階に位置しています。店内のデザインは、既存店舗のウッディで温かみのある雰囲気とは対照的に、ピンク色のタイルを全面的に使用したポップで現代的な空間演出がなされています。運営会社である株式会社peace putは、このデザインについて「お風呂や浴槽ではなく、チューブを組み合わせたようなイメージの什器」「キューブの組み合わせ」であると説明しています。

議論の核心となっているのは、具体的な陳列方法です。什器の表面にはピンク色のセラミックタイルが貼られており、タイルとタイルの間には白色または薄い色の「目地(グラウト)」が充填されています。このタイル面に対し、プレーンやチョコ、抹茶といったコーティングやパウダーが施されたドーナツが、包装や敷き紙、トレイなどを一切介さずに直接置かれているという状況です。ドーナツの表面、特に湿り気を帯びた生地やクリーム、溶けやすい糖衣が、タイルの表面および目地部分に物理的に接触しています。

SNSでの炎上の経緯

2025年12月22日、あるXユーザーによる投稿がこの状況を可視化しました。投稿された写真には、タイル張りの台にドーナツが直置きされている様子が鮮明に写し出されており、投稿者はその衛生状態に対する違和感を表明しました。この投稿は瞬く間に拡散され、8万件以上の「いいね」を集めるに至りました。

反応は大きく二つの潮流に分かれましたが、衛生面を懸念する声が優勢でした。ネガティブな反応としては、「目地に菌が入り込みそうで不潔」「掃除が行き届いているとは思えない」「トイレやお風呂の床を連想してしまい、生理的に受け付けない」「トレイを使ってほしい」といった声が殺到しました。特に目地という清掃困難な部位への接触を問題視する意見は、建築や清掃の知識を持つ層からも強く支持されました。

一方で擁護の声も見られ、「海外のマルシェのようで可愛い」「デザインとして優れている」「そこまで気にするなら買わなければいい」といった意見もありました。しかし、食品衛生という健康被害に直結しうるテーマにおいては、デザイン性を理由にリスクを許容する姿勢は少数派となる傾向が見られました。

なぜタイル直置きは衛生上問題なのか

目地材の多孔質構造という根本的な問題

タイル直置き陳列が衛生上問題視される最大の理由は、タイルそのものではなく、その構造上避けられない「目地(めじ)」の特性にあります。一般的にタイルの施工に使用される目地材は、セメント系材料を主成分としています。セメントは硬化後、微細な空隙を無数に持つ「多孔質(ポーラス)」な構造となります。これはミクロの視点で見れば硬いスポンジのようなものであり、水分や油分を内部に引き込む性質、つまり吸水性を持っています。

「I’m donut?」の生ドーナツは、その名の通り「生」のような口溶けを実現するために、生地に多くの油脂と水分を含んでいます。加えて、揚げ油、表面のグレーズ(糖衣)、クリームなども付着しています。これらの成分が目地に接触すると、毛管現象によってドーナツから染み出した液状の油分や溶けた糖分が、目地の微細な穴の奥深くへと吸い込まれていきます。

表面を布巾やアルコールで拭き取ったとしても、それはあくまで「表面」の汚れを除去したに過ぎません。目地の内部、つまり深部に浸透した有機物(ドーナツの成分)は、物理的に除去することが極めて困難です。内部に残留した油分は時間の経過とともに酸化し、過酸化脂質へと変化して異臭を放つようになります。また、糖分やタンパク質は腐敗し、微生物の栄養源となります。

ステンレスやガラスとの決定的な違い

ステンレスやプラスチックのトレイ、あるいはガラスのショーケースであれば、表面は「不浸透性」であり、汚れは表面に留まるため、拭き取りや洗浄によってほぼ完全に除去することが可能です。しかし、目地を持つタイル面への直置きは、構造的に「汚れを蓄積し続ける」システムを採用しているに等しいと言えます。これが食品衛生の観点から見て、タイル直置きが根本的に問題視される理由です。

物理的な異物混入のリスク

目地材はタイルのセラミック部分に比べて硬度が低く、摩耗しやすいという特性も問題となります。日々の清掃によるブラッシングや薬剤の使用、トングの接触、ドーナツの出し入れによる摩擦により、目地材の表面は徐々に削れていきます。削れて微粉末となった目地材、つまりセメント粉や砂が、直置きされたドーナツの底面に付着するリスクがあります。これは食品衛生管理上、物理的危害要因とみなされます。特に「I’m donut?」のドーナツのように表面がしっとりしている食品は、乾燥した食品に比べて粉塵を吸着しやすい性質を持っています。

洗浄剤の化学的残留リスク

清掃を徹底しようとすればするほど、別のリスクが浮上することも見逃せません。目地の汚れを落とすために、強力な洗浄剤、例えば次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系漂白剤や界面活性剤を使用する場合です。多孔質の目地は汚れだけでなく洗浄剤も吸着します。十分な水洗いができない環境、つまり店舗のディスプレイ台のようにホースで水をかけて洗い流すことが難しい場所では、目地の内部に洗浄成分が残留する可能性が高くなります。その上に食品を直置きすれば、薬剤成分が食品に移行するいわゆる「マイグレーション」の恐れがあります。これは食品の風味を損なうだけでなく、健康被害を引き起こす可能性も否定できません。

微生物学的な観点から見た衛生リスク

食品衛生において最も警戒すべきは、肉眼では見えない微生物による汚染です。タイル直置き陳列は、微生物制御の観点から見て極めて脆弱な環境を作り出しています。

細菌・カビの培養器となる目地

目地の内部にはドーナツ由来の栄養分、つまり炭水化物、脂質、タンパク質と水分が蓄積されます。これに店舗内の室温という「温度」条件が加わることで、目地は微生物にとって理想的な「培養器(インキュベーター)」となります。

浴室のタイル目地にカビが生えやすいのと全く同じ原理で、ドーナツの糖分を栄養源として目地にカビの菌糸が根を張るリスクがあります。カビの中にはマイコトキシン(カビ毒)を産生するものもあり、これがドーナツに付着することは重大な健康リスクとなります。目地の黒ずみが見られる場合、それは単なる汚れではなくカビのコロニーである可能性が否定できません。また、食品残渣がある場所では一般生菌数が増加するだけでなく、食中毒の原因菌が増殖する可能性もあります。特に懸念されるのは黄色ブドウ球菌です。

交差汚染(クロスコンタミネーション)の問題

「I’m donut?」の陳列スタイルがセルフ方式であれスタッフが取る方式であれ、オープンな環境である以上、複数の汚染リスクは避けられません。顧客やスタッフの会話、咳、くしゃみによる飛沫が、カバーのないドーナツおよびタイル面に落下する飛沫汚染があります。また、顧客の手指、衣類の袖、あるいは使用済みのトングなどがタイル面に触れることで菌が付着する接触汚染も考えられます。

特に黄色ブドウ球菌は人の皮膚や鼻腔に常在しており、手指を介してタイル面に付着し、そこで増殖した後、次に置かれたドーナツを汚染するというサイクルが形成されうるのです。

バイオフィルムという深刻な問題

さらに深刻なのは、目地の凹凸に定着した細菌が自らを守るために粘着性の膜「バイオフィルム」を形成することです。一度バイオフィルムが形成されると、アルコール消毒などの殺菌剤が内部まで浸透しにくくなり、通常の清掃では除去不可能となります。ドーナツを置くたびに、このバイオフィルムと食品が接触することになります。

「床と同じ」という指摘の妥当性

SNS上で「床に置いているようだ」と批判されましたが、これは微生物学的にもあながち間違いではありません。床面は靴裏からの汚染により極めて菌数が多い場所ですが、目地のあるタイル面もまた、清掃のしにくさと汚れの蓄積性において、ステンレスの作業台よりも「床」に近い特性を持っているからです。食品衛生管理の原則において、食品は床面から最低でも15cm、推奨としては30〜60cm以上の高さを確保して保管することが求められますが、これは「床からの跳ね返り汚染」や「清掃のしにくさ」を避けるためです。台の上とはいえ、床と同じ素材・構造の上に直置きすることは、この原則の精神に反するリスクの高い行為と言えます。

食品衛生法とHACCPから見た法的な問題点

日本の食品衛生法、および2021年から完全義務化されたHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の基準に照らし合わせると、本件にはいくつかの問題点が浮かび上がります。

食品衛生法における施設基準との適合性

食品衛生法に基づき、各都道府県は食品営業施設の基準を定めています。東京都の基準を例に挙げると、食品を取り扱う設備については「洗浄及び消毒が容易な構造であること」「不浸透性材料(ステンレス、合成樹脂等)で作られていること」という要件が課されています。特に食品に直接接触する部分については厳格な基準が設けられています。

この基準に照らすと、タイル、特に目地部分への直置きは「洗浄・消毒が容易」かつ「不浸透性」という要件を満たしていないと判断される可能性が極めて高いと言えます。保健所の立ち入り検査、つまり監視指導において、このような陳列方法は「不適切な管理」として改善指導の対象となるのが一般的です。通常、保健所は内装材としてのタイル使用は認めますが、「そこを食品接触面、つまりまな板やトレイの代わりとして使うこと」は想定しておらず、許可要件の盲点を突いた、あるいは逸脱した運用と言えます。

HACCPに基づく危害要因分析

HACCPでは、工程ごとに「危害要因(ハザード)」を特定し、それを管理することが求められます。陳列(ディスプレイ)工程における危害要因としては、目地からの微生物汚染、異物混入、薬剤残留が考えられます。管理手段として、現状は直置きという管理不全の状態ですが、あるべき姿としてはトレイの使用、敷き紙の使用、または食品用コーティングの施工が挙げられます。

運営会社が「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を適切に運用しているのであれば、危害分析の段階で「多孔質の目地への直置きはリスクがある」と認識し、「トレイを使用する」という管理基準を設定するのが自然です。現状の運用は、HACCPのプランニング自体に不備があるか、現場での運用がプランから乖離していることを示唆しています。

消費者心理から見た「不快感」の正体

今回の件がこれほどまでに炎上した背景には、単なる衛生論を超えた人間の深層心理に関わるメカニズムが存在します。

感染ヒューリスティックと「穢れ」の観念

人間には、病気や死を避けるために進化した心理的メカニズムとして「感染ヒューリスティック(Contagion Heuristic)」が備わっています。これは「一度汚染されたものに触れた物は、たとえ洗浄しても汚染されたままである」あるいは「見た目が似ているものは性質も似ている」と直感的に判断する心理です。

タイルという素材は、現代日本人の生活において「浴室」「トイレ」「洗面所」などの水回り、つまり「排泄や洗浄を行う場所」として強く認識されています。したがって、ドーナツがタイルに置かれている光景は、直感的に「トイレの床に置かれたドーナツ」というイメージを喚起し、強力な生理的嫌悪感を引き起こします。「誰かが触ったかもしれない」「汚れた目地に触れている」という認識は、実際の菌の有無にかかわらず、心理的な「穢れ(けがれ)」を感じさせます。この嫌悪感は理屈ではなく本能的な防衛反応であるため、「毎日掃除しているから大丈夫」という論理的な説明では解消されにくいのです。

ブランドイメージとの認知的不協和

「I’m donut?」は「おしゃれ」「可愛い」「美味しい」というポジティブなイメージで売ってきたブランドです。しかし、今回のタイル直置きは「不潔」「汚い」という対極のネガティブなイメージを提示してしまいました。消費者の頭の中で「素敵なドーナツ屋」と「不衛生な陳列」という矛盾する情報が衝突し、強い不快感つまり認知的不協和が生じます。この不快感を解消するために、消費者は「この店は実はダメな店だ」と評価を下げることで整合性を取ろうとします。これがブランド毀損のメカニズムです。

韓国のベーカリーカフェにおける類似事例

今回の騒動をより深く理解するために、同様の問題が先行して発生している韓国の事例を参照することも有益です。

韓国で起きた衛生論争

韓国では、SNS映えを重視した大型ベーカリーカフェが流行し、パンを包装せずに山積みにするディスプレイが一般化しました。しかし、これに伴う衛生問題が社会問題化しています。2023年頃から、陳列されたパンを子供が手で触ったり舐めたりする動画がSNSで拡散され、激しい批判を浴びました。また、飛沫や埃の付着に対する懸念も高まりました。

これを受け、韓国社会では「スニズガード(飛沫防止カバー)」の設置や個包装を求める声が圧倒的多数となり、行政も指導を強化しました。結果として、多くの人気店が「カバー付き陳列」や「スマートショーケース」へと移行を余儀なくされました。

日本市場への示唆

韓国の事例は「デザイン優先の裸陳列」がいずれ衛生リスクという壁に直面し、修正を迫られるというプロセスを示しています。日本は世界的に見ても衛生観念が非常に高い市場です。韓国での教訓を考慮せず、表面的なデザイン性だけを取り入れてしまったとすれば、それはマーケティング上の失策と言えます。「I’m donut?」の事例は、まさにこの「デザインと衛生のタイムラグ」によって生じた問題と捉えることができます。

運営会社の対応と今後の見通し

運営会社「peace put」は、メディアの取材に対し「様々なご意見を真摯に受け止め、運用の改善を含め検討する」と回答しています。これは標準的な危機対応ではありますが、いくつかの課題が残ります。

まず、スピード感の問題があります。炎上直後に「直ちにトレイを使用します」と宣言すれば鎮火は早かったと考えられますが、「検討する」という表現に留まったことで、消費者の不信感を長引かせました。また、一部で「あれはディスプレイであり販売用ではない」との説明がなされたとの情報がありますが、実際にそこから客が選んでいたという多数の目撃情報と矛盾しており、言い訳と受け取られかねない状況です。

今後予想される改善策

今後店舗を訪れる際に注目すべきポイントとして、いくつかの改善策が考えられます。最も現実的かつ即効性のある対策は、トレイや敷紙の導入です。タイルの上に直接食品を置かず、洗浄可能なトレイや使い捨てのワックスペーパーを敷くことで、目地との接触を遮断できます。これなら内装デザインを大きく変えずに衛生基準を満たすことが可能です。

もし直置きにこだわるのであれば、目地部分を食品衛生法適合のエポキシ樹脂などで完全に埋め、表面をガラスのように平滑にする特殊加工が必要となります。ただし、メンテナンスコストは増大します。また、飛沫対策としてアクリルカバー等を設置するショーケース化も選択肢の一つです。

I’m donut?渋谷宮益坂店を利用する際の注意点

現状の陳列方法が続いている場合、利用者としては以下の点を考慮することをおすすめします。

まず、免疫力の低い高齢者や乳幼児への手土産とする場合には慎重な判断が求められます。また、高温多湿な時期の利用には特に注意が必要です。細菌の増殖速度は温度と湿度に大きく影響されるため、夏場は冬場よりもリスクが高まります。

一方で、運営会社が今後どのような改善策を講じるかを注視することも重要です。トレイの使用など具体的な対策が実施されれば、安全性は大きく向上します。改善後の状態で利用することが、最も安心できる選択となるでしょう。

まとめ

「I’m donut?」渋谷宮益坂店のタイル直置き陳列については、材質科学的・微生物学的・法規制的な観点から、衛生面および安全性に重大な懸念があると言わざるを得ません。

観点問題点
材質的問題タイル目地は多孔質であり、食品の油分・水分を吸収蓄積する構造のため「洗浄容易・不浸透性」という食品衛生法の基準を満たしていない可能性が高い
微生物リスク吸収された栄養分は細菌やカビの温床となり、通常の清掃では除去できないバイオフィルムを形成するリスクがある
心理的問題トイレや浴室を連想させる素材への食品配置は、消費者の生理的な拒否反応を引き起こし、食体験の質を著しく低下させる

デザインの美しさは食の喜びの一部ですが、それは「安全」という土台があって初めて成立するものです。現時点では「話題の店ではあるが、衛生面については各自の判断が必要」という認識で利用することが賢明でしょう。運営会社による改善策の発表があれば、その内容を確認したうえで利用を検討することをおすすめします。

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